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古田 希生, 大内 裕未 2025.07.18

AIが未来を描き、望むべきシナリオを人間が選択する
ゲーム風未来洞察サービス「Future in Hands」

「既存事業の延長」から抜け出したい。その想いを阻む、見えない壁を打破するには?

「10年後に市場の主役となる新規事業を構想したいのに、どうしても今ある事業の延長線上に留まるアイデアしか出てこないし、具体的なアクションに繋がらない」。

新規事業開発やR&D、経営企画の担当者として、未来洞察やSFプロトタイピングなど、未来起点のアイデア発想に挑んだことのある人なら一度は感じたことがあるであろうこの悩み。その背景に着目すると、未来志向を実践する上でのいくつかの「見えない壁」が存在します。

まず、多くの企業の思考は、目の前の業務や短期的な目標に縛られがちです。過去の成功体験に囚われ、長期的な社会変化を起点にした非連続な発想への転換を行うことは容易ではありません。

次に、未来について議論するための「足がかり」や「共通言語」がないという課題です。未知の領域を語り合うための共通認識が不足しているため、議論が深まらず、結果としてイノベーション推進が属人化したり、進みにくくなったりしてしまいます。

そして、革新的なアイデアが生まれたとしても、どこか納得感が持てなかったり、具体的な事業戦略に落とし込めず、「作って終わり」になってしまったりするケースも少なくありません。

数ヶ月かかる未来洞察のリサーチと分析を、わずか数時間に凝縮

こうした「見えない壁」を打ち破るために生まれたのが、ロフトワークの提供する、未来洞察にAIを組み込んだワークショップ型サービス「Future in Hands」です。

従来の未来洞察は、専門家による数ヶ月にわたる綿密なリサーチや分析が必要で、時間もコストもかかる、ハードルの高いものでした。本サービスでは、そのプロセスをAIの力で凝縮します。

Future in Handsでは、ロフトワークが過去の未来洞察プロジェクトで活用してきた独自の分析フレームワーク(Signal Analysis, SHIFTモデル, MLP分析)にAIを掛け合わせ、トレンドデータを収集。その中から、ユーザーの選択に合わせた未来の分岐シナリオをAIが生成し、提示します。これにより、本来数ヶ月かかるリサーチや分析プロセスを、わずか数時間のワークショップに凝縮することが可能になりました。

AIが収集・分析・推定した「未来の兆し」を足がかりに、人間は「どんな未来を選択したいのか」という本質的な議論と主体的な選択に集中できます。さらに、最終的に導かれる多様なシナリオと、映像・アプリ・事業計画などのアウトプットを起点に、現状の延長線上にない、非連続的なイノベーションを導くための次のステップへと進むことができるのです。

あなたの「選択」が未来を変える。Future in Handsの体験プロセス

このサービスの最大の魅力は、独自の体験設計にあります。Future in Handsは、参加者が未来を「選択」することで物語が分岐していくという、まるでゲームのような体験を通じて、未来創造プロセスを行うことができます。

AIが提示する複数のシナリオから議論を深め、望む未来を選択する

ワークは、まずチームごとにテーマとキーワードを選択するところから始まります。AIはそれに基づき、今後数年から十数年先に拡大・普及すると予測される「未来の兆し」をリサーチ・統合し提示します。

こうして提示された複数の「未来の兆し」を見ながら、チームで議論し、どれか一つを選択。すると、未来シナリオの導入部分が自動で生成されます。さらに、分岐シナリオが提示され、どちらのシナリオを選ぶのか、再びメンバー間で議論します。このプロセスを繰り返すことで、最終的な未来シナリオが導かれます。

一連の体験の中で、AIは人間だけでは発想が及ばない意外な方向へ議論を拡張してくれる、強力な触媒として機能します。

例えば、あるチームは「住居」というキーワードからワークを始めましたが、最初の分岐でAIの提示を受けて、「公園」というより開かれたパブリックスペースへと思考を転換しました。さらに、以降の分岐では「今でもある話」や「SFにありがち」なシナリオを避け、「想像がつきにくい」という基準で選択を重ねた結果、「市民活動と行政の関係性の変化」という壮大で公共性の高いテーマへと議論が飛躍したのです。

