このコラムは、公益財団法人都市計画協会が刊行する「新都市」特集 まち×働き方、子育て、健康(2019年 7月1日発行 第73巻 第7号 )にLayout Unit CLO松井 創が寄稿した記事の転載です。※公開時2019年12月23日時点での情報に一部修正あり。

共創を生業とするロフトワーク 

ロフトワークは、2000年に渋谷で創業したクリエイティブ・カンパニーである。ここで挙げる「クリエイティブ」そして「カンパニー」の定義は広義だ。

日々、あらゆる企業や公的機関から価値創造の相談がある。社会課題に関するテーマも多く、その解決アプローチは、新しいプロダクトをつくる場合もあれば、組織や制度の改変、建築空間や都市デザイン、コミュニティの創出や醸成など多岐に渡る。プロジェクトのプロセスとアウトプットには、あらゆる「クリエイティブ」を要するため、取り組むチームもまた自社内の人財だけでなくスクランブルに構成する。

社外の多種多様な才能をもった人たちと依頼主をも巻き込んで、共創チームを都度編成しながらチームワークでお題に取り組む総体=「カンパニー」がロフトワークだ。東京、京都、飛騨、香港、台湾などに拠点を持ち、繋がりあって、日々、創造的な働き方を探求している。そのようなクリエイティブ・カンパニーが挑むプロジェクトは毎年200件を超え、共創そのものが生業と言っても過言ではない。

都市化する共創空間

私は、ロフトワークの中でも特に建築プロジェクトに取り組んでおり、近年では「共創空間」と呼ばれるような場づくりに携わることが多い。共創空間とは、その定義、存在意義ともに黎明期にある新しい空間である。たとえば「コワーキングスペース」や「オープンイノベーションセンター」など。

企業や地域コミュティが異業交流したり、成長ステージの異なる企業間での共創を行ったりする活動場所が“共創空間”として例に挙げられる。しかし一部は「“個”ワーキング」の体裁にとどまり、共創による価値創造まで実現していない。元来、都市こそが共創空間そのものであるとしたら、共創空間には多種多様な活動に寛容な新しいデザインが求まれる。特にここでいう「新しい」というのは、働き方や生き方を変える新しい空間の有り様と機能群を指す。すなわち都市化する共創空間のデザインだ。

近年では、GAFAをはじめとした大企業が「コーポレート・キャンパス」という大学キャンパスのように、空間を仕事以外の生活要素で満たす事例も増えている。一つの大きな敷地内で完結させることもあれば、分散型で街中に空間機能を点在させる事例もある。瞑想部屋やレクリエーション機能、食堂や公園、保育施設を内包する都市のような施設は今後も増えるだろう。20世紀の画一型オフィスから21世紀はコラボレーション型に移り、今後ますます働き方自体が多様になるにつれ、そこにあるべき機能もまた多様となり空間は都市化が進むと見込んでいる。

事例 未来をつくる実験区 100BANCH

ロフトワークが取り組む共創空間は、現在のところ1千〜3千平米程度の案件が多い。SNSやチャットアプリなどを活用したオンライン・コミュニケーションもセットで計画する事が多いことからバーチャルも含めるとデザインすべき空間の広がりは無限大だ。

物理的には場の理想像から与件整理をして、東京圏のような地価が高く面積も容易に取れない都市の中に共創空間をデザインするには工夫がいる。テクノロジーや伝統技術を積極的に導入しながら社会に必要とされる共創空間をつくることは、まだ試行錯誤の段階にあるが、これまでの実践経験から都市化する共創空間と場づくりのポイントを共有していきたい。

一つの事例を紹介する。2017年に開設した100BANCH(ヒャクバンチ)は、「未来をつくる実験区」を掲げる共創空間でロフトワークが手掛けている現在進行形のプロジェクトだ。パナソニックの創業100周年を契機にスタートし、新進気鋭のクリエイター、才能ある若者たち、大企業が出入りし、次の100年をつくるプロジェクトを多数生み出す為のコミュニティ拠点である。私自身が、その発起人の一人であり運営責任を担っている。

