PROJECT

紙オムツとサステナビリティ
―Deasy プロジェクトレポート#3

全ての人が、その人らしく快適で、環境に配慮した暮らし方ができるために。

“オムツ / Diaper をより容易 / easy に扱える”というビジョンを、デザインの力で実現するプロジェクト「Deasy(デイジー)」。その取り組みを、全6回のレポートでお届けしています。第3回は、紙オムツの環境への影響にフォーカスします。

「漏れない安心感」や「さらっと快適な履き心地」を提供するために、高度な技術を組み合わせてつくられた紙オムツ。その中身には、高分子ポリマーやパルプ、プラスチック素材などが使われています。一方で、資源循環の視点から紙オムツの製造から廃棄のプロセスを見つめると、ゴミの分別やリサイクルの難しさ、焼却処理の負荷といった難しい課題が見えてきました。

そこで、プロジェクトチームは福岡県で紙オムツの再利用に取り組む企業、トータルケア・システム株式会社の長社長にお話を伺いました。同社による地域ぐるみの紙オムツ再利用システムづくりから、未来の排泄デザインにつながるヒントを得ました。

執筆:飯澤 絹子・加藤 修平(株式会社ロフトワーク)
編集:loftwork.com編集部

前回のレポート:

#2「紙オムツ生活」をユーザー視点で捉え直す

まずは紙オムツ利用者とそのケアを行う人の生活へのインパクトについて知ることをテーマにリサーチを実施。ケアをされる側は不快な思いを抱き、ケアをする側はいつまで続くかわからない状況もあり、負担とストレスを感じてしまう現状に触れました。しかし、適切な排泄ケアの知識を取り入れることで、それらの負担やストレスを軽減するだけでなく、排泄障害の改善にもつなげられることがわかりました。…詳しく読む

プロダクトの構造からみえた課題―紙オムツ解剖実験

紙オムツの資源循環について考える上で、まずは使われている素材や構造、そしてどのように紙オムツが作られているのかを知るために、紙オムツの解剖実験を行いました。ご協力いただいたのは、日本科学未来館の科学コミュニケーター伊達雄亮さんです。

日本科学未来館の科学コミュニケーターとして活動をしている伊達さんは、過去に紙オムツの開発に携わっていた経験を持っています。自らをオムツマイスターと名乗り、誤って紙オムツを洗濯機で洗ってしまったときの対処方法などを分かりやすく発信しています。

Deasyプロジェクトのメンバーは、伊達さんの指導のもと紙オムツの解剖にチャレンジしてみました。

まず用意するのものは、

  • 紙オムツ
  • コールドスプレー
  • 食紅(青)
  • 霧吹きスプレー
  • ポリエチレン手袋

まず、素材同士をつないでいる接着剤を剥離し、表面材をはがして紙オムツを分解します。コールドスプレーを吹きかけて冷却することで、接着部分をきれいにはがせます。

次に、表面材を外して顕になった、紙オムツの構造を観察します。吸収体と防水剤(バックシート)と外装材で成り立っています。

その構造は、排泄物をキャッチする吸収材が中央にあり、肌に直接接する表面材と排泄物のおむつ外への漏れを防ぐための防水材が吸収体を覆っています。防水材のさらに外側には、おむつを体に密着させる目的でテープなどの「外装材」がつけられています。吸収体には、吸収紙、綿状パルプ、高分子吸収剤(ポリマー)が入っています。内部では、綿状パルプとポリマーが複雑に絡み合っています。

さらに、高分子ポリマーが水分を含んで膨張する様子を観察します。吸収体部分に、霧吹きスプレーで青い食紅で着色した色水を吹きかけると、水分を吸収するための高分子ポリマーが見えてきました。乾燥時は砂のような小さな粒ですが、吸水後は粒同士がゲル状にふくらんで固まり、ぷにょぷにょという感触がしました。

紙オムツの解剖実験に参加したメンバーからは、

漏れないようにするためとはいえ、こんなに上質なパルプをたくさん使っているなんて、もったいない。

また、高分子ポリマーの粒の小ささを見て、

高分子ポリマーを分離して回収するのは簡単ではなさそう。

などの感想が出ました。

テープタイプ(左上)パンツタイプ(中央上)パッドタイプ(右上)。青く着色している部分が吸収体(右下)。

紙オムツの環境負荷とは?

