従来の共創空間から脱け出す。
“共存共栄”が生まれるエコトーン的空間への挑戦
ロフトワークが共創施設を手がけ始めたのが、2012年。それ以来、FabCafeなどの店づくりや、100BANCH、QWSをはじめとする数多くの空間プロジェクトの実践を通して、共創の起こる場所を生み出してきました。そうしたなか、ロフトワークは近年広まりつつある「共創空間」と呼ばれる場づくりにおいて、次のステージを模索する必要があると考えています。
場づくりを通してビジネスの可能性を開く上で、どのような状態を目指すべきなのか? 空間プロジェクトの最前線を探究し続けてきたLAYOUT事業部 CLO(Chief LAYOUT Officer)・松井創に「共創空間の現状とその先」をテーマに話を聞きました。
共創空間ブームの到達点と限界
——多様なステークホルダーとの「共創」が期待されてきた共創空間ですが、うまくいっているところばかりではないと聞きます。そうした空間を取り巻く状況について、どのように見られていますか?
松井 この10年間、企業は「一つの社屋内に一つの共創空間を」とばかりに共創空間を立ち上げてきました。
しかし、多くの空間は継続的な活用が行われなくなったり、新しいプロジェクトが生み出されなくなったりと、拠点としては短命に終わっているものが多くあるようです。
——上手くいかなかった空間に、共通する原因はあるのでしょうか?
松井 想像できる原因は、いくつかあります。
(1)イベント的な活動にとどまり、経営上の「仕組み(プログラム)」へと昇華できなかったこと
(2)パートナー選びにおいて競合企業を避けた「競争のリスクの少ない異業種連携」に甘んじ、同業他社が切磋琢磨する設計を選んでこなかったこと
(3)エコシステムとエコトーンを構想し、長期的なスパンで育んでいく視点が不足していたこと
※ロフトワークが考える「エコシステムとエコトーン」の捉え方については、loftwork.comに掲載の代表・諏訪光洋のインタビューで語られています。
どのパターンにおいても、根底には「共創」という言葉に託してしまった過剰な期待があったのだと思います。競合になりうる他社との関わりあいを避け、忖度のある「共創」の形を目指してしまった。手段が目的化し、共創を生み出すために必要なネットワークを支える構造基盤が育たなかったのではないでしょうか。

松井 私自身も、数多くの共創空間プロジェクトに関わってきました。その到達点と限界が見えつつある今だからこそ、共創空間の次の進化として、どのような視点が必要なのか、改めて考えたいと思っています。
▼ロフトワークが携わってきた、共創空間事例。これらの経験と実践から、松井は「これからの共創空間に必要なこと」を分析する。
競争と協調を両立させる発想
——企業の共創を生み出す空間において、最も重要な“ネットワークの生み出し方”にまだまだ課題があった。目指すべき共創空間のありかたを、先ほどの図で示していただきました。
そうした理想的な共創空間を生み出すためには、どんな改善の可能性があると思われますか?
松井 共創空間に求められる機能は、そこから新しい価値共創が生まれること。だからこそ、その空間で生まれるビジネスの関係性に注目すべきだと考えています。
一般的にビジネス関係は、大きく「競争」と「協調/協働」に分けられます。これまで、企業活動はそのどちらかに偏ったものになりがちでした。
ここでいう競争(Competition)とは、市場のシェアや利益を奪い合うような活動のこと。協調/協働(Cooperation)とは、基盤やルールを整備し、ビジネスをともに進めていく活動だと認識しています。
松井 「競争」だけでビジネスを進めようとすると企業同士の分断を生み、競争による消耗戦が起こりますが、「協調」を目指すだけの市場に多様性や革新性は生まれない。ただ、これまでの共創空間づくりにおいては、参加するステークホルダー同士の競争を避けつつ、協調を目指そうとするバランスが多くなってしまっていた。
市場と社会が持続的に成長するためには、業界全体の共通基盤を「協調」で築き、その上で「競争(≒切磋琢磨)」によって多様性と活力を生み出すことが不可欠です。
このようにビジネスに必要不可欠な「競争」と「協調」の両方を同時に成立させるのが、 競争的協働(Co-opetition:コーペティション) です。
——新しいキーワードですね。「競争的協働」についてはどう定義されていますか?
松井 このキーワードは、アダム・M・ブラデンバーガーとバリー・J・ネイルバフが、著書『Co-opetition』(1996年)のなかで提示した概念です。ゲーム理論を経営戦略に応用し、「企業間関係は競争か協力かの二者択一ではなく、同時に両立するもの」と定義しています。
この考え方は日本では浸透しませんでしたが、その実例は少なくありません。
自動車メーカーは販売で競争しながらも、EV自動車や水素自動車などの技術開発においては協調することで、莫大な費用がかかるインフラの整備や、コア技術の開発を実現してきました。GAFAMも同じで、市場では競い合いつつ、インターネットの発展という「命題」に関しては協働してきたと言えます。