このように、Future in Handsの最大の成果は、AIが生み出す「たたき台」によって議論が大きく飛躍し、深化することにあります。AIは、人間だけでは発想が及ばない意外な方向へ議論を拡張してくれる、強力な触媒として機能します。

AIの問題提起に、人間が答えることで、本当に描きたい未来が見えてくる

参加者はワークを通じて、未来は「予測するもの」だけではなく「自ら選ぶもの」という当事者意識が自然と醸成されていきます。

ときには、AIが提示するシナリオに「本当に望ましい未来なのか、違和感がある」と感じることもあるでしょう。その違和感の裏には、メンバーの価値観や感性が隠されています。つまり、AIが描く未来像は、チームが「どんな未来を描きたいのか」を浮き彫りにする役割も有しているといえます。

ある参加者は、ユートピア的なコミュニティ像が描かれたことで、逆に怖さを感じたり、「合意形成はこれほど簡単にうまくいかないのではないか」といった疑問が生まれたといいます。このように、AIの提示する未来像が、本質的な課題を再認識させ、思わぬ自己発見につながることもあります。

あくまでAIは「未来の可能性」という問いを提供し、それを受けた私たち人間が「未来を創る」という役割を担います。議論と検討、そして意思決定を通じて、不確実性に対する組織のレジリエンスや、より創造的な未来を描く力が磨かれていきます。

「作って終わり」ではない、ビジネスへの具体的な接続

多角的なアウトプットで実用性を確保

ワークショップで得られるアウトプットは、未来シナリオだけではありません。未来シナリオを起点として、生活者や社会の抱えるニーズや課題を分析したアナリストレポート、さらには動画生成モデル「Sora」を活用した未来社会の描写映像まで、多角的なアウトプットが生成されます。

これらの成果物は、それぞれ異なる目的と活用場面を想定して設計されています。アナリストレポートは具体的な事業機会の検討に、映像コンテンツは社内プレゼンテーションやステークホルダーとの共有に活用可能です。

また、オプションとして簡易アプリの開発や事業計画の生成も可能。目的に応じた多様なアウトプットに対応することで、よりスムーズな合意形成を図り、次のアクションへと接続しやすいことも特徴の一つです。

事業開発・組織変革の第一歩としての位置づけ

Future in Handsは、事業開発をはじめとするプロジェクトの初期において、機会領域やビジョンを探るために活用することで、大きな価値を生み出します。 従来長時間を要していた探索フェーズを短縮し、初期仮説の迅速な構築と、メンバー間の視点共有・議論の活性化を図ります。

新規事業開発プロジェクトの場合、Future in Handsで創出された未来シナリオとアナリストレポートを基に、具体的な事業戦略やロードマップを策定するフェーズへと移行します。未来の組織や業界ビジョンを基にロードマップを作成し、事業開発や研究開発の具体的なアイデアを導くことができます。

パーパス・ビジョン策定や組織変革プロジェクトにおいても、Future in Handsで導かれた未来シナリオをベースに更なる議論を重ねることで、組織が目指すべき方向性を明確に示します。未来を自ら選択する体験を通じて醸成された当事者意識は、その後の変革プロセスにおいても強力な推進力となります。

Future in Handsで、組織や事業の未来を動かしてみませんか?

Future in Handsは、未来洞察の専門知識がないチームでも、AIの力を借りて短時間で非連続な未来を描き、本質的な議論を始めるためのサービスです。

AIが「高速な分析」と「未来の可能性」という土台を提供することで、人間は「未来をどう創るか」という創造的な対話に集中できます。AIが描くシナリオへの「違和感」すら、チームの思考をリフレクションし、イノベーションへと繋がる気づきに変えることができるのです。

本サービスは、プロジェクトの初期フェーズにおける議論の加速装置としての活用や、未来洞察の入門ワークとして、組織内での研修やイノベーション拠点におけるコンテンツとして一度試してみるのもおすすめです。

「未来を他人事とせず、自らの手で選び、創造/想像する」。Future in Handsは、チームの創造性を解き放ち、不確実な未来を乗りこなすためのレジリエンス性を高める、強力な一歩となるでしょう。

企画:古田 希生・大内 裕未
執筆:後閑 裕太朗

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