長崎県 PROJECT

旅の玄関口で、土地の旬に出会う
長崎空港 食の魅力を体験する展示企画

Outline

「長崎県らしい食の賑わいの創出」に必要な要素を探ることを目的に、ロフトワークは長崎の玄関口である「長崎空港」で食の魅力を体験できる展示活動を企画。長崎空港到着口ロビーにおいて、展示施策「FOOD DESTINATION PORTー旅になる旬の長崎」を2025年2月21日(金)〜3月14日(金)の期間に実施しました。

存在感ある展示演出と長崎の人々の知恵を借りた情報収集によって、長崎の食の魅力を発信した今回の展示。県・空港ビル・ロフトワークの三者の協働を経てはじまった展示初日には、県側担当者の自主的な働きかけから「長崎県産イチゴの即売会」が派生して開催。会期終了後には、展示物が片づけられた空港ロビーを見た関係者から「寂しい」と声が上がるほどに、関わった人々に深い印象を残した展示となりました。

どのような背景のもとに展示が生まれ、いかにして「空港を起点に、県内の食の魅力を伝える体験」が人々に愛着を持たれるに至ったのか。プロジェクトを振り返ります。

Output

展示風景の写真。発泡スチロールで製作された巨大な什器に、長崎県産いちごの魅力を伝えるパネルが展示されていて、赤いワンピースを着た女性が展示を見つめている

ロフトワークは、長崎県が誇る旬の食材と名物料理をテーマに、空間デザイン・グラフィックデザイン・コンテンツ開発をトータルでディレクション。空港に到着した旅行客が食べたい食や店舗、場所の情報を発見することを通して、空港の体験価値向上を目指しました。

継続的な実施を念頭においた当企画において、長崎県が「2~3月の長崎で、一番食べて欲しいもの」と推薦した「いちご」をコンテンツの主軸に据え、空港を訪れる旅人に、“長崎を味わう”体験を届けました。

展示ブースでは、県内各地のお店で出会える人気のいちごのスイーツメニューをグラフィカルに図解。ピンクと赤を基調としたダイナミックなイラストレーションによって視覚で楽しめるデザインに。長崎といちごの歴史にはじまり、「ゆめのか」「恋みのり」といった人気品種の紹介や、食材の魅力・調理の工夫・提供している長崎県内の人気店を楽しく視覚的に伝える内容に仕上げました。

長崎県産いちごの魅力を伝えるインフォグラフィックス展示

いちごを使ったメニュー「小浜のケーキ」のイラスト。ふわふわスポンジの上にクリームといちごが乗ったお菓子がグラフィカルに描かれている

展示の演出として「ひとり旅」「ふたり旅」「かぞく旅」など、さまざまな「旅のスタイル」に合わせてメニューを提案。旅行者の多様なニーズに応える仕掛けを展示に組み込みました

長崎県の名物グルメ解説展示

長崎県の名物グルメを紹介する展示のパネル。佐世保の港町で愛されてきたグルメ「佐世保バーガー」が、イラストと文章で説明されている

いちごの図解ブースのそばにある別の面では、県内で愛され、長崎県を代表するご当地グルメの紹介が。空港内の飲食店で提供される長崎名物と定番メニューを紹介するイラストレーションや看板を展示することで、見る人をそれらの店舗へと誘導する仕掛けです。

店舗紹介カード

長崎県内にあるお店を紹介する「店舗紹介カード」。赤と白の2色で構成されたシンプルなデザインで、グルメのイラストと説明する文章、小さな地図などが掲載されている
現地で展示された「店舗紹介カード」を持ち帰っている女性客の様子

さらに、長崎県内の人気の飲食店の情報を発信する店舗紹介カードを作成。テイクフリーで誰でも手に取れる状態にすることで、旅行客が長崎各地を旅の追加目的地や立寄地を発見できる仕掛けとして設置しました。

長崎空港の1階到着ロビーに設営された展示空間は、空港を単なる通過点ではなく「体験の場」として再定義するもの。旅のはじまりの場所である空港で長崎の食の“旬”と出会い、“行きたい場所”としての長崎の魅力を再発見してもらうことを目指しました。 

