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堤 大樹, Tim Wong 2023.04.18

台湾、そして東南アジアへ。
グローバルなネットワークとチームを活かし、オルタナティブな未来を描く

台湾にFabCafe Taipeiが誕生したのは、ちょうど10年前の2013年。FabCafe TaipeiをスタートさせたTim Wongは、その後ロフトワーク台湾を立ち上げ、台湾や香港を中心にアジアのクリエイターやクライアントと、国を跨いだプロジェクトを手がけてきました。

それぞれの社会の当たり前が大きく変化したコロナ禍を経て、ロフトワーク台湾、そしてFabCafe Taipeiは、今新しいフェーズを迎えています。台湾をベースにロフトワークを率いる香港出身のTimと、新たにロフトワーク京都から台湾チームにジョインしたシニアディレクター・堤に話を聞きました。

 インタビュー:杉田真理子
撮影:小椋 雄太(あかつき写房)

編集:鈴木真理子

変化を続けるロフトワーク台湾とFabCafe Taipeiの現在地

── 世界中でパンデミックが落ち着いてきましたが、最近の台湾、特にクリエイティブ業界は、どんな状況なのでしょうか?

Tim Wong(以下、Tim) パンデミックを契機に、台湾半導体産業の圧倒的な強さが世界に知られるところとなりました。TSMCを代表とする台湾産業の国際的なプレゼンスが以前よりもより高まったと感じます。また、台湾のクリエイティブ業界内では、デジタル・トランスフォーメーションやSDGsが重要なトピックになっています。

── そんななか、ロフトワーク台湾/FabCafe Taipeiはどんなフェーズにあるのでしょう?

Tim 台湾にFabCafe Taipeiが誕生したのは、10年前の2013年。節目となる今年は、自分達を再考し、再定義する良い機会です。新しいパラダイムが生まれつつあるなか、ロフトワーク台湾も、常に変化していく必要があると感じていましたから。それで、オフィスを移転しました。元々オフィスを構えていた、華山1914文創園区はとても居心地がよかったのですが、心機一転して、新しいロケーションを探すことにしたんです。

新しいオフィス、そしてもうすぐ再オープンするFabCafeは台北の繁華街・西門駅の近くにあります(2023年5月オープン予定)。4階建のビルに、FabCafeとオフィスが入るのですが、一番上の階にはクリエイターや、パートナーが滞在できるレジデンススペースも作っています。ロフトワークの日本のメンバーや、世界中にあるFabCafeのメンバーとともにプロジェクトを進めるときに、実際に台湾に気軽に足を運んでもらえるようにしたんです。パンデミックを経て、私たちはオンラインでコミュニケーションする良さや効率性を多く学びましたが、やはり実際に顔を合わせて時を過ごすからこそできる知識の交換や学びはまだ多いので。

“異物”として、“新しい当たり前”を持ち込む

── 2022年からは、ロフトワーク京都から堤さんが、シニアディレクターとして台湾チームに入りました。堤さんは、なぜ台湾で働こうと思ったのでしょうか?

堤大樹(以下、堤)以前から台湾およびアジア各国で働いてみたい、という気持ちがありました。2015年前くらいから台湾や、タイ、インドネシアやフィリピンの文化交流や、マッシュアップが当たり前になっていく流れを感じていて。この前もバンコクに行き、その勢いに変わりはないことを感じましたね。単純にワクワクするし、日本の文化・経済圏ももっと広げられるんじゃないかと思ったんです。

── 実際に台湾に行ってみて、どうでしたか?

