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上村 直人, 黒沼 雄太, 加藤 修平, 林 剛弘, 東郷 りん, 新澤 梨緒 2022.01.31

はたらく“よろこび”を循環させるデザインを目指して
上村直人・新ユニット立ち上げの決意

「気になってしかたないものを見つけた人と、どうしたらそれを大切にできるか考えていきたい」

2021年秋、ロフトワークのなかに新たなユニットが誕生しました。
集まったのは、得意なことも興味関心もバラバラな6人。そんな中でも共通するのは、自身の違和感を見過ごさず、対話を重ねながらプロジェクトに取り組む姿勢です。
本記事では、ユニットの発起人である上村に「どのような想いでユニットを立ち上げたのか、どんなことに取り組んでいこうとしているのか」を聞き出しました。

執筆:中嶋 希実
撮影:岡安 いつみ
編集:新原 なりか
企画・編集:基 真理子(loftwork.com 編集部)

話した人

上村 直人

Author上村 直人(クリエイティブDiv. シニアディレクター )

関西学院大学商学部卒業後、野村総合研究所へSEとして入社。証券基幹システムの開発・運用に従事する。その後、都内コーヒーショップの業務改善に参画し、事業企画やWebサイトの立ち上げ、コンテンツ制作・運営などを行い、プライベートでもコーヒーフェスの立ち上げ・運営に携わる。
愛読誌『WIRED』をきっかけに、2016年ロフトワークへ入社。「生活の豊かさ」を基軸に公共空間や都市のデザイン、新規事業企画に関心があり、多角的な対話から課題へのソリューションを導くことを得意とする。
近所の銭湯で友人と語り合うことと、音楽の収集が日課。

個人の想いまで深く掘り下げて、向き合っていきたい

— 新しいユニットが誕生してから、すでにいくつか仕事が動き出していると聞きました。これまでの働き方から変化したことはありますか?

上村  僕たちは「これをつくりたい」というのが明確に決まっているよりは、「そもそも”どうありたいか”」から考え始めるほうが得意だと思います。どういうプロジェクトでも、社会の状況はどうなっているのか、そもそも私たちは何者なのかを見直すところから仕事が始まることが多いですね。

例えば農作物の流通業をされている企業さんとは、価格や市場の需要だけに流されず、生産者と生活者が互いを想像し合える関係性をどうすれば生み出すことができるか、という視点からプロダクトのコンセプトを考えています。

とあるスタートアップさんとは、夫婦の問題をもっと当たり前に語り合い、周囲の人に相談しながらより良い家族の状態をつくっていくことのできるサービスの新規事業開発が始まりそうです。

今までの仕事と少し違うのは、クライアントの実現したいことに対し、僕らも自分たちなりの意味を重ねていくことです。課題ややるべきことについて、クライアントの「法人としての言葉」に留まらず、「個人としての言葉や想い」まで掘り下げて深く向き合う。僕らが最初の共感者となり、お互いの意義を重ね合わせながら、伴走していきたいと考えています。

— 既に見えている課題を解決するというよりも、プロジェクトを通して、一緒に社会をつくっていきたいということですね。

上村  そうですね。僕としては、自分たちの生活にインパクトがある、つまり自分たちの生活や人生との繋がりを感じるテーマに取り組んでいきたいと思っています。

例えば日本の産業には、解決が難しい課題もたくさんあります。課題があるからと言って大きく仕組みを変えなくても、そこに関わる人たちが楽しく働けるような変化が起きればそれでいいのかもしれません。その人たちが今よりもよろこびを持って働くことができるようになれば、少しずつ日常が変わっていく。そうすると、日々の仕事でつくるものも変わってくる。遠回りかもしれないけれど、そうやって課題に対してアプローチすることもできると思うんです。

— 課題解決に直結するような大きな働きかけでなくても、日常を少しずつ良くしていくことで、より豊かな社会をつくっていくことができるかもしれない。じっくりとプロジェクトに取り組んでいくためにも、上村さん自身にとっても、より意義を感じられるものに関わっていこうとしているんですね。取り組んでいきたい分野は決まっているんですか。

上村  生活の基礎である衣食住、そしてそれらにも関わる地球環境、人権、教育、医療、工芸など、関心のある領域は広いです。個性豊かなメンバーも揃っていますし、クライアントと僕らでプロジェクトの意義を考えながら共に進んでいきたいですね。

しっくりくる環境を自分たちで開拓する

— これまで以上に意思を持って仕事に関わっていくという決意が、新しいユニットをつくるという形に現れているように感じます。上村さん自身は、どうして新しいユニットを立ち上げることになったんですか。