100BANCH
https://100banch.com/

事例:未来をつくる実験区 渋谷100BANCH
https://loftwork.com/jp/project/20171005_100banch

2周年を迎える100BANCHでは、150件を超えるプロジェクトが集まり、今後も毎月平均5件ペースで増えていく見込み。プロジェクトの種類は、多種多様でソーシャルビジネスもあれば、アートプロジェクト、バイオ研究、ものづくり、教育システム改革、昆虫食などオルタナティブな未来像の提案、社会制度の構造的問題に一石を投じることを狙ったプロジェクト、スタートアップで一旗あげようという野心的なものもある。

「100年先の未来をつくる実験的プロジェクト」をテーマに公募で選ばれた35歳未満のリーダーが率いるプロジェクトチームが入居条件であり、現時点での活動のインパクトは小さいかもしれないが中長期的には大きな社会変革と大局的な視座をもって、自分たちの欲しい未来を目指してるという点では、どれも共通している。その長期的な視座の一方で、ここでは3ヶ月以内で実験とその結果を求めている為、短期集中でアウトプットを出さねばならない。同じ条件のもと両隣には、自分と全く異なる領域や視点のプロジェクトが同時多発的にいて刺激を与え合い、いつでも交流が図れる環境から自然発生的に共創が生まれ、およそ見聞きした事ない一風変わったコラボレーションと新しい創造活動や経済そして自治と互恵関係が発生している。

この実験的活動は、定期的に施設外に持ち出され体験型展示や社会実験・実装の形で都市にお披露目してきた。生活者たちの反応は極めてポジティブで、初めて見聞きし体験するものを楽しんだり、感動してくれたりしているようだ。

100BANCHような共創空間から都市における様々なムーブメントが起こる予感がしているし、そうなるように日々、取り組んでいる。正解のない現代、複雑で多様な思考が絡む社会にあって、100BANCHのような社会実験と共創をねらった半パブリック/半プライベートな都市空間は、今後ますます求められると予感している。100BANCHを特殊解とせず、あらゆる都市に100BANCHのような共創空間が生まれる事を願って、その知見を整理し場づくりのポイントとして挙げたい。

CAFE

一つ目は、都市のコミュニティ拠点と同様に広義の「CAFE」を自前で持つこと。ただし、腹の空腹を満たす為のカフェでない、誰もが分け隔てなく当該コミュニティにアクセスできるコミュニケーションスペースをいう。

カフェ的機能を持つことは、コミュニティの登場人物を増やす最良の仕掛けだ。カフェは生活者が開放的気分でいるから、リサーチに協力してくれる雰囲気を作りやすい。実験的ライフスタイルまたはプロダクト提案の試験場としては最適な場である。(美味しいフード&ドリンクがあれば、なおさら良い。)100BANCHは3階建て構造であり、グランドレベルにカフェ「WIRED SHIBUYA」があることでコミュニティへの間口が広く敷居の低い導線が担保されている。

100BANCHは奇跡的にカフェ経営のプロフェッショナル(カフェ・カンパニー株式会社)が共同パートナーを打診してくれた為、飲食運営のノウハウと経営はプロに一任できているが、経営の素人が飲食業を経営する事は容易でない。自前のカフェをもつには、飲食業としての事業収支に注力するよりもコミュニティ運営の福利的な視点で取り組むか協業パートナーをもつこともお勧めする。「Community Access For Everyone」 の頭文字をとってCafe的な場であれば飲食業の体裁にこだわらず、キオスクやマルシェ、キャンプ場やラウンジであっても良いのではないだろうか。

LAB

そして、CAFEに隣接したLAB = プロジェクトスペースを持つこと。社会実装する為のTry &  Errorは、創造活動の本質だ。その始まりから実験考察までを一気通貫して取り組める場が可能な限りオープンで出入り自由、かつ都市生活者やエンドユーザーと近距離にあることは重要である。

日本の製造業がR&D機能を郊外や生活圏と離れた場所に隔離分断した前時代から、改めて、実験と実社会が隣り合わせにあることの重要性は、21世紀の共創空間の必要条件だと提言したい。そのメリットは100BANCHで何度も目撃してきた。

