八戸工業大学 PROJECT

地域社会の課題解決をリードする。
大学の研究ブランディング基盤を構築

Outline

八戸工業大学の「北東北の人口減少社会における自律的課題解決に向けたハブ機能構築と社会的資本の維持開発研究事業」が、文部科学省の大学支援事業「私立大学研究ブランディング事業」の平成29年度支援対象として選定されたところから、本プロジェクト(ARCH(アーチ)プロジェクト)は始まりました。

この事業では、「各大学における研究の進捗状況及び成果の発信・普及を義務付けるとともに、文科省ホームページ等を通じて各大学が打ち出す独自色を発信」することが条件とされており、八戸工業大学の研究における取組や特色を明確化し、それを認知・拡大するための「情報発信(ブランディング)」が求められます。 本プロジェクトでは、この要請に応えるため、なぜ八戸工業大学がこの研究を行うのか?それによってどのような未来を目指しているのかを、受け手にわかりやすく伝えることをゴールに設定。コミュニケーションコンセプトの策定と、情報発信ツール(Webサイト・コンセプトブック)の開発を行いました。

※ 私立大学研究ブランディング事業
文部科学省が、学長のリーダーシップの下、大学の特色ある研究を基軸として、全学的な独自色を大きく打ち出す取組を行う私立大学・私立短期大学に対し、経常費・設備費・施設費を一体として重点的に支援する事業。タイプA【社会展開型】とタイプB【世界展開型】の2タイプがあり、八戸工業大学はタイプAとして採択されました。

  • プロジェクト期間
    2018年4月〜11月 (約7カ月間)
  • 体制
    クライアント:八戸工業大学 (学校法人八戸工業大学)
    プロデュース:濱田 真一
    プロジェクトマネジメント, リサーチリード:青木 大地
    リサーチ:北尾 一真
    リサーチ・クリエイティブディレクション(Webサイト):中川 加衣
    クリエイティブディレクション(コンセプトブック):室 諭志
    テクニカルディレクション:安藤 大海
    デザイン・イラストレーション:LOWORKS
    ライティング・編集:崎谷 実穂
    撮影:吉田 周平
    Webサイト実装:原國 政司、川満 尚生

Process

プロジェクトの全体像

これからの研究はどうあるべきかと、八戸地域について理解する基礎調査

コンセプト開発に入る前に、2つの視点からリサーチを実施しました。

1) いきなりプロジェクトに取り組むのではなく まずは視野を広げる【フィールド調査】
 LWのプロジェクトメンバーが現地に赴き、気候や人口動向、産業、文化、インフラなど様々な角度で地域と大学、そして研究分野の関係についての理解を深める。

2) 「知っていること」を再認識することで 本質的な視点に近づく【トレンド調査】
 これから起こりうる社会課題や未来のライフスタイルをWebや文献を用いて調査、これからの研究はどうあるべきなのか、検討する材料とする。

街・農地・魚市場など、八戸を構成するさまざまな場を訪れ、知見を深めた。

研究者が主体的に参加。ワークショップ形式で研究バリューを明確にする

専門的なことがらを、専門外のひとにも平易でわかりやすく、価値あるものとして受け取られるように伝えることの難しさに悩む方は、少なくないのではないでしょうか?研究もまさに、これに当てはまります。
他方で、研究の特色や価値について、いちばん理解しているのは、当の研究者たちです。
そこで、本事業に関わる研究者のみなさん自身に、研究価値を改めて言語化していただくワークショップを行いました。ここでは、「どのような課題を解決することを目指してこの研究を行なっているのか」を整理した上で、最終的に社会的価値・機能的価値・情緒的価値の3つの価値を言語化しました。

参考)ARCHプロジェクト 研究バリューワークショップの開催

グラフィックレコーディングによるディスカッションの視覚化を取り入れた。
今回専用に作成したワークシート。多くの言葉が付箋も使いながら記述された。
各自がまとめた研究は参加者全員で共有。研究者間のつながりもここでは醸成された。

ブランド形成のためのアクションプラン策定に向けたアイデアを出し合う

先のワークショップで得られた成果から、LWが「コミュニケーションコンセプト」の仮説を作成。大学メンバーと共有し、基礎調査や、各研究との関係性をみながら、共にブラッシュアップを行いました。
コンセプト検討と並行し、ブランドを形成していくための「アクションプラン」も検討しました。
アイデアワークショップには、やはり研究者のみなさんが参加。各自の研究について、大学内外のステークホルダーをあげ、彼らとどこで、どのように連携できるか、アイデアを出し合いました。

参考)ARCHプロジェクト アイディエーションワークショップの開催

アイディエーションのワークシートの途中経過。

コミュニケーションコンセプトとアクションプランを固める

出されたアイデアは、プロジェクトのコアメンバーで整理・統合を行いました。そして、コミュニケーションコンセプトとアクションプランは、最終的にドキュメント「プロジェクトブック」として取りまとめました。

このプロジェクトブックを大学法人の教職員を集めた全学集会にて配布、研究ブランディングの背景と目的、すなわちインナー(学内)とアウター(学外)への働きかけを目的としてブランドコンセプトを構築していることを説明し、本プロジェクトについての学内での認知を高めました。
つまり、プロジェクトブックは、活動にひとを巻き込んでいくための「活動のはじまり」を知らせるツールとして機能しています。

アーチプロジェクトの活動をアーカイブし、伝えるためのメディア開発

アーチプロジェクトの活動をアーカイブし、広く伝えていく媒体として、大学サイト外に独自のWebサイトを制作しました。初期コンテンツ制作もロフトワークが支援しています。
Webサイトには、事業に関わる19の研究が掲載されていますが、研究の分類や、研究を紹介するテキストは、研究の前段で行なった整理やワークショップで出された言葉を元に、作成しています。
特に、研究が八戸をはじめ北東北地域がもつ課題とどのように関わりをもつのか、一貫して伝えようとしています。

