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2022.02.15

地域に密着し「問い」を作り続け、新しいストーリーをつくる〜メキシコシティにFabCafeが誕生!

バイオやXRの実験を行う、先進的なラボ内で始まったFabCafe Mexico City。創業者の二人に話を聞きました

メキシコの首都メキシコシティ。かつてのアステカ帝国が湖の上に作った都市テノチティトランは今、約921万人が住む大都市です。街にはシェアサイクルがいち早く設置されていたり、テクノロジーや新しい試みが活発に取り入れられている一方、混沌とした市場で買い物をしたり、路上でタコスを頬張ったりと、文化が根強く残っている街で、歴史のあるダウンタウンから、洗練されたカフェが立ち並ぶエリアまで、一言で言い表せないのがメキシコシティ。

様々なコンテクストが混ざり合う街がメキシコシティであり、そんな街にクリエイター同士を繋げるMembrana(メンブラーナ)というプロジェクトがあります。FabCafe Mexico CityはこのMembranaのなかに2022年2月に誕生しました。

創業者のTania Aedo(タニア・アエド)と Federico Hemmer(フェデリコ・へンメル)に、二人のバックラウンドや、FabCafe Mexico CityができたMembranaについて、またこれからどんな活動を行なっていくのか、などの話を聞きました。

インタビュー・執筆/大善夏実
写真/Víctor Benítez
編集/鈴木真理子

2人がメキシコシティでFabCafeで始める理由

─ Hola! はじめまして!まずは、お二人について教えてください。

タニア わたしはキュレーター、アーティストであり、Membrana Lab(メンブラーナ・ラボ)の共同創業者でもあります。過去には12年間 LABORATORIO ARTE ALAMEDA (アラメダアートラボ)でディレクターをし、他にもアート、テクノロジー、サイエンスの領域をつなげるマルチメディアセンターに携わっていました。現在はUNAM(メキシコ国立自治大学)のアートとテクノロジーの学際講義のコーディネートをしています。

フェデリコ ぼくはバイオメディアアーティストであり、ガラス職人、そしてMembrana Labの共同創業者です。今は、アートとマテリアルとバイオサイエンスを絡めたプロジェクトを制作しています。

左がフェデリコ、右がタニア。インタビューはMembranaで行いました。

─ 二人が主宰の Membrana では何をしているのでしょうか?

タニア 2年前から活動をはじめ、アートとサイエンス、テクノロジーなどを、他の領域とコラボレーションすることに焦点を当てています。アーティストとコラボレーションをし、一緒にプロセスを構築したりデザインすることで、プロセスの中にどんな「ディシプリン (学びに対する道や作法)」が秘められているのかを発見をしたいと思っています。

また、Membrana Lab ではギャラリーを設置しています。人間が持続可能性を高めて生き延びていく方向を模索するように、アートとアートのエコシステムの持続可能性のために、商業的側面から支えることも必要だと考えているからです。

タニアの作品『Tourbillon tracker』(制作途中)。詩における天気や気象現象の独自の形が形成される過程を調査するプロジェクトの一部。

ギャラリーでは、アートの制作プロセスを一般の人たちと共有しています。参加者から「問いや探求心」が生まれ、参加者同士で交流が生まれることで、アートの持続可能性が循環するのです。

参加者の交流を生むためには、地域との繋がりが重要です。そこで、メキシコの文化でもあり、産業でもあるコーヒーに目を向けることにしました。乾燥方法や焙煎、抽出まで、科学的なプロセスもあり、メキシコにはコーヒーにまつわる文化が日常に存在します。

フェデリコ そして、コーヒーから FabCafe の活動につながっていきました。タニアもぼくも、日本のカルチャーが大好きで、ちょっとだけ日本語を勉強したこともあるくらい。

