FINDING
Tim Wong, Paul Yeh 2023.10.06

飛騨の森を歩き、デザインを見つめなおす
NCKU × HIDAKUMA 再生デザインの立体性

ロフトワークとFabCafe Taipeiが、2022年に国立成功大学・未来知恵工場(Atelier Future)と共同で立ち上げた実験パイロットプロジェクト『Future Dynamic』プログラム。

制作の現場に入り込みながら深く学び合うというテーマのもと、2年目の開催となる今年度は、当初9週間だったプログラムを、27週間と大幅に延長。パートナーシップ企業や学校を東アジア全域に拡大し、グループワークの幅広い学習の可能性を、学生に提供していきます。

種はどのように育つのか?ロフトワークとFabCafe Taipeiの2年目

昨年の実績を受けて、今年のミッションは?

昨年ロフトワークとFabCafe Taipeiが提携した際、「Atelier Future」(未来知恵工場)は国立成功大学における提唱者として、『横断的学習』というコンセプトを強調していました。

これは、学生が個人的な達成感を得るだけでなく、始まりから終わりまで、プロジェクトを遂行できるようにするために、学生が他の学生に前向きなフィードバックを与え、良好な共創関係を実現できるようにすることが目的でした。

ではコラボレーション2年目である本年は、どのようなコンセプトを考えていたのか?
Atelier FutureのLeslieとロフトワーク・FabCafe TaipeiのTimに話を伺いました。

Leslie(Atelier Future)|2年目は原点に立ち返り、ロフトワークとFabCafeが得意とする「共創」を通して、参加者の本当に興味を持っていることは何なのかを導き出したいと考えています。 

Atelier Future が、誰もが従来の環境ではできなかったことを探求できるプラットフォームになることを願っています。

Tim(Loftwork Taiwan)| 昨年の経験を踏まえ、今年は教える側と学ぶ側のギャップを埋める架け橋となり、お互いに学ぶ意欲を保ち、そのプロセスから何かを得られることを願っています。

Leslie(Atelier Future)|このプロジェクトを始めてから、私たちは企画力やプロジェクト管理などに対して、常に高い学習意欲を持っています。

学校というシステムの中にいると、「参加人数」のような数字的なルーティンに陥ることが多いのですが、私たちはプロジェクトの実施内容に重点を置き、参加者たちと一緒に新たな道を切り開いていきたいと考えています。

目的地だけでなく、旅が重要なのだ。旅に出ないとわからないこと

「植物を育てているようなもので、このプログラムが終わっても、学生達の生命力は成長し続けると信じています」 Tim(Loftwork Taiwan)

Leslie(Atelier Future)| 日常生活では、私たちはゲームのキャラクターのように、たくさんの役割を与えられます。その結果思考が制限されたり、考えが凝り固まりやすくなる恐れもあります。

しかしこのプロジェクトでは、参加者はいきなり慣れない環境に放り込まれ、そして知らず知らず自分の道を進むことが出来ている、というパターンが多いです。

Tim(Loftwork Taiwan)|昨年のプログラムは9週間だけでしたが、今回は3学期制の27週間に延長したため、よりシステム的な経験をもたらすことができると思いました。指示された役割を「演じる」だけでなく、未開拓の潜在的なアイデンティティをさらに広げることが重要なのです。

これまでは、目標を決めてから実行に移していましたが、今年のプロジェクト『Future Dynamic』では、参加者が1日のほとんどの時間を自由に冒険し、なおかつその中で迷うことを要求されています。 なぜかというと、参加者がその土地の人と話し、交流する中で、競争と協力の関係を変容させ、答えが一つだけではないことを発見することができるからです。

飛騨へ!再生デザイン・スタジオ

今年度、まずHidakumaチームと5週間の再生デザイン・スタジオ『Regenerative Design Studio』を開催しました。

プログラムの目的は、木材製造のサプライチェーンを改善する上でのデザイナーの役割を再考することでした。木材を単に材料として考えるだけでなく、「森」と再びつながるというワークショップは、参加者である学生たちにとって貴重な機会となりました。

