メンバーと振り返るプロジェクトの舞台裏
PLY開設の背景・ねらいとは?
─ 富士通の”共創”の取り組みについて教えてください。そもそもどんな課題感があり、共創に取り組んでいるのでしょうか?
福村(富士通):
クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoTなど、新しいキーワードが次々登場し、それらが現実のものになっていくなかで、システムインテグレーションをコアビジネスとする当社も、従来のスタンスでは追随できなくなっています。
2012年頃から、時代の流れに応じて変化できる体制を整えるべく、さまざまなチャレンジを試みてきました。数多く実施してきたハッカソンイベントもその一つです。また、こうした取り組みを通じて、特に若手を中心に現場レベルでも新しいことに挑戦する機運が高まっていきました。
─ なるほど、環境の変化に対応して色々と実践を重ねてきたんですね。その中で徐々に現場の意識も変わってきて、今回のプロジェクトもその一つの試みなんですね。ここ蒲田に共創空間を作ろうと思ったのはなぜですか?
福村:
デジタル化の流れが進むにつれ、業界間、業種間、企業間の境界線が曖昧になっています。ビジネス領域が全業種にわたる当社は、本当の意味での境界をなくそうと、2015年5月、デジタルビジネスをけん引する新しいインテグレーションのコンセプト「FUJITSU Knowledge Integration」を提唱しました。この実現に向け、共創の場を作ろうというのが目的です。
オフィスとは別の場所に作るべきという声があったのも事実ですが、まず我々自身が変わらないとはじまりません。目指したのはSEのためのイノベーションスペースであり、そのフラッグシップとなる空間は、社員が気軽に足を運べる場所にあるべきだと考えました。
空間設計のプロセス
─ ロフトワークは富士通のみなさんの構想を、どのようなプロセスで形にしていったんですか?
棚橋(ロフトワーク):
空間というより、もう少し大きな視点で“場”のコンセプトを考えることからスタートしました。具体的には、SE部門をはじめ、場づくりに関心の高い他部門を交えたワークショップを実施して現場の方々が考えていることを吸い上げ、みなさんの想いをどのような方向に落とし込むべきかを探っていきました。
そこから導き出したのが、「FUJITSU Knowledge Integration」を凝縮した「PLY」というコンセプトワードです。より合わせるといった意味のある「ply」という言葉をキーコンセプトにして、人との出会い、知の蓄積、実践の積み重ねが、価値のあるカタチを生み出していく場所にしたいというメッセージを込めました。
石川(ロフトワーク):
プロジェクトメンバーにIDEASKETCHさんを迎え、コンセプトやクリエイティブの開発を進めていきました。点が結びついて線になり、それが広がり面になるイメージはPLYのさまざまなコミュニケーションツールに活用されています。
関口(ロフトワーク):
私がワークショップで一番新鮮だったのは、ワークに参加いただいた富士通のSEの方々一人ひとりが「本当はこんなことがしてみたい!」という思いやアイデアをたくさん持たれていたことです。
ワークショップを経てさまざまな方向性が見えましたが、可能性の余白を残しておくため敢えて整理して言語化することはしませんでした。美しくまとめること自体がPLYらしくないからです。付け加えたり、変化させたり余地があるのがPLYだと考えていました。
─ 現場の人たちからさまざまなアイデアが生まれたり、パワーがあるのって素晴らしいですね。富士通さんの社風というか、雰囲気をよく表しているなと思いました。高崎さん、空間設計でこだわったポイントをぜひ教えてください。
高崎(富士通デザイン):
使う人によってどうにでも変われる、どんどん変わっていくことを目指しているので、あまり細部まで深く追求せず、いい意味での粗さを前面に出したのが大きな特徴です。富士通という大組織の中でこの粗さを表現するのはかなりの冒険でしたが、ギリギリのラインに挑戦しました。
棚橋:
富士通が継承してきたアイデンティティをリスペクトしつつ、どこまで殻を破れるかという挑戦でしたね。
関口:
高崎さんや堀江さんに、目に見えるところが大きく変わっても、根っこでは富士通のアイデンティティやデザインのルールを忠実に守っているということを、関係者のみなさんにもご説明いただきながら進めていきましたね。
高崎:
あともう1つこだわったのは、ここにしかない価値、オリジナリティです。なるべく外から完成されたものを持ち込まず、ここにあるもので生み出していくことで、場の価値がどんどん増していくと考えていました。
石川:
“異なるものが出会う場”というところからインスピレーションを受け、たとえば異質な素材を組み合わせて使うなど、素材自体もコンセプトを踏襲するものを選んでいきましたね。
今までにない挑戦の数々 / 今後の展望
─ 今回は、コンセプトづくりや空間設計、インテリアのデザインディレクションのほか、PLYのコンセプトブックや、スタッフが利用者にメッセージを書いて渡せるPLYカード、スタッフポロシャツ、プロモーションムービーなども制作しました。棚橋さん、コンセプトブックはどんな狙いでつくったんですか?
棚橋:
空間の使い方ガイドラインというよりは、PLYのイメージやコンセプトを感じ取ってもらい、それに共感してもらうためのものに仕上げました。PLYは一言で「○○ができる場所」と言い尽くせないほど多くの可能性を秘めているので、使い方やガイドラインではなくそもそものビジョンを伝えたいと思っていました。
石川:
施設の中身より、考え方や挑戦のプロセスのほうが重要で、かつ仲間ありきで成り立つのがPLYです。コンセプトブックでは、その仲間たちに呼びかけ、挑戦が許容されるカルチャーがここにあることを伝えています。
関口:
そうですね、あとはPLYはPlayと響きが似ているので、一緒に何かやりませんか?という意味を込めたりもしましたね(笑)。
堀江(富士通):
よくありがちな説明的な施設紹介ではなく、ビジョンだけを語るコンセプトブックは、当社の施設では前例がありません。そういう意味でもチャレンジングでした。しかも、そこに社内の関係者を登場させ、社員一人ひとりの想いがつながっていくというコンセプトをそのまま表現した点も、これまでにない手法です。
─ PLYプロジェクトで様々なチャレンジを可能にした一番のポイントってなんだったんでしょうか?
堀江:
一番重要なことは、富士通ブランドとしてお客様に何をどう伝えるか。当社のガイドラインからはずれてしまうと軸がブレてしまうので、富士通らしさを守りつつ挑戦できる余地を探ることで、プロジェクトの目的とブランドをきちんと融合できたのです。これも明確なコンセプトや目的があってこそです。
─ 空間はまだオープンしたばかりですが、さっそくいろんな方々が活用していますよね。なにか反響などはありましたか?
福村:
社内の反応は良いのですが、まだ使い方がわからない人が圧倒的
今後は新しいアイデアの種を生み出したり、実際にモノを作ったりといった機会を提供していき、コンセプトブックで描いたストーリーのように、ここからたくさんの新しいサービスやビジネスが生まれるようにしていきたいです。
石川:
同じ立場で一緒にPLYのことを考え、作り、楽しみながらカタチにしていく感じが非常に心地よかったですね。
棚橋:
空間設計にせよプレイブックにせよ、試行錯誤の連続でしたから、数々の苦労を乗り越えてきたチームの結束は実にすばらしいなと思いました。本当に楽しいプロジェクトでした!
─ PLYがどんな風に育っていくのか、引き続き注目していきたいと思います。本日はありがとうございました!