NY州立大学バッファロー校建築学科 PROJECT

NY州立大の「スタディ・アブロード・プログラム」成功のポイントとは?

ニューヨーク州立大学バッファロー校建築学科では、学生が海外の異文化に身をおきながら単位を取得する「スタディー・アブロード・プログラム」を毎年行なっています。

ロフトワークが運営するFabCafe TokyoFabCafe Hidaは、このスタディー・アブロード・プログラムの東京での拠点を提供したほか、プログラムの要となった、5日間の「飛騨滞在プログラム」を企画運営。生徒達は、木工職人や家具制作の現場を訪問、職人さんから木工技術(特に継手・仕口)を学んだほか、FabCafe Hidaでの制作を通じ、3Dモデリング技術を用いて新しい組木を制作しました。

「9週間のスタディー・アブロード・プログラムの中でも、飛騨滞在プログラムが生徒たちにとてもっとも濃く学びが多い体験となった」と語る担当のニック・ブルシナ准教授と、プロジェクトマネージャー&ディレクターのFabCafeの金岡に、合宿を振り返ってもらいました。

インタビュー、テキスト=鈴木真理子 

9週間、異文化に身をおきながら学ぶ「スタディ・アブロード・プログラム」とは?

──ブルシナ先生が担当している「スタディ・アブロード・プログラム」とはどういったものですか?

ブルシナ教授(以下、敬称略) 学生が、1学期(= 9週間)の間、海外で学びながら単位を取得するプログラムです。2010年に私がプログラムの担当になってからは、数年ごとに行ない、毎回日本にきています。

ニューヨーク州立大学バッファロー校建築学科 ニック・ブルシナ准教授

──ブルシナ先生は、なぜ日本を選んだのですか? また、FabCafeのことはいつ知ったのでしょう? 

ブルシナ 私自身、学生のときに日本で勉強したんです。大学でこのプログラムを担当することになり、とても嬉しく思いました。2012年にFabCafe Tokyoがオープンしてからは、授業の準備や作業でFabCafe Tokyoを利用することがあったのですが、スタッフと仲良くなるうちに、FabCafe Tokyoのチームメンバーにも建築を専門としているメンバーが多いということがわかり、2014年に一緒にKOILで一緒にワークショップをしましたね。

──今年の「スタディ・アブロード・プログラム」はどういうきっかけでFabCafeと行うことになったのでしょうか? 

FabCafeのFabエンジニア、金岡

金岡 昨年ブルシナ教授たちが日本にきたとき、FabCafe Hidaを訪問してもらいました。その時は、飛騨の木工産業の拠点を訪問したり、森歩きをしてもらいました。今年もブルシナ教授からスタディー・アブロード・プログラムを行いたいと打診があり、再び飛騨を訪問したい、そして、飛騨では訪問や見学だけでなく、制作を通じた学びを行いたいと要望をもらいました。

また、今年は、9週間の日本での拠点を、渋谷にあるFabCafe MTRLにしたいとリクエストをいただきました。FabCafe MTRLは、ドロップインも可能な、オープンなコワーキングスペースで、イベントも毎晩のように行なっており、FabCafe MTRLを拠点にすることで、日本のいろいろな人に繋がることができます。

学部・院生からなる12名の生徒は、コワーキングスペースのFabCafe MTRLにて、クラスを受けたり、プレゼンテーションをしたり、デザインを進めた。

飛騨に滞在しながら「新しい組木のデザイン」に挑戦

──今回の「飛騨滞在プログラム」では、どのようなゴールを設定したのでしょう

金岡 飛騨では、日本の伝統的木工技術である「組木」と、3Dモデリングを用いた新しいデザインプロセスを融合することで、生徒達が、伝統的な工法の新たな可能性を探り、先端技術の新しい使い方を発見することを目指しました。

具体的には、5日間にわたりFabCafe Hidaに滞在し、木工職人や家具制作の現場を訪問してもらい、伝統的な木工技術、特に継手・仕口について学び、また、2日間かけて制作をしてもらい、3Dモデリング技術を用いた組み木制作に挑戦してもらいました。また、それらの技術を用いた仕口制作について、実際の職人さんたちにフィードバックをもらい、加工技術としての検証を行いました。

ブルシナ そのために、生徒たちには、最先端の技術である3Dモデリングを用いた「新しい組木のデザイン」を飛騨滞在プログラムの課題として課しました。

──FabCafe Hidaの工房で、実際に2日間で組木を制作した体験は生徒にとってどういう体験でしたか?