市場に多様性と革新をもたらすライバルとの「競争(切磋琢磨)」と、基盤と持続性を支える「協調」が両立することで、相互作用が循環し、エコシステム全体が長期的に成長できるといえるでしょう。
——業界に横たわる大きな課題を解決し、一歩先の新しい価値を創造していくためには、競争が起こることを恐れずに一時的にでも手を取り合って問題を解決する「競争相手との協働」が重要だったということですね。
ビジネスエコシステムの骨格としてのCo-opetition
——前述した「競争相手との協働」を生み出すためには、異なるステークホルダー同士がどのような関係性を築くかが重要です。ロフトワークでは、「ビジネスエコシステムとエコトーン」という言葉でそのポイントを整理していますよね。ご説明いただけますか?
松井 まず、一般的には「ステークホルダー」というとビジネス上の利害関係者を指すことが多いですが、今回は少しニュアンスが違います。単に株主や顧客だけでなく、従業員、取引先、金融機関、地域社会、行政機関、競合企業など、その活動から影響を受けたり影響を与えたりする全ての対象が含まれると考えています。
ビジネスエコシステムとは、そうした多様な主体が相互に影響し合い、価値を生みながら共存共栄していく仕組みです。
その骨格にあるのが、前述した「競争的協働(Co-opetition)」という関係性です。それが基盤としてある上で、具体的に価値を生み出す営みとして「共創(Co-Creation)」が展開され、両者がかみ合うことで初めて、生態系のように持続的なネットワークが立ち上がっていくのです。
その実例として、北海道に2023年にオープンしたFビレッジ/エスコンフィールドの例をみてみましょう。

松井 北海道の Fビレッジ/エスコンフィールド は、Co-opetitionを土台としたビジネスエコシステムとエコトーンの象徴といえます。実際に訪れてみて、その構造を強く感じました。
ここは「ベースボールパーク」という舞台でありながら、企業・行政・地域が協調/協働して観光や地域活性化の環境(エコトーン)を築いています。しかも「1業種1社」に限定しない開放的な設計になっているんです。
——具体的には、どのような協調と協働のシーンが起きているのでしょうか?
松井 例えば、飲食においてはサッポロビールとヤッホーブルーイング、ベースボールゲーム施設併設の飲食店や数多くの飲食業態が並び立っています。試合のある日はもちろん、試合のない日でさえ互いに競争しながら、来場者にとっての選択肢の多様さや、ビレッジ内での体験価値を高めています。
滞在・宿泊においては、球場直結ホテルと近隣宿泊施設が共存しつつ、更なる宿泊業の参入を受け入れながら、地域全体での滞在価値と滞在時間を同時に押し上げている。
また、エリア内には複数の飲食・小売ブランド、農業体験、アミューズメント、レジデンスやアカデミアが参画しています。多業種が参入しているという選択肢の豊かさ自体が、お客様にとってのFビレッジエリアの体験を広げていると言えます。