堤 まだどのようなコラボレーションや、連携ができるか模索中ではあります。実際に台湾に来てみたら、想像以上に大変で(笑)。バックグランドの違いはもちろん、言葉による伝わらなさ。認識をすり合わせることや、情報収集のレベルでも苦労が多い。ただ、これは僕だけに限った話ではなくて現地のスタッフやクライアントも、英語が第一言語じゃないなかで、僕に合わせて英語でコミュニケーションをとってくれているわけですから双方に生じている出来事でしょう。

日本のメンバーで話せば5分ですむものが、1,2時間かかることもある。しかもそのアウトプットも意図したものにはなかなかならない、みたいなことが日常的に起きていますね。やらなきゃいけないことに1.5倍以上の労力がかかるのですが、それでも、図式化するなど、言葉に頼らないコミュニケーションやアーカイブの仕方を少しずつみんなで模索しています。

── 堤さん自身が大きな異物として台湾社会の中に入り込んでいるわけですもんね。

実際に、台湾の方だけで仕事する方が、コミュニケーションはスムーズで早いと思います。ただ、“異物”としてプロジェクトに入り、一緒に活動するなかで、“新しい当たり前”みたいなものを持ち込める可能性を感じていますし、その重要性は今更僕がここで言葉を尽くす必要もないでしょう。また、そのような多様なやり方・あり方を受け入れてくれる寛容さが、台湾にはあることは、前任者の藤原も語っています

── 多文化なチームで働くことは、難しさもある一方、可能性があると。

堤 ダイバーシティやコラボレーションというものは基本的に楽しいことばかりではない。特に効率という面だけで語ると一概にプラスだとは言えないでしょう。でも、そうしないと生まれない何かが確実にありますし、その異物の大きさや当たり前との距離感にどれだけ挑戦できるかが今後の10年を占う意味で大切だと思いますね。

Tim  日本のロフトワークも、国外にルーツを持つ人をより積極的に起用するようになり、変化してきています。多文化な環境で働くことは難しいことも多いですが、この壁を越えることは大切だと思います。多様性を受け入れることそのものが、成長する手段でもある。大樹(堤)の場合は日本から台湾に来ましたが、他にも台湾からFabCafe Bangkokがあるタイなどの東南アジアに行く時も然りです。

例えば、コロナ以前はオンラインのイベントをすることは大変でしたが、もうそれはニューノーマルになりましたね。それと同じように、それぞれの拠点が孤立した状態にはもう戻れないと思っています。SDGsや一つの国を超えた大きな課題を考えると、日本と台湾だけでなく、日本と東南アジア全体規模での関係性を考えたい、そのためにも多様性を受け入れていくことは大切です。

── 台湾でクライアントとプロジェクトを行うなかで、日本で行っていたときとの違いはどこにあると感じますか?

 まだ少ない経験しかないのですが、まずクライアントのスタンスが大きく違います。台湾には、まだ日本のロフトワークのようにアウトプットに責任を持つだけでなく、伴走して組織そのものへアプローチする企業が少ない印象です。だからコンサルティング会社や、制作代理店のようにイメージされ、良くも悪くもまるっと責任を預けられる部分がある。一緒に手を動かす価値を声高に伝えたいのですが、ここにはギャップがありそうですね。

Tim 国や文化によってクライアントが期待するものはやはり違いますね。寛容さやオープンさも違います。ただ、どんなプロジェクトでも、クライアントの心地よい範疇から、一歩進んだところを狙うよう意識しています。やりすぎず、でも彼らにとっても想像の範囲でもなく、彼らにとって心地悪い状態を作ってプッシュする。これは、自分達の組織だけではできないことです。

── 現在、台湾ではどんなクライアントと一緒に、プロジェクトを進めているのでしょうか?

堤 現在、U-mktというクライアントと、台湾にある古い伝統的な市場を文化発展させるためのプロジェクトに関わっています。テーマが台湾らしいプロジェクトで、Timがクライアントとの関係性を温めて、僕に渡してくれた案件です。

台湾では、市場は街の活気を生み出す心臓のような場所。一方で、日本の銭湯のように、高齢化や利用者の減少が進むなど課題も抱えています。それに歯止めをかけるべく、彼らはが日本統治時代に建てられた建物をリノベーションして、人の流入を作ろうと文化的な活動を行っています。そこを支援していくプロジェクトです。