上村  僕のなかでクリエイティブの原風景みたいなところがポートランドです。クラフトマンシップが文化として根付いているような街で、休憩時間にコーヒーを飲んでいるうちに会話が始まり、濃密な関係が生まれ、お互いに刺激を受けて仕事にいい影響がでたりする…。そういう状況が、すごく創造的だと感じたんです。その衝撃が忘れられず、ロフトワークに入社する前は東京のコーヒーシーンで仕事をしていました。

上村  プロジェクトにおいても、常にそういう空気感をつくりたい。決まったアジェンダに沿ってミーティングを進めていくとか、僕らが提案してクライアントは受け取る側ということではなくて。一緒に考えて、一緒に答えを出して、一緒になにかをつくりあげていく感覚を大切にしています

ロフトワークに入社して5年たち、ある程度仕事ができるようになると同時に、これから自分はどうなっていくんだろうと不安を感じることがありました。クライアントと「一緒に進めていく」という関係が、必ずしもすべてのプロジェクトで成立するわけではなかったことも、ひとつの要因かもしれません。

— 仕事の進め方について、葛藤する部分があったんですね。

上村  そうですね。他にも自分自身の働き方について考えるところがあって。僕らの仕事って自由な反面、個人の裁量に委ねられるからこそ大変な部分もあります。自分の人生の時間をかけて仕事をするならば、しっくり来ない部分を改善したい。自分にとってよりフィットする環境を探すために、転職を考えた時期もありました。

— そうだったんですね。

上村  そんなときに会社が20周年を迎えて、自分たちのアイデンティティを言語化し直すプロジェクトが立ち上がったんです。社員の半分以上が参加して「自分たちにとってロフトワークとはなにか」を話し合いました。そのなかで「すべての人に内在する創造性を信じる」という主旨の言葉が出てきて、僕が考えてきたことと重なったように感じたんです。

多くの会社って、アイデンティティになるものが中心にあり、それを解釈しながら成り立っていることが多いと思います。

でもロフトワークは真ん中がなくても周りにみんながいることで成り立っている。代表の林千晶が「ドーナツの穴」に例えるように、真ん中がない自由さがあるというか、自分たちで考えてつくっていくことができる。だから僕も、自分がいいと思う環境をつくることを始めてみようと思ったのが、ユニットが生まれるきっかけのひとつになりました。

違和感を無視しない多彩な6人のメンバー

— しっくりくる環境を開拓するためにつくったのが、新しいユニットだったんですね。メンバーはどんなふうに集まっていったんですか。

上村  言語化プロジェクトが進んでいたとき、ディレクターの黒沼さんと会社のあり方や仕事の仕方についてよく話すようになって。その中で、「クライアントがビジョンやミッションを描くことの支援をする仕事は多いけれど、自分たちのビジョンをつくり、提示していくことに対しては怠慢だったんじゃないか」という話になり、何人かで集まって、自分たち自身の創造性について一度考えてみることになったんです。「そもそも『創造性』とはなにか」「それはどこからやってくるのか?」など、価値観や哲学を問い直しました。そこに集まっていたメンバーが中心になって、新しいユニットが生まれたという感じですね。 

— メンバーを集めたというより、自分たちの仕事や会社のあり方についてよく考えている人たちがユニットをつくったんですね。

そうですね。当たり前とされていることにも違和感を感じたら見過ごさない、自分が考えていることや気になってしかたないものを大切にしたいと思っているメンバーが自然に集まりました。僕からみてもメンバーの姿勢は誠実で、信頼がおける人たちです。

— 今は6人が所属していると聞きました。上村さんから見て、どんなメンバーなのか教えてください。

上村  得意領域や背景もバラバラですが、それぞれが大切している価値観を活かしながら、コンセプトやプロジェクトの方向性から考えていけるメンバーが揃っていると思います。

先ほども出てきた、ユニット発足前からよく話をしていた黒沼さんは、前職で映像ディレクターをしていて、今でも個人で映像を撮って編集しています。もともと人類学を学んでいて、映像を撮ることを通じ、そこにある文化の生態系のようなものをリサーチしているんです。ずっとフィールドリサーチをしてきたこともあって、観察をした結果から新しい視点を見出したり、コンセプト開発や言葉づくりが得意です。

クリエイティブディレクターの加藤くんは、もともと南アフリカのd-schoolというデザイン思考を学ぶ学校でコーチをしていました。彼は、経営にデザイン思考をどう取り入れることができるのか、それを通して創造的な企業文化をいかにつくることができるか、というデザイン経営を得意としています。また、新しいサービスやプロダクトを生み出すためのリサーチも得意としています。

