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服部 木綿子(もめ) 2022.02.16

いつも応援する側の私が、自分の衝動を自分で応援してみた
〜アタック1984〜

個人の衝動や偏愛を応援するレジデンスプログラム「COUNTER POINT」。本プログラムのコミュニティマネージャーとして、全32組の衝動に向き合い応援し続けている服部が、セルフカウンターポイントと称し「アタック1984」を企画。3ヶ月のアタックの旅を振り返ります。

タスク消化に追われ、内なる衝動を無かったことにしてないか。

忙しない日々の隙間に、ふと沸き起こる衝動。仕事も洗濯物も山積みで、目の前の山崩しをしている間に、あっという間に歳を重ねてしまう。

こんにちは。クリエイティブディレクターの服部です。ロフトワークで働く以前の私は、主婦をして田舎で家を住み開いたり、宿の女将や、ローカルコミュニティショップのマネージャーなど、様々な場を拠点に多様な人と出会ってきました。現在のクリエイティブディレクターの仕事で、プロジェクトに適任なクリエイターの方を見つけてはお声がけしていく時に、これまでの出会いが生きています。

しかし会社員生活も2年が過ぎ、偶発的な出会いが減ってきたことに、物足りなさを感じてきました。「ロフトワークのもめさん(=私のニックネーム)」としての出会いも嬉しいけど、会社では無い、野良での出会いへの欲求。

服部 木綿子(もめ)

Author服部 木綿子(もめ)(クリエイティブディレクター)

神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(岡山県西粟倉村/香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売するショップで、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。プロジェクトを通じて出会ったクライアントやクリエイター、ロフトワークのメンバーが、一個人として楽しく、持っている能力をシェアし合える「ええ空気」なプロジェクト設計が得意。社会が面白くなるのは、専門分野やバックグラウンドの異なる個人が肩書きを忘れてつながる瞬間だと信じていて、公私の境界線を往来しながら、さまざまな場づくりを行っている。

Profile
かつて同じ村で暮らしていたVUILDの井上達哉さんには、エキスパートとしてインタビューを実施し、再会。(オンラインで実施し、その後これをきっかけにプライベートで会いに行きました)

自分で自分の衝動を世に放つ、題して、「セルフカウンターポイント」。

「友達、つくりたい」
衝動の発生に気づいた私は、無意識に心の中で呟きました。「カウンターポイント…!」

カウンターポイント(COUNTER POINT)とは、私が担当しているレジデンスプログラムの名前です。ロフトワークが運営するFabCafe Kyotoを舞台に、3ヶ月間、個人の衝動や偏愛をベースにしたプロジェクトを受け入れ、世界に放つ応援をしています。2020年の秋に始まり、現在で7期目が活動中。これまで32組が参加しています。

32組に対して向き合い続けてきたように、自分自身を応援してあげればいいじゃないの。セルフカウンターポイントと(勝手に)称して、これまで培ってきたメソッドを自分に当てはめてみることにしました。

衝動を心の奥に沈殿させない、もめ流メソッド

  • 期間を区切る(COUNTER POINTの場合は3ヶ月)
  • 周囲に宣言する
  • キャッチーな企画名を携える
  • 「ちょっと無理かも」と思う数の目標を立てる
  • 途中経過を野晒しにする
  • プチイベントを挟んでハイライトを作る
  • くだらないかもとよぎっても、いつか味が出ると自分を騙し切る

COUNTER POINTとは?

FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。
組織を頼らず自分たちの手でおもしろいことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。
流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。

https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/counterpoint

「セルフカウンターポイント」やらなきゃいけない状況を自らつくる

まずは、どんな風に人と出会うか?軸となるテーマを決めました。特別に趣味嗜好のない私は、同じ年に生まれた人にアタックしまくることにしました。その名も「アタック1984(イチキューハチヨン)」。

静かに掲げたステートメント

友達づくりの実験活動!
アタック1984(イチキューハチヨン)。
距離が縮まる不思議な魔法。
その瞬間、人生背景、仕事のジャンル、趣味嗜好が違っても、旧知の仲のようになる。

「1984という運命の赤い糸で結ばれていたあなたとは、いつか会えると思っていたよ」と想いを込めた自作のビジュアル。

アタックの象徴的な行為として、「一緒に飲み食いなどし、アタック旗に名前と誕生日を書き込んでもらう」ことにしました。アタック旗とは、アタックする際に鞄に忍ばせ、いざとなったら取り出し、名前を書かせて、勝手に仲間に取り込む必殺アイテム。アタック目標は、3ヶ月以内に37人です。(37歳だから…)過去のCOUNTER POINTの数当たる系プロジェクトでは、「毎回手作りのアフリカ料理を振る舞いながらラジオ配信」「前世見て、見えたものをグラレコ」などがありました。自分が好きなことをベースに考えると、少なくとも自分は楽しめるので、吉。

