京都の伝統産業と空間の共創プロジェクト
MTRL KYOTO×西陣織コラボレーション
伝統産業との共創をかたちに「MTRL KYOTO×西陣織コラボレーション」
日本の魅力を世界に発信する『MORE THAN PROJECT』、石垣島の魅力を再発見する『USIO Design Project』や、岡山県の帆布をリデザインする『HANPU! OKAYAMA PROJECT』……。ロフトワークは、これまで様々な地域とそこにある課題の解決に取り組んできました。
2015年にオープンした「MTRL KYOTO」では、京都の伝統産業との共創プロジェクトにチャレンジ。新たに、西陣織とのコラボレーションプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトメンバーと振り返る西陣織プロジェクト
平安京以前より、京都でつくられてきたという西陣織。その卓越した意匠と技は、1200年以上に渡って磨かれ、手から手へと受け継がれてきました。この歴史と伝統を次世代につなぐために試行錯誤を重ねているのが、若手職人集団『西陣連合青年会』です。
西陣織の課題をひとことで言うと「敷居が高い」こと。価格もさることながら、作られる工程や「西陣織は何に使われているのか」という用途についても、若い人には知られていないのです。
一方、2015年秋に「MTRL KYOTO」を立ち上げたロフトワークでは、「京都の地域産業とのコラボレーションで新たな価値を生み出す」試みをスタートしていました。
「MTRL KYOTO」は、 “素材(マテリアル)”をコンセプトにしたドロップイン型のクリエイティブラウンジ。ここに集うクリエイターに、「京都を代表する伝統的工芸品・西陣織を素材として提供したい」という思いが、『西陣連合青年会』との出会いにつながりました。
ロフトワークへの期待「若い人たちに西陣織をキャッチーに伝えたい」
──ロフトワークと『西陣連合青年会』はどのようにして知り合ったのですか?
中村(西陣連合青年会) MTRL KYOTOのことは、3Dプリンターを使って機織り道具の杼(ひ)を一緒に作っていただいたYOKOITOさんに紹介されました。そこで「素材を探しているので、西陣織も置きませんか?」と言われたのが始まりでしたね。
田中(西陣連合青年会) ちょうど西陣織を紹介する映像を撮り直そうという話が出ていたときでした。昭和の古い映像しかなかったので、若い人に興味を持ってもらえるような、キャッチーなものが欲しかったんです。そこで、ロフトワークに映像制作を含めていろんなご提案をいただくことになりました。
岩崎(ロフトワーク) 西陣の職人さんが20人くらい居並ぶなかに、単身プレゼンに乗り込むのはなかなか緊張しました(笑)。
岡本(西陣連合青年会) 西陣では後継者問題が深刻化しています。子どもが「継ぐ」と言える土壌をつくるには、やはり新規販路の開拓が必要になります。でも、私も含めて西陣では新しい販路を開拓する訓練がされていません。ロフトワークには、そういった経験でも期待しました。
ロゴ&プロモーション映像「西陣織の旅 Journey of Nishijin Textiles」を刷新
──最初に着手した映像制作プロジェクトは、どんな風に進められましたか?
岩崎 まずは「ターゲットは誰にするか?」ということから対話を始めました。伝統を伝えることを重視しつつ、若い女性にも見てもらえるコンセプトとして「西陣織の旅 Journey of Nishijin Textiles」を策定。職人さんと一緒にワークショップを行い、映像に盛り込む要素を決めていきました。
国広(ロフトワーク) 最初は、モデルを起用しない方向で絵コンテを制作したのですが、「西陣織は美しい」という感想だけで終わるのはもったいない。「若い女性が職人さんの日常を覗き見する」というコンセプトで、感情移入できるストーリーへと作り込みなおしました。
──映像のなかで、さまざまな西陣織の制作工程にフォーカスを当てたのは何故ですか?
中村 西陣織というと着物を連想する人が多いのですが、実は一番のメインは帯。さらには、掛け軸やお茶道具、お坊さんのお袈裟などにも使われていることを見せたかったんです。
──これまで存在しなかった、西陣織のロゴも誕生しましたね。
中村 せっかく作ったものは使わないともったいないですね。組合は小さい会社の集合体なので、西陣全体で統一してロゴを使用するのは難しいかもしれませんが、まずは数社からでもリブランディングを始められたらと思います。
岩崎 ロゴや映像を見た人たちが、西陣織に対して何らかのアクションを起こしたくなるようなものにしたいと考えました。彼らに対する商品開発やイベントなども用意できるといいですね。新しい顧客と西陣織の接点をつくる可能性を探ってみたいです。
MTRL KYOTOの建築資材として西陣織を利用
岩崎 ところで、当初は「この人たちに西陣織を渡して大丈夫やろか」とは思いませんでしたか?
