マクセル株式会社 PROJECT

未来の存在意義を探索する “新”創造拠点
マクセル「クセがあるスタジオ」

Outline

継続的な活動を生み出し、未来を創る新拠点をオープン

マクセル株式会社(以下、マクセル)は、1961年創業。エネルギー、機能性部材料、光学製品などを製造する日本の電機メーカーです。その社名/ブランドは、創業製品である乾電池のブランド名「Maxell(Maximum Capacity Dry Cell=最高の性能を持った乾電池)」に由来します。電池や磁気メディアの製造で長年培ってきた「まぜる」「ぬる」「かためる」のアナログコア技術で、私たちの生活に欠かせないさまざまな製品を開発、製造しています。

そのマクセルが2024年4月、京都府大山崎町にオープンしたアート&テクノロジー・ヴィレッジ京都(以下、ATVK*)に「クセがあるスタジオ」をオープン。「クセがあるスタジオ」は、同社が大切にしている複雑で繊細な領域のモノづくりを実現するために欠かせないアナログコア技術に基づき、「教育、学びのコンテンツ提供」「新規プログラムの構築・実施」を通して、社会へ貢献し、未来の存在意義を探索する今後のマクセルを表現するスタジオとしてオープンしました。

本プロジェクトは、マクセルが運営するブースの開業に向けて、同社と株式会社FM802、ロフトワークの三社の協業により発足。ロフトワークはプロジェクトの全体進行を担当し、ブースの建築設計、コンセプトの策定と、施設名称およびロゴマークのクリエイティブディレクション、施設運営におけるプログラムの計画を行いました。
今回、マクセルの企業価値向上やブランディングに繋げていくため、シンボルとなる拠点づくりと並行して行ったのが空間で行うプログラム設計です。次世代を担う人々との接点を生み出し、彼らを支援することに繋がるようなアワード「クセがあるアワード:混」を企画。オープン前からオンライン・オフラインを掛け合わせたコミュニケーションをスタートさせ、認知を高めると共に人々が混ざり合う場づくりを目指しました。

また、拠点運営において、長期的な視点を持ち社会的な効果・インパクト創出を目指して活動の改善や意思決定していくことが重要であると考え、ロジックモデルを用いて事業のロードマップを描いています。今後、継続的なアワードやマクセル主催の学びのプログラムなど複合的な活動を重ねながら、同社の新たな価値を探索し、発信する場に育てていきます。

*ATVK文化・芸術の力を生かし、アートとテクノロジーを融合させた新たな産業を創造し、起業を促すとともに、次世代を担う起業家や企業の中核を担う人材育成を行うオープンイノベーション拠点として設立されました。

プロジェクト概要

  • クライアント:マクセル株式会社
  • プロジェクト期間:
    • 2023年6月〜2024年3月(建築設計・施工)
    • 2023年10月〜2024年3月(アワード開発)
  • ロフトワーク体制
    • プロジェクトマネジメント:クリエイティブディレクター 村上 航
    • 空間デザインディレクション、FF&E選定調達:MTRLクリエイティブディレクター 小林 奈都子
    • クリエイティブディレクション:クリエイティブディレクター 加藤 あん
    • ソフトプログラム設計:シニアディレクター 国広 信哉
    • プロデュース:プロデューサー 小島 和人
    • イニシエーター:京都ブランチ共同事業責任者 上ノ薗 正人
  • 制作パートナー

執筆:野村 英之
撮影:足袋井 竜也
企画・編集・聞き手:横山 暁子(loftwork.com編集部)

Outputs

「クセがあるスタジオ」

京都府大山崎町、マクセルの敷地の一部がアートとテクノロジーの混ざり合うオープンイノベーション拠点に生まれ変わりました。「クセがあるスタジオ」はその一画に位置する約100平米のスタジオです。これまで出会うことのなかったクリエイターやアーティスト、エンジニア、まだ見ぬ新たなプレイヤーそれぞれが持つ“クセ”を掛け合わすことができる拠点が完成。クリエイターやアーティストによる展示やイベントから、マクセルの技術を体験できるワークショップまで。ものづくりに携わる人の感性やテクノロジーが混ざり合うようなプログラムが開催されることで、未来の日常を生み出していきます。

「クセがあるスタジオ」

「クセがあるスタジオ」のキーワードは“ちょっと先の 魔法をつくる”。期待感や高揚感を与えるデザインに仕上げました

「クセがあるスタジオ」のキーワードは“ちょっと先の 魔法をつくる”。期待感や高揚感を与えるデザインに仕上げました

空間に合わせて、家具もディレクション。ロゴマークを模したデスクもオリジナルで製作

「クセがあるスタジオ」のキーワードは“ちょっと先の 魔法をつくる”。期待感や高揚感を与えるデザインに仕上げました

ステートメント/コンセプト

マクセルの中心から未来へ。
デジタルがあふれる世の中だからこそ、
アナログな技術や心もたいせつにしたい。
そんなちょっとクセがあることをマクセルは考えています。
人類の歴史をふりかえると、アートやテクノロジーは、
ある種のクセのようなものなのかもしれません。
個性であり、創造性の原点にもなりえる、
いろんなクセにマルをつけていきましょう。
常識にとらわれず、「まぜる」「ぬる」「かためる」。
クセをかけあわせることで、きっと新しい世界が生まれる。
マクセルの中心には、クセがある。
未来の中心にもきっと、クセがある。

