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伊藤 望, 安元 佳奈子, 井上 龍貴 2021.12.24

ロフトワーカーが選ぶ、
2021年「仕事に活きた」あの漫画

2021年、今年もさまざまなプロジェクトに携わってきたロフトワーカーたち。その学びはいつも業務の中だけにあるとは限りません。

そこで、ロフトワーカーが今年出会った映画や書籍の中から「学びを得た」「気づきがあった」「インスピレーションを受けた」ものを選定。読者の皆さんの年末のお供におすすめのコンテンツをご紹介します。

こちらの記事では、ジャンルを「漫画」に限定。一見仕事とは縁遠いように思える漫画から得た、仕事につながる示唆を紹介します。仕事との向き合い方から、イノベーションの流儀まで、4人のロフトワーカーがさまざまな角度から熱く語ります。


企画:後閑 裕太朗、鈴木 真理子(loftwork.com編集部)
編集:後閑 裕太朗

とんかつと千利休とイノベーション

『とんかつDJアゲ太郎』
企画/原案:イーピャオ、作画:小山 ゆうじろう(集英社)

とんかつ屋とDJは同じ。

「確かに!」と思ったあなた、おそらく優れたイノベーターかもしくはこの後紹介する漫画の大ファンですね。

「はい?」と疑問に思ったあなた、年末年始にこの漫画を読めば、あなたもイノベーターになれるかもしれません。

僕が紹介するのは『とんかつDJアゲ太郎』です。

漫画のあらすじをざっくり説明すると、渋谷のとんかつ屋の跡取り息子(3代目)が家業のとんかつ屋を継ぐ事に嫌気が差し、毎日をやる気なく過ごしていたところ、ひょんなことから「とんかつ屋」と「DJ」の共通点に気付き、とんかつDJアゲ太郎として「とんかつもフロアもアゲられる男」に成長していく物語です。

そう、この漫画はギャグ漫画でもあり、実はイノベーション漫画なんですね。

イノベーションの概念を生んだ経済学者のシュンペーターは「イノベーションとは新結合、これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって新たな価値を創造すること」と言っています。例えば、NIKE創業者のフィル・ナイトも奥さんが使ってたワッフルメーカーからスニーカーのソールの着想を得たことは有名です。歴史を遡ると、千利休も生活用品を見て「あれ、これ茶に使ったらおもしろいぞ」と気づき、茶の業界にイノベーションを起こしたそうです。

『とんかつDJアゲ太郎』も、ストーリー中で主人公はとんかつ屋とDJは両方とも「豚肉」と「フロア」をアゲていること、そして食べに来た客/フロアの客の様子を見ながら、揚げ具合/かける曲やテンポを調整していることに気づきます。ここからとんかつ屋でありDJという「新結合」でシーンをどんどん駆け上がっていくのですが…続きは漫画で読んでみてください。

とんかつDJ、NIKEのスニーカー、茶。これらのイノベーションにつながる発見を「見立て」というそうです。フィル・ナイトも千利休も、優れたイノベーターたり得たのはこの見立て力のおかげかもしれません。新しいアイデアやサービス、事業を考えたい皆さん、ぜひ見立て力を高めていきましょう。年末年始で楽しく見立て力を高めたいなら、『とんかつDJアゲ太郎』、おすすめです。

伊藤 望

Author伊藤 望(VU unit リーダー)

デザインリサーチを通じた深い生活者理解と、未来洞察による社会変化への見立てをもとに、様々なイノベーション創出や、課題解決のプロジェクトに携わる。2023年より新たなチームを立ち上げ、新規事業開発、サービスデザイン、顧客のコミュニケーションデザイン、行政のデザイン思考導入実践、企業のパーパス策定などのプロジェクトを行う。生活者へのリサーチ / インサイト把握をもとにした、サービス / 事業のデザインを得意とする。
プライベートでは人がアイデアを思いつくに至るまでのプロセスを研究をしており、それらを活かして、様々なアイデアソン、ワークショップの設計、審査員も務める。

