産学官連携を理念で終わらせないために
教育を起点にひらく、共創の仕組み
学びが社会と交わる時代、問われる連携の質
大学が培ってきた知の蓄積、行政が描く地域の未来像、企業のもつ技術や実装力。それぞれ異なる立場やビジョンをもつ主体が、社会の複雑な課題に向き合うには、領域を越えた連携がますます重要になっています。
変化のスピードが増し、課題が複雑化するいま、学びは大学の中だけで完結するものではなくなりました。実社会の問いに触れ、他者と交わりながら、思考と実践を往復するプロセスこそが、深い学びと新たな価値を生み出す源泉です。こうした視点に立てば、産学官の連携は、時代に求められる“土台”であると言えるでしょう。
しかし、意義が理解されていても、実践が伴わないケースは少なくありません。“人”や“場”の設計がなければ、構想は形骸化し、「理念はあるが実装に至らない」「関係者間の温度差がある」といった状況に陥ります。いま求められているのは、形式的な枠組みを超え、信頼関係を育みながら実践を積み重ねていく“共創”です。
「人」と「仕組み」から始まる、実装志向の共創プロジェクト
ロフトワークは、大学・行政・企業といった異なる立場のあいだに立ち、構想を実装へとつなぐプロジェクトをデザインしてきました。
重視するのは、単発的な連携ではなく、地域や組織に根づき、持続的に機能する“人と仕組み”を育てること。そのために、研究価値やお互いのビジョンを「ひらく」ための共創の場を設計し、関係者が安心して対話と実践を重ねられる環境をプロデュースしています。
このページでは、大学教育を起点に、多様な主体とともに取り組んできた共創プロジェクトをご紹介。越境する学びのデザイン、地域と大学をつなぐプロトタイピング、未来を見据えた人材育成。それぞれの実践には、産学官連携の可能性と、次の一歩につながるヒントが詰まっています。
【事例:国立大学法人 東海国立大学機構(岐阜大学・名古屋大学)】 知と人がつながる“未来のあたりまえ”を育む、大学構内の共創施設「ComoNe(コモネ)」
「Common Nexus(コモンネクサス、愛称:ComoNe(コモネ))」は、国立大学法人東海国立大学機構による、名古屋大学構内に開設された新たな共創拠点です。機構の理念である「Make New Standards for The Public(公共のための新しい当たり前を創造する)」の具現化に向けて、研究成果や教育資源を公共財として社会にひらく施設として構想。施設名は、「Common(共有知)」と「Nexus(つながり)」を意味し、世代や分野を越えて人々が交わる“知の交差点”としての役割を担っています。
ロフトワークは、施設のコンセプト設計や空間デザインをはじめ、スタッフ体制の構築、企画展示やコアプログラムの開発・運営、ネーミング・ロゴ制作のディレクションなど、企画から運営に至るまでを幅広く支援。
他大学や自治体、企業を含む多様な人々が集い、広大な空間のなかで展開される多様な活動を通じて、横断的な学びの提供や次世代の育成、地域の賑わい創出、新しい働き方の提案、国際交流など、「未来の新しい当たり前」を築くさまざまな社会的価値の創造を目指しています。
共創のポイント
- 日常のなかに学びと協働が自然にひらかれる空間を構築し、大学構内に「社会と交わる探究の場」を設計
- 共創プログラムを実施するだけでなく、展示やイベントを通じてその活動を社会へとひらく仕組みを構築
- 学生・大学関係者・市民・自治体・企業など、多様な立場の人が関わる共創の土壌をプロデュース
詳細については、以下をご覧ください。
【事例:中央大学】出会いの質を高める産学官連携プラットフォーム「+C(プラスシー)」
産学官連携を促進する「オンラインの場」として構築されたのが、中央大学による産学官連携プラットフォーム「+C(プラスシー)」。中長期ビジョン「CHUO VISION 2025」における「研究力の向上」の達成に向けて、大学の研究情報やリソースを産業界・官公庁へ効果的に発信し、質の高い連携創出を目指しました。
本プラットフォームは、産業パートナーと研究者双方へのインタビューを通じて、ユーザー像と受発注の関係を超えた「理想的な連携のあり方」を定義しました。研究者の専門性だけでなく、その原動力やビジョンを伝える「研究者紹介」コンテンツや、ランダムなキーワードで研究者との出会いを創出する仕組みを設計。「出会いの数」より「出会いの質」を重視し、委託関係を超えて共通のビジョンに向かう「いいマッチング」の実現を追求しました。
Webサイトの構築に限らず、プッシュ型のコミュニケーションを図る「イントロダクションブック」やサイト運用を支える「運用マニュアル」を作成するなど、多角的な支援を実施。属人的なネットワークに頼らない、持続的な産学官連携の基盤創出を目指しました。
共創のポイント
- 産業界と研究者が、インタビューを通じて異なる立場の視点を交差させることで、委託関係を超えた共同研究の理想像を目指す
- 研究の専門性と社会的価値の橋渡しとなるコンテンツ設計を通して、企業が歩み寄りやすい出会いの入り口を創出
- 「リサーチ」「戦略策定」「コンテンツ制作」「運用体制構築」までを一貫させた、産学官連携促進の仕組みづくり
詳細については、以下の事例記事をご覧ください。
【事例:台湾・国立成功大学】テクノロジーと創造性が交差する、越境型教育プログラムの共創
