プロジェクトメンバーインタビュー
USIO Design Projectがもたらしたもの
東京から約1900km離れた沖縄県・石垣島。美しい自然とのどかで優しい人々が暮らす魅力あふれる亜熱帯の島です。そんな石垣島の魅力をさらに伝え、発信していくために、石垣市役所と共同で名産品をリデザインする“USIO Design Project”を実施しました。
本プロジェクトのメンバーである石垣市役所観光文化課(※プロジェクト開始当時)の小笹俊太郎氏、ロフトワークシニアディレクター寺井翔茉、コミュニケーションディレクターの中田一会、FabCafe Taipei創始者のTimとUSIO Design Projectを振り返ります。
大切な環境をキープしたままで、みなから愛され続ける場所でいられるだろうか?
– プロジェクトをはじめるきっかけについて教えてください。
小笹(石垣市役所) 私たちの島は、沖縄本島からさらに南に400km、台湾からは270kmのところにあります。八重山諸島は小さな島々の集合体で、とても自然が豊かで、ぐるり手の届く“身の丈”の暮らしがあります。農業や小規模な製造業もありますが、島の経済の中心は観光業です。
観光を取り巻く状況もここ10年で大きく変わってきていて、2013年3月には新しい空港もでき、いまは島はとても賑わっている状態です。でも嬉しさの反面、一方では色々な心配もあります。
本当に大切なこの環境をキープしたままで、みんなから愛され続ける場所でいられるだろうか。今の島の経済構造は、必ずしも島の人すべてが潤う仕組みになっていないので、どうしたら島の人が豊かになれるのか。そもそも石垣島らしさ、八重山らしさって何なんだろう。
こんな事を考えて、『次の切り口』を探るのがとても大切なタイミングだなあと感じていました。いわゆる観光地という型にはまった振る舞いではなく、もう一度、そこに揺さぶりをかけていく事が重要なアクションになると考えました。
– 名産品リデザインに注目された理由を教えてください。
小笹 『次の切り口』となるアクションとして、
1.外からの目線を入れたい。しかもデザインの力を最大限取り込む。
2.モノを通して島の魅力の発信したい。広く伝えていく伝道師の役割をモノに託したい。
3.地理的・歴史的にも繋がりの深い、台湾からの視点を入れたい。
という3本のテーマを掲げました。
旅行消費額の1/3はお土産品と言われていて、地元の経済にも直接つながると考えました。島と外の人をつなぐ接点として、単なる情報だけでなく、モノを通じた方が、より強いコミュニケーションが生まれるということも、日々の仕事の中で感じていました。
そんなことを考えながら夜中にネットを見ていたら、前々からファンだったスマイルズの遠山正道さんのブログに、ロフトワークが携わるRooootsの情報があり、ビビビッときてしまい、翌日には電話をかけていました。『こんな事を考えているので、プロポーザルに是非手を挙げてほしい!』と。
プロセスを徹底的にオープンに。石垣島の違う一面を魅せる「ことづくり」
– ロフトワークからはどのような提案をしたのでしょうか?
中田(ロフトワーク) 「石垣島から問い合わせがきた!」と、社内がどよめいた日のことは今でも覚えています(笑)。 小笹さんがビビビッときてくださった「Roooots 名産品リデザインプロジェクト」は、2008年から4回に渡って、地方で開催される国際芸術祭(大地の芸術祭 / 瀬戸内国際芸術祭)と連動する形で開催してきたプロジェクト。過疎化・少子高齢化に悩む地域に芸術祭で人を呼び、ターゲットに合わせたリデザイン名産品をお土産として販売することで地元産業の活性化に繋げることが目的でした。
その点、石垣島は、観光地として既に高い人気と認知度を誇り、移住する人も多い「とっても元気な地域」です。もちろん特有の課題もあるのですが、USIOではRooootsと同じスキームを活用しながらも、島の文脈に合わせたメッセージングや新しい仕掛けが必要でした。
そこで私たちが提案したのは、特設Webサイトやソーシャルメディアを使って、プロセスを徹底的にオープンにすること。名産品のリデザインという「ものづくり」の企画の形をとりながら、その間で起こる出来事を細かく情報発信することで、石垣島の違う一面を見せる「ことづくり」を目指しました。また、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」の台北チームと連動して、クリエイターネットワークを巻き込んだイベントも提案しました。
石垣・東京・台北の3拠点で、モノとデザインを通した新しい形の観光PRに挑む。それがUSIO Design Projectの企画時からメンバー全員で共有していた方向性でした。
Tim(FabCafe Taipei) USIO Design Projectは、地方コミュニティの文化を理解するために親密で人道的なアプローチをしていて、台湾と日本の多くの人々にデザインを通して、地方の生活を紹介しようとしていたので、プロジェクトへの参加を打診された時はとても興奮したのを覚えています。
– USIOという名前はどのように生まれたのでしょうか?