Profile

限界を超える、以外の乗り越えかた

『ハイキュー!! 』
作:古館春一(集英社)

少年漫画を読んでいると、主人公がピンチの時や大切なものを守る時、突如として能力が開花したりパワーアップするシーンがあります。とても心沸き立つ、勇気をもらうシーンです。その反面「まあ、それは漫画の話でしょう」と思ってしまうところもある。

仕事でピンチな時、ここぞと言う時、エナジードリンク飲んで徹夜したって急にパワーアップはしないし、今までできなかったことができるようになったりしない。仮にあったとして、限界突破で成果を生み出した翌日は、疲れ切って役に立たないかもしれない。現実世界の私たちは、「限界を越える」のが解決策でないことを知っています。必要なのは、いつもいいパフォーマンスができること。

バレーボール漫画『ハイキュー!!』では、主人公所属のバレー部のコーチがこんな言葉を言います。

“ 限界を越えるんじゃなく、限界値を上げてこう。”

この漫画の中では、勝敗そのものよりも挑戦から学びを得て自分を更新していくことの重要性が描かれます。チームワークが苦手な人、他人と自分を比べてしまう人、経験が足りなくて不安な人、手放しで夢中になれない人など、登場人物がそれぞれの課題に向き合い、練習し、思考を整理して、自分のプレースタイル(強さ)を見つけていきます。バレーボールでなくても近しい課題を感じている人は共感するポイントも多いかもしれません。

『ハイキュー!!』私たちが日々積み重ねている地道な何事もない努力をちゃんと肯定してくれる漫画です。

一年間のお疲れ様の意味も込めて一気読みしてみるのはいかがでしょうか。

安元 佳奈子

Author安元 佳奈子(シニアディレクター)

立命館大学映像学部卒業。広告代理店のグループ企業に入社し、プロデューサーとしてテレビ・新聞などのマス広告キャンペーンの制作管理やリスクマネジメントを担当する。広告以外のアウトプットへの興味から2018年にロフトワーク入社。俯瞰の目線と目の前のものを一つづつ作り上げる熱意を兼ね備えたプロジェクトマネージャーを目指して日々精進中。

Profile

自らの「認知の歪み」と向き合う

『死役所 』 
作:あずみきし(新潮社)

「人は見たいものしか見ない」と言いますが、もし、自分が歪んだ捉え方をしているとしたら…?

漫画『死役所』は死後に当事者が死の手続きをする、架空の役所が舞台のお話です。手続きでは役所の職員と「死」や「人生」dの意味を考えます。

第81条(81番目のお話)では、強盗に扮した生き別れた息子に殺された男性が死役所にやってきます。男性は、自分は家庭内暴力の被害者であり、あげく強盗に殺されるだなんて散々なことだと悲嘆にくれます。しかし、それは「認知の歪み」でした。実際のところ、男性は加害者で、元妻は後遺症を患っています。息子はその状況に恨みを募らせて殺害に至ったようでした。

人間関係における「認知の歪み」は容赦のないテーマではありますが、この話は自然と最後まで読みたくなりました。否定も肯定もなく淡々と描かれていることもその要因の1つかもしれません。気づくと、「自分に近しい出来事はあったか」「自分はどんな認知の歪みを持っているか」などと振り返っていたのが不思議で、作品のパワフルさを感じ、魅了されました。

ロフトワークの仕事は「集めた情報を、クライアントをはじめとした対象者が受け取れるように調理して伝えること」が勝負だと思っています。自分の認知の歪みを再認識することで、情報収集のスキルを見直す良い機会になりました。また『死役所』はこのようなテーマを読み手が受け取りやすい形で届けていて、「伝え方」の点でも良い刺激になりました。

飯澤 絹子

Author飯澤 絹子(クリエイティブディレクター)

