「crQlr Awards 2022」から読み解く、
知っておきたいサーキュラーデザイン 5つのキーワード
循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界から募集するアワード「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)」。アワードのチェアマンであるケルシー・スチュワートが、「crQlr Awards 2022」の受賞プロジェクトを例に、サーキュラーデザインで大切な5つのキーワードを解説します。
構成:David Willoughby
編集:AWRD編集部
crQlr Awards 2022を振り返って
ロフトワークとFabCafe Globalは、「未来の作り手」に必要なクリエイティビティとビジョンを提示するため「crQlr(サーキュラー)」コンソーシアムを立ち上げました。その取り組みの一つとして、循環型経済に必要なサーキュラー・デザインを考えるためのグローバル・アワード「crQlr Awards」を 2021年、2022年と開催してきました。
2回目の開催となる「crQlr Awards 2022」では、運営チームの想像を超える幅広いプロジェクトにご応募いただき、10名の方を審査員に迎え、世界各国から寄せられた130のエントリーを審査しました。「crQlr Awards」のミッションは、オープンな意見交換と、実践にあるため、アワードでは、1位を決めるのではなく、それぞれの審査員がユニークな賞を授与しています。また、日本・海外から半分ずつ応募があるのも特徴です。「crQlr Awards」は、日本と海外、それぞれが持つ素材や資源のサステナブルな循環に対する視点を繋ぐ、魅力的な橋渡しとなっています。「crQlr」のウェブサイトでは、受賞プロジェクト35点が審査員のコメントとともに公開されています。
この記事では、「5つのキーワード」を切り口に、2022年のcrQlr Awards受賞プロジェクトからいくつかのプロジェクトをご紹介します。循環型社会の現状について、私なりに分析し、サーキュラーデザインとのつながりを紐解いていきたいと思います。
サーキュラーデザインと、従来の持続可能性を目指す活動との違いについて、理解が深まると嬉しく思います。
1. アイデアを最大限に活かすポテンシャルを秘めた「Bottom-up(ボトムアップ)」な活動
循環型社会の実現は、業界全体で組織的に取り組むべき「難問(Wicked problem)」のひとつであるという考えを捨てることから始めましょう。
新しいアイデアを最大限に活かすには、各地域レベルでプロジェクトを立ち上げて意思決定を行うことが最善の方法です。それぞれの地域のステークホルダー自身がビジョンを持っていれば、草の根レベルで活動する人々の支援を得て、地元の循環型システムを作ることが容易になります。これこそが、ボトムアップで取り組むことの価値なのです。
一方で、トップダウン型の発想は、どんなに独創的であっても、最終的にエンドユーザーが受け取る時点では、元のアイデアの全容がわからなくなっている、というケースが起こりやすくなります。新しいシステムをなんとか導入したとしても、その後プロジェクトを維持・拡充することは非常に難しいという一面もあります。
ここで、ボトムアップのアプローチの良い例となる受賞プロジェクトを2つ紹介します。
ひとつめは「Grasp」。東京・世田谷の住民が廃材を利用して、日常使いの簡単な家具を作るためのアップサイクル・プラスチック・デバイスです。廃材はすべて住民から提供され、地域内で循環しているのが大きな特徴です。
もうひとつは、群馬県高崎市のコミュニティで古着を分別・交換・共有するシステム「まちのクローゼット」です。両プロジェクトは、家族ぐるみで参加できる遊び心もあり、日本の地域主導のまちづくりの原点となっています。
言うまでもなく、大企業は循環型社会から手を引くべき、と主張したいわけではありません。すでに地元で面白い活動をしている人たちがいるということに焦点を当て、知っていただきたいのです。
政府や企業は、ボトムアップな活動を行うNPOや小規模な組織とパートナーシップを組み、資金面や技術面などのサポートを提供することで、彼らの活動をさらに発展させることができるのではないでしょうか。
街・山・海から出てくる剪定枝・間伐材・プラスチックといった廃材を資源として捉えなおし、ファニチャーとするプロジェクト。廃材は各場所の地域コミュニティと関係を築くことで譲り受けている。
“服の循環”を生み出すアップサイクルコミュニティのコンセプトストア。Color(服の染め直し) 、Trade(服の交換) 、 Pass(服の回収)などを中心に地域と連携、社会課題となっている「アパレルロス削減」を目指す。
2. 過去を遡るのではなく、未来を考える「Traceability(追跡可能性) 」
