誰もが“自分の種”を見つける場所へ。
ComoNeの可能性をひもとくトークレポート
名古屋大学構内に生まれた新たな共創施設「Common Nexus(通称:ComoNe)」。国立大学法人東海国立大学機構とロフトワークが連携して立ち上げたこの施設は、研究者・学生・企業・行政・市民など多様な立場の人が交わり、学び合い、実験しながら未来をつくる場所として開業しました。
開業後の7月5日に行われたイベント「コモの市」では、ComoNeで出来ることを掘り下げるトークセッションが開催。ComoNe長である藤巻朗さんや、ComoNeを拠点とした3ヶ月の探究プログラム「ねのねプログラム」の一期生、同プログラムを支えながら盛り上げてくれるアンバサダー、この場所を運営するロフトワークのメンバーらが登壇し、この場所に潜む可能性についてざっくばらんに語り合いました。
プロジェクトが生まれる、第一期「ねのねプログラム」の多様性
ComoNeを舞台とした探究活動や、その発信と交流など、さまざまな機能を持つこの場所。
なかでも「ねのねプログラム」は、分野も世代も多様な人々が関わり、新しい化学反応が生まれていくことが期待される注目のプログラムです。同プログラムを糸口に、この場所の秘めている可能性について掘り下げたトークの内容をお届けします。
岩沢エリ(以下、岩沢) 先ほどのトークセッション(第一部)では、「ねのねプログラム」に採択された1期生のピッチを10組分どどどっと聞いていただきました。活動が始まったことを改めて実感できたかなと思いますが、ComoNe長の藤巻さんは、お話を聞かれていかがでしたか?
ComoNe長 藤巻朗さん
2025年度、名古屋大学未来社会創造機構特任教授。「Comon Nexus」最初のComoNe長に就任。1988年より、名古屋大学工学部に助手として着任後、助教授、教授を経て現職。2018年度より7年間同大副総長も務めた。
藤巻朗さん(以下、藤巻さん) 非常にバラエティに富んでいるな、という印象でした。大学のプロジェクトというとサイエンスなどが多くなりがちですが、今回採択されたのはアートやダンスなどもあった。どんな化学反応が起きるんだろうと非常にワクワクしました。
3ヶ月間のプロジェクト期間のなかで、ねのねプログラムの参加者は、来場いただいた方々やアンバサダーともたくさんのコミュニケーションを交わすはず。そこからどんな変化が生まれるかも含めて、とても期待がありますね。

岩沢 今日は、プログラム第1期のメンバーにも登壇いただいています。西村さん、大勢の前でピッチをされてみてどうでしたか?
ねのねプログラム 第1期生 西村隆登さん
1997年広島県生まれ、大学編入で愛知県に。まちづくり団体の職員をしながらねのねプログラムに応募。熊野筆職人を祖父に持ち、広島県の安芸郡熊野町でつくられてきた「熊野筆」の価値を継承するプロジェクト「KUMANO Re:Brush Culture Project」を立ち上げ、「ねのねプログラム」の第一期に採択された。赤ちゃんの筆を素材につくる「胎毛筆」の制作や、書道と音楽を掛け合わせた新しい試み「フリースタイル写歌詞」のワークショップなどを行っている。
西村隆登さん(以下、西村さん) 「みなさんすごく上手だなあ」と思いながら、他のピッチを聞いていました(笑)。僕自身は、出身地である広島県に残る「赤ちゃんの最初の髪の毛を、筆として形に残す」という文化を、熊野の筆文化とあわせて広げていけたらという思いがあって、今回参加させていただいています。

