メンバーと振り返るプロジェクトの舞台裏
ニーズもない?サイネージで何ができる?
- そもそも、なぜデジタルサイネージ(以下、サイネージ)を設置することになったのですか?
関根(工学院大学):新宿西口の再開発の一環として、新宿キャンパスに直結する「新宿副都心4号街路地下道」の改修が行われ、そのタイミングに合わせて、地下エントランスに隣接するスペースにサイネージを設置することになりました。
以前はただのコンクリートの壁で、ここに大学があることは知っていても、どんな大学かは知るすべがありませんでした。とにかく通行量が多いことはわかっていましたから、受験生に限らず、さまざまな人たちに向けて、本学を知るきっかけを提供し、学園のブランディングにつながる情報発信ができないかと考えたのです。
- コンテンツについてはどのような具体的なアイデアをお持ちでしたか?
佐野(工学院大学):新宿の地下道の中でも、本学付近は掲示物に関する規制が厳しく、制約の中で何ができるのか、運用はどうするのか、まったくの手探り状態でした。アイデアはあっても、その実現方法さえままならない状況でしたし、目的もニーズもないところから一緒に考えていけるパートナーとしてロフトワークにお声がけしました。
濱田(ロフトワーク):50インチ3画面のサイネージを、さらに一般の方向けに制作するのは当社も初めての挑戦で、この興味深い試みにぜひご一緒したいと思いました。
毎日の通勤経路で、日常の一部になるというアイデア
- 提案を進めるにあたり、フィールドサーチから始めたそうですね。
青木(ロフトワーク):現場を見ない限り、誰に向けて何を作ればよいかは見えてきません。そこで、どんな人がどのぐらい歩いていて、朝と夜とでは人の流れがどう変わるのか、デジタルサイネージ設置予定地で現地調査を実施しました。
調査の結果、通行人がサイネージを確認できる時間は約3秒と短時間であることがわかりました。また、朝は都庁方面に向かう人がほとんどで通行量も多く、歩く速度も速いのですが、夜は仕事を終えて新宿駅方面に向かう人の割合が増え、通行量もまばらになり、ややゆっくり歩いている人が多いことがわかりました。
- KU-SITEで一番に目につくのが、時を刻むインスタレーションだと思いますが、調査結果から、どのようにして“時計”という発想が生まれたのですか?
濱田:実際のところ、地下道を歩く人の中にサイネージに対するニーズを持つ人などいないわけです。しかも柱で見えにくいとなると、文字でしっかりと情報を伝えるのは難しくなります。そのうえ、カメラでセンシングして反応する、音を出す、動画を流すといったことはすべて規制されていました。
そこで、道端にあるものとしてどう見えるとよいか?という視点で考えついたのが、生活に紐づく習慣性があり、ON(朝)とOFF(夜)のスイッチングの場になり得るような仕掛けです。それが時計でした。ほとんどの人が朝と夜の2回往来するので、会社に急ぐ足で時間を確認すると仕事モードになり、帰りに再び時計を目にすると夕飯のメニューを考えるといったイメージです。
- それを毎日繰り返すうちに、じわじわとブランディングに効いてくる、というわけですね。
青木:そうなればいいですね。時計に着目したのは人々の日常の一部になるためです。ふとした瞬間にその存在に気づき、やがてサイネージ自体が日常の一部になり、少しずつ工学院大学の情報を気にかけるようになるのではと期待しています。
新宿区の厳しい規制をデザインの力でクリア
- 色や動きの規制が多く、調整も大変だったのでは?時計の秒針の動きも、点滅という扱いでNGだったそうですね。
青木:規制に対してはデザインの工夫でクリアしました。どこまで許容されるかがわからなかったため、新宿区とも、サンプルで作成したモックアップを見てもらいながら打ち合わせを重ねました。時計の秒針も点滅ではなく、毎秒バーがゆっくり伸びていくインスタレーションのような動きをデザインしています。
こういった規制やサイネージを数秒しか確認できないといった制約の中で、どうしたら面白く感じてもらい、大学として伝えたい情報が伝わるのか、デザイナーさんとも試行錯誤を繰り返して、作り上げていきました。
関根:デザインを考えつつ、並行で規制の調査や確認を進めたので、苦労されたと思います。実は、一定の条件下であれば表示する内容に大きな制限がないことが判明するなど、青木さんが新宿区と調整を重ねるなかで引き出せたこともありました。
- 7月から運用し始めたばかりではありますが、今後チャレンジしてみたいことはありますか?
関根:エンジニアや研究者を世に送り出すことを使命とする学校として、展示エリアでは学生の4年間の成長がわかるような作品を展示していきたいですね。サイネージエリアは、学生が学んだ技術で作れるものをコンテスト形式で募集し、優秀作品を飾るといった使い方も考えられます。学内で作品を募集すれば、KU-SITEの存在が学生のモチベーションにもつながりそうです。
佐野:地下道は多くの外国人の方も通るので、大学と分からない立地からくる「ここはなに?」という疑問を「こんなことをしてるんだ!」という気づきにつなげられたら面白いかもしれません。
濱田:立ち上げは極力シンプルにしたので、その効果を検証しつつ、見えてきたこと元に次を考えるというやり方で進めていきます。
- 当面はKU-SITEの可能性を模索するフェーズが続きそうですね。半年後にどんな風になっているか楽しみです。