台湾の国立成功大学(NCKU)とロフトワークは、テクノロジーの探究と社会課題への関心を掛け合わせた教育プログラム「Future Dynamic Program(FDP)」を実施しました。従来の一方向的な教育から脱却し、学生が自ら問いを立て、仲間とともに構想を形にしていく「越境型の学び」をデザインしたこの試みでは、日本・台湾の企業、教育機関、クリエイターが連携し、教育そのもののアップデートに挑みました。
プログラム前半では、自己理解とチームビルディングに重きを置いたリーダーシップ開発を実施。後半では、拡張現実(XR)、サーキュラーデザイン、市民科学など、先端技術や社会課題をテーマに3つのワーキンググループが活動を展開。学生たちは国境を越えた共創を通じて、多様な技術や価値観に触れ、自らのアイデアをアウトプットへと昇華させていきました。
教育機関・企業・専門家が連携する環境で、学生が社会課題とつながりながら学ぶ、新しい教育実践のかたちを示しました。
共創のポイント
- 学生が自ら課題を発見し、チームで問いに向き合う「創造的リーダーシップ育成」
- XRや市民科学、バイオマテリアルなど多分野を横断する、実践的な学びの場を構築
- 台湾・日本の教育機関と民間プレイヤーが連携した、越境型・多拠点プログラムの実現
詳細については、以下の事例記事をご覧ください。
【事例:ニューヨーク州立大学バッファロー校 建築学科】AR技術を活用した遠隔プロトタイピングによる産官学連携プログラム
FabCafe TokyoとFabCafe Hidaは、2018、2019年の2年間にわたってニューヨーク州立大学バッファロー校建築学科のサマープログラムを企画・実施してきました。2022年には、AR技術を活用した遠隔での木材加工プロトタイピングプログラムを実施。コロナ禍で国際的な人的交流が制限される中、産業界の技術課題解決と教育機関の実践的学習の両立を目指しました。
プログラムは、飛騨の木材製造業が直面する課題に対する建築的ソリューションの開発を目的としています。学生が作成した3Dモデルデータを現地の大工職人へと送り、ARヘッドセットを用いて木材にデータを投影して加工に活用する、というプロセスで実施。
オーストラリアのソフトウェア開発企業Fologramも参画し、国際的な産学連携ネットワークを形成した本プロジェクト。学生たちは、職人からのフィードバックを受けることで、机上の理論ではない、人と人との対話と共創を通じた技術習得のきっかけに。各ステークホルダーにとって相互に価値が生まれる産官学連携のあり方を実証しました。
共創のポイント
- 職人と学生が、ARと木工技術という異なる技術領域を交差させる遠隔での交流を構築することで、デジタル技術と伝統技術の新しい融合を実現
- 時差という制約を逆手に取ったワークフロー設計を通して、遠隔でも密度の高い対話と学びを可能にする仕組みを構築
- 「3D設計」「AR投影」「実際の加工」「フィードバック改善」までを一貫させた、実装を重視した遠隔プロトタイピングプロセスの開発

詳細については、以下の事例記事をご覧ください。
教育を起点にひらく、産学官連携の可能性
社会課題に挑む実践型プログラムから、未来を見据えた探究の場まで── 。産学官が連携するプロジェクトにはさまざまな形がありますが、その本質にあるのは「異なる立場や専門性をもつ人々が、対話を通じて新たな価値を見出していくプロセス」です。
例えば、名古屋大学構内に開設された共創施設「ComoNe」では、研究や教育を社会と接続する場と仕組みを構築し、大学・市民・企業が集う“知の交差点”が生まれています。オンライン空間であれば、中央大学のような「出会いの質」を高めるプラットフォームは一つの示唆になるでしょう。
台湾・国立成功大学との連携では、学生・行政・民間が混ざり合いながら都市課題に向き合い、新たな視座を獲得しました。飛騨で実施されたNY州立大学バッファロー校のプログラムでは、地域の職人や文化とテクノロジーが交差し、越境する学びの場が育まれました。
こうした共創を動かす鍵は、正解のない問いに向き合いながら、他者と実践を重ねていく仕組みを持つことです。立場の異なる人々が交わる場と関係性があってこそ、地域や組織に眠る可能性が形になっていきます。
ロフトワークが、産学官連携の推進力になります
ロフトワークは、大学・研究機関・行政・企業など、多様なプレイヤーが交わるプロジェクトにおいて、構想から実装までを一気通貫で支援しています。
教育や人材育成、地域資源の活用など、テーマは多岐にわたりますが、共通するのは「異なる視点が出会い、共通の問いを育てていくプロセス」を大切にしていること。そのための“場”と“仕組み”をデザインし、実装に向けた仕組みや体験をつくりあげていくのが、私たちの役割です。
- 産学官の連携を見据えたプロジェクトを、0から立ち上げたい
- 社会との接点を育む、大学発の新しい教育プログラムをつくりたい
- 実践や研究の成果を広く届ける、アウトリーチ施策を考えたい
- 共創パートナーとの関係性や進め方を、柔軟に構築したい
構想段階のご相談から、現場での実装支援まで、お気軽にお声がけください。複雑な条件や関係性のなかでも、プロジェクトが前に進むように、推進力になります。
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