岩沢 今日は、プロジェクトを採択したアンバサダーの浅野さんにも来ていただきました。採択された際のポイントなどを教えていただけますか?
ComoNe アンバサダー 浅野翔さん
合同会社ありまつ中心家守会社共同代表/デザインリサーチャー 1987年兵庫県生まれ、名古屋育ち。2014年京都工芸繊維大学大学院デザイン経営工学専攻修了。同年から、名古屋を拠点にデザインリサーチャーとして活動をスタート。「デザインリサーチによる社会包摂の実現」を理念に掲げ、調査設計、ブランド・商品開発、経営戦略の立案まで、幅広いジャンルで一貫したデザイン活動をおこなっている。
浅野翔さん(以下、浅野さん) 採択は、5名のアンバサダーによる対話と投票で決まりました。
僕自身、伝統工芸の産地で活動を行っているんですが、そこで感じるのは「固定化された価値観の破壊と再構築を繰り返している」ということ。
西村さんのプロジェクトを面白いと感じたのは、「髪の毛を使った筆」自体は昔からある技術でありながら、これからの我々のアイデンティティや地域の特性みたいなものを拡張できる可能性があるんじゃないかと思ったからでした。
実はちょうど、オランダのアイントホーフェン工科大学で行われた植毛に関するプロジェクトの論文(※)を読んだんですよ。そこでは、毛を本来ない場所などに生やすことで、その人のアイデンティティにどういう認識の変化があるかを調査していました。
それを見ていたこともあって、プロジェクトを見た時に、「赤ちゃんの毛だけじゃなく、自身の内面や外見が変化する前の髪の毛を切って筆にすることもできるのでは?」と想像が膨らんだんです。
※出典:Baeza, S., Andersen, K., and Tomico, O. (2022) Designing hair, in Lockton, D., Lenzi, S., Hekkert, P., Oak, A., Sádaba, J., Lloyd, P. (eds.), DRS2022: Bilbao, 25 June – 3 July, Bilbao, Spain. https://doi.org/10.21606/drs.2022.649
岩沢 なるほど。新しい自分になる時の、いわば切り替えのツールのようなものになるかもしれない?
浅野さん そうそう。そういうことを想像して。儀式的なツールにも、自分のアイデンティティや自己の表現にもなるのかなと。
西村さん 赤ちゃんの胎毛以外は、今まで考えていなかったですね。筆にして需要のあるものなのかな、というのもわからなかったので。
「関わりながら作る」場所が、新しいスタンダードになる
岩沢 ComoNeは「ニュースタンダードの芽が生まれる広場を目指して」というテーマを掲げています。ここに訪れる私たちは、どんなことに寄与できるのでしょうか。
藤巻さん やはり、制作者の方々とコミュニケーションを取っていただいて、そこから新しいものが作られていくというのが重要だと思うんですね。ここのコンセプトは「交わる・つくる・伝える」。ここは大学ではありますが、“交わる”のは学生や教員だけでなく、地域の方、企業の方などさまざまであればいいなと思います。

藤巻さん 暗い話になりますが、いまは人口がどんどん減少して、経済がどう回っていくのか?と不安になるような状況です。その中でいろいろなものを早く社会に出していこうとすると、「作るところから、多くの人と関わりながら考えること」が重要だと思っていて。
だからこそ、ComoNeという場をオープンで公共的な施設にしました。そうした場のあり方がいずれ、スタンダードになってくれるんじゃないかという期待もあります。
浅野さん 今日お集まりの方々が見られているのは、オープンした直後の非日常ですよね。これが日常になるにつれて、「何を、どこまで許容するか?」という制度設計みたいな話になりがちだと思います。
それよりも、この場所での活動の痕跡や交流のかけらをどう残して、どう次の会話のきっかけを生むのか?ということを考えられるのが、広場の新しい機能になると考えています。
最初はプロジェクトごとの展示物がきっかけになると思いますが、3ヶ月後にはさらなるアウトプットや、進めてきたプロセスが見えはじめるはず。それもまた、出会いのきっかけになると思うので。
そうした非日常的なものを、みんなとどう運営できるかがポイントなのかな、と思いながら聞いていました。