寺井(ロフトワーク) USIOは、海の「潮(うしお)」のこと。異なる海流がぶつかる「潮目」は、豊かな漁場になる…というエピソードと、島の象徴である美しい海のイメージがぴったりだと思い、名付けました。デザインを中心に、「外の視点」と「島で生まれるモノ、働くヒト、育まれる知恵」がぶつかり、新しい豊かさを生み出したい!そんな想いを込めています。
– どのようなプロジェクトチームで進めていったのでしょうか。
寺井 USIOはロフトワークの他のプロジェクトと比べると、かなり異色のチーム編成でした。
まず、クライアントである石垣市役所観光文化課の皆さんも含め全員が「USIOチーム」としてフラットに参加。どこかに「事務局」をつくるのではなく、石垣・東京・台北に各チームが置かれ、それぞれが役割をもって有機的に動くような編成にすることで、異なる視点が交差する「潮目」が生まれるように設計しました。
台湾との文化交流強化を目指し、FabCafe Taipei 、台湾デザインセンターと連携
– 台湾とのコラボレーションはなぜ生まれ、どのように実現したのでしょうか。
小笹 もともと石垣島は、台湾と地理的に近く、古くから移民や文化的交流がありました。
例えば、パイナップルの栽培は台湾から伝えられたし、玄米乳に似た飲み物やシーサーが台湾にあったりもします。台湾と連携することで、日本や沖縄本島とも違う、石垣・八重山独特のアイデンティティを改めて探るキッカケにも繋がるのではと期待を込めました。
ですので、USIO Design Projectでは、審査員に台湾デザインセンター所長の陳文龍さんをお招きしたり、FabCafe Taipeiと連携してイベントや情報発信を台湾向けに積極的に行ったり、結果的に台湾のデザイナーが「石垣ツナ」の担当に採用されるなど、各フェーズでコラボレーションしています。
Tim 台北チームでは、USIO Projectと、選定された10商品の背景にあるストーリーを広めるために、ワークショップや、イベント、そしてFabCafe Taipeiでのスペシャルメニューの提供を通して、台湾のクリエイターへアプローチしました。 台湾の地元のデザインコミュニティーもとても興味を持ってくれたので、彼らのデザインプラットフォームと冊子を使い、プロジェクトを拡散してもらうようお願いしました。
小笹 これら取り組みの結果、デザイン公募では、約2割が台湾からの応募作品となりました。
商品の魅力。地元住民の想いを丁寧にヒアリングし、10点を選定
– リデザインの対象商品はどのように選定したのでしょうか?
寺井 対象商品の選定は、「発掘」→「公募」→「選抜」→「開発」のプロセスで決めていきました。台湾を含めて、プロジェクトチームを組織した後、まずは現地の視察からはじめ、並行して島内に企画の説明会を開催しリデザイン対象商品を募集しました。説明会が地元の新聞等に取り上げて頂いたこともあり、短い募集期間にも関わらず地元の生産者から50点近くの商品が集まりました。
最終的にリデザイン対象として10アイテムを決定。石垣島や八重山諸島の材料を使用していること、風土を活かした製法・歴史ならではの特徴があること、商品としての潜在能力、生産者との協力体制などを重視したラインナップです。全体のバランス等を理由に、残念ながら採用されなかったアイテムにも魅力的なものが沢山ありました。
「ことづくり」を盛り上げる様々なイベント企画
– 対象商品決定後は、どのようにデザイン公募を行いましたか?
中田 ロフトワークでは、これまでに何度もデザインの公募企画を実施してきました。実績があるとはいえ、ただ公募ページを作っただけでは、なかなか魅力的な作品は集まりません。そこで、日本と台湾それぞれで様々なクリエイター向けイベントを開催し、デザイン公募を盛り上げていきました。
FabCafe Tokyoでは、石垣島カフェウィークや石垣ナイト、みんさー織りをつかったリデザインワークショップを開催。FabCafe TaipeiではキックオフパーティーでUSIO Design Projectを周知するとともに、石垣島を味わうフード等も提供しました。
クリエイター204名から431点のデザイン案が集結。台湾からのデザインも
小笹 デザイン案は、最終的に431点が集まりました。結果発表は、石垣島の「しらほサンゴ村」で生産者や島民の方にも集まっていただき行いました。台湾や東京でもリアルタイムで結果を共有するため、発表は石垣島の会場だけではなく、Ustreamで中継も行いました。デザイン案が発表されるごとに、参加メーカーから拍手や歓声があがる場面もありましたよ。
審査員からは多様な視点を交えたデザイン公募について、前向きな総評が寄せられました。
「台湾から見た「石垣島」や東京から見た「島らしさ」など、石垣を色んな方向から見た作品があって非常に面白かった」(離島経済新聞 鯨本氏)
「東京や都会のデザインとはまた違う、石垣島という離島の良さを生かしたものがちゃんと集まり、現実的なよいものができ上がっていくと思う」(スマイルズ 遠山氏)
「東京・台湾やさまざまな地域からデザイナーの提案があり、皆さんが離島に関心をもって参加したということは非常に意味のあることで、我々にとっても勉強になったし同様のものを台湾でもできたらと思う」(台湾デザインセンター 陳氏)
「自分の良さは周りに指摘されないと分からないのと同じで、どこが日本らしいのかというのは案外自分たちでは分からないものだと感じた」(ロフトワーク 林)
商品のコミュニケーションも含めたリデザイン
– 結果的にどのようなデザインに仕上がったのでしょうか?