プロデューサーの新澤さんは、ロフトワークで「働く」と「生きる」について今まさに深く考え続けているひとりです。この夏は1ヶ月休んで、山小屋で働いていたそうです。そこでの経験もあって、より自分たちの生活に身近なことや人間以外のものとの関わりに関心を持っています。

— 多様なメンバーが集まっているんですね。みなさんで普段、どんな話をしているんですか。

上村  これからどうやって自分たちらしい仕事をつくっていけるのか、今まさに話し合っているところです。あとは最近読んだ本について共有したり、一緒にオリジナルのプロダクトをつくりたいねって話をしたり。これまでどんな恋愛をしてきたのかを話すこともありますね(笑)

人に創造性をもたらす「よろこび」を循環させたい

— 新しいユニットが生まれた経緯やメンバーのお話しを聞いても「対話」を大切にしているのがわかりますね。

上村  本音で話す機会ってなかなかないですよね。でもこのユニット内ではできていると思っていて。そういう関係性はクライアントともつくっていきたいです。いい意味でお互いに生傷をつくりながら、一緒に成長し、変化していけるようなプロジェクトをつくっていきたいですね。

僕らのユニットのコンセプトには、「よろこびが行き交う『はたらき』に満ちた世界をつくる」を掲げています。クライアントもよろこぶ、自分たち自身もよろこぶ。お互いの意義が重なるところによろこびが生まれていく。それをいかに循環させていくかが、僕らの大切にしたいことなんです。

–「よろこび」 とは関わる人たちにとって、「自分が取り組むべきこと」という自覚のようなものなのでしょうか。

上村  人から強いられたことでなく、自分がある人・モノ・コトのために「こうしたい」と意思を持つとき、人は創造的になると思うんです。僕たちが関わることで、出会った人の内面に変化が起きている状態をつくりたい。それぞれが「自分なりの意味」と出会い、人や社会が変容していくことがプロジェクトに取り組む価値だと思っています。

そのためには、自分のなかに「ほっておけないこと」があるか、いかに違和感を見過ごさないかが大事ですね。

— それがあるかないかで、お互いに意義のあるプロジェクトができるかが決まるということですか。

上村  そう思います。例えばヒダクマ(株式会社飛騨の森でクマは踊る)で考えると、彼らにとってのその対象は飛騨の木だと思うんです。飛騨の木が気になってしょうがなくて、そこにある課題をなんとかしようと取り組んでいる。それって愛着の形成のされ方だと思うんです。愛着が湧くと、それを大切にしますよね。自分にとって大切なこと、必要なことに気がつくと、自分の日常生活の中心みたいなものが変わっていく。それを僕らは「リフレーム」と呼んでいます。

— クライアントという関係でも、どんな人とプロジェクトに取り組んでいくかが大切になりそうですね。

上村  SNSやECなどのデジタルツールが整備され、スモールビジネスを始めやすい環境が揃ってきていますよね。小さくても強いビジョンを持って、すでに動いている人たちもいる。でも僕らの場合は、まだ動き出せていない人たちとも相性がいいと思います。例えば、自分たちが関わっている産業と社会との接続をより良くしたいけれど、どこから始めたらいいかわからない人とか。

あとはトップダウンでガラッと変えていくよりも、働く人たちが自分達の組織や会社に愛着を持てるような状況をどうやったらつくれるのか。そういうつくり方を望んでいる方々とプロジェクトをつくっていけると嬉しいですね。

— 答えが見えない状態からでもお付き合いができるということですか? 相手がいることは頼もしいものの、その段階では予算がついていなかったりして、仕事としては声がかけにくい状況もありそう…。

上村  そうですね。まだなにも見えていない状態からでも、一緒に考えを整理したり、方向性を相談するところからでもかまいません。今も、何社かの方とプロジェクト発足の前段階から関係性を持ち、お話しをさせていただいています。僕らが本当に適切なパートナーなのか、お互いに話をしながら確かめていくような期間をつくりたいと思っています。

仕事として成立しない状況でも、対話を通じ目指す方向性を見つけ、長く付き合っていけるような関係性をつくっていけたらと思っています。

プロジェクトに関わるってすごくエネルギーがいることで、運命をともにしているような感覚があるんです。それってお互いにモチベーションと愛情がないとできないことですよね。一緒に人生をともにしていけるような方々と出会えることを、僕らも楽しみにしています。

新ユニット『Stew』メンバー

上村 直人

上村 直人

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター 

黒沼 雄太

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

加藤 修平

加藤 修平

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

林 剛弘

林 剛弘

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

東郷 りん

東郷 りん

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

新澤 梨緒

新澤 梨緒

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

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出雲路本制作所と考える、
ショップ・イン・ショップという
場の仕組みで“ずらす”ことの価値