株式会社船場、株式会社大丸松坂屋百貨店 PROJECT

世代を超えて愛されるための、百貨店のオープンスペースをデザイン
大丸京都店 屋上広場リニューアル コンセプト設計

Outline

百貨店の屋上広場の在り方を再定義し、リニューアルの核となるコンセプトを導く

2023年9月29日、49年ぶりのレストランフロア改装に伴う屋上広場「ことほっとてらす」のリニューアル。かつては、遊具が置かれ、家族で賑わうスポットだった屋上広場ですが、時代の変化に伴う空間の活用という点で課題を抱えていました。ロフトワークは株式会社船場(以下、船場)とともに、地域に根付き、循環やサステナビリティにも配慮した家具づくりのためのコンセプト策定を行いました。

本プロジェクトでは大丸京都店、船場、ロフトワークの三社に、4組の制作パートナーを交えて、計2回のワークショップと、京北の森の視察を実施。歴史を紐解き、大丸京都店という京都を代表するブランドのコアバリューに立ち返ったうえで、屋上広場に訪れ、過ごす方々にとってどんな体験が生まれる空間にしていきたいのか議論を重ね、制作の指針となるコンセプトを紡ぎ出しました。

導いた家具づくりのためのコンセプトは「おとぎ(御伽)」。屋上広場を親から子へ、子から孫へと、三世代先まで語り継がれる空間に育てたい、という想いが込められています。

リニューアルのメインとなる家具制作においては、定められた用途や機能に合わせて材料を調達する従来の方法ではなく、京都ならではの営みやストーリーを踏まえた素材選定や設計を行うため、ロフトワークが培ってきた素材、地域産業、循環型社会に関するネットワークと知見を活用。京都の木材を支えてきた歴史をもつ地域 京北(けいほく)の森に実際に足を運び、文化風土的なコンテキストや森林にまつわる社会課題を踏まえた家具づくりを目指しました。

三社の共創により生まれ変わった屋上広場は、多様なシーンに対応するフレキシブルなパブリックファニチャーを主役に据え、訪れる人たちのコミュニケーションが生まれる開放的な空間に仕上がっています。

Project Summary

  • 大丸京都店 屋上広場のリニューアルに際して、商業空間デザインのスペシャリスト船場とロフトワークがコラボレーション。同店と京都との歴史的・文化的繋がりに立ち返りながら、サステナビリティ志向を体現する空間づくりを行った。
  • ロフトワークはプロジェクトのコンセプトとプロセスの設計を担当。新たな屋上広場が提供する体験のコアバリューを言語化し、制作フェーズまで一貫してプロジェクトチームの視座を揃えた。
  • プロジェクトを通して、百貨店の屋上空間体験を時代変化に即したものに刷新。幅広い世代とのコミュニケーションが生まれるフレキシブルな空間へと生まれ変わらせた。

Outputs

家具制作のコンセプト

京都で暮らす人々から愛され続ける老舗百貨店、そのなかでも特別な「屋上広場」という空間を「親から子へ、子から孫へと、日常の中にあるあたたかい記憶として語り継がれる場所」として再定義。コンセプトは世代を超えた循環とコミュニケーションの象徴となる場の在り方として、プロジェクトメンバーにとっての指針となりました。

大丸京都店 屋上広場「ことほっとてらす」

船場が設計・制作を手がけた家具には、森林の持つ課題の解決に貢献するエシカルデザインの手法が取り​​入れられています。また、多目的に使用される屋上広場のアクティビティにあわせて柔軟に空間のレイアウトを変更できるフレキシブルな設計となっています。
素材や形状、機能、体験、コミュニケーションへの影響に至るまで、本プロジェクトで得られた知見とアイデアが存分に反映されました。

「ことほっとてらす」の家具設置風景

「ことほっとてらす」の家具設置風景

一緒に座った人と椅子の揺れを通じてコミュニケーションが生まれるベンチ。偶然居合わせた人同士の新たな出会いや交流が促される仕掛けが施された
椅子にしたり、繋げて大きなテーブルにしたりと、自由にレイアウトできる可変性のある形を再現

大丸京都店 屋上広場「ことほっとてらす」について

憩う・遊ぶ・飲む・語る…ますます楽しく、屋上広場「ことほっとてらす」が一新!
あたらしくみんなが集える、ユニークな家具を配置。家具には京都 京北町の森で育った杉、けやき、椿をはじめ、通常は使われない曲がった木、今では使われる機会が少なくなった磨き丸太も用いています。触れると木材の温かみを感じます。高さいろいろの六角形スツールは、思い思いに座ったり、くっつけてテーブルがわりにしたり。揺れるベンチは、隣の人と一緒にゆらゆら、楽しいコミュニケーションが生まれます。憩いの場、子供たちの遊び場、あるいはデパ地下のテイクアウトで青空ランチや外飲みもOK。様々なイベントも計画していきます。(大丸京都店プレスリースより)