Approach

長崎空港での展示を開催した背景には、長崎県が抱える人口減少という地域課題と、そこに向き合う県のビジョンがありました。長崎県は地域課題に対策を打つため、新しいビジョン「未来大国」を策定。その実現に向けた4つの柱のうちの1つとして「食」を起点とした施策が求められていました。

長崎県は、長崎にある「食」の魅力を県内外に発信するための重要な発信地として「空港」に着目。県へ来訪する人々にとっての玄関口であり、多くの人が行き交う場所でもあるためです。しかし、長崎空港はコロナ禍をきっかけに乗降客数が減少。現在もコロナ前の水準には戻っていないという課題がありました。

利用客数の向上を目指す短期的な戦略と、玄関口としての空港を起点に長崎県内を回遊してもらうための「食の魅力発信」という長期的な戦略を同時に打ち出すにはどうするべきか。リサーチを経て生まれた仮説は、「空港に到着した人が県内の情報を得る手段が不足しているのではないか?」というものでした。

そこで、県内の食の情報に触れる体験の場を設計。展示とカードを起点として、旅客が空港で触れた情報をもとに目的を持って長崎県内を回遊する状態を目指して企画しました。展示企画を「体験」にまで昇華する上で、大きな力となって助けてくれたのは、地元・九州のクリエイターや食にまつわるプレイヤーの方々でした。

「食の案内人」の協力を得て、長崎の食の魅力をリサーチ

リサーチにおいては、食の賑わいを創出する上でもっとも重要な要素となる「人」に着目。県内で活躍する「食の案内人」たちに協力を依頼し、信頼できる情報をもとに長崎県内の旅の目的地となるような食のお店をカード化。空港で展示に触れた人々が「持ち帰って、参考にしながら旅ができる」情報をコンテンツとして配置することで、旅客たちの県内の飲食店への回遊を促しました。

男性の写真。ジャケットを着て笑顔を見せている
鳥巣智行さん 株式会社Better 代表。長崎県の食と人を結び、PR視点から県の魅力を発信する
半袖のポロシャツを着た男性の写真。飲食店ののれんの前に立って笑顔を見せている
林田真明さん 通称「ちゃんぽん番長」。地域のソウルフードとしての「ご当地ちゃんぽん」を全国に広めた功労者
白いシャツを着た男性の写真。植物の前に立っている
松尾秀平さん 松浦市にある創業70年の種苗店「松尾農園」の三代目として、長崎の食の魅力を伝える
男性二人組の写真。二人で手を広げ、楽しげな表情で写っている
佐世保ベースさん 佐世保での暮らしや街の魅力を伝える「地域密着バラエティ番組」としてのYoutube番組を公開中
展示風景の写真。発泡スチロールに展示パネルが貼られた什器が、積み重なって展示空間をつくっている様子

展示においては、長崎にゆかりのあるクリエイターに協力を依頼。ポップでグラフィカルな展示のデザインを担ってくれたのは、長崎県・小浜温泉街に事務所を構える「景色デザイン室」。「長崎くんち」で用いられる赤と青のカラーリングで展示を構成し、デザインに長崎らしさを取り入れました。

そして、展示空間・什器デザインのクリエイティブパートナーとして協力してくれたのは、九州・福岡県で活動する建築事務所 [axonometric]。建築設計を主軸にランドスケープや都市計画に至るまで幅広く空間をデザインする彼らは、展示什器というスケールダウンしたものにおいても、坂の高低差の多い長崎の地形にインスピレーションを経て、存在感のある展示空間へと落としこんでくれました。

什器の活用方法について解説された画像。ブロック上の什器が組み合わせ自由であることが説明されている

使用した什器は、本来は食材を届けるための資材として使われる「発泡スチロール箱」。市場のような雰囲気を醸成しながら、視線の高さと流れを意識した空間演出を実現しました(資料提供:©︎axonometric )

空港内の人の流れを妨げないように配慮しつつ、人々が行き交う空港1階到着ロビーの環境特性を利用しながら、発泡スチロールの積み重ね方に変化を持たせ、リズミカルな空間構成を実現。視線の高さや角度を変えることで、様々な角度から情報を取得できる仕掛けを作りました。

Outcome

空港ロビーに設置された実施の展示の様子。展示の周囲を多くの人が行き交っている様子が見える

普段は到着した旅客が滞在せず、すぐさま通り過ぎていく空港ロビーで行われた今回の展示。ブースのあった期間中は多くの人が展示を見るために足を止め、通常時とは異なる滞在体験が生まれていました。

