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松本 亮平 2019.08.23

価値を生み続ける共創空間であるために、僕たちが考えたこと

先日、約10ヶ月に渡って担当した、NTTコムウェアさん(以下敬称略、NTTコムウェア)のアジャイル空間「COMWARE TO SPACE」が無事お披露目された。クライアントや、実際に利用した人から、ポジティブなフィードバックが返ってきている。

プロジェクトを通じて考えたのは、価値ある空間をどのように永続させるか。ということ。これから共創の場や空間づくりに取り組んだり、運営に携わる人に向けて、使い続けられる共創空間に大切なことを、プロジェクトを担当した松本の視点であらためて整理してみる。

ソフトから考える場作り

ロフトワークが支援する共創空間づくりのプロジェクトは、基本的にボトムアップの姿勢を取ることが少なくない。それは、空間(ハード)が先ではなく、どういった活動が行われているべきかという内容(ソフト)からクライアントと考えたいからだ。

空間が出来上がってからも引き続き活動の拡大と、築かれるコミュニティの発展までサポートしたいし、仮にサポートが叶わない場合でも、別の支援方法を模索し提案している。

プロジェクトのコアメンバーと共に、同じ船に一度乗ると決めたら、こちらも真剣だ。もう少し言い方を変えるなら「腹をくくる」のようなニュアンスかもしれない。決してネガティブな意味ではない。覚悟と気合いを持って望まなければ、皆がワクワクする場づくりはできないと考えているからであり、また、場をつくり、そこを中心にしたエコシステムの形成まで付き合いたいと考えているからだ。

少し表現を盛りすぎたかもしれないが、そのくらい、共創する環境づくりや場づくりには、どんな状態になっていて欲しいかという将来像と、そこまで到達するための中長期のマイルストーン、そして最後まで走り抜けられるプロジェクトメンバーが必要ということを伝えたい。

プロジェクトのキックオフ時に、創り上げる場が最終的にどんな状態になると良いか、NTTコムウェアのプロジェクトメンバーのみなさんとディスカッションしたときの様子

コミュニティマネージャーの重要性

場の将来像とそこに到達するためのマイルストーンは、プロジェクトの初期の全体コンセプトを策定する際に、メンバーの認識を合わせて固めることができる。しかし、場を中心に生まれるコミュニティの発展まで見届けられるメンバーを巻き込むのはなかなか大変だ。

一番素敵なかたちは、ずっとそこに常駐し、良いシーンも悪いシーンもそばで見届け、場と共に成長していってくれるコミュニティマネージャーがいることだ。

コミュニティマネージャーという存在がなぜ大切なのか、そしてどんな役割を担っているのかは、同じloftwork layout Unitの加藤と庭野が語っているので、ご覧いただければ、ご理解いただけるだろう。

コミュニティマネージャーでなくても、場のエバンジェリストでもいいし、その場を管理する部門のボスが場のアイドルになってもいい。(ここでいうアイドルは歌を歌ったりするアイドルではなく、場のシンボル的な社員、名物社員の意味でのアイドルである)

大切なポイントは「共創空間が出来上がったときの熱を持ち続けられ、かつ、その場に集って過ごす価値を唱え続けられる人がいるか」ということだ。

そうは言っても、うちの会社は部署移動もあるし、ジョブルーティーン制度で同じ環境に留まることが難しい…と思われる方もいらっしゃるだろう。むしろそいった状況の方のほうが、この日本で共創空間づくりに取り組みたいと思う人たちの中で多いのではないかと、ロフトワークにご相談いただくプロジェクトのお話を聞いていて常々感じる。

