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岩崎 諒子, 後閑 裕太朗, 宮崎 真衣 2023.12.11

カイシャの編集会議 Report 3
価値を発掘する・伝える・育てる。いま地域に必要な「編集」の仕事

いいコンテンツで、いい変化を生みだす「編集」の仕事

企業が、自分たちでコンテンツをつくり発信することが当たり前になった時代。コンテンツを通して自社やクライアント、あるいは業界や社会にとって望ましい変化が現れる〈いいコンテンツ〉をつくるために、いま求められている「編集」とは何でしょうか? 

「価値を生み出すコンテンツづくりとは何か?」を問いに掲げて2023年9月に開催された、コンテンツ制作に従事するみなさんとのミートアップ「カイシャの編集会議」。本記事は、ミートアップを企画した、全国47都道府県を編集するチーム・Huuuuと、インタビュアーのくいしんさん、ロフトワークのコーポレートメディア編集チームが、それぞれのアプローチから実践したコンテンツづくりの事例を、全3回にわたって紹介します。

本記事が、これからのコンテンツづくりについて、コンテンツ企画・制作に従事するみなさんとともに考えるきっかけとなれば幸いです。

カイシャの編集会議 3つの議題

  • いいコンテンツを生み出すための〈企画とKPI〉ってなんだ? >>Report 1
  • 伝えたい価値を引き出す〈インタビュー〉ってなんだ? >>Report 2
  • 編集チームが企業に伴奏する意義ってなんだ? (本記事)

執筆・編集:岩崎 諒子/Loftwork.com編集部
企画:後閑 裕太郎/Loftwork.com編集部、宮崎 真衣/ロフトワーク 広報
写真:川島 彩水

編集チームが企業に伴走する意義ってなんだ?

地域を軸とした編集チーム Huuuuは、「編集」のアプローチを通して、いかに企業の長期的なブランド価値を高めてきたのか、その事例を紹介しました。

それぞれの実践について語ってくれたのは、株式会社Huuuuの取締役 友光だんごさんと、同じくHuuuuに所属し、長野県を拠点に編集のアプローチから自治体の取り組みや地元企業のブランドコミュニケーションを支援している、藤原正賢(ふじわらまさたか)さんです。

全国からおもしろい場所・仕事・小ネタがあつまる「地元メディア」

2015年からスタートした『ジモコロ』は、「どこの地元にもコロがっているような魅力ある『場所』や『仕事』『小ネタ』など、地元愛を感じてしまう話の数々を集めて発信」している、株式会社アイデムのオウンドメディアです。バーグハンバーグバーグとHuuuuがタッグを組んでコンテンツを企画・編集し、8年ものあいだ多くのファンに支持されています。

友光さんは「ジモコロを続けられているのは、クライアントであるアイデムさんが編集チームの仕事を理解し、信頼して任せてくれていることが大きい」と説明。その上で、これまで全国各地の面白い人たちを紹介し続けてきた結果、今はさまざまな地域の知り合いから「こんな面白い人がいるから、取り上げてみては?」という推薦やオファーが届くようになったと言います。ジモコロというメディアを通して、クライアントであるアイデムの存在がポジティブなかたちで認知・浸透していることが伺えます。

『ジモコロ』Huuuu班の二代目編集長、友光だんごさん
イーアイデムの地元メディア『ジモコロ』

仕事・はたらきかたの多様性へのまなざし

Huuuuのコンテンツ企画の眼差しは、働き方の多様性や、ボトムアップの取り組みを通して地域に新しい産業を生みだす可能性にも向けられています。

例えば、15歳でコーヒーショップを開業した群馬県桐生市の少年や、宮城県石巻市でハンディキャップを持つ人々が就労する場所としてブルワリーを立ち上げた人など、地域ではたらくことに希望を見出せるような人々のインタビュー記事を数多く発信していることも、ジモコロが幅広い層から支持され続ける理由のひとつです。一般的なメディアに比べ「オウンドメディア色」は薄めなジモコロですが、地域における多様な仕事やはたらきかたを記事を通じて伝えることで、地域密着型の求人を手がけるアイデムにとってのブランディングに繋がることを意識している、と友光さんは話します。

また、ジモコロの取材をきっかけに、テレビなどの他媒体での取材につながったり、連載が書籍化するなど、記事からの広がりも生まれています。

さらに、2022年からは、当時17歳にして個人事業主として活動していた京野桜大さんを編集長に迎えて、これからを生きる若者たちに向けたインスタマガジン『Re:youth』も始動しました。

インスタマガジン『Re:youth』では、Huuuu班のジモコロ人気記事を再編集し、週1本ペースで公開している。より若い世代に向けたジモコロの「入口」になることを目指し、インスタグラムを発信の場として選んだ

編集のチカラを拡張し、地域企業が「つくりたい」ブランドを形にする

友光さんが「編集」の王道的なアプローチとしてオウンドメディア運営を通して企業のブランド価値を高めた事例を解説した後、今度は藤原さんが、編集のチカラによって地元企業の新たな価値を創造した「OYAKI FARM(おやきファーム)」のブランディング・プロモーション事例を紹介しました。