とくに実験の仮説を検証する為のみならず、予期しない幸運な出会い(セレンディピティ)を生む。ものづくりだけでなく、有形無形のあらゆるケースにおいて実験スペースを共創空間の中に盛り込んでおくことで、最短最速で価値創造ができるのだ。なおセキュリティの設計はケースバイケースである。

STAGE

LABでの成果をプレゼンできる「STAGE」があること。共創活動の実態や成果を端的に表現することは難しい。共創の始まり方やプロセスも、成功や失敗なども、その価値を他者に伝えるには頻繁にプレゼンする機会を要する。そこで、共創空間において成果や進捗の共有がいつでもできる自前のステージを設置したい。(さらに展示できるギャラリーもセットであると良い。)

「イベントスペース」と名付けられがちな空間要素ではあるが、イベントが目的ではなく、内外に活動成果を(ドラマチックに)発表する機会をつくり、ターゲットを招いてもてなし、想いを伝え語り合うことで、また新しい共創が始まる。プレゼンテーションをホームグラウンドで実施できることは、リラックスした気持ちで発表できるという点でも大きい。コミュニティの交流場も担えるだろう。規模は大きすぎず、50名から最大100名くらいの収容スペースで十分と考える。

MEDIATOR

そして、CAFE/LAB/STAGEを繋ぐMediator(媒介者)がいること。共創コミュニティ内のコミュニケーションを活性させ、外部との繋ぎ手となるコミュニティ・マネージャー(またはコミュニケーター)が共創空間内を縦横無尽に歩き回り、対話し情報収集をして内外に発信する媒介者の存在は、場のさらなる進化と成長をも促す。

オープン・マインドで献身的であり、自らも共創を楽しみながら、コミュニティから学び成長する運営チームこそが空間全体の鎹(かすがい)となる。

またオウンド・メディアとされるWEB媒体を小さくとも自前で持ちSNSもフル活用しながら共創コミュニティを醸成することもポイントとして挙げたい。オウンド・メディアは、パブリック・リレーション(PR)目的にとどまらず、内省と共創のPDCAの機会でありコミュニティ内の相互理解、インナーコミュニケーションの最大最適なツールとなりえる。

共創空間のデザインとは4つの間のデザイン

100BANCHは、実験場でなく「実験区」と名乗っている。場におさまらず区とすることで、建屋から滲み出るコミュニティや創造活動の外部化こそが成長やインパクトにつながると銘打った。

100BANCHが位置する渋谷駅周辺は、100年に一度といわれる大規模再開発がおこなわれ、活況を呈する。昨年、再生された渋谷川添いの遊歩道には100BANCHの実験的活動が不定期で露出し、今後も街のお祭りやイベントと連動して地域のコンテンツとなっていく。建物の外へ出て、他の共創空間やコミュニティとコラボレーションしたり、地域の人たちと意見交換する事は、その都市にとっても施設にとっても明るい未来につながると信じている。

共創空間をデザインすることは、物理的デザインに留まらず、共創する時間のデザインであり、コミュニティ(人間)のデザイン、そして社会性と地域性を帯びた世間のデザインであると考える。「空間、時間、人間、世間」この四つの「間」のデザインに今後も挑戦していきたい。

松井 創

Author松井 創(Layout Unit CLO(Chief Layout Officer))

1982年生まれ。専門学校で建築を、大学で都市計画を学ぶ。地元横須賀にて街づくりサークル「ヨコスカン」を設立。新卒で入ったネットベンチャーでは新規事業や国内12都市のマルシェの同時開設、マネジメントを経験。2012年ロフトワークに参画し、KOILやLODGE、WONDER LAB OSAKA、100BANCHなどのプロデュースを担当。2017年より都市と空間をテーマとするLayout Unitの事業責任者として活動開始。学生時代からネットとリアルな場が交差するコミュニティ醸成に興味関心がある。あだ名は、はじめちゃん。

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鈴与鈴木社長×Takram田川氏×林千晶
「“空間”と“地域”から紐解くこれからの働き方とデザイン」

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