FINDING
Tim Wong, 堤 大樹 2023.11.07

FabCafe Taipeiが(もう一度)できるまで
Vol.2 グッドバイブスを生む空間と、その条件

2023年にリニューアルオープンしたFabCafe Taipei(と、運営を行うロフトワーク台湾)が拠点を失ってからもう一度居場所を得るまでの道のりを辿った全4回の連載である。2022年にロフトワーク京都から台湾に異動した、シニアディレクター・堤大樹が、リアルな葛藤や悲喜こもごもと一緒に、複数のメンバーの視点を交えて語ります。


今回の登場人物

堤大樹
ロフトワーク台湾・シニアディレクター

2016年ロフトワーク京都に入社、2022年に台湾支社へ異動。ロフトワークでの仕事の傍ら10年近くANTENNAというカルチャーメディアを編集者として運営。2020年には自らの会社Eat, Play, Sleep inc.も立ち上げた。

Tim Wong

ロフトワーク台湾 共同創設者

香港生まれ。都市デザイナーとして7年間務めた後、2013年にFabCafe TaipeiとLoftwork Taiwanを設立。

👉連載の趣旨、及び前回の記事はこちら

https://loftwork.com/jp/finding/taipei_reopening_vol1_find_place_again

#1 ようやく物件が決まったが、さあなにをする?

Vol.1では私たちがどのように自分たちの拠点を失って、そしてもう一度拠点となる物件を見つけていったのかを書いた。Vol.2となる今回は、実際に借りられる物件が決まってから、僕たちがどのような考えの元、建物を活用していこうとしているのかを伝えていきたい。

まず、物件が決まってからTimと僕の二人でミーティングを行った。それは、4階建ての建物をどのように使っていくか、というものであったし、ひいては自分たちの居場所にどのようなコミュニティをつくっていくかというものだったと思う。僕が英語が堪能でないこともあり、時間をかけてMiroを用い視覚的に互いの考えを伝えていった。

議論を重ねていると、共通して大切にしたいことがなんとなく見えてくる。華山にあったロフトワーク台湾のオフィスと、FabCafe Taipeiは、同じエリアに拠点を構えていたものの、立地的には少し距離があった。新しい拠点は、以前より狭くなるものの一つの建物にオフィスもFabCafeも同居させることができる。そのことは大きな利点で、いかに複数レイヤーのコミュニティやカルチャーを育み、また交差させていくのか、ということを二人とも考えていた。

渋谷・京都は、一つの建物にロフトワークもFabCafeも同居している。外側からそれがどのように見えているか定かではないが、このことが僕たちのビジネスや、組織のカルチャーに与えているポジティブな影響は思いの外大きい。オフィスとして活用するだけだと訪問できる人や機会が限られるし、カフェ(FabCafe)だけでは人が集まり、流動性も高まるがコミュニティとしての定着が難しい。特定の価値観をもった人が集まれるコミュニティを双方のレイヤーで生み出すこと、加えてそれらが混ざり合う汽水のような場や機会があることが理想だ。

こうした場のあり方を考える時に、僕が参考にしているのはジェイン・ジェイコブズが「都市の多様性とレジリエンス」を語った際に定義した4つの条件である。この条件は、そのままコミュニティの豊かさを考える際の大きな指標となるのとTimに話したら、彼のイメージもまた同じだった。

▼ジェイン・ジェイコブズ「都市の多様性とレジリエンス」の4つの条件

https://www.planktonik.com/nakamurajin/jacobs/resilience.html

#2 私たちはこれからの「つくる」をどう体現するのか

FabCafe Kyotoの2階の様子

そんな中、僕たちが場のあり方のリファレンスとしてよく話していたのは主にロフトワーク/FabCafe 京都であった。渋谷は少し規模が大きく、参考にしにくいところがある。その点、京都は都市の規模も、拠点となる建物の規模も近しい。そうした話をする中で、Timが特に気に入っているのは畳が敷かれた2階であるらしいこともわかった。オフィスらしからぬ、膝をつきあわせて対話ができるそのカジュアルさ。そしてワークショップやイベントなども実施できる使い勝手のよさに惹かれているとのことだ。

実際に、京都で6年働いていたからこそ、2階の居心地のよさや有用性はよくわかる。そして、1階に訪れるビジターと、3階で働くLWのメンバーの緩衝地帯として2階はよく機能していることも肌で理解していた。そんな話をしていると、自然と1階はカフェ、2階がイベントやワークショップをする場、3階がオフィスとして使うイメージが固まっていく。重要なのは最も流動性の高い1階にどのような人を、どうやって呼び込んでいくかだ。