中村 そう思った職人さんも何人かはいると思います(笑)。でも、せっかく「MTRL KYOTO」に西陣織を置くならホンモノを見せたい。多少くしゃくしゃになってもよいものがあれば高価なものも展示しました。袈裟に使われる布など、一般の人の目に触れることのないレアな西陣織も置いてあるんですよ。
岩崎 素材として置くということから始まり、次に「空間デザインに西陣織を使う」というアイデアも出て。一階の柱、二階の畳の縁、和室に置くクッションの座面など、かなり贅沢に使うことになりました。僕らとしては、触れられる場所に西陣織を配置して、もっと見て触れてもらいたかったんです。実際に、ここで西陣織を見たファッションブランドのデザイナーさんがその足で工場へ出向き、サンプル制作まで進んだこともありました。
中村 もともと、西陣織は柱や襖に貼るのはアリなんですよ。柱に貼るときに「銀が出てきれいだから」と裏地にしたのはMTRL KYOTOの建築を担当した佐野さんのアイデアでしたね。
国広 この柱は、お客さんとのコミュニケーションでもよく話題になります。すごく反応がいいんですよ。
中村 ズバッと大きく使ったことで「西陣織、すごいな!」となるので、見せ方としては良かったと思います。
岩崎 柱やクッションの座面などに西陣織を使うことで、この空間はすごくフォトジェニックになりました。記念撮影に柱が入っているだけで絵になるし、東京にはない「MTRL KYOTO」らしさにもなっていますね。
西陣織の課題をデザインで解決する「れもんらいふデザイン塾」の開校
岩崎 実在する社会課題をデザインで解決する力を養うことを目的とした、超実践型のデザイン塾「れもんらいふデザイン塾」への素材と技術提供もありました。若いデザイナーとともに、西陣織の新しい可能性を見出すきっかけづくりにしたいと考えての提案でしたが、どう受けとめられましたか?
田中 はじめは、提案されていることがよくわからなくて(笑)。進めていくなかで理解が追いついてきたというところです。
岩崎 「れもんらいふデザイン塾」には、若手デザイナーを中心に、関西、四国、九州、東京など全国から塾生が集まりました。塾生が西陣織のデザインを考案、グランプリを受賞すると実際に織っていただけて、11月に開催される「西陣金襴展」で展示してもらえるんです。中村さんのはからいで、塾生が「西陣金襴展」のポスター制作をすることにもなりました。
中村 ポスターのために、塾生さんが何人か写真を撮りに工場に来ましたよ。端切れやホンモノの金箔を触ってもらったり、いい経験をしてもらえたんちゃうかなと思います。若いデザイナーさんたちは、僕らがいつも接している人とは目線が違います。僕らが考えつかないようなアイデアを持っているので、僕らにとってもすごく刺激になりました。
西陣織の未来をひらくのは「新しい発信の場づくり」
──これまでの動きを踏まえて、今後のロフトワークと MTRL KYOTOに期待することはありますか?
田中 正直言って、僕自身は西陣織を次の世代に継ぐことを半ばあきらめているんです。でも、こうして動いていればひょっとしたら可能性があるかもしれない。「作り手はこんなにいろんなことをしているんだぞ」ということを発信できたら、流通も変わっていくのではないかという期待はあります。
岡本 西陣織は価格も高いし、工場も見学に対応することは難しいし、店舗を持つこともできません。もし、みんなで共有できる展示場所がもっと充実すれば敷居が下がるのではないかと思っています。西陣を理解してくれるロフトワークがそのとっかかりになってくれたらうれしいですね。
「MTRL KYOTO」には、マテリアル素材として西陣織を常設。クリエイターたちに伝統の技をダイレクトに感じてもらう接点をつくっています。ロフトワークは、「MTRL KYOTO」から西陣織の魅力を発信する新たな可能性を創出していきたいと考えています。
パートナーからのコメント
空間に西陣織を取り入れるというチャレンジについて
京都で布、といえば西陣織を思い浮かべる人は多いだろう。布というものは世界中のどの地域にもあり、織西陣織とは何か、を定義をするのは難しい。裏返せばその地域性が現れるのが布であるともいえるだろう。そんな西陣織を空間に使うのならば、普段見えない部分を見せたい、という思いがあった。西陣織の緻密な柄を表現するためにどのようなつくりをしているのか。裏側を見せ、表現の種明かしをする。しかも、裏側すら美しい。そんなことを感じてもらえるといいなと思い、空間の中心に据わる柱に纏わせた。他にも畳の縁や椅子の座面、クッションなど、柄に合わせて空間の随所に鏤めており、敷居が高いものになってしまった西陣織に身近に触れ手触りや艶、織りなどを感じてもらえたらと思っている。
れもんらいふデザイン塾の題材に西陣織を取り上げたことについて
身近なテーマではなく、普段触れることのできない京都の伝統工芸「西陣織」をテーマにしたことで塾生が一から調べ、学び、作るという実際の仕事に活かせる経験を作ることができました。
最終審査で選出する際に重視したのは、奇抜なアイデアではなく、西陣織の持つ伝統、支持層のイメージを壊すことなく、 新たな魅力を打ち出せるものという視点です。
れもんらいふの仕事でも西陣織を取り入れることになり、僕もこの半年で多くのことを学びました。理屈やコンセプトだけではない、人と人とがそこに集まるだけで、デザインの可能性は無限にひろがり、未来を変えてくれるのです。様々なシーンで、この塾で出会った人達と、また関われることを楽しみにしています。