「アタック1984っていう企画やるわ」と宣言すると、なぜか「じゃあ私何か作るわ!」と言い出した手芸好きの同僚に、旗をこしらえてもらいました。斜めに入っている刺繍の線は、誕生日の日付を書き込むためのもの

経過を晒し、人を巻き込み、「面白そう」な空気を醸せ

アタックするのは、初めましての人はもちろんですが、知ってる人も含めました。知り合いにアタックしたら、その隣には、初めましての1984がいることもあります。巻き込み事故的にでも、関係者を増やしていきましょう。そして、noteやinstagramのストーリーに毎回載せていけば、「アタック1984という企画をやりまくってる」という印象付けには成功です。企画を面白がってもらうために、途中経過を晒し、「なんかやってる感」を醸すのは重要です。

1人目、2人目と重ねるスタート時は、「37人って無謀じゃ」と弱気になったり、「こんなことして意味あるっけ」と一瞬、魔が差します。そこで踏ん張って自分を騙してでも、やり続けるのがミソです。意味なんか後から考えたらいいんです。ただし、当初の衝動(=友達をつくりたい)だけは、見失わないように、ちゃんと胸に刻んでおきます。手法に目的を乗っ取られないように、細心の注意を払うのです。

(左)FabCafe Kyotoでお茶していた人が1984と聞き、駆けつけアタック。壱岐島から来ていた建築や不動産界隈で活動する坂田賢治くん。
(右)坂田くんが「今夜飲みに行くのも1984だ」と言うので紹介してもらい、別日に速攻でアタックしに行ったリサーチャーの榊原充大くん。ロフトワーク京都では仕事で榊原くんで関わってもらっているようでしたが、私はこうやって1984として出会えたことが嬉しい。仕事もいつか出来るといいな。
(左)1984の会も結成された。言い出しっぺの自分以上に、企画を面白がってくれる人が出てきた時が、企画のブレイクスルーポイントとみなしていいでしょう。
(右)1984アーティストの前谷康太郎くんの展覧会へ。会場である「すごす/センター/家/air(略称:すごセン)」を運営するタカハシ 'タカカーン' セイジくんも1984。巻き込み事故系アタック。

アタックしているうちに、スナック(食とアートの交差点「汀」)を始めた1984のママにも出会い、言葉遊びが好きな私の脳裏には、「スナック1984」というフレーズが浮かんでしまいました。浮かんじゃうと、当然、その光景を作りたくて仕方なくなります。「スナック1984」は企画のハイライトになるに違いないと思いました。企画の盛り上がりを、自分で演出するのも大事です。

当日のママは男女含めて3人の1984。グラフィックデザイナーママが、私による”ゆる似顔絵”を用いて告知ビジュアルを作成してくれました。
アタックした1984関連のみで構成したこの日だけどプレートは1984円…。

たくさんの人と遭遇したい系の企画は、イベントを実施すると一気に扉が開きます。この日も、「1984年生まれなので勇気を出して来ました」という方など、誰の紹介でもない、初めましての人にもたくさんアタック出来たのです。もちろん1984以外の人も多く足を運んでくれ、出会いが多く生まれたので、「友達つくりたい」目的に沿っていました。すぐに友達まで至れなくても、こうやって出会っておくと、一気に距離が近づきますからね。

企画は、誰と組むのかも重要。企画を面白がってくれ、かつ自分には無い別のプロフェッショナルと組めば、一人では到達できない景色を見ることが出来ます。

真ん中は、グラフィックデザイナーママ(ほそかわなつき)、右は、この店の主であり制作ディレクター(株式会社KUUMA代表・濱部玲美)。左は私。やりたいと言ってから1ヶ月も経たない間、本業と子育ての合間でやりとり。大盛況&大成功。

3ヶ月経たずして、目標としていた37人を越え、40人にアタック出来たので、振り返り記事を書かせていただきました。私のアタックの旅は、これからも続くかもしれません。「私、1984です」と言う逆アタックもいつでもお待ちしております。

こういった衝動を世界に放つため、本人と共に、愛と批評性を持ってプロジェクトを育むサポートをするのがCOUNTERT POINTです。私みたいな軽妙なノリのメンバー以外にも、アート、テクノロジー、モノづくり、グローバルなどのキーワードの専門性を持った運営チームがお待ちしています。内なる衝動に気付いたら、ぜひご連絡を!

COUNTER POINT第8期の入居者を募集しています

第8期メンバーの募集締め切りは2022年4月10日(日)

▼これまでの参加プロジェクト(以下は一部)

▼COUNTER POINT参加中や終了後もFabCafeやロフトワークの関連施設で活動が続くプロジェクトもあります(以下は一部)

Keywords

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す