寺井 採用されたデザインから、実際の商品パッケージに仕上げていく段階では、デザイナーとのデザイン調整はもちろん、生産者との制作単価の交渉、印刷業者とのデザイン実現の為の仕様調整などを細かく行いました。採用になったデザイナーに実際に石垣島に来てもらい、生産者と直接コミュニケーションをとりながら、仕上げていきました。
例えば、ツナのパッケージは台湾のクリエイターPazさんの作品ですが、生産可能な形づくりや日本語の表現なども含めたデザイン・ブラッシュアップの部分は、別作品で受賞をしたクリエイター・石上さんとのコラボレーションで完成させました。魚の肌を全面に押し出した強烈なアートワークは、日本のデザイナーからはなかなか出てこないアイデアで、ユニークな化学反応が生まれたと思います。
また、ハーブティーは屋根の形状を石垣島に合わせたり、塩はパッケージの大きさをインタビューしならが当初の想定から大幅にサイズダウンするなど、プロダクトとしての完成度を上げるために試行錯誤を繰り返しました。
USIO Design Projectがもたらしたもの
– USIO Design Projectの内外の評価、ロフトワークとのプロジェクトはいかがでしたか?
小笹 商品はまだ販売開始したばかりで、これからですが、今回改めて“デザインの力”に期待以上の手応えを感じました。裏目標でもあった、石垣のモノをヨーロッパへ!という目標も達成した(しそうな)のも、とっても嬉しいです。
さらに言うと、単純に、モノがかっこ良く洗練されて、それがみんなの目を引いて、メディアにもたくさん取り上げられて…というだけでなく、デザイナーの深い洞察力、目利きの人達の視点によって、物事の根本を捉え直し、魅力を再発見し、さらにそこに、想像以上の驚きや歓びを与えてくれるというのは、本当に素晴らしいと感じました。
ロフトワークは、お世辞っぽく聞こえるとアレですが、みんな賢いし、カラフルだし、とてもエキサイティングな仕事でした。(まだ続いてますけど……)僕らのアクションがさらに進化して、世界中に広がっていくことを確信しています!
Tim 視察調査から現地訪問やミーティング、オープンデザインコンペの立ち上げ、審査員の選抜、商品製作など、どのプロセスもとてもユニークな旅でした。
私は、USIO Design Projectは、プロダクトデザインや、旅行プロモーション、石垣のブランド開発、云々とカテゴライズすることが重要ではないのだと気付きました。唯一大切なことは、「地方のストーリーをより多くの人々に繋げ、独特の文化とそれぞれの食品や商品の背景、そして地元人々の生活を体験し、発見してもらうために、どのように革新的な方法を見つけるか」だったと思っています。
寺井 地域産品をリデザインすればすぐに売り上げが上がる……とは考えていません。地域ごとに課題が異なり、その土地や文脈にあったデザインがある。石垣の場合は、知名度の高い観光地でありながら、それゆえに「本当にローカルなものとは何か」と問いかけることが求められていて、それがリデザインの仕組みにマッチしていたのだと思います。
次のフェーズでは、生まれたモノからどうストーリーを伝えていくか、どう外側で売っていくかということを考えていきたいです。
中田 私は通常、ロフトワークの広報PRを担当していて、今回初めてコミュニケーションディレクターとしてプロジェクトに参加しました。台湾を巻き込むなど、異例のチーム編成だったと思いますが、それだけに今までの「型」にはまらないコラボレーションが沢山生まれました。
また、担当者である小笹さんのパワフルかつチャーミングなキャラクターも、プロジェクト全体のエンジンとなっていて本当に楽しい仕事です。こんなことを言っていいのかわかりませんが、一度も小笹さんをクライアントだと思ったことがありません(笑)。フラットなチームとスピード感を持って取り組めたことが幸せでした。
成果物が形になる前からオープンに情報発信し、コンセプトを丁寧に伝え、プロセスそのものをコンテンツ化し、モノとコトを同時にデザインしていく。このUSIOのスキームはこれから多くのプロジェクトで必要とされていくでしょうし、USIOの次のフェーズでもどんどん発展させてみたいです。引き続き頑張ります!