デザインの課題としては、次の3つの質問のうち、少なくとも1つに対応するデザイン・ソリューションを提供するよう求められていました。

  1. 標準化プロセスにおける材料の無駄を、いかに減らすか。
  2. 木材の全ての部分をうまく利用するデザインとは。
  3. 消費者が使った後にリサイクルできるためのデザインとは。

また、再生デザイン・スタジオの一環として、ESG(環境・社会・ガバナンス)報告書を専門とする4人の研究者を招き、飛騨市、ロフトワーク(デザイン・クリエイティブ企業)、トビムシ(林業経営企業)の官民共同事業であるヒダクマが、木材製造のサプライチェーンを徐々に再編成し、地域の新たなビジネスチャンスをどのように創出してきたかを調査した。

ESG研究チームは、木材のほぼすべての部分を利用し、生産工程における廃棄物を大幅に削減する炭素貯蔵の定量化にも貢献しました。

飛騨キャンプと他の建築スタジオとの違いは?

Hsu ChiaYin(国立成功大学デザインセンター教師)|これまで本校の建築学科がプログラムを検討する際は、教授が伝えたいメッセージを学生が直感的に受け取れるように、あるいは学生に特定の問題を解決するように、明確かつ厳格なプロセスと枠組みを持っていました。

一方、飛騨での滞在やワークショップは学生たちに直接「問題を見つけさせ」、遠くから物事を観察させていた点が普段とは異なり、また特別だったと思います。

Kung Po Min(国立成功大学デザインセンター教師)|最初は、学生に何を「アウトプット」してもらおうかを考えていました。というのも、建築設計の伝統的な価値観では、何かを解決するために行動を開始するのが通常です。しかしこのワークショップを通じて、今の社会はもうそのように機能していないのでは、と気づかされました。だから、システムを構築する練習が必要になってくるのですね。

Tim(Loftwork Taiwan)|建築は必ずしもコンクリートの上に建てられるものではなく、我々人間や自然環境、またビジネスへの応用など、様々な側面と関わっています。したがって、ヒダクマとワークショップを計画する際に、いつも言っていたのは、私たちの心と感覚を開いて、いわゆる「ソリューション」をより広い考え方で探求できるようにすることでした。

ゴールはひとつではない、サイクルの中で支え合う

学生たちはデザインチームとESGチームに分かれて受講してきました。

生徒それぞれは、考え方や出発点は異なりますが、彼ら曰く「だからこそ」飛騨の地で交流することができたと言います。

またヒダクマのチームメンバーも事前に台湾へ出向き、学生たちと交流や意見交換を行いました。 台湾と日本の林業をお互いに理解した上で、学生たちは最終的なデザイン課題をクリアしたと同時に、両者の間に深い関係のサイクルを作ることができました。

Yuki Matsuyama(Hidakuma Team)|このプロジェクトを通して台湾を訪れることができ、とてもやりがいを感じました。今回は飛騨が主役でしたが、今後は台湾の森や自然環境に深く入り込み、自分たちが行っていることを続けていける機会を台湾でも構築していけたらと、楽しみにしています。

Chikako Kadoi(Hidakuma Team)| 参加した学生たちは特定のゴールにこだわらず、自由に発想することで、課題の可能性を最大限に引き出していると感じました。この力は台湾の林業にも応用できると思うし、デザインを考えつつも、自然との共生も忘れないでほしいですね。

Kohsuke Kuroda(Hidakuma Team)|人は慣れ親しんだ場所を離れると、視野が広がり、間接的に思考パターンが変わります。今回は学生たちが台湾から来てくれましたが、将来的にはHidakumaの他のスタッフも台湾を訪れることで、気候や環境の違いを共有し、既存の運営方法を発展させていくことができると期待しています。

真のつながりは、小さな一歩から始まる。

アジア人は受動的な学習者であり、しばしば答えを出すことを求められているが、そのプロセスの可能性を見ないようにしてきた傾向があります。

従来の教育は、「正しい」答えを導き出すことに重点を置いています。学生たちは、できるだけ効率的に答えを導き出すよう求められることが多く、学習過程で見出される突飛な可能性は軽視される傾向があります。