社会福祉士・精神保健福祉士を取得し、地域活動に関する研究にてシステムデザイン・マネジメント学科修士課程修了。LITALICOジュニアで発達や特性に合わせた学習やコミュニケーションの指導を行った後、仕組みを作ることによって人や組織の持つ魅力が世の中に花開くことに関わりたく、ロフトワークに入社。想像を超える未来をつくること、能力を最大限発揮して生きていくこと、を追求し続けた結果、説明しなければ伝わらない経歴を更新中。まずは自分が体現する存在になる、をモットーに、関わる方々や自分と向き合う日々を送っている。

「向いている仕事」とは何か

『Artiste』
作:さもえど太郎(新潮社)

『Artiste(アルティスト)』は、パリのレストランで働く気弱な青年・ジルベールが主人公。彼は雑用係として、毎日皿洗いに従事する日々を過ごしていましたが、陽気な新人・マルコとの出会いから、大きな変化を迎えます。いわば「お仕事青春ストーリー」ですが、群像劇としての厚みも感じられる作品です。

episode18にて、新しいレストランがオープンされ、ジルベールはソーシエ兼、副料理長に任命されます。気弱な性格も相まって、個性豊かなスタッフの面々をまとめることができず、職場の空気は悪くなっていく一方。そんな時にソムリエのスタッフが彼に掛けた言葉が印象に残っています。

“ 私にできてあなたにできないこと あなたにできて私にはできないこと それがいくつも集まってこの店がある 自分一人だけじゃ到底生まれないものができ上がる だから仕事は面白いですね ”

ロフトワークという職場でも同じことが言えるなと思いました。僕らもそれぞれ役割があり、そのそれぞれの役割が折り重なって、まだ見ぬ仕事(プロジェクト)が形作られていきます。それは、クリエイターやクライアントとの関係とも同様で、だからこそ、面白い。

もう一つは、言わずもがなの作品である『3月のライオン』。その172話で、ヒロインの「ひなちゃん」が語ったシーン。高校卒業後は、おじいちゃんの和菓子屋さん「三日月堂」で働きたいと言うひなちゃん。イベントで屋台を出店する際に、おじいちゃんから全てを任され、これまでの「手伝う」から「自分で計画して成し遂げる」へ、自身の大きな変化を自覚します。失敗したり、落ち込んだりしても投げ出さずに、何度でも起き上がる彼女が言ったセリフが印象的です。

『3月のライオン』
作:羽海野チカ(白泉社)

僕自身、仕事をしていて、正直「向いてないんじゃないか」と思うことは何度もあります。そんな時に、この一コマを思い出し「自分で選んで、今でも諦めずに続けているのだから、それは向いているってことか」と背中を押されています。

井上 龍貴

Author井上 龍貴(プロデューサー)

大分県出身。工業高校を卒業後、巨大工場勤務を経て、周囲を巻き込んだモバイル屋台プロジェクト「YATAI UNIT」の企画・運営を実施。また、千葉県松戸市のMAD Cityを拠点に地域編集ユニット「郷ニ入ルズ」として活動。地元大分県でものづくりを中心にした創作集団「tameno」を主宰し、多種多様な事業者と共に誰かの為のものづくりを企てている。


「仕事との向き合い方」「認知の歪み」「限界値」「イノベーション」。 普段何気なく接している漫画の中にも、仕事につながる、意外なヒントが隠されています。特に、漫画の持つ「熱量」は独特の魅力と言えますね。年末年始は、今回ご紹介した漫画はもちろん、みなさん自身の好きな漫画をもう一度読み返して、来年へのエネルギーを蓄えてみてはいかがでしょうか。

「ロフトワーカーの2021年おすすめコンテンツ」シリーズは、「漫画編」のほか「オン/オフ編」もご用意しています。書籍や映画などで気になるものがありましたら、ぜひこちらもチェックしてみてください。

「オン/オフ編」はこちら

また、ロフトワークでは一緒に働く仲間も募集しています。多様なメンバーとともに、自身の熱量や独自の視点をプロジェクトに生かしてみたいという方、ぜひご気軽にご応募ください!

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