長野インターチェンジ近くにあるOYAKI FARMは、建築家 遠野未来さんによる建築が目を引く。

かつては長野県内のどこの家でも手作りされていたおやきですが、今は「お土産品」として認識されることが多く、県内の家庭でも食卓に上がる機会が減りつつあります。

おやきの製造販売を行う有限会社いろは堂は、現代におやき文化をもう一度提案することを目指し、2022年、おやきの製造を行う工場と、カフェやショップ、製造工程の見学、おやき作り体験など様々なコンテンツを用意した複合施設としてOYAKI FARMをオープン。Huuuuが中心となり、OYAKI FARMのネーミング、BI・VI、ショップツール、Webサイト、開業時PR施策など、建築以外のコミュニケーション設計をディレクションしました。

ネーミングには「耕す」という意味もある「FARM」を採用。おやき文化を耕すという意味合いも込められている。
本施設のメインビジュアルはフォトグラファーのキムヤンス氏が担当。今までにないおやきの見せ方にチャレンジした。
パッケージやショッパー、施設サインなど、あらゆるもののデザインを鈴木龍之介氏と一緒に行った。

経営者に、早めに声をかけてもらう

新店舗のありたいブランド像を言語化し新商品や体験を具体化する過程は、まだこの世にない新しいおやき文化の発信拠点の体験とコミュニケーションを編集する行為でした。こうした従来の「編集」の役割を大きく超えたプロジェクトを、どうやって実現できたのでしょうか。藤原さんは、このように振り返ります。

「編集者は、紙やWEBの記事を書いたりするイメージが強いと思います。ですので、新しい事業を立ち上げるときに、クライアントから編集者に依頼する仕事は『ポスターを一枚つくってください』のような小さな依頼になりがちです。OYAKI FARMのプロジェクトでは、発注前の時点で飲み会の席などでクライアントのやりたいこと・大事にしたいことを丁寧に引き出せたことが重要でした。新しい拠点の構想をとおして、本当に実現したいことは何かを、腹を割って話してもらったんです。その後で、『それなら、こんなことができますよね』と編集側から様々なブランディングやコミュニケーション施策を提案しました」

経営者の壮大なビジョンを実現するために、編集のアプローチからありたいブランド像を作りあげたOYAKI FARM。開業から1年後の今年8月、来場者は28万人を突破し、約58万個ものおやきを販売したそうです。

友光さんは、「OYAKI FARMは編集という行為を拡張したプロジェクト。編集の力でここまで価値をつくれるということを、僕たち自身も改めて実感した大切な機会でした」と語りました。

OYAKI FARM のブランディングとプロモーションを手がけた、Huuuu 藤原正賢さん。

まとめ:人が人と向き合う「編集」の仕事が、コンテンツの価値づくりにつながる

「カイシャの編集会議 Report」シリーズでは、全3回にわたって、Huuuu、くいしん社、ロフトワークの3社による「価値あるコンテンツづくり」の実践を紹介してきました。

コンテンツの編集という点では、各社の立ち位置やアプローチ、アウトプット、仕事の規模はそれぞれ違いますが、各社の実践を概観した上で改めて実感するのは、コンテンツづくりという仕事の醍醐味は「人間による、人間のための仕事」である点ではないかということです。

ときに、いま世の中を席巻している生成系AIは、コンテンツづくりを生業とする人々にとってチャンスともいえるし、逆にリスクだともいえます。テクノロジーの活用は業務に効率化などさまざまな価値をもたらしますが、一方で「誰もが扱える情報源」を拠り所にするのみでは、独自性が高いコンテンツや価値が長持ちするコンテンツをつくることは難しい。

翻って、これらのテクノロジーがもたらした社会変化によって、コンテンツ・コミュニケーションの独自性と価値を高める上で、人間の感性と想像力、伝える技術を土台とした「編集」の役割は、ますます強く求められるでしょう。

コンテンツづくりの共通目的は、それらを読む人の気持ちにはたらきかけ、行動変容をうながすきっかけをうみだすことです。3社による「価値あるコンテンツづくり」の実践から見えてきた大切なことは、つくり手が数字よりも前に「人」(記事を読む人はもちろん、クライアントやインタビュイーも含まれます)と向き合い、その感情や思考を真摯に想像し、読み解くこと。私たちは「情報」を編集する以上に、会社をとりまくさまざまな人々との「関係」を編み直しているといえるのではないでしょうか。

この続きは、次回の「カイシャの編集会議」で、みなさんと一緒にお話しできたら嬉しいです。(次回企画、開催日は決まり次第お伝えします!)

コンテンツづくりに携わるみなさんからの声、お待ちしてます!

「カイシャの編集会議」は、コンテンツ制作従事者のみなさんと一緒に、オープンに「これからの〈いいコンテンツづくり〉」を考える、Huuuu、くいしん社、ロフトワークの3社による活動です。

コンテンツづくりに従事する企業の広報担当者、マーケティング担当者のみなさんや、ライター・編集者の方たちとのミートアップを不定期で開催しています。
本記事の感想や、「こんなテーマでイベントをしてほしい」などのご意見をお待ちしています。

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出雲路本制作所と考える、
ショップ・イン・ショップという
場の仕組みで“ずらす”ことの価値