株式会社三越伊勢丹 PROJECT

キャンペーンのリデザインで老舗百貨店の接客改革の第一歩へ。

老舗百貨店の恒例キャンペーンで、集客とコミュニケーションのリデザインを支援。

老舗百貨店として認知されていながらも、現状に課題を感じ「接客改革」へと乗り出した三越日本橋本店。毎年春に開催される恒例イベント「花々祭」を舞台に、お客さまの体験をリデザインするトライアルプロジェクトをロフトワークと実施しました。

「花々祭」での体験や成果を次のイベントにも活かしているというプロジェクトメンバーに再びお集まりいただき、当時のお話を伺いました。

プロジェクト立ち上げの背景

──どういった経緯でこのプロジェクトが立ち上がったのでしょうか?

太田(三越伊勢丹) 「三越館内で目的の店舗以外になかなか足を運んでいただけない」ということは、百貨店の積年の課題でした。毎年春に開催している「花々祭」というキャンペーンの企画を考えるにあたって、社内でも近頃よく取り上げられる「体験のデザイン」という視点で新しいアイデアはないかと求めていました。

体験という意味では過去にもスタンプラリーを実施しているのですが、言葉通りで、スタンプを押して回るラリーでしかありません。結局、販売員とお客さまとのコミュニケーションもなかなか生まれませんでした。

新城(三越伊勢丹) 今までは商圏や年齢で来てほしい顧客層を絞り込んでいましたが、好きなものを軸にターゲットを絞り込むトライバルマーケティングを取り入れていこうとしています。商圏という考え方がなくなって、日本中、世界中から来ていただける可能性が出てくるのではないかという考え方です。

三越日本橋本店 営業運営担当 マネージャー 太田左千夫氏
三越日本橋本店 再開発担当 アシスタントマネージャー 新城亜希子氏

加藤(三越伊勢丹) トライブ(特定の興味関心によってつながりをもつ属性の方々)をお呼びしたい、という話になったときに、ロフトワークが今回の謎解き企画を提案してくれました。

商圏を超えて「◯◯好き」なお客さまを呼びたい、という私たちの考え方ともマッチしていましたし、百貨店にあまり足を運ばない20〜40代がターゲットになるので、そういう方々が百貨店に来たらどんな感想を持つのだろう、関心を示してもらえるのか、というのも非常に興味がありデータが欲しい部分でした。

太田 ただ、スタンプラリーと同様に謎だけ解いて帰ってしまうのではないか、店頭でコミュニケーションは生まれないのではないか、という不安はありましたね。

コミュニケーションを生むための工夫

 

──では、コミュニケーションを生むためにどんな工夫をされましたか?

越本(ロフトワーク) 「お客さま目線で考えよう」ということが今回のプロジェクトの前提としてあったので、楽しみながら取れるコミュニケーションを考えました。今回の謎解きでは、各店舗を回遊するだけでなく販売員とコミュニケーションを取らないとヒントカードがもらえない、という設計になっています。お客さまにはゲームの一環として三越の接客を体験していただきました。

また、謎は専門家の方に協力していただいたのですが、「こういうヒントの与え方をするといいよ」というアドバイスを受けて弊社がヒントマニュアルを作り、現場での実践的なオペレーションは三越の皆さんと一緒に設計しました。

加藤 店舗で働く5000人近い販売員全員に施策の意図やオペレーションを十分理解してもらうことは難しいので、まずは販売員を取りまとめる営業部にこのプロジェクトを共有するところから始めました。フローも含め一緒に考えていただいて、いろいろ工夫しながら巻き込めたことが、成功のポイントだと思います。

現場でのスタッフ講習。単なるオペレーションマニュアルではなく、お客さまとともに楽しむためのマニュアルとして展開された

太田 お客さまに何かやっていただくだけの従来のスタンプラリーよりもオペレーションは複雑ですが、スタッフのモチベーションは高かったですね。最初はマニュアル的に説明していたのが、現場で起こることを体験してからは「面白いんですよ!」と説明に熱が入りました。帰る前にも「良かった」とか「お客さまがこんなことを言ってくれた」と感想を聞かせてくれて。百貨店の仕事を選ぶということは、多かれ少なかれお客さまとのコミュニケーションを楽しみたいんだな、と感じました。

