2016年から東京・渋谷のMTRLを拠点に活動を開始した「BioClub」。バイオテクノロジーの技術や知識を外に開き、専門家とともに考えていくコミュニティです。運営者である石塚千晃さんは、人間と切っても切り離せない、自分自身を知るための技術としての「バイオ」のおもしろさを広めたいと話します。今回は、BioClubの活動やロフトワークで活動を発信する意義について伺いました。

テキスト=和田真文
編集=原口さとみ

バイオテクノロジーの知識を外にひらく

──まず、BioClubの活動や、石塚さんの役割について教えてください。

BioClubは、バイオへの興味がある人みんなに開かれたコミュニティです。ワークショップや、ゲストを招いた少し大きめのイベントを開催したり、週1回、誰でも参加できるオープンミーティングを実施しています。私は運営に携わっていますが、運営方針を考えるうえでも、イベントにどんな参加者が集い、彼らが何を求めているのかということにとても興味を持っています。また、私がバイオを用いた作品制作で学んだことを共有する中で出会った人が、BioClubの企画に関わることもあるんです。そしてそこで得たアイデアはまた作品制作に活かされて……という循環があります。

──オープンミーティングにはどんな方が参加していますか?

発起人であるBCLのゲオアグ・トレメルや運営者である私も作家活動をしていることもあって、当初は参加者にもアーティストが多かったです。現時点ではバイオやサイエンスの知識はないけれど、今後そういった知識や観点を創作に活かしたい人とか。でも最近は、学生もいるし主婦の方もいるし、建築家や、農業関係者、食に興味がある人なども参加しています。

──化学や生物学の専門的な勉強をしてこなかった人も、教われば組織培養などができるようになるんでしょうか?

必要なのは、センスや経験ではなくて、知識なんです。現象を観察し、知識を深めていくことが大事。BioClubでは、参加者の興味関心にあわせて少しずつレクチャーしていくので、無理なく楽しみながら知識を得ることができます。

──BioClubならではのユニークな点は何ですか?

実験手法をつくって未知のことをさらに深く研究していくことがバイオ研究の役割だとしたら、このラボはそういうことを第一の目的とはしていない点がユニークなところだと思います。

バイオと自分のつながりを体感できる存在に

──BioClubのような、大学や専門機関外でラボを設立する流れが国内外で起こっているとききました。

[BioLabの内部。意匠性に配慮した空間、オープンな場、安全性や正しい理解を促すプログラムづくりが評価され、2017年度グッドデザイン賞を受賞した]

BioClubのような外に開かれたラボに対する需要は高まっていると思います。もちろん、生命倫理の遵守やセキュリティ管理はどのラボにも必須ですし、専門機関なら知識の蓄積や最先端の機材が揃っているからこそのハイレベルな実験ができるのは確かです。でもアマチュアならではの発想も求められていて、国内の専門家たちも、もっと専門機関の外でできることがないかと思っている。

国内の民間機関はBioClubとYCAMのバイオラボとまだ少数ですが、海外では、しっかりとサイエンスの専門知識を持った人々が、市民も参加できるラボをつくったり、会社化した組織をつくったりして運営する動きが起きています。セキュリティなどの問題もあって、新しい視点でバイオ的なことをやる土壌をつくるのは、とても難しいです。

──専門家と話していて、BioClubの需要があると感じる場面はどんなときですか?

根粒菌」というバクテリアの一種の微生物を与えることで、農薬なしで植物を生き生きさせる菌があります。これを長く研究している企業があるのですが、研究に手一杯で、それをどうやって商品化し売っていけばいいのか考えるのが難しい、という話を聞いたことがあります。

そういうとき、私のような立場の人間が、専門家と一般の媒介役になれないかと思うんです。たとえば、「根粒菌」の働きをヨーグルトに喩えると親近感が沸きませんか? こうやって少し翻訳してみることで、バイオの研究をしたことがなくても、身近なものに思えてくる。

──バイオと聞くと、遺伝子操作を扱ったバイオ・アートなどのショッキングなイメージを思い浮かべてしまうのですが、その話を聞くと、自分のこととして捉えやすくなりますね。

[モジホコリという菌を増殖させ、文字をつくるワークショップ。仕事帰りのビジネスマンなど40名程が参加し、この日から1週間ほど経過観察を楽しんだという]

バイオと一般の間にある壁を取り払いたいと思ったときの、手法の違いですよね。スペキュラティブ・アートの“戦術”は、ショックで人を振り返らせ壁を取り払おう、という発想だと思います。

私個人は、個々人の感覚や体験からバイオとのつながりを見つけてもらえたらと考えています。自分の身体に別の生き物(=微生物)を入れたとき、それが何を欲していて、どうしたらいい関係をつくっていけるんだろう、みたいに。たとえばお腹を温めるとその生き物が元気になるとしたら、日々のファッションにも影響してくるかもしれないし。そんな風にバイオと接することができたら、もっとおもしろくなるんじゃないかと思うんです。

バイオテクノロジーに無関係な人なんていない

──ロフトワークはクリエイティブエージェンシーであって、生物研究を専門としている企業ではありませんよね。「バイオ」がどう結びついているのでしょうか?