分解してあらためて分かった、複雑な素材の組み合わせでできている紙オムツ。年間224〜241万トン(2015年度推計値、環境省)もの使用済み紙オムツが排出されていると言われ、2030年度には年間290〜316万トンほどになると推計されています。

その環境負荷に関する問題は、大きく2つあります。

  1. 分別が容易ではない:紙オムツはパルプや樹脂、高分子ポリマーと言った複数の素材からできていますが、利用者個人では使用済み紙オムツは素材ごとに分別することができません。吸水する素材も、そうでない素材も、一緒になったままです。つまり、特殊な作業を行って分別しなければリサイクルすることができません。
  2. 焼却時のエネルギー負荷が高い:使用済み紙オムツは高分子ポリマーが水分を吸収しており、水分量が多いのが特徴。水分が多いごみは焼却する際に炉内の温度低下を起こすため、補助燃料を追加投入する必要があります。そのため、紙オムツゴミを焼却する際には、CO2をより多く排出してしまいます。

さらに、前回までのレポートでもお伝えした通り、利用者の視点からは廃棄する負担が大きいことも深刻な問題です。使用後の紙オムツは使用前の約4倍になると言われています。運動能力が低下した高齢者が自身で紙オムツのゴミを捨てることは、怪我にも繋がりかねません。うまく集積所まで運べずに、家の中でたまり続けていることもあるようです。

地域ぐるみで紙オムツを資源循環する―トータルケア・システム株式会社

福岡県大牟田市に工場があるトータルケア・システム株式会社では、地域ぐるみで紙オムツのリサイクルを行っています。さらに、リサイクルした素材から新たな紙オムツを作る試みや、介護者にむけて正しい紙オムツの利用方法に関する知識を伝える活動も実践。紙オムツを使う人のことを第一に考えながら、資源循環社会の実現に向けて取り組んでいます。

トータルケア・システム株式会社の工場「ラブフォレスト大牟田」(同社ホームページより)

“紙オムツを焼却処分する時代を終わらせたい。”

トータルケア・システム株式会社代表取締役の長さんはこのように語ります。

紙オムツのリサイクルを事業化したきっかけは、1996年の埼玉県所沢市のダイオキシン問題でした。これからは紙オムツを焼却する時代ではない。リサイクルするにはどうすればいいかと。

考えた末に、オムツに含まれる高分子吸収剤(ポリマー)が塩に弱いという性質に着眼しました。この性質を活かして、水溶化処理による素材回収方法を開発したのです。そこから、紙オムツの製造企業や販売企業を主要株主として巻き込み、2001年に会社を設立。15年をかけて、事業を軌道に乗せました。

トータルケア・システム株式会社のプレスリリースより

上図のフローで紙オムツを回収して、エコパルプ、回収プラスチック、パルプ含有サップとして分別、リサイクルする方法を開発し、事業化した同社。2020年4月からは凸版印刷株式会社と住友重機械エンバイロメント株式会社の3社でリサイクルシステムの構築とその後の事業展開に関する協議を開始しています。

しかし、リサイクルを実現するには家庭や病院、介護施設等から排出される使用済み紙オムツを回収する仕組みが不可欠です。さらに、地域住民ひとりひとりが分別回収に対応しなければ成り立ちません。

厚生労働省「介護保険事業状況報告」によれば、65〜74歳の自立生活者は9割以上で、75歳以上であれば7割以上。推計すると、65歳以上の人口のうち、約8割が元気であると考えられました。そこで同社は、事業を行う福岡県大木町のシルバー人材センターと連携し、オムツゴミを出すことが困難な2割の高齢者に向けて、「ゴミ出しサポート事業」「お困りサポート事業」をスタート。困りごとを持つ人々の問題を解決すると同時に、元気な高齢者が地域で活躍できる仕組みづくりを実践しています。