トレーサビリティ(追跡可能性)とは、製品や食品の流通経路が、生産段階から最終廃棄段階まで追跡が可能な状態のことです。例えば、20年ほど前に始まったスペシャルティコーヒームーブメントでも大きな話題となりました。その時初めて、消費者はコーヒー豆の産地を正確に知ることができるようになり、そのコーヒー豆はどこの農園で誰に作られたものか、どんな農薬が使われたのか、どう栽培されたのか知りました。
トレーサビリティは、いろいろなところで少しずつ浸透しつつあります。例えば、昨年のcrQlr Awardsの審査員の1人であるシェフのリチャード・エッケバスは、Fish Marketing Organizationと共同で、QRコードで個々の魚を追跡するアプリ「Local Fresh」を活用しています。消費者は魚介類の産地にこだわりますが、これを使えば、その魚がどこで誰によって捕獲・飼育されたかを正確に追跡することができます。また、本当にパッケージに表示されている魚なのかもわかります。このようなトレーサビリティは、漁業分野ではごく一部の地域を除いてはほとんど例がありません。
トレーサビリティの観点で評価された2つの受賞作品を紹介しましょう。
日本の「らでぃっしゅぼーや」は、一般の人と農業生産者をつなぐ旬の野菜ボックスの宅配サービスで1988年から続いています。今回の応募プロジェクトの「ぐるぐるRadish」は、野菜くずを回収することで、消費者を循環型モデルに巻き込んでいく取り組みです。
次に、デンマークの「Leap」は、地元の果汁やシードル産業から出るリンゴの残りをアップサイクルし、次世代のレザー代替品をつくるプロジェクトです。消費者にとっての利点は、90%が地元で採れた素材であること、また、完全にクルエルティフリー(動物を用いた実験がされていない)であることです。
トレーサビリティというと、過去に遡って辿ることをイメージしますが、消費者の手元を離れた後の未来も含めて考えることが大切です。サーキュラリティ(循環の輪)とは、このループを閉じることであり、倫理的な調達にとどまらない考え方なのです。Leapは、製品の資源採取から廃棄にいたるまでの全過程を評価できる、完全なLCA(ライフサイクルアセスメント)の公開を計画しているそうです。みなさんも、Leapの活動をフォローしてみてください。
宅配ブランド「らでぃっしゅぼーや」のサーキュラーエコノミー推進プロジェクト。既存の取り組みに加え、より多くの方に参加の接点を提供する多様な循環サービスを展開。サーキュラーエコノミーを暮らしに根付かせる。
デンマークの廃棄りんごのヴィーガンレザー。地元産業の廃棄されるリンゴをベースに、有害な化学物質や複雑ななめし工程を必要としない、80%がバイオベースの組成を持つ素材。
3. 多様な世代との出会いに繋がる「Transparency(透明性)」
「透明性」は、一つ上の「トレーサビリティ(追跡可能性)」とどう違うの?と思った方もいるかもしれません。トレーサビリティと透明性は密接に関係していますが、透明性には、製品のライフサイクルについて、オープンで正直であること以上の意味が含まれます。透明性とは、製品やサービスに関する全ての情報を公共に開き、誰でもアクセスすることができる状態にすることです。透明性は、新しいプレーヤーの参加の促進にも繋がります。
透明性において大切なのは、「分散化する」ことと「民主化する」という2つの考え方です。
循環型経済の構成要素を分散化していくと、社会は、より柔軟性を持ちます。経済を機械に例えると、部品はすべて連動しているため、1つの部品が故障すると他の部品に影響を及ぼします。また、中央で管理している場合は、システムの失敗を意味します。しかし、分散型システムでは、複数のプレイヤーが同時に、おそらく異なるスピードで、少しずつ異なる素材や手法を使って動くことができます。つまり、緊急時や故障時に有効な冗長性を得ることができるのです。
同時に、民主化をすすめていくと、多様な背景や世代を持つ人々を招き入れます。多様な人々が決定を行い、行動を起こし、さまざまな視点をいれていくと、それがまたレジリエンスを高め、循環型モデルの社会への浸透をしなやかに後押しするのです。
分散化と民主化の代表プロジェクトとして、「Mikafi Roasting Platform」があげられます。Mikafi は、農家と地元企業やコーヒー愛好家をつなぎ、コーヒーの焙煎プロセスを民主化するプラットフォームです。焙煎業者がコーヒー生豆を大量に購入し、焙煎したコーヒーをバイヤーに配布する既存の焙煎業界とは異なり、Mikafiではユーザーが任意のコーヒー生豆と好みの焙煎具合に設定したプロファイルを組み合わせることができます。その場で焙煎するだけでなく、自分のデジタル焙煎プロファイルを交換したり、特定の生豆に最適なコミュニティで生み出された焙煎プロファイルを検索できます。