場の価値を唱え続けるアイデア

コミュニティマネージャーを配置するコストはない。そんな時でも、個人的にはいくつかのやり方があると思っている。ロフトワークでのプロジェクトを例に紹介する。

1.プレイブックに機能と想いをまとめる

冒頭でも触れた、NTTコムウェアとのプロジェクトでは、「プレイブック」という手にとれる冊子で、使い方や、場に込めた想いを形にした。

外部への配布も想定した空間を紹介した写真集と、場に込めた想いや使い方をイラストでまとめた2冊で構成。

直接空間作りのプロジェクトに参加していない人でも、プレイブック片手に場を案内すれば、擬似コミュニティマネージャーに早変わりも可能だ。

2. コンセプトムービーで想いを表現する

富士通の共創空間PLYのプロジェクトでは、完成した空間で1本のコンセプトムービーを作った。歳上の女性に恋した少年とその仲間になったPLYのメンバーが、いっしょに想いを届けるために奮闘するというストーリー。PLYのコンセプト・世界観・機能などさまざまな魅力を映像で記録し、価値を表現している。

3.空間自体にコミュニケーションのトリガーを仕込む

少し特殊な例だと、パナソニックのMitate HUB では、空間の中心に、入居メンバーが自由にレイアウトを組み換え、プロトタイピング場所として活用したり、開発段階の製品を展示したりできるハッカブルな共有スペースが設けられている。

日々ハックされて、姿を変える共有スペースが「空間のシンボル」として存在することで、そこを動線として通る入居メンバー間のコミュニケーションのトリガーとなるだけでなく、外から訪れた方が毎回新鮮な気持ちで場のライブ感を味わえる。こういった、空間のシンボルにハッカブル・更新性を施すというやり方もできる。

小さなアクションも価値を伝播させていく

NTTコムウェアでは空間の名称である COMWARE TO SPACE からインスパイアされ、別部署の方が新しいアジャイル認定制度の名前をネームブランドを揃えるべく「COMWARE TO AGILE」と名を付けた。さらに、若手社員の方が、場の価値をぎゅっとつめこんだプロモーション映像を社内で制作し、報道発表のタイミングで流しもした。

社内外問わず少しでも多くの人が、場への愛着が湧くようにと、広報部門の方が報道発表に合わせてCTSのロゴの入ったステッカーを制作して配布した。

先方が制作した COMWARE TO SPACE のステッカー。ロフトワークのシールも貼ってくれている、嬉しい。

場ができたことをきっかけに、大小さまざまな取り組みがNTTコムウェア社内で広がっている。いずれも場を自分ごと化するためのアクションであり、また生まれたコミュニティの発展を手助けするものになることは間違いない。

場所の価値を認め合い、とにかく様々なチームに使い倒される空間になることこそが、新たなイノベーションの起点になる。

これからもこうして誰かにワクワク思いを伝えられる場の価値を永続させることを意識してプロジェクトの望んでいきたい。

場の価値を唱え続けるコトの大切さというテーマでここまで話をしてきたが、場の価値を唱えるためには、場(空間)が必要で、そしてその場を構築する前には、「こういうことに本気で取り組みたい」と思える活動が不可欠である。
その場で行われる活動とそこで生まれる価値を、今度はどう伝えていくのか、どう企業の財産として残していくのか、それを考えることも運営メンバーにとっての重要なミッションである。
コストをかけてでもやるべきミッションであり、その空間を箱だけの見せ物に終わらせないための重要な「仕事」であると考えている。

自分たちで考えるのが大変だな、と思ったときに声をかけてほしい。そんなことを「こうしようと、あーしよう」と楽しく議論するのが好きなのが我々ロフトワークである。

松本 亮平

Author松本 亮平(Layout Unit シニアディレクター)

関西学院大学卒。学生時代には途上国開発や国際問題を学びながら、アメリカのNGOの海外住居建設プログラムに参加し東南アジアを歴訪。卒業後は大手オフィス家具メーカーに就職し、オフィスワーカーの働く環境改善や提案に奮闘。クリエイティブが生まれる環境を自ら創造していきたいと、2014年ロフトワークに入社。Webディレクションで培ったプロジェクトマネージメントの力を基盤に、共創空間、クリエイティブ空間のプロデュースに従事。国内外問わず、あだ名は「へいへい」。

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