福岡県大木町で行われている紙オムツリサイクルの流れ(北九州市立大学松本亨教授のDeasy勉強会登壇資料より)

リサイクルの成果

北九州市立大学 国際環境工学部で、サステナブルな社会経済システムに関する研究を行っている松本亨教授*は、トータルケア・システム株式会社の紙オムツリサイクル事業に対する環境影響評価を行いました。

松本教授によると、同社が行っている廃棄物を製品原料として再利用する紙オムツリサイクルのCO2排出量は、通常の焼却処理と比べて1/3以下だといいます。その理由は、同社のリサイクル方法は水や電力使用量の増加こそあるものの、これまでの焼却処理と比べて焼却にかかる燃料消費量が少なること、さらに廃棄物の燃料利用により他産業における石炭燃料使用量を大幅に削減できること。さらに、木材を原材料にしてパルプを製造する際と比較したときに、原材料の調達にかかる環境負荷がかなり少ないためです。

松本教授は住民協力の観点からも調査を行いました。紙オムツの分別回収を実践している福岡県大木町の住民調査では、「オムツごみを出す日を気にする必要がなく便利になった」「匂いが気にならず家の中が衛生的になった」という好意的な声が多く、「分別がわずらわしい」という意見はほとんど見られなかったそうです。

*引用元:北九州市立大学 大学院 環境工学研究科 松本・藤山研究室

固定観念を超えて「人にも環境にも優しい」を両立する

トータルケア・システム株式会社は「環境に良いことを行うには、我慢を強いられ、負荷がかかるもの」という固定観念を超えて、人にも環境にも優しい仕組みづくりをデザインしていました。
リサイクルのプロセスを確立するだけでなく、それが実現できるように地域コミュニティも巻き込む。Deasyプロジェクトでも、地域の巻き込み方をデザインする視点が必要だと感じました。

排泄の未来をデザインすることは個人や企業・組織単体で実現することは不可能です。産学官の共創コミュニティであるDeasyプロジェクトが取り組むべき課題は、

  • 使用者が求める紙オムツの機能性は保ちながら、廃棄のプロセスを含めて利用者の使いやすさを担保すること。
  • 資源循環への配慮と市場性を両立できる紙オムツを実現するための技術革新と実践。上記を実現するために、様々な業界と、地域を横断するコミュニティをつくること。

地域コミュニティをどのように巻き込み、プロジェクトをドライブしていくのか。何をどう変えたいのか、実現可能かどうかなど、業界や組織、官民を超えて考えていく必要がありそうです。

海外では、自然に還る紙オムツの開発もはじまっています。例えば、ベルリンのスタートアップのDycle土に還せる素材で紙オムツをつくり、堆肥にして安全な土をつくって有機果実を育てることで、オムツを通して家族の絆、近隣との絆、自然とのつながりを深めて笑顔の輪を広げることを実践しています。

私たちには、本レポートを読んでいるみなさん自身には、どんなことができるでしょうか。身近なちょっとした課題感や気付きが、未来をデザインすることにつながっているのかもしれません。

前回、今回と2回のレポートで、紙オムツを使う人・ケアする人の「生活へのインパクト」と紙オムツの「環境へのインパクト」についての学びや実践をお伝えしてきました。
次回は、固定観念に囚われずに「排泄の未来」を描いていった先人たちのエピソードをご紹介します。思いも寄らないアイデアで世の中を賑わせた方、地球とは全く異なる環境での排泄処理システムづくりに取り組む方の実践は刺激的でした。
次回もお見逃しなく!

*参考:松本亨, & 益田富啓. (2014). 紙おむつ分別回収事業と高齢者等ごみ出しサポート事業の実態調査. In 廃棄物資源循環学会研究発表会講演集 第 25 回廃棄物資源循環学会研究発表会 (p. 21). 一般社団法人 廃棄物資源循環学会.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/8/1/8_37/_pdf

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