FabCafe との出会いは、東京に行った時です。ドリンクを起点に、カルチャーとものづくりの領域から「問い」を生むために必要な土壌が創り出され、リンクし合っている光景を見て、とても興味が湧きました。様々な領域の知識や、コーヒーやバリスタというカルチャーを取り入れながら、多くの実験ができる。ぼくたちのプロジェクトを進めていくために取り入れたいと強く感じました。また、FabCafe のモデルが、商業ベースではなく、カップを片手にひとつのテーブルを囲むことで会話が生まれ、そして交流やコラボレーションが生まれる可能性に重きを置いている点がとても気に入りました。

取材日には、メキシコシティで複数店舗展開するカフェ ALMANEGRA CAFE の試飲会がありました。

メキシコのローカルな知見と、アジアやグローバルな視点をリンクさせる

─ FabCafe はローカルとの交わりを大事にし、さらに世界中にたくさんの拠点があります。Membrana でも「ローカル」「インターナショナル」を大切にしていますね。

タニア ローカル、インターナショナルに問わず、ミクロなものどうしをつなげています。ミクロなものとは、アーティスト、ものづくりをする人、科学者、ローカルの団体から企業や政府のようなグローバルな構造までを指します。FabCafeの近くには大工さんや鍛冶屋さん、養蜂や発酵などに知見がある人がいたり。ローカルにある知見と、インターナショナルな視点をリンクさせることに興味があります。

わたしたちはアジアとの文化交流にも関心があって、FabCafe とのコラボレーションによって、アジアとのつながりが広がることがとても楽しみです。

─ アジアの文化に関心があると?

フェデリコ はい。SymbioticA というオーストラリアのプロジェクトでは、アジアのアーティストたちの作品に出会う機会がありました。バイオメディアの「場」をメタファーとして捉えて「問い」を作る日本人アーティストの三原聡一郎。日本のアニメに触発された中国のアーティスト Lu Yangの「Kimo Kawa Cancer Baby」。彼らのプロジェクトは、ぼくたちのコラボレーションにインスピレーションを与えてくれています。

タニア わたしは、日本で生まれたデバイスアートに興味があります。キュレーターでありメディアアートの研究者である草原真知子さん、他には明和電機など、アーティストたちがサイエンスとテクノロジーを用いてアートを表現していることに惹かれていました。そして、この高度なテクノロジーと先祖から代々伝わる文化がどのように今も共存しているのか、非常に興味があります。

また日本の食文化では、お茶やカフェ、食べ物。食べ物は……ラーメンがとても大好き(笑)。

「問い」を発生させる感覚を呼び起こす

─ Membranaのスペイン語の意味は「膜」という意味ですが、由来はなんですか?

フェデリコ 2013年から「Topología de las discusiones(トポロヒーア・デ・ラス・ディスクシオネス)」という名前でワークショップを行っていました。このワークショップから派生して 2年前からMembrana をはじめました。

ワークショップでは、主に大学院生や研究者を対象に、院生や研究者がいつも研究で見ているところから離れて物事を見て、議論することを行なっていました。研究室の理論的な環境と現実世界は、説明もつかないくらい違います。数学をやっている人は、文学をやっている人とでは全く違う。ましてや研究者でない人の視点は、前者の2人にはないものがあり、さらに大きな価値を持っているということに気づいたんです。

ひとつひとつのアイデアを大切に育てていきたい、という想いから、全員がつながっているという感覚が「層」として浮かび上がってきました。それが「膜」のようであり、だから Membrana という名前になったんです。

酢酸やアルカリ性の液体などを混ぜた実験などを行っており、まさに「膜」のようなオブジェクトがたくさん。

タニア 「Topología de discusiones」ではディスカッション通じて、参加者と思考のプロセスを辿りました。

子ども時代を思い出してみてください。家族での食卓、学校での光景など、いろいろなことやテーマに対して、感情がむき出しになり、なぜか怒りや疑問が湧いたり、という経験があったと思います。その感情の原体験から、学問の道に進んだり、キャリアを築いたりします。そういった対話を行っていました。 