岩沢 管理ではなく「どう運用するか?」が注目されるのも、これまでの施設管理とは違う発想だと思います。ロフトワークでもそこは大事にしていて。「いかに場を活性化していくか」を考えるとき、NGや制約を決めることと、可能性の広げ方を考えることでは抜本的にやり方が違う。ComoNeに関わる人たちで、チームとして一緒にそこを作っていけるといいなと思いますね。
藤巻さん 私、ちょうど昨日そういうシーンを見かけたんです。このイベントの会場装飾って、実は昨日から準備をはじめていたんですよね。間に合うのかな?と思ったとき、たまたま通りがかった学生さんに声をかけたんですよ。そうしたらみんなすんなりと手伝ってくれて、それで間に合ったんです。
本当の意味で、この場所をみんなで作っているということを実感しましたね。それに、いまの若い人たちは意外とこういう場所をつくるということに関心を持ってくれているのかな?とも思いました。

西村さん 本当にその通りで、こういう場所にもっと早く出会いたかったと思います。ComoNeが掲げている言葉の1つに「まさかの出会いと発見がある」というのがありましたよね。自分も、いろんな面白い人に会い続けたら自分もちょっとずつ面白くなれるんじゃないかと思ってて。まさにそんな場所になっていくのかなと。ワクワク半分、緊張半分でここに来ています。
岩沢 西村さんは、プログラムに採択されて、実際に「まさかの出会い」みたいなものとか、予想外な出来事ってありましたか?
西村さん プロジェクト自体は、いつかやってみたいなと思っていたんです。もうじいちゃんしか作ってない熊野筆を、父親は継いでないし、自分は地元の広島から出ていくけれど、それでも何かできるのかなって。
プログラムに応募したのも、「ここだったら、何かしら出来るかも」と思えたからかもしれないですね。芽を出す機会を与えてもらいました。
岩沢 やっぱり、「未来の当たり前をつくる」ことを考えたとき、今の常識では当てはまらないものもあると思うんです。
でも、ルールとか慣習みたいなことを一旦横において、いろいろな価値観があることを許してくれる“ふかふかの土壌”みたいなところに飛び込んでみる。自分の純粋な好奇心に目を向けながら、出会いを広げていくことで、既にあるものを崩しながらも新しいものを作っていけるんじゃないかと思いますね。
交流と実践から、自分の種に気づく
岩沢 アンバサダーの皆さんは、この場所の可能性についてどう思っていますか? 自分たちがこの場所のためにどういうことをしていきたいか、も含めてお聞きしたいです。
浅野さん 私たちの役割としては、ComoNeに関わる新しい人を見つけたり、出会いを繋げたりすることだと思っていて。そうして繋がった人たちのやりたいことを、「こういう形なら出来るかも?」と一緒に楽しみながら考えていけるんじゃないかと。
岩沢 確かに。自分でもどうしたいかはっきりしていない、たとえば「ちょっとした疑問」みたいなところから一緒に受け止めてくれるのは、とても面白い場所ですよね。
これは、コンセプトにある「土壌」という言葉とも繋がると思っていて。やりたいことの“種”がある時って、誰にもまだ気づかれていないし、自分でもそれがまだ芽吹くものかどうか気づいていない状態だと思うんですよ。それに出会うには、いかに外の人と交われるかが大事。ComoNeはそのための場所になれるんじゃないかな。
浅野さん 異なる価値観とか文化体系、社会の中にいる人と出会った瞬間に、新しい発見ってありますよね。そういう出会いをつくることは、アンバサダーとしても常に意識したいなと思いますね。
藤巻さん 大学生の頃って、何かしら悩んでいたりすると思うんですよ。何かしたいけど、何をしたらいいのかわからないとか、自信がないとか、モヤモヤしていて。でも、そのモヤモヤもエネルギーだと思います。人と話す中できっかけを見つけて、やりたいことを育てていく。そういう施設になればと思いますね。それが、キャンパスの活性化にも繋がっていくので。