──接客を通じてお客さまのリアルな声を聞くことがスタッフのモチベーションに繋がった、ということですね。 クリエイティブ面はいかがでしょうか。

越本 制作点数がとにかく多かったので怒涛でしたね。説明のパネル、ヒントカード、各店舗に置く看板……1日でも遅れると入稿が間に合わないほどでした。

太田 でも制作物のクオリティはとてもよかったですね。小さい媒体でかなり情報が多かったのに分かりやすく、統一感という意味ではパネルのクオリティも高かった。これは重要ですよね。

店内各所に掲示されたパネルと特設サイトでの展開、参加者に配布されたヒントカード

越本 一気に制作を始める前に、デザインガイドラインを先に作りました。たとえばこのライオンを使うとか、こういう枠をつけるとか。たったそれだけなんですが、結果的に他の作業をするときにも効率良く展開できました。

また、今回お願いしたデザイナーが謎解き経験者で、空気感を理解してデザインしてくれたので、謎解きトライブの方々にも違和感なく受け入れてもらえたのではないでしょうか。

──実際、参加されたお客さまの反応はいかがでしたか?

太田:
参加されたお客さまの「楽しかった!」「おすすめ!」的な感想がTwitterで話題になり、新しいお客さまのご来店につながった事例は初めてかもしれません。謎解き以外に、販売員との会話や接客体験について、多数の好意的なコメントがアップされていたのも驚きでした。

加藤:
これは店長一同感激していました。こんなことが起きていたんだ、って。しかも三越自体にご来店されたことの少ない方々が「意外と三越の接客、楽しい!」と言ってくださっている。

三越日本橋本店 営業計画担当 朝日恵子氏
三越日本橋本店 再開発担当 マネージャー 加藤雅洋氏

プロジェクトで生まれた成果

太田 私たちがコミュニケーションの他に心配したもう一点は「謎解きが好きな方に接客体験は受け入れられるのだろうか?」ということでした。実際は予想以上に好評で、「デパートにこんなにすごい技術を持っている人たちがいるなんて知らなかった」といったうれしい声も頂きました。スタッフもみんな素直に喜んでいましたね。

新城 今までイベントというと外部講師の方に頼るものが多かったのですが、販売員が持つ知識や普段やっている技術がこれだけの価値を持っているということに改めて気付かされました。

──今回の企画ではどのような成果が得られましたか?

朝日(三越伊勢丹) 今回の企画に関しては、売上に結びつけることは念頭に置いていませんでした。一番は新規顧客層の開拓で、今回の謎解き企画で20代30代という新規顧客の方が見えて、かつカップルなど今まで店頭で見られなかった顧客層の方に来ていただけたところに一つの希望を見出せました。いろいろ手を打てば来ていただくきっかけを作ることができるという気付きは大きかったと思います。

また、謎解きに来たお客さまが販売員とコミュニケーションをとることで満足に繋げられたというのは、新規顧客の方に顧客になっていただくきっかけになったと思っています。「こんなに楽しかったからまた何かあったら来てみよう」と思っていただけた点では大成功だったんじゃないかと思いますね。

新城 越本さんに初日に一番乗りで体験していただいて、ここがダメだったとフィードバックしていただけたのもよかったです。それですぐ修正ができました。

越本 テストプレイができなかったので会期が始まってからという形になってしまいましたが、動いてみて初めて分かることは結構ありました。

朝日 日々修正できたのが一番レベルアップにつながりました。初日の動向を見て良かった・悪かった点を共有しながら次のステップへ進む、という習慣ができましたね。施策の上ではPDCAを回すというのが頭にあるのですが、接客の中ではあまりやったことがなかったのでそこに立ち返れたのは今回とても良い気付きでした。

──今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?

朝日 時期や頻度までは決まっていませんが、定期的にこういった体験企画をやっていきたいと思っています。今後も新たなターゲットの設定から相談に乗っていただいて、また新しいトライブを呼び込みながら百貨店の価値を見出していけるといいですね。百貨店の人間だけではどうしても発想が凝り固まってしまうので、第三者の視点をもって入っていただけると私たちもワクワクする企画ができると思います。

新城 お客さまとのコミュニケーションに気付きがあった一方で、従業員同士のコミュニケーション改善が次のステップだと考えています。私たちの中のコミュニケーションが変わらないとお客さまとのコミュニケーションが良いものになっていかないと思うので、今後ロフトワークと一緒にデザインしていけたらいいな、と思います。

制作パートナー

クリエイティブデザイン: niconaDESIGN
謎企画: 南晃