ロゴマーク

「マクセルの中心には、クセがある」を表すロゴマーク。ネーミングでは(1)「場所」であることが伝わる、(2)アナログ感がある、(3)印象に残る名前、(4)口に出したときのワクワク感を大事にしました

Process

Approach

ハードとソフトを両軸で設計し、機能的かつ活動が生まれる空間設計を実現

ワークショップを通じて、新拠点がどんなシーンでどのような目的で使用される場所なのか、キーワードやターゲット像を言語化。展示やイベントを通して、地域近隣住民やアーティストなど多様な領域の人々と交流を持つこと、マクセルの「アナログコア技術」と親和性の高い「アート」領域と融合した新たな取り組みをアピールし、力強いブランド発信を行う場としていくことを定めました。
拠点をつくっただけではこれらの目的は果たせません。そこで、空間設計と並行して、スタジオを具体的にどのように使用していくのか、空間に入れ込むソフトプログラム設計を行いました。企画したのは次世代のクリエイターやイノベーターがチャレンジできるアワード「クセがあるアワード」です。オープン前の2024年4月1日から募集をスタートし、2024年8月6日からの約1ヶ月間はファイナリストによる展示会を控えています。マクセルが「クセがあるスタジオ」から今後何を行っていくのか—— アワードという長期的なイベントを実施することで空間のムードを高め、認知を広げていく狙いです。

また、「クセがあるスタジオ」の建築プロセスで”展示ができる空間機能”を取り入れられたのは、建築デザインというハード面と、アワード企画というソフト面の両軸でプロジェクトを進めてきたからこそ。空間にアセットされた作品展示のための機能。この独自性は、「展示まで行うことができるアワード」というアワード応募者への訴求ポイントにもなっています。

可動間仕切りの機能を兼ね備えた展示ウォール

可動間仕切りの機能を兼ね備えた展示ウォール

テーブルと展示台、2つの機能を持つオリジナル什器

展示ウォールを移動すると、広々としたイベント会場に

アワードと展示を通じて、次世代を担う若者との接点を生み出す

「クセがあるアワード」は、若年層に向けてこれからの未来をつくる作品を一般公募し、表彰し、展示し、その継続によって新たな関係人口を増やす仕組みです。本アワードには次世代のクリエイターやイノベーターを支援したいという思いが込められています。
継続的に実施するアワードの初回に選んだテーマは「まぜる」。アナログなプロダクトから生成AIの活用まで、ユニークで先端的な作品の応募が期待されます。また、公募にとどまらず受賞作品の展示会を掛け合わせ実施することで、クリエイターのみならず、作品を見る応募者の知人・友人やマクセルの社員、アンバサダーや審査員へ興味がある人、さらには地域住民などへのアプローチも企図しました。

マクセルはBtoB事業の特性上、特に若年層への認知やブランディングに課題を抱えていました。展示や同世代のアンバサダーの発信などをきっかけに、新たな繋がりができたり、自身の潜在的なクリエイティビティに気付いたりする。若年層が作品や空間と出会うなかで、マクセルとも自然に関われるような演出を行っています。

クセがあるアワード:混

「クセがあるアワード:混」は次世代のクリエイターやイノベーターのチャレンジをマクセルが支援する、アート&テクノロジーアワードです。第1回目のテーマは「( )と( )をまぜてみた」。夏には「クセがあるスタジオ」にて、ファイナリスト8名によるグループ展を予定しています。

応募者として実際に参加しながら、アワードを盛り上げるアンバサダーにはコンテンツクリエイター/文筆家である藤原麻里菜さんが就任。審査員には「ピタゴラスイッチ」等を手がけるNHKエデュケーショナル プロデューサー佐藤正和さんや、アーティスト、デザイナー、研究者の福原志保さん、TANK酒場/喫茶マスターのフルタニタカハルさん、マクセル株式会社 執行役員 佐野健一さんを迎えます。

アンバサダー

藤原 麻里菜

藤原 麻里菜

コンテンツクリエイター,文筆家
株式会社無駄 代表取締役社長

審査員

佐藤 正和

佐藤 正和

NHKエデュケーショナル
プロデューサー

福原 志保

福原 志保

アーティスト,デザイナー,研究者
Poiesis Labs CEO

フルタニ タカハル

フルタニ タカハル

TANK酒場,喫茶 マスター
アートディレクター/DJ

佐野 健一

佐野 健一

マクセル株式会社
執行役員

『クセがあるアワード:混』アワード詳細はこちら>>
応募期間:2024年4月1日-2024年5月24日

中長期視点のロードマップを描き、インパクト創出を目指す

社会的な効果・インパクトを目指して活動の改善や意思決定を行い、インパクトの向上を行う「インパクトマネジメント」。それを可視化するツールとして「ロジックモデル」を用いて、今回の事業のロードマップを仮説しました。ATVKで目指す社会インパクトと、それに向けてマクセルが「クセがあるスタジオ」を通じて行う活動、それによる効果との結びつきを描いています。このモデルはマイルストーンごとに今後見直し、インパクト測定と活動のチューニングを実施します。