——企業同士の「競争」が、来場者にとっての多様な楽しみを生むということがよくわかりますね。
松井 そうです。競争的協働のシーンがあることで、来訪者に「選ぶ楽しさ」や「長期滞在する目的」が生まれ、サービスの質や多様性が自然に磨かれていきます。さらにこのヴィレッジ(≒ エコトーン)を基盤にして、新しい循環も生まれています。
競争的協働から生まれる、Fビレッジのあたらしい価値循環
- 産官学の共創:
北広島市や北海道大学、企業群が「オール北海道ボールパーク連携協議会」で連携。交通や観光、教育、SDGs対応といった社会基盤を共に整備している。 - 社会課題への協働
小学生以下の入場無料、EVバス導入、認定こども園やシニアレジデンスの整備など、単独企業では難しい課題解決やまちづくりを協働で実現している。 - 観光・地域活性の協調
観光事業者や交通会社が協調し、ボールパークを起点に北海道全域への観光ハブを形成している。
——ここでも、競争と協調という土台があることで、結果として個々で取り組むよりも大きなアジェンダを解決することにつながっていますね。
松井 競争(切磋琢磨)と協働がかみ合うことで体験価値が磨かれ、広がっていく。そこから生まれる共存共栄的な収益がビジネスエコシステムの基盤となって、その上で共創が持続していくという好循環が見て取れるでしょう。経営的には新たな収益ポートフォリオを生み、都市的には多層的な交流人口の基盤を創出しているのです。
これからの場づくりに求められること:共創空間からエコトーン空間へ
——これまでの話で、競争を伴う関係が、新しいエコシステムへと繋がるきっかけを生み出していくことが理解できました。
松井 もちろん、これまでの共創空間の存在自体を否定するわけではありません。しかし、これからは「互いに切磋琢磨しながら共存共栄できる、よりオープンな場」を通して、コーペティションが持続的に引き出されることが重要ではないでしょうか。
——そうした場では、これまでとは違ったビジネスエコシステムも生まれていくものでしょうか?
松井 可能性として、様々なタイプのエコシステムが生まれていくことが想像できます。食や観光、農業、宿泊などの他業種が切磋琢磨することで地域内の多様性を生んでいく「産業横断の循環経済型」や、特定の場に集まった市民やファンが消費者に止まらず、積極的に場やまちづくりに参加することで文化やコミュニティが生まれる「地域体験の価値創造型」など。
多様なプレイヤーの関係性からこれらのエコシステムが生まれていきますが、長期的にはプレイヤーが入れ替わっていくことも大切でしょう。新しい事業や主体が継続的に参加することで、それぞれの成功体験や資源が場に還元され、また次の価値を創出できる環境(エコトーン)となるでしょうから。
一過性のプロジェクトや共創イベントではなく、こうした循環が繰り返されることで、エコシステムそのものが自走し、成長を続ける構造が形作られるはずです。コモネは、そのチャレンジでもありますね。

松井 こうした場は、単なる共創の舞台にとどまりません。エコシステムそのものを形づくっていくための、様々なステークホルダーが同居する土壌へと進化していくのです。
この循環を実現する空間や環境を、ロフトワークでは「エコトーン」的なものと捉えています。そこに参加する誰もが、当事者であり主体者として「自分もこの環境とエコシステムの一員だ」と実感できる場になる。
——エコシステムをつくるのは、場の運営に参加する企業だけではないということですね。
そこで起こる競争・協調・協働の営みに関わるすべてのステークホルダーが、その一員としてエコシステムに影響を与えている。
松井 はい。だからこそ、「企業が共創をすること」だけが主目的ではない空間をデザインできるか?を考えなければいけない。これからの時代にふさわしい空間づくりへ、一歩を踏み出す時なのだと思います。
共創空間の限界点を突破するビジネスエコシステムを企業が形作りたいと思った時、ぜひロフトワークに声をかけてみてほしい。僕たちはその挑戦のやり方を、一緒に考えていきたいと思います。
ロフトワークは、企業ミュージアムの企画・設計・運営をトータルで支援します
ロフトワークは、コンセプト立案から空間設計、プログラム企画、運営支援まで、トータルで企業ミュージアムづくりをサポートします。特に、ブランド価値向上や共創の実現を目指す空間づくりを得意としています。
また、「企業ミュージアム」以外にも、研究開発・ブランディングなど、多様な目的に対応した空間づくりや、空間を活性化するプログラムの企画・運営についても、数多くの実績があります。詳細は、以下のサービス資料をご覧ください。
ハードからソフトまで、空間に関するこれまでの取り組みを、サービス資料に掲載しています。
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