でも実は学習方法は、講師から生徒への一方通行である必要はない。継続的学習アプローチによって、人々は常に仲間や異なる背景や文化的背景を持つ人々から学ぶ機会を求め、学習は直線的ではなく循環的なものとなる。

飛騨のワークショップは、これまでにあまり見ない斬新なアイデアでした。皆さんの中には「なぜ飛騨に行くのか?現場に行かないとダメなのか?」と考える人もいるでしょう。
ここでお伝えする『デザイン』とは、単に作品を作るだけではなく、作品を通じてコミュニティに介入し、社会的なシーンに入り込むべきものだと考えられています。それは技術としてのデザイン能力を向上させるわけではありませんが、デザイナーの人格形成に大きな影響を与えることは間違いありません。

Deng Yeh Huang(参加学生)|台南から日本へ、当初は線をたどって答えを見つけようと思っていましたが、リアルな対話の場を開いてみると、その過程で他の考え方やアイデアが、枝分かれのように展開され、多様性と多面性に溢れ、世の中の物事には一本の線だけではないことに気づきました。

Cenfi Lin(参加学生)|このワークキャンプの目的は、私たちのアイデアが正しいかどうかを検証することではありません。ロボットのように指示を受け入れるだけではダメで、自分の体を使ってデザインを理解する必要があり、これはとても新しい挑戦でした。

Chia Wei Cheung(Atelier Future SDG Lab 研究員)|これまでのESG報告書では、どのプロジェクトでもデータ重視の傾向が強かったため、チームは定量的な情報収集に努めました。

そのため飛騨に行く前、チームメンバーはヒダクマの事業をよく把握していると自負していました。しかし飛騨での10日間のフィールドワークを通して、ビジネスのエコシステムが想像以上に複雑であることに気づきました!この地域の関係者がどのように協力し合って、可能性を見出しているのかを目の当たりにし、私はこれをESGの活動にどう生かすかを学びたいと思っています。

Paul(Loftwork Taiwan)|デザイナーとして、私たちはノートブックと一緒に働くことに慣れているかもしれませんが、実際に制作現場へ訪れることやその土地の人と接する瞬間は、とても感動的です。

長い時間を経て、これまで重要と捉えていた要素はほんの些細なことに過ぎなかったと気づくと思います。リアルな場所へ 踏み出す一歩によって、思いがけないバタフライエフェクトが次々と誘発される、ということこそが飛騨でのフィールドワークの価値だと思います。

再生であれ再構築であれ、すべては「人」につながる

学術的な研究に携わっていると、我々の発想が定型化しがちだと言えるでしょう。

『Future Dynamic』は、プロフェッショナルの世界と、私たちの日常生活における垣根を取り払うことを目的としたプロジェクトです。これまでのプロジェクト経験から、現在の学生には社会的なやり取りの実践が不足していると感じています。それを解決するために、国を越える協力をもたらし、その場に住む様々な背景を持つ人々を巻き込むことが「鍵」になると考えています。

人と人との関係を育むことは短い時間でできることではありません。またテクノロジーが発達した現代では、自分たちでリアルな関係性を構築する機会も少なくなっています。

ですが、このプロジェクトでは、デザインや共創を通して、より実践的な交流の機会を与え、長期的な関係性を築いていきたいと思っています。

再生デザイン・スタジオでは、学生や研究者は単なる観光客というだけではなく、地元の企業や住民と直接に交流する機会を持つ人材として、海外と密に関わることができます。

このプログラムを通じて、デザインを俯瞰するのではなく、土地を歩きながら考えることを学生たちに学んでほしいと思っています。そうして太陽の光や森の風を感じたとき、人と環境をつなぐ媒介として、デザインを活用できるようになるはずです。

Next Contents

いち個人のまなざしで社会を見る。
ヨコク研究所の発信からコンテンツメーカーが学ぶべきこと