どんなテーマに反応するのか、興味を持つかは人によって違います。自分の学びの道だと認識するプロセスの中で、発見が生まれ、「ディシプリン(学びに対する道や作法)」につながっていくのです。 思いも寄らないところから自分が反応するテーマを見つけて深堀りしていくことで、自分の専門性と新しい知識が交差し始めます。

アーティストって、感覚的なイメージで作品を作っていると思われているかもしれません。しかし、アーティストがサイエンスと出会うことで、アーティストが作品を生むプロセスの中で仮説が生まれます。サイエンティストからすると、「自分たちこそが仮説を使って物事を導き出す専門だと思っていたのに」ということにもなるかもしれません。わたしたちは、その驚きやギャップを生み出していく、そのゲームのような感覚が大好きなんです!

サイエンティストは理論をつくるために存在する。その通りで、すべての物事の土台をつくるのはサイエンティストかもしれません。

でも、わたしたちもできると信じています。「なぜ葉っぱは緑なのか?」など、小さな「問い」を作り出していく。学校では理由を教科書で教えてくれます。だから問う必要がない。
しかし、このスペースでは、人々に対して問いを発生させる感覚を呼び起こしたいんです。それはとてもワクワクすることで、みんなが協力してこそ作り出すことができます。

例えばアーティストが作品作りを黙々としているが、うまく形に昇華することができない。そこに他の関係のない人が現れて、突飛なアイデアを出すかもしれません。

フェデリコの作品、「Dichiral {seq.} 1」。ケイ酸ナトリウムと酸の分子を合成させ、時間が経つと、形状が変化する。

─ アートという抽象的で視覚的なものから、「問い」が生まれて、さらに仮説や理論が生まれるということですね。

フェデリコ 昔の錬金術の記述を見ていても、当時は「類似科学」として捉えられていました。錬金術の実験なんて無駄だと言われていましたね。しかし、数十年もの時代を経て、メキシコにおける「分子生物学」への第一歩であったことがわかりました。

タニア メキシコの生物学者で Alfonso Luis Herrera(アルフォンソ・ルイス・エレラ)という人がいます。彼はチャプルテペック公園の植物園を作った著名な人です。かつては彼の研究に対して「エセ科学者」との異名がありました。彼は、「Plasmogenia(訳:原形質理論)」という錬金術を提唱していたからです。 後々になって、「プロトセル(原子細胞)」についての本が出版されたときに、第一人者として彼の名前がありました。私はこのストーリーにワクワクしましたね。だって当時はまだ誰も知らないことで、その構造も未熟で、多くの議論や疑惑、摩擦が生まれていたのですから。

MembranaLab の FabCafe では、当時の錬金術の記述を再現し、そこから「問い」を生み出すことを行いたいと思っています。

昔「錬金術」と呼ばれていた「分子生物学」の実験レシピを再現したオブジェクトが展示されていました。

FabCafe Mexico Cityは、学びを促進する触媒となる

広々としたスペースで実験をしながら、テーブルを囲んで議論ができる

─ FabCafe Mexico City のあり方や目指すことについてお聞かせください。

フェデリコ ぼくたちのミッションは、アートとテクノロジーなどの知見と実験の間につながりを生み出し、さまざまな形で、学びの姿勢やあり方を浸透させること。そして、ローカルで文化的なコンテクストと、現代グローバルのコンテクストをつなげること。

この FabCafe がハブとなり、「ディシプリン (学びに対する道や作法)」をクリエイターたちが知り、さらなる学びにつながればと思います。

タニア 緊急事態下において、「アートの役割とは」「アートの中で自分の役割とは」とよく考えます。地震(2017年にメキシコで発生)とコロナウイルスを経験し、人は繋がりの中で生きているということを深く実感することになりました。クリエイティブな力を通して、文化や人々の繋がりの意識づけをしたいと考えたのがFabCafeの目指すところです。「教育」をテーマに、サイエンスアートを混ぜ、ゲームを通して学ぶことができる空間を作りたい。

─ つまり、FabCafeは、緊急事態や不測の事態に対してソリューションを提示するような場所になる、ということでしょうか?