最初の依頼では、館内にある展示スペースを使ったなにかを見せるようなエキシビジョンを頼まれていて。ただ話を聞いていると、そうした一方通行的なコミュニケーションだけでは彼らの要望をクリアするには限界があると感じ、クリエイター・イン・レジデンスという名目で、日本と台湾のアーティストを合計9名呼び、市場に滞在してもらいながら制作をしてもらいました。市場の人との関わりを作りながら新しいビジネスアイデアやプロダクトづくりが狙いです。このプロジェクトに関しては、来年も引き続きやっていく予定ですよ。

ローカルの新しいカルチャーを探求し、日本、アジア、そして世界へと繋げていく

── 日本人としてこのプロジェクトに参加する中で、ご自身の役割はどこにあると感じていますか?

堤 僕はロフトワーク京都のチームで6年間働き、個人でメディアの活動などもしながら、合計16年間京都に住みました。その経験が今、活きています。台湾チームや、台湾のクライアントの僕への期待は、日本とのコラボレーションを促進することが一つ。なのでまずは、双方に接点や興味がもてる仕組みが必要です。そうなると僕に日本の地域やコミュニティが紐づいていないと、台湾でバリューを発揮することができないんですよ。

あらゆるプロジェクトが新たな関係性を生み出すか、変化させるかを目的としたものと考えたときに、今、自分たちはどこに、どんな軸足を持てているのか?は事業を行うにあたって重要な問いになるかと思います。これは、ロフトワークが台湾に拠点を持つことの回答になるでしょうね。

その逆も然りで、これからは台湾に日本人を連れてくるだけじゃなくて、僕が台湾の地域コミュニティやネットワークにも紐付く必要がある。そういう意味で、今回のU-mktでのプロジェクトはありがたかったですね。

Tim 大樹(堤)は今、ローカルでありつつグローバルなプロジェクトを担当してくれています。多くの人がローカルとグローバルを対極にあるものとして認識してしまいがちですが、実はそうではない。ローカルの新しいカルチャーを探求し、海外と繋げていく。大樹がやっていることは、私たちの強みの一つです。台湾だけでなく、東南アジア全体に広げて発信していけたらと思っています。

── 今後の野望などあれば、教えて頂けますか?

堤 日本の企業が、アジアに目配せし始めていると感じています。これまで日本国内だけで見つけられたなかったヒントやアイデア、加えてマーケットを見つけたいということでしょう。最近、感じていることの一つは、「リサーチするだけだとせっかくコンフォートゾーンを飛び出す意味がなくなってしまう」ということです。リサーチで得られるものは、データでしかない。重要なのはデータを集め、生身でローカリティを感じ、そして新しい感覚を発掘した後に、そこに対して自分たちがどうその社会やコミュニティと結びついていくかということです。

台湾に来て半年ほど経ちましたが、Timのサポートもあり、ありがたいことに現地のさまざまなクリエイターやコラボレーターに声をかけてもらっています。まずは、自分がこのことを実践し、台湾社会の一員になること。そして次に、これらを積極的に繋いで、新しい磁場というものを作っていきたいですね。

── 台湾だけではなく、東南アジア全体との繋がり、というのがキーポイントですね。

  台湾に来て感じているのは、日本の感覚でいう“洗練”とは違う道がここにはありそうだということです。いわゆる、欧米化とは違った意味の違うオルタナティブな洗練さがこの場所で見つけられると、きっと面白いでしょうね。

それは台湾だけじゃなくて、アジア全体で言えること。オルタナティブな未来の可能性が、アジアにはあるような気がするんです。そして今、マレーシア、インドネシア、フィリピンなど、いろんな人たちが、台湾に集まってきています。日本から挑戦する最初の目的地として、台湾が面白いことには依然変わりないと思いますね。

Tim 大樹(堤)が来てくれてたおかげで、東京、京都、名古屋、飛騨のロフトワークの日本オフィスと台湾を、最大限につなげることができていると感じます。このネットワークを起点に、特に東南アジアの文脈で、新しい機会を切り開いていきたい。台湾は、その起点になるはずです。

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