研究者だけがバイオと関わりがあるわけではありません。「バイオ」を大まかに分類すると、医療、製薬、農業(食)の3つ。どれをとっても、私たちの生命に直接関わることなんですよね。誰一人として無関係な人はいないんです。だから、ディレクターでもクリエイターでも、職業に関係なく、バイオに関心を持ち深めることに意義はあると思います。

──ロフトワークならではの、バイオとの関わり方もありますか?

ロフトワークのプロジェクトの動かし方が、生き物っぽいなと思うんです。リーダーの指示で動く中央集権型ではなくて、ゼロからクライアントとアクションした結果プロジェクトが生み出されていくという、とても有機的な動き方をしているので。

──プロジェクトの動かし方が有機的、というのはどういうことでしょうか?

[BioClubメンバーが実験中の植物培養サンプル]

プロジェクトがうまく進まないときの軌道修正の仕方について聞くと、そう感じます。人体でたとえるなら、脳が全体に指令を出しているのではなくて、皮膚の中で、細胞同士が情報を収集・発信してそれぞれ違う動きをして成立しているというか。

たとえば私たちは日々紫外線を浴びているわけですが、「絶対に癌化させてはいけない!」という視点から医療を考えてしまうと、一生シェルターの中で過ごすとか極端な方向にいって苦しくなってしまう。でも実際には、細胞は一瞬一瞬、紫外線に対抗しているし、自己修復していく力を持っている。そんな風に、プロジェクトを進めるときに、その場その場で柔軟に動いて補い合っているんです。それってとても生き物っぽい。有機的だなと。

──さらに生物学の知識を学ぶと、組織でのコミュニケーションにも生かすことができそうですね。

そうなんです。生物は同じ状態に留まって永久に変わらないということがないんですよ。
そう考えると固定概念から解き放たれるし、何か行き詰まったことがあっても、焦っても仕方がないやって思えてくるんです。どうしてあの人はこんなこと言うんだろう、とかくさくさ思ったりせず、いろいろ受容できるようになりました(笑)。

自分自身を知り、向き合うための技術

──人間の知見とは別の次元で動いているものがあるんだ、と割り切れるようになったんですね?

はい。バイオテクノロジーは、自分自身を知る技術なんじゃないか、と思うんです。人間の技術はいつも自然現象に追いついていません。まだ細胞一つ満足につくれない。

──確かに、完全な生命体を生み出す技術はまだないですね。

バイオの最前線では、すでにあるシステムをいかにコントロールして産業的に使っていくかという議論と、物質から人間のような生命をつくり出したいという底知れない欲求が同居しています。

プロトセルをつくるワークショップもそうですね。細胞のように振る舞う化学物質をデザインするという。界面活性剤を混ぜた水溶液のなかで、非物質から、ひとりでに動いたり分裂したりする生命らしきものをつくろうとするものです。動いているのを見ると本当にびっくりするしゾッとする。

お金になるとかわかりやすい目的があるわけじゃなくて、ただ知りたいというだけで、つくっちゃうんですよ。ロボットが動くとかいうレベルじゃないし、それがアートか、何に分類されるものかとかいう議論はどうでもいいやと思えてきます。

それよりも早く、みんながそれ見て「どうなってるんだろうね」って話し合ったほうがおもしろいアイデアを聞けるし、単純に楽しいんです。こういう出会いがあるから、BioClubをやっているんだと思います。

──これからBioClubで、どんなことをやっていきたいですか?

ワークショップを通し、発酵食品を使ってバイオ的なことを学ぶプロジェクトを企画しているLifepatchなど、アジアのアーティスト集団とも、一緒に活動できたらいいですね。BioClubは今、バイオに興味のある海外のアーティストが立ち寄る場所になっていますし、今後は、アーティスト・イン・レジデンスも予定しています。生命倫理や法律の知識などを持った運営者側のスタッフを増やすとともに、早稲田大学の岩崎秀雄研究室や、YCAMのバイオラボなどとも、互いの特性や知識、情報を共有して、動きを活発化させていきたい。

バイオは日々の生活と切り離せない話なんですよ。心拍数が早いとか遅いとか、生理が来たとか、自分の身体にも関わること。学んで損することなんてどれをとってもありません。

ヘルシーとか健康オタクとかいう話とは別に、生物学の知識から事実を冷静に捉える手法を得ることで、自分の身体とちゃんと付き合えているっていう価値を得る。そんな考え方を共有できる人が増えていったら、うれしいです。何より、この活動を通し「バイオ」がより一般的な存在になって、カルチャーとして受け入れられていくといいなと思っています。

[ラボの入り口に置いてあったBioClub参加者の実験ツール。まさに部活動のよう]

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インターンシップで掴んだ、クリエイティブな仕事のための心構え

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