目指す社会インパクトへの道筋に加え、京都府の構想とマクセルの構想が交わる融合点をロジックモデルで表現

Member

村上 航

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター / なはれ

Profile

小林 奈都子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

国広 信哉

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター / なはれ

Profile

加藤 あん

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター / なはれ

Profile

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室

Profile

上ノ薗 正人

株式会社ロフトワーク
京都ブランチ共同事業責任者

Profile

メンバーズボイス

“「マクセル京都本社横にオープンするアート&テクノロジー・ヴィレッジ京都内に、アートとテクノロジーが互いの領域を超えて混ざり合う場を創出すべく、マクセルのブースを建設する」、それが今回ロフトワークさんと進めてきた本プロジェクトのスタートでした。
すべてがゼロからのスタートでしたが、「ちょっと先の魔法をつくる」をキーワードにさまざまな方と何度も議論を重ね、「アナログコア技術」「複雑で繊細な領域のモノづくり」というマクセルが創業以来大切にしてきた価値観が結びついた「クセがあるスタジオ」をオープンすることができました。今後、1年、5年、10年先に、ここ『クセスタ』で、マクセルと次世代を担うアーティスト、エンジニア、フォロワー、そして新たなプレイヤーと、これまで出会わなかった感性やテクノロジー、創造性が混ざり合い、新たな価値を生みだす、そんなワクワクする素敵な場所にしていきたいと思います。 今回のプロジェクトはとても貴重でよい経験でした。ロフトワークの皆さま、ありがとうございました。”

マクセル株式会社 アセット施設部 部長 寺井 晋矢

“ATVKの名前にちなんで、建築を取り巻く外周部のワイヤーは、ストリングアートであり、テクノロジーの要素を持った構造ワイヤーであり、自然の要素を持った緑化ワイヤーでもあります。ひとつの要素が「複合的な意味を持つこと」はこの建築における大切なコンセプトのひとつとなりました。
オリジナル什器は、ワークショップの際には円卓となり、展示の際には空間に動きをもたらすクネクネとした展示台となります。また点在するワイヤーメッシュは、透過する展示壁であり、空間の大きさを可変させる建具でもあります。
建築を構成する各要素に複合的な意味を「混ぜ合わせる」ことで出来上がった、可変的で、重層的なこの空間に、これから様々なクリエイターの展示作品が折り重なることで、「ちょっと先の魔法」を感じさせる場として醸成されていくことを楽しみにしています。”

kvalito一級建築士事務所 水上 和哉

“ATVKの背景と目的を踏まえ、PJメンバーでワークショップを実施し、ブースにおけるビジョンや活動など仮説を元に発散し、内容を統合整理することで、運用・ターゲット・UX(ユーザーエクスペリエンス)をまとめました。さらに、ブースを通じて社員が獲得できることや必要なアクションなどを包括的に捉えて可視化し、デザインや設計へ反映しています。
このプロセスの中で、地域の子供達や学生、アワードに応募したアーティストやクリエイターのクロスポイントとなること、また、社内外問わず様々な人の感性を刺激する「ちょっと先の魔法」を作り出すことを重点に置きました。
こうして、ファサードを彩り日々成長している植栽のように、人々の創造や出会いの種が芽吹き育てる過程を楽しみながら、新しい未来に向かって活動できる「クセがあるスタジオ」が完成しました。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 小林 奈都子

“今回のプロジェクトではプロジェクトマネジメントを担当させていただきました。最もチャレンジング、かつ、面白かったポイントはハードとしての建築空間とソフトプログラムであるアワードの同時設計です。プロジェクト初期で定めた「ちょっと先の魔法をつくる」というキーワードを軸に建築設計とアワード設計を振り子のように往復することで「アワードで展示をするならこんな空間機能が必要だ」といったように、将来〈クセスタ〉にどのような風景をつくりたいかということをハードとソフトの両面で共通の思想を持ちながら進めていくことができました。
また、「アート&テクノロジー」という抽象度の高いテーマを〈クセスタ〉としてどう解釈して、空間やプログラム、そしてネーミングやロゴなどのクリエイティブへ反映していくのかということを、ワークショップやフィールドワークを通して、マクセルのみなさんと一緒に解像度を高めながら議論しプロジェクトを前へ進めることができたことも印象的でした。これから、どのような“クセ”がこの場に集まり混ざり合っていくのか、楽しみです!”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 村上 航

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社会課題解決に向け、地域に「共助」の仕組みをつくる
NECが挑む、新たな事業領域の探索