さらに、一般的なガス式の大型焙煎機とは異なり、Mikafiの焙煎機は電気式です。家庭やカフェでの焙煎機を使用可能になりますので、距離を短縮し、消費者に商品を届けるための輸送を減らすことにも繋がります。
Biosphere Solarというプロジェクトは、誰でも組み立て、修理、交換が可能なオープンソースパネルで、太陽光発電産業を革命するプロジェクトです。現在グローバルなサプライチェーンで多く利用されているソーラーガラスに代わる、毒性の低い代替品を使用しています。
「透明性を確保することは、ビジネス的な競争力を犠牲にすることになるのでは?」と聞かれることがあります。もちろん、どの企業にも守りたい技術やサプライチェーンがあるのでその気持ちもわかります。
しかし、企業がしばしば目標として掲げる長期的なファンや愛好家のコミュニティを作るための一番よい方法は、オープンアクセスやオープンソースを可能にすることではないでしょうか。ロフトワークとFabCafeでは、このアプローチの結果を自分たちの目で見てきました。特にビジネスに関わる方々に透明性のあるコミュニティに加わってもらうことで、その中での活動を通して、貴重なエンゲージメントの高さがわかると思います。
次世代コーヒー焙煎機器。コーヒーのエコシステムをデジタルサービスでつなぎ、収益性を高め、パーソナライズを可能にし、農園からカップまでの持続可能性を保証。
オランダのオープンソースで循環型かつ公正なソーラーパネル。太陽光発電産業がより持続可能な設計とビジネスモデルへと移行するために必要な知識と技術を提供。
4. 独立したパーツで構成されている「Modularity(モジュール性)」
「モジュール性」とは、製品が変更・交換可能な部品や小さな独立したパーツで構成されていることです。モジュラーデザインは、製品の寿命を延ばし、流行の変化に適応させることができます。さらに、エネルギー消費の面でも大きなメリットがあります。なぜかというと、エネルギーを大量に消費するリサイクルが不要になるだけでなく、その製品を作るために使われるはずのエネルギーや資源の損失を防ぐことができるからです。
モジュール性は、サーキュラリティ(循環の輪)が草の根レベルで最もよく実践されていることを示してくれます。素材の大量回収やリサイクルに基づく取り組みは、自治体レベルがよく行っています。対して、モジュール性を見ることができるのは、持ち込んだものをボランティアなどが無料で修理してくれるリペアカフェ、それから趣味のサークルやハッカーたちが集まる場所です。
そこでは新しい人たちが常に集まってきて、長期にわたりコミュニティが作られています。なぜなら、モジュールは楽しいからです!
モジュール性を活かした2つのプロジェクトを紹介します。ひとつは、台湾のデザイナーが制作した、持続可能なワードローブの基礎となるもので、さまざまなファッションアイテムのためのモジュール式テンプレート、Tangramです。
もうひとつはEASYLIFEで、イタリアの栗材を使った子供用の椅子とテーブルのセットで、子供が大きくなっても、分解してさまざまに組み立てることができるモジュール式の家具のプロジェクトです。
循環型経済を考えるのに、国際的なサーキュラー・エコノミー推進機関として知られるエレン・マッカーサー財団が循環型の社会システムのフレームワークとして提示している「サーキュラー・エコノミーの概念図(通称「バタフライ・ダイアグラム」)」があります。
その中でも、最も効率的で中心に近いループは「技術的サイクルの、メンテナンス/修理/シェア」で、繊維であれ無垢材であれ、素材を変換したり再生したりするのではなく、元の形のままにしておくシステムです。
このプロジェクトは、最初からモジュール化できるように設計されていて、製品の共有や維持、長期使用を容易に促すことを可能にします。さらに、既存の製品やシステムにも、必ず非効率な部分や副産物が存在します。
多くの場合、問題に対する解決策を、他のプレーヤーが持っていたり、ある組織で無駄だと考えている素材を別の組織が必要としているときがあります。モジュール性は製品だけでなく、さまざまなレベルで活用することができます。
台湾のプロジェクト、Threading Tangram PLAY Kitは、自分だけのサステナブルなワードローブを作るための、楽しくて実現可能なソリューション。
イタリアの子供用モジュラーチェアとテーブル。子供の成長にあわせて長く使えるように、個性化し、修復し、再生し、創造的に使い、再利用することができる。
5. 世界を動かし、循環型経済を加速させる「Art(アート)」の力