なかでも印象的だったのは、展示初日に開催された「いちご即売会」。これは、本来の展示計画には含まれていなかった施策だといいます。クリエイターたちを巻き込みながら形になっていく「FOOD DESTINATION PORT」の企画を見守ってきた県職員が、展示初日を盛り上げるべく自主的に働きかけたことで実現しました。

これまで多くの人が「通り過ぎる場所」と捉えていた空港ロビーに新しい「滞在体験の場」をつくることは、長崎空港にとっても挑戦的な取り組みでした。地域のキーパーソンを巻き込みながら長崎の食の魅力についてリサーチを進め、旅客に伝わる展示体験へとデザインしていくロフトワークの創造的なプロセスは、関係者にその熱量を伝播させ、思いもよらない行動を呼び起こしました。

滞在体験の向上という目標を達成するだけに止まらず、その先にある「長崎県を楽しんでほしい」という思いを実現するための小さなアクションをも引き起こした今回のプロジェクト。県の抱く課題と未来を受け止め、目標へと「共に近づく」姿勢が、スコープの外にあった前向きな行動を生んだと言えます。

空港ロビーでいちごの即売会が行われている様子。赤いハッピを来た県職員が、ブースに並んでくれたお客様たちにいちごを手売りしている

当日は長崎県産いちご「ゆめのか」のイメージキャラクター「ゆめずきんちゃん」も応援に駆けつけて、子どもたちから引っ張りだこに。たくさんの方がいちごを手に取ってくれました

空港内にあるお土産物店の写真。今回の展示企画に関連したデザインが販促のために展示に活用されている

さらに、今回の「FOOD DESTINATION PORT」で使用されたデザインを、空港内のお土産物店等の売り場にも展開。展示をみた人が空港内売店へ誘導されるという新しい購買の動線が生まれました。

展示ブースに設置したアンケートを集計したところ、「デザインが目を引いた」「知らなかったお店があった」「晩御飯を探していたところでちょうどよかった」「小浜に行く予定だが、ちゃんぽんが多くあるのに驚いた」などの声が。空港での滞在中に長崎の食を知り、長崎県内への回遊の期待を醸成するという当初の仮説が実現されていました。

今後、長崎空港が“旅の通過点”から“旅のナビゲーター”としての機能を果たすためには、空間・情報・人の流れを一体で捉えた導線設計が不可欠です。そうすることで、旅人と地域との接点を増やし、観光消費・関係人口の拡大へと波及する、地域活性化の基盤づくりに繋がっていくと言えます。

Member’s Voice

今回の企画を共に検討し、実施に至るまで協力しあってきた長崎県は、下記のようなコメントで企画の実施を振り返りました。

長崎空港開港50周年や国民文化祭開催を迎える本年、県では、食を通じた賑わいの創出の取り組みも始めようとしています。これからも、長崎県の豊かな食文化を国内外へ発信し、地域の魅力がより多くの方々に伝わり、皆様の日常や旅の満足度を少しでもあげられるような取り組みも展開してまいりますので、今回の展示企画を見ていただいた皆様にとって、少しでも新たな長崎を知るきっかけになったとしたら、幸せに思います。
今回の展示企画にご協力いただいた全ての皆様のご尽力に感謝いたします。

Credit

プロジェクト基本情報

  • クライアント: 長崎県
  • プロジェクト期間: 2024年10月〜2025年3月
    • 展示期間: 2025年2月21日(金)~3月15日(土) 【23日間】

体制

  • ロフトワーク体制
    • プロジェクトマネジメント/プロデュース:寺本 修造
    • クリエイティブディレクション:小林 奈都子
    • アシスタント:吉田 日菜子
  • 制作パートナー
    • 展示ブースデザイン :佐々木慧、近藤匠海(axonometric Inc.)
    • VI・グラフィックデザイン:古庄 悠泰(景色デザイン室)
    • イラスト:古庄 結
    • 撮影:サカタマサキ(taratine.)
  • 展示協力
    • 長崎空港ビルディング株式会社

Member

小林 奈都子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

寺本 修造

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

吉田 日菜子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

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