FabCafe Taipeiとなる新しい建物の課題は、1階にFabツールを置くほどスペースに余裕がないということである。しかし、この場所をFabCafeと名乗る以上、ただのカフェとするのはまた違う。そこで、日本や台湾などの「自分たちがいいと思っているショップやストア、ラボやコワーキング」を例に出しながら、カフェにどのような機能を加えていくとよいかを話していった。

世界中にあるFabCafeは今となっては10を超える数となっているが、それらは地域性やオーナー、スタッフのカラーが大きく反映されてそれぞれに特徴がある。わかりやすいところでいえば、飛騨は地域性を生かして木材の調達や加工が得意だし、メキシコシティであれば運営するTania Aedo(タニア・アエド)と、Federico Hemmer(フェデリコ・へンメル)二人の影響でバイオテクノロジーに明るい。では新しいFabCafe Taipeiはそれらと差別化をはかりながら、どのようなカラーを得ていくとよいのだろうか?ということも考えていく必要がある。

一つ、Timが期待しているのは僕が持っている「編集」という文脈らしかった。そのため、僕が個人で制作している雑誌の販売や展示もしていいと言ってくれたのだが、「言語の壁」もあるし、それだけだと外に開かれていくイメージがなかなか難しかった。もう少し別のテーマがほしいと思っていたときに、行き着いたのが「小売・流通」という切り口である。

どこのFabCafeでもこれまで多くの実験的な取り組みを行ってきていて、多くのクリエイターや、アーリーアダプターを引き付けてきた。しかし、同時にアイデアやプロトタイプの展示や発表で終わることも多々あり、その先にもっとつながるといいのにと感じていた。加えて、台湾は文化的に消費に前向きな印象もあった。そこで、そうした実験的なものを届けるラストワンマイルの場として機能させることはどうか、などと考えたのだ。

「これまでと違う小売・流通の仕組みをつくる」という立て付けであれば、気軽に覗くことも容易だし、カフェとの相性はよさそうだ。それに、台湾をアジアのゲートウェイとなるマーケットと捉えている日本やアジアの他の国や地域の企業やクリエイターとのコラボレーションがしやすい。たくさんのものを揃えているセレクトショップではなく、一つだけ、今自分たちがおもしろいと思っている “実験的なものを展示・販売するための場“ のようなイメージである。

#3 レジデンスのテストランと、その感触

畳(&小上がり)を入れる前の4階の様子

4階に関しては「レジデンススペース」として滞在・宿泊できるスペースにするのはどうかとアイデアが広がっていった。

このアイデアには胸が躍るものがある。つまり、建物としてはクリエイターやアーティストが中長期で滞在できるスペースもあれば、そこで得たインスピレーションを形にするための作業スペース(2階)があり、そして最終的には展示・発表までが1階でできるということである。そうした機能が一通り揃っていることで、台湾外の地域からもクリエイターなどに足を運んでもらう機会をつくりやすい。また、宿泊・滞在のスペースがあれば、プロジェクトを一緒に行うことが増えている渋谷や、京都を中心とした他地域のロフトワーク/FabCafeメンバーの滞在が気軽に行えるというわけだ。

実は、すでに上記のレジデンスと展示はこの場所のオープニングパーティにあわせて、トライしてみている。

最初に、このアイデアを実践してくれたのは関西を拠点に活躍している建築家の大野宏さん。彼は2022年に台湾で行ったU-mktという市場を中心とした地方創生系のプロジェクトに参加してくれていて、その折に台湾の蒸籠職人とのコラボレーションで照明とテーブルを制作していた。その時は、プロトタイプを一つつくるので手一杯だったため、改めて台湾に滞在する機会をつくり、今後販売していくチャネルや、中長期的に製造を行っていく方法を考えたいとのことだった。

プロジェクト参加時の蒸籠職人との制作風景 ©HARUKI NEDA

一週間ほどの滞在と短めのものではあったが上記二つのプロトタイプに加えて、もう一つミラーを制作して5月のオープニングパーティでお披露目することができた。当日の反応も上々で、まだ、実売には至っていないものの、今後は台湾だけでなくFabCafe 東京での展示も行う予定でこの場所を起点とした新たな製造・販売の流通チャネルを他のFabCafeも巻き込みつつ少しずつ形になりつつある。

今後も、こうしたレジデンスの仕組みを動かしていく予定だ。現段階においては、興味を持ってくれるなら「台湾でなにかやってみたい」というレベルの動機でも十分ではないかとも思っていて、そうしたクリエイターやアーティスト、もちろん企業にも門戸はどんどんと開いていきたいと考えている。今、9月に一つと、11月に二つレジンデンスや展示の企画を仕込んでいるが、まだまだ増やしていきたいので、興味を持ってくれる人がいたらぜひ連絡をもらえたら嬉しい。

Key Visual: ©澤田 直大

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