タニア 多くの場所で、すでにソリューションを考えることは行われています。それぞれが独立して存在していますが、これからは一つの大きなコミュニティとなることで、文化的なエコシステムの持続可能性を保つことができると思います。アートとサイエンス、テクノロジーの交わりが、未来に対して何か提案し、検証する大きな可能性を持っていると考えています。

そういう点では、このFabCafeの立地も重要なんです。
Membrana Lab があるロマス・ケブラーダ区域の中のサン・ヘロニモ地区は、メキシコシティのダウンタウンからは距離があります。しかし、UNAM(メキシコ国立自治大学)をはじめとする大学や多くの学校の近くに位置しています。また、ここは自然も豊かです。自然保護区域である国立公園に隣接し、メキシコシティに2つあるうちの1つの野外河川であるマグダレナ川につながる川もあります。非常に多様な都市環境であり、多くの可能性を秘めています。

フェデリコ ぼくたちはローカルコンテクストにつなげるために活動をしています。Membrana Lab と FabCafeを通して、地域にある文化をつないで、相互に提案し合えるようなアクティビティを促進したり、地域全体を巻き込んで、既存の活動を発展させることを通じて、ソリューションが生まれると考えています。

─ なるほど、ローカルと繋がりを持つことで、ローカルのコンテクストを知ることができる。その知見が溜まればデータとして活用したり、新しいソリューションを生み出すことができる、ということですね。

タニア 今まで交流のなかったものが混合することで、一緒にプロジェクトを創造したり、形にすることができます。有事でも平時でも、共同してプロジェクトが生みだせる環境であることが大事です。各地のFabCafeがやっているように、創る人とデザインする人、アートを創る人、サイエンティストをみんな繋げるんです。

─ 化学反応が生まれる、ということですね。

フェデリコ いろいろな人とコラボをすると、いろいろなタイプの摩擦があることに気づきます。その過程をストーリーとして一緒に書き出していくんです。 

ぼくたちの立場としてできることは、有事や平時にでも「問い」を作り続けていくことだと思っています。ローカルコンテクストを得て、「問い」続けることで、新しいストーリーができますよね。

ポエムの言葉を立体的に表現した作品。「テキスト」が他のストーリーに変化する様子を説明してくれました。

─ つまりお二人はストーリーテラーのような、そんな役目ですね。

タニア フェデリコもわたしも、テキストや言語でも表現をします。文章は、違った歴史を作り、未来に対する古い考え方を書き換える方法でもあります。テキスト、プログラミング言語、ほかの形のライティングの関係について考え、実験することに興味があります。つまり、わたしたち自身が媒体となり得るのです。

─ 言語化した「問い」から、ひとつひとつの行動に対して「なぜ」ということが浮かび上がる。この FabCafeでは、人々が思考できるような空間を提供するのかなとイメージしています。

タニア これって昔は学校がやっていたことだけど、今はやっていないことですよね。

学校は確かにわたしたちにいろいろなことを教えてくれます。しかし、教材の中での範囲であり、「達成しないといけないことを学んでいる」ことが現状で、「現在ある知識を学ぶ」ことがフォーカスされています。

思い出してください、わたしたちが学んだ「物理」の授業は、研究によってアップデートされて、今では当時習ったことを同じように教えていませんよね。わたしたちが考える「学びに対する道や作法」とは違います。わたしたちのアプローチは、アートを通じて、違った視点から学びの道に入ることができると考えています。学びの道に入るまでのプロセスで、好奇心や問いを生み出すのです。

─ なるほど、そのプロセスを体験できるのはとても楽しみです!最後に今後はどういった活動を行なっていく予定ですか?

タニア ワークショップのアイデアとしては「菌」や「発酵」を使ったものを考えています。腐食、消化や混合のプロセスを観察して、アートと食をエントロピー(不規則性や不可逆性)の観点で結びつけることができますよね。

コーヒーを軸に考えても、実はコーヒーってサイエンスの要素がたくさん。これからいろいろな人を巻き込んで、多くの学びの道が生まれることが楽しみです。

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