循環型デザインに対するアプローチは、技術的なアプローチに偏る傾向があります。確かに、すべての点を結びつけ、各段階で障害を取り除き、適切なインセンティブを与えようとする努力は大切です。しかし、大きな一歩は、ある一定数の人々がインスピレーションを得て、生活を変化させるときにやってきます。だからこそ、私はアートが循環型社会で果たすべき役割は大きいと考えています。アートには、世論を動かし、循環型経済への移行を加速させる力があるのです。
アート体験が、デザインに勝るとも劣らないインパクトを与える力がある理由を説明したいと思います。デザインでは、まずユーザーとユーザー体験を重視します。一方でアートの場合は、それぞれの考えや経験をもつアーティストが、世界に向けて何かを訴えかけます。アーティストは自分のメッセージを観客がどう受け止めるかを考えることもありますが、メッセージはあくまで内発的なもの。内発的で個人的な視点は、ユーザー中心のデザインがつくるものよりも、もっと驚きに満ちた、オリジナリティのあるプロジェクトを生み出します。
2022年の受賞プロジェクトから、アート的な表現を持つ2つのプロジェクトを紹介しましょう。ひとつは、Another Moonというソーラーパネルとレーザープロジェクターを使用した屋外インスタレーションです。ヨーロッパのいくつかの都市で展示されたこのアート作品は、「安定した資源」としてではなく、「自然からの恵み」としてエネルギーについて考え直すことを提案します。
もうひとつはAquaterrestrial Recolonizationです。生物多様性の損失に関する入手可能なデータに基づいて、海底やサンゴ礁のあるべき姿を視覚化した独創的なアート作品です。
このような説得力のあるデータを可視化するプロジェクトは、科学的知識を世論の中の認知度向上や行動変容につなげるためにとても重要です。
ドイツで発表されたAnother Moonは、技術的に崇高な2つ目の月を空に出現させる大規模な屋外装置です。月が太陽の光を反射して見えるように、昼間に集めた太陽の光を夜空に投影し、時間軸を越えて反射させることで、2つ目の月が生まれ、私たちとエネルギーとの関係性を表す。
死滅したサンゴ礁の現状を記録し、そのデータをAIに与えて海底の再コロニーを可視化し、人類が破壊した部分を地球上に戻す計算されたイメージングを行っています。私たちのプロジェクトでは、AIで地球をさらなる荒廃から守る存在です。
最後に
以上5つが「crQlr Awards 2022」にみるキーワードです。
しかし、近い未来にはこのキーワードも変わっていくと思います。今回一番伝えたいことは、循環型社会には、リサイクルに精を出すこと以上のものが必要だということ。物質、情報、人的資本の循環を完全に見直す必要があると考えます。
循環型デザインプロジェクトを立ち上げる際、自身の専門性やバックグラウンドからできることを選び、同じ考えを持つ人たちとのコラボレーションを模索するのは、とてもよい方法です。「crQlr」 では、各地でMeetupを行ったり、今後もcrQlr Awardsを続けていきます。活動に賛同していただける方、またご自身の活動を起点に仲間を探している方は、Webサイトから最新情報をチェックしてみてください。
crQlr Webサイト
AWRDは、複雑化する社会課題をオープンに多様な視点で解決するプラットフォームであり、ソリューションです。
ロフトワークが運営するエントリー型のオープンなプラットフォーム、AWRD。
パンデミックやテクノロジーの進化、多様化する価値観、サステナブルな社会への移行など
──常に変化する社会において、私たちは多くの課題に直面しています。AWRDはこれらの課題解決に向けて、アワードやハッカソンなどの手法を通じて世界中のクリエイターネットワークとのコラボレーション・協働を支援し、価値創出を促進します。
循環型プロジェクトを感性的アプローチでデザインする “Circular Design Service Plan(サーキュラーデザインサービスプラン)”
Circular Design Service Planは、FabCafe、ロフトワークが強みとする、グローバル視点のオープンコラボレーション、デザイン思考、バックキャスティングといたプロセスと感性アプローチにより、新しい価値観を持った生活者に響きうる、まだ見ぬサーキュラーエコノミープロジェクトを生み出します。
“課題”にアプローチする、5つのプラン
- 課題1. 環境問題へのアクションを多様なコラボレーターと一緒に創出しPRしたい
- 課題2. サーキュラー・エコノミープロジェクト立ち上げ人材を育成したい
- 課題3. 自社で、いち早くサーキュラー・デザインプロジェクトを立ち上げたい
- 課題4. 自社から出る産業廃棄物をうまく活用したい
- 課題5. プロジェクトを広く展開・普及させたい
ビジネスプランを掲載した資料もダウンロードいただけますので、ぜひ御覧ください。
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