浅野さん ちょっと関係してるな〜と思うんですけど……最近知った面白い人がいて。長野で牛を2頭飼い始めた人がいるんですよ。
それを聞いたら普通、「乳を搾るのかな」とか、「肉を食べるのかな」って目的を想像するじゃないですか。でも、その人は「牛を飼ったら、どんな生活になるんだろう?」って疑問から牛を飼いはじめたらしくて。
岩沢 ただ一緒に暮らすために?
浅野さん 「牛と暮らすことで生まれる不確実性を受け入れたら、生活にどう影響が出るのか気になる」って言っていて。しばらくして、草木染め作家のお友達がそこに訪れたんですって。放牧された牛を見て、その人が「牛が食べてるあの葉っぱ、草木染めで使う葉っぱだよ」って。
「草しか食べてないなら、うんこから染め物ができんじゃない?」って、うんち染めをやってみようって話になったらしくて(笑)
岩沢 面白い!(笑)
浅野さん 「どういう掛け算をしたら、その答えに辿り着けるの?」みたいなよくわからないものって、やっぱりそこに訪れた文化や価値観や、社会みたいなものの表れだと思うんです。どういう人がそれを見に来たか。
岩沢 異なる人が見れば、そこに異なる意味合いが浮かび上がってくるのかもしれませんね。最後に、この場所に来てくれた人たちには、どんなふうに過ごしてもらいたいですか?
藤巻さん もう本当に自由に。学生たちは、既に小上がりのようなスペースで居眠りをしていたりもしますね(笑)1年待ってもらえれば屋上の芝生も入れるようになりますし、いろいろな活用の仕方をしていただければ。

岩沢 アンバサダーとしては、いかがですか?
浅野さん そうですね。多分、「何ができるんだろう」と思いながらくる人がほとんどだと思いますし、関わり方も「イベントに参加する」とかになりがちだと思います。ただ、もっとフラットな関係の中で話せる体験もできるんじゃないかと。
僕は、週に一回ぐらいみんなでご飯を食べるみたいな会があってもいいと思います。名古屋大学は総合大学なので、いろいろな専門性を持っている人だったり、いろいろな国と地域から来ている人もいらっしゃる。そういう人同士で集まるのもいいんじゃないか。
岩沢 確かに、いろいろな国の方と、毎週話すだけでも楽しそうですよね。ご飯を食べながら。

浅野さん 僕は1年間だけフィンランドに留学に行ってたんですけど、その時も集まってご飯を食べる時間が面白かったんですよ。留学先の友達にお好み焼きを振る舞おうとして、薄い肉が売ってなかったから「切ってくれ」って肉屋さんでお願いしたら、「俺たちの手が怪我してもいいのか?」って怒られたりして。友人たちとは「日本人は薄い肉を食べるんだね!」「そうなんだよ」って話しながら食事をして。そうやって地域や文化を超えていける時間は、すごくいいものだったなって。ここでどこまで許されるかはわからないですけど。
藤巻さん いやいや。言っていただければ、できるだけそういうことはやっていきたいですよ。特にね、名古屋大学はいろいろな国々から留学生も先生もいらっしゃるので、文化を知る重要な場にできるんじゃないかな。
岩沢 実現がとても楽しみですね!たくさんの交流が生まれていけば。
岩沢 さっきちょうど、本棚の方を見学したんですけど、そこにComoNeチームからの推薦図書で『土と内臓』の本があったんです。私、あの本が大好きで。世界の見えている世界だけじゃなく、見えていない世界があることを気づかせてくれる。
私たちの周囲に、たくさんの生物がいて一緒に共生しているけど、内側にいるものが見えなかったりする。大学にも、いわゆる外側からは見えやすい部分だったり、ブランディング的に見えやすい部分がある一方で、そこにはあまり出ていないたくさんの可能性があると思っていて。
そこをどうやって地表のようにめくり上げて、土壌の部分を外に見える形にしていくかということも、ComoNeが担える1つの機能としてある。そうすると、深いところで考えていることが、「そういう人もいたんだ、私も実はこんなことが大事だと思っていたんです」って、恐る恐る話せるようになったらいいなと思いました。
岩沢 まずは、敷居の低いところからですよね。聞いてくださっているみなさんも、もしかしたら「自分には関係ないかも」と思うかもしれないんですけど、気づいていない種を誰もがたくさん持っていると思います。あってるとか、間違ってるとかも、ないと思うので。ぜひぜひここで、気の向くままにやってみてもらえたらいいんじゃないでしょうか。
撮影・取材協力:Common Nexus
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