【関連リンク】

  • 大丸京都店 8階リニューアル情報はこちら
  • 株式会社船場 プレスリリースはこちら

Process

ワークショップ

「子ども、孫の世代に継承されていく大切な記憶とは?」という問いに向き合いながら、地域に根ざした老舗百貨店の広場ならではの体験と家具の姿を描くワークショップ。

世代を超えた繋がりや普遍的な営みを思索するための場として、浄土宗 龍岸寺さんに会場としてご協力いただきました。また、クリエイターとして、大工ユニット「無類工務店」の山下尚吾さんと下川祥央さん、プランツディレクターの鎌田 美希子さんにご参加いただき、建築や家具、空間デザインの実制作についての要点を踏まえながらも固定観念にしばられないアイデアの創出を試みました。

浄土宗 龍岸寺でのワークショップの様子

浄土宗 龍岸寺でのワークショップの様子

浄土宗 龍岸寺でのワークショップの様子

「無類工務店」山下尚吾さん
プランツディレクター鎌田 美希子さん

京北の森視察

制作パートナーの一般社団法人パースペクティブ 高室幸子さんの案内のもと、京北の森、製材所を訪問。木材を知るだけでなく、京都の文化産業を支えてきた産地の歴史や現代の森の課題についても学び、素材と向き合いながら家具制作のインスピレーションを探しました。最終的な家具制作に際しても、京北の木がさまざまな形で取り入れられています。

プロトタイプ検証

プロトタイプ検証では、プロジェクトメンバー以外のステークホルダーも招き、ワークショップで生まれたアイデアをもとに設計、試作された実寸大のモックを用いて、機能性や安全性、空間に与える影響についてのディスカッションを行いました。

大丸京都店屋上現地での、プロトタイプ検証の様子

プロジェクト概要

  • プロジェクト期間:2022年7月〜11月
  • 体制
    • クライアント
      • 株式会社 船場
      • 大丸京都店(株式会社 大丸松坂屋百貨店) 
    • 株式会社ロフトワーク
      • プロデューサー:木下浩佑
      • クリエイティブディレクター:圓城史也 
    • 制作パートナー

Member

北浦 佳奈

北浦 佳奈

株式会社大丸松坂屋百貨店
大丸京都店 営業3部

荒井 俊貴

荒井 俊貴

株式会社 船場
WEST事業本部 関西設計第2DIV. デザイナー

圓城 史也

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

木下 浩佑

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto ブランドマネージャー

Profile

メンバーズボイス

“本プロジェクトは当社のサスティナビリティ方針である“人々と共に、地域と共に、環境と
共に”をまさに具現化したプロジェクトであったと感じます。WSを通じて業種の垣根を超
えこの百貨店の屋上空間について議論し、京都の森を背景から現場の空気まで全身で感じ
たものをアウトプットできたこのプロセスは当社だけではとても成しえないものでした。
またクリエイターの皆さまからの専門性に溢れたアイディアはとてもプロジェクトの刺激
となり、今回のアウトプットに大きく影響がありました。こうしてたくさんの人の想いが
詰まってできた空間で、訪れる人たちが木に触れながら思い出を重ね、それが地域のもの
がたりの一部になり、京都の森のちいさな光になればうれしいです。”

株式会社大丸松坂屋百貨店 大丸京都店 営業3部 北浦 佳奈

“当社が進めるエシカルデザインの中で、今まで以上に気付きや広がりを得られたプロジェクトでした。”共に創る”という大丸京都店さまからのお題の中で、計画の初期段階からプロジェクトメンバーに加えて、多角的な知見を持つクリエイターの皆さまに参加頂き、ワークショップや京北の森での体験を早い段階で共有・共感できたことは、プロジェクトメンバー間の団結力が強いものになりました。また、ワークショップ以外でもメンバー内で、屋上空間の在り方を考える会話が生まれ、最終的に、当社だけでは生み出せなかったアイディアや空間の使われ方を設計に取り込むことができました。今後とも共創仲間を増やしていき、現状の設計手法にとらわれないプロジェクトを推進していきたいです。”

株式会社船場 WEST事業本部 関西設計第2DIV. デザイナー 荒井 俊貴

“普段の暮らしの中でも馴染みある大丸京都店さんの大きな節目に携わらせていただいたことを大変光栄に思います。ワークショップを通じて皆さんとお話をする中で、「先義後利」の思想のもとに京都の文化を作ってこられた歴史から、今にいたるまでの様々な実践と取り組みを知り、感銘を受けました。その上で、大丸京都店さんの未来について船場さんや、個性豊かな制作パートナーの皆さまも交えながら、たくさん語り合うことができ、その時間自体を素敵なものに感じながら、終始楽しく取り組ませていただきました。またその中で、「自分にとっての大丸京都店さん」という1人1人の視点やストーリーが自然と垣間見え、今も変わらず地域に愛される存在であることを改めて感じました。そうして皆さんと一緒に紡ぎ出したコンセプトを大切にしていただき、家具や空間という形となって反映されたことを、とてもうれしく思います。多くの方に使っていただきながら、長く愛される場になっていくことを願っています。関わってくださった全ての皆様に深く御礼申し上げます。”

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 圓城 史也

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