また、同時に地域の方々にプロジェクトについて知ってもらうきっかけとなる「コンセプトブック」を作成。
アーチプロジェクトの活動に共感し、活動に加わってもらいたいと考え、研究紹介を掲載するだけでなく、すでに研究と関わりをもつ地域の方に登場いただき、地域の課題や彼らの取り組みについて語っていただきました。また、研究の視点を伝える箇所では、読み手への「問いかけ」を取り入れるなど、手に取った方が自分ごと化しながら活動を理解するようなデザインを行なっています。

ARCHプロジェクト Webサイト
https://www.arch-pj.net/

19の研究はワークショップを経て「3つの視点」に集約された。
読者へ「問いかけ」る言葉づかいは活動への参加を促す。
コンセプトブックとWebサイトはデザイン・コンテンツとも連動。
研究が地域課題とどう結びつくのかをわかりやすく伝える記事を作成。

KeyPoints

エンゲージメントを高めるプロジェクトデザイン

本プロジェクトを担当する横溝 賢准教授は、当初より、ブランディング活動を持続的に行い、成功させるには「強度あるコンセプトに基づく体制づくり」が重要であると考えていました。また、学内メンバーのみでは、19ある研究プロジェクトから研究者みんなが納得して活動できる、強度あるコンセプトを導くことは難しいとも考えていました。
そのため、大学外部の視点をプロジェクトに取り入れてコンセプトをつくることにしました。

2度のワークショップに研究者に参加いただいたのは、単なる意見集約ではなく、活動へのエンゲージメントを高めることも目的としています。研究者が自分ごととして活動してゆくためには、コンセプト策定の過程から参加してもらい、自分たちの思いが反映されていると感じてもらうことが必要でした。
参加いただいた研究者の方々からは、普段交流の機会が少ない、他学科の研究との交流から気づきが得られ、刺激になったとの感想がありましたが、一度でもワークショップに参加し議論した方は特に熱量が高く、今後の活動にも引き続き、熱心にコミットしていただけるのではないかと考えています。

戦略を実行する体制があってこそ生きるツール

参加型プロセスを経て作成された成果物の価値は、自然と高いものとなると私たちは考えています。
学内周知のために開催された中間報告会には、プロジェクトメンバーに加え学長も登壇。プロジェクトに参加していない研究者も多く参加し、コンセプトや活動方針には強い関心が寄せられたということです。

アーチプロジェクトでは、活動の体制を明確にしています。研究に集中するチーム、地域連携を推進するチーム、情報をとりまとめて発信するチームなど、役割分担することで、Webサイトの更新も継続的に行うことができ、”生きた”ツールとなります。
上記のようなエンゲージメントの高いチームだからこそ、このような進め方は可能であると考えています。

研究者による自律的な研究発信を支援する体制づくり

本プロジェクトのような広報・ブランディング活動は、広報を担当する職員によって主導されるケースが少なくありません。しかし、八戸工業大学には広報課がなく、今回のプロジェクトも研究者(教員)が主体で実行されています。

忙しい研究者が活動にコミットし続けることは容易ではありませんが、本プロジェクトでは、活動主体を大学の外にまで広げることで、常にどこかで、何か活動が行われているという状態をつくりだすことで、研究者が継続的に参加するマインドを作り出そうとしています。

Tools

コンセプトビジュアルも今回撮り下ろした。コンセプトブックとWebサイトの両方でも表紙に活用している。
使用しているビジュアルは新規に書き起こすとともに、研究にゆかりの深い場所をロケハンし、撮影。

Member

横溝 賢

横溝 賢

八戸工業大学
創生デザイン学科 准教授

北尾 一真

北尾 一真

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

中川 加衣

中川 加衣

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

室 諭志

株式会社ロフトワーク
バイスMVMNTマネージャー

Profile

安藤 大海

安藤 大海

株式会社ロフトワーク
テクニカルディレクター

メンバーズボイス

“このプロジェクトは、八戸工業大学の教職員一人ひとりが北東北における大学の研究価値を語れるようになることがグランドテーマでした。ロフトワーク(以下、LW)のPJチームの皆さんは、このテーマに正面から向き合い、調査の段階から本学研究者だけでなく八戸圏域の一次産業者や行政関係者に会って、市民の暮らしぶりやまちづくりの未来に対する研究の位置づけについて広く深く調べていただきました。LWの皆さんによる丁寧な調査活動は、研究ブランディング事業のコアメンバーや研究チームリーダーらとのコンセプト構築作業を効果的にファシリテートするための共通言語を体得するフェーズであったと言えます。LWチームの皆さんがコミュニケーションの下準備をしっかりやってくれたお陰で、学内ワークショップでは、ブランディング事業に参加する異分野研究者間の相互理解が深まり、学際的な研究の枠組が地域社会にもたらす統合的な価値(=コンセプト)を整理することができました。

このような事業関係者の自己理解と他者理解を重視したワークショップにより、LWチームが導き出したグランドコンセプト「手を取り合い、ともに守る」は、学内で円滑にコンセンサスを取ることができました。また一連のコンセプト構築作業をプロジェクトブックにまとめていただき、全学集会において説明しました。研究者らによる主体的な協働プロセスを開示できたことで、教職員個々人が、北東北における八戸工業大学の研究価値を地域のステークホルダーに伝えることの意識を涵養できたと考えます。”

横溝 賢

八戸工業大学 創生デザイン学科 准教授

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発見と学び、産学連携の新しい場づくり