ブルシナ 学生たちはアメリカでもプロトタイプをよく制作しています。でも、今回ほど複雑なものを作ることはありませんでした。FabCafe Hidaの制作スタッフが機械の使い方をサポートをしてくれて、生徒たちはたくさんのことを学ぶことができました。

──「新しい組み木デザインせよ」という課題に対する学生たちの成果はどうでしたか?

ブルシナ 生徒たちは3つのチームに分かれて組み木を作り、合計8つの組木の新しいデザインができあがりました。私は、デザインプロジェクトでは、そのアイデアが’実行可能かどうか、建築的にうまくいくかどうか、美学的にも面白いかを知る方法は、ひとつしかないと思っています。それは実際にやってみること。飛騨では、実際の体験を通じて、生徒達はたくさん学べたと思います。

金岡 生徒たちからは、思いもつかなかった変わった形の組み木が発表されていて飛騨の大工さんたちも驚いていましたね。

チームビルディング・地域との交流がプログラム成功のポイント

──今回、ブルシア准教授は、金岡と一緒に3Dモデリング技術とセンサーを用いたジグ(治具)を開発したそうですね。

金岡 テクニカルサポートメンバーとして、建築系プログラマーでデザイナーの堀川淳一郎さんに参加してもらい、センサーを利用したジグを開発しました。3Dモデリングデータ上で作られた組木のデータを、センサーを使用して、3次元的な複雑角度でも実際に加工することができるツールです。ロボットアームや複雑な工作機械、高度なオペレーション技術を必要とするのではなく、ジグを一般的なバンドソーでアタッチメントとして使用できる、安価で使いやすいフレキシブルなデザインを目指しました。

ブルシナ このツールはものすごいポテンシャルがあると思ってます。100%デジタルとアナログ。二つの間にある作り方ですから。金岡さんは、このプロジェクトのためにぴったりのチームを作ってくれました。一人でも欠けていたら実現できなかったと思います。いくつもの困難にあったけれど、堀川さんのプログラミングのスキルと、センサーの知識のおかげで切り抜けられた。毎週末のように3人でFabCafeに集まって話しましたね。

金岡 部品を探しすために、秋葉原にも3人でたくさん通いましたね、笑。

──飛騨では、様々な職人さんの技を間近で見学できるプログラムも多くありました。特に生徒たちに反響が大きかったのが、大工の田中さんのデモンストレーションだったそうですね。

ブルシナ 大工への訪問やデモンストレーションは、学生にとって最も忘れがたい経験でした。やっぱり実際に自分たちの目で大工さんたちの作業をみれたのが素晴らしかった。組木については、話にきいたり、本を読んだりして、概念的には知ることができます。建築物のなかに使われているのをみることはあるけれど、実際に自分の目の前で作っているところをみれるなんて、学生たちは皆、感激していました。

「この飛騨の滞在で、どの経験が一番印象に残っているか」という質問に、生徒の一人が「彼は木を尊敬(リスペクト)している」と話してました。職人さんたちが、木を、尊敬し、理解し、木の声を聞いている、と。学生がこんな風に話しているのを聞いて、私も感動しました。職人さんの作業を間近で見る機会があったことで、学生は自分たちのプロジェクトに「真剣に取り組もう」と感じたと思います。

“暮らしているような体験”をいかに設計できるか

──スタディ・アブロード・プログラムにおいて飛騨滞在プログラムはどういう役割を果たしましたか?

ブルシナ 飛騨合宿は、期間的には5日間という短い期間でしたが、このスタディアブロードプログラムで取れる単位のうちの、半分以上をしめることになりました。

プログラム全部を振り返っても、飛騨滞在プログラムの経験が学生にとって一番価値が高かったと思います。結果的に飛騨での滞在は、訪れるのではなく、そこに住んでいるような体験になりました。私は、建築とは建物のデザインだけではなく、その背後にあるコンテキストを知ることだと信じています。街を知り、文化を知ることがとても大切。飛騨の合宿では期待以上に達成することができました。今回は飛騨での滞在は5日間でしたが、次回は「スタディ・アブロード・プログラム」の中で飛騨合宿の時間の割合を大幅に増やしていきたいと考えています。

金岡 これからも一緒に体験プログラムを作っていきましょう。楽しみにしています。

プロジェクトの詳細