PROJECT

「紙オムツ生活」をユーザー視点で捉えなおす
―Deasy プロジェクトレポート#2

「漏れ」の心配がある人々の快適な暮らしをささえている、紙オムツ。“オムツ / Diaper をより容易 / easy に扱える”というビジョンを掲げるプロジェクト「Deasy」は、たとえ紙オムツが必要になっても、その人にあった快適で環境に配慮した暮らしができる社会を、デザインの力で実現していきます。

前回の記事(なぜ今、排泄の未来をデザインするのか― Deasy プロジェクトレポート#1)では、未来の排泄をデザインするために、意識を向けるべき3つの要素:紙オムツを使用する人・それを支える周囲の人たちの生活への、心理的、作業的、コスト的なインパクトを「生活への影響」汚物処理・下水道処理システムの開発、設置・改修、ランニングコストを「社会的なコスト」原材料の調達や製造の過程、廃棄物の処理が自然環境に与えるインパクトを「環境への影響」と呼び、紹介しました。

今回は、「生活への影響」をテーマに、プロジェクトチームによる実体験を含めた現場でのリサーチを通じてわかった、オムツ利用者とケアをする人の負担を減らすための課題と実践について紹介します。

執筆:飯澤 絹子・加藤 修平(株式会社ロフトワーク)
編集:loftwork.com編集部

紙オムツを履いてみて、わかったこと

「紙オムツを使用するのはどんな気持ちなんだろう?」まずは、普段紙オムツとの関わりがあまりないプロジェクトメンバーのそれぞれが、紙オムツを買ってみることからリサーチをはじめました。

周りの視線を気にしつつ、たどりついたスーパーの棚を見て、まず感じたのは紙オムツの種類の多さ。「どれを選んだらいいのかわからない」というのが素直な感想でした。

コストについて、形や吸水性などの機能にもよりますが、下着と同じ形をしているパンツタイプだと1枚70円程度。1日に5回取り替えると想定すると、1日あたり350円。1ヶ月で1万円ほどかかる計算になります。漏れない安心には替えがたいですが、けっして安くはありません。

つぎに、履き心地を確認します。家に持ち帰って履いてみると、まるで「生理用ナプキン」のような感じ。男性メンバーは慣れるまで蒸れが気になって不快なようでした。実際に使おうとなると「どこに捨てたらいいのか?」「臭いはどうするの?」「周りからどう思われるだろうか?」と途端に不安に見舞われ、結局、排泄することはできませんでした。

すこし履いてみただけで、不快さや使用後の処理への不安で、頭の中がいっぱいになりました。これで毎日排泄しなければならないとしたら? その生活へのインパクトの大きさを実感しました。

利用者と介護者の負担を減らす、排泄ケア―坂町ミモザの家

紙オムツ使用者や、そのケアを担う人たちの日々の負担を減らすための「排泄ケア」とはどういったものなのでしょうか。プロジェクトメンバーは、実際に取り組みを行っている現場を見てみることにしました。

お邪魔させてもらったのは、東京都新宿区にある、排泄ケアに取り組んでいる看護小規模多機能型居宅介護サービス「坂町ミモザの家」です。

看護師が常時在中している「坂町ミモザの家」では、日常生活を送る上で医療・介護サービスが欠かせない人や、最期まで自宅で家族と一緒に暮らしたい終末期の患者が通ったり、短期滞在したりするかたちで、地域に住み続けながら自分らしく生活するためのサポートをしています。

介護の中でも負担が大きいといわれている排泄ケアですが、「坂町ミモザの家」では、排泄ケアについての専門知識をもったスタッフが常駐しており、利用者本人や家族の暮らしに合った方法で排泄ケアをっています。その方針は、オムツを利用するのではなく、できるだけトイレで排泄できるようにしていること。本人が自立して排泄できることが、気持ち良い排泄につながり、紙オムツの使用量の削減になり、周りで支える家族の負担を減らすことにもつながるといいます。

「坂町ミモザの家」では、利用者に向けて以下のような排泄ケアを実践しています。

  • スタッフが利用者の排泄のサインを見逃さず、「そろそろトイレに行きませんか?」と声を掛けることで、トイレで排泄できる機会を増やす。
  • 一人ひとりのサイズに合った紙オムツを使用する、められた利用回数で利用するなど紙オムツの適切な扱い方をってもらうこと。また、適切利用を行うこと。(例えば排泄後の紙オムツは廃棄の際にゆすいできれいに洗うなど。)
  • 施設滞在中に排泄がおこる時間帯の周期を把握し、ご家族にも報告すること。これにより家庭でも円滑に排泄できるように引き継ぐことを徹底する。

「坂町ミモザの家」では、紙オムツはあくまで選択肢のひとつとしてとらえ、なるべくトイレで、自分の力で排泄できるようにしていると感じました。

正しい排泄ケアの知識を持つ人材を育てる―榊原千秋さん

介護現場における排泄の課題についてさらに詳しく知るために、排泄ケアの専門人材の育成に取り組んでいる、「コミュニティスペース ややのいえ」榊原千秋さんにお話を伺いました。保健学博士、保健師、助産師、看護師でもある榊原さんは、石川県小松市において、だれでも気軽に排泄の相談ができる場を運営しています。

榊原さんは、「排泄は欲求の土台である生理的欲求を左右するため、排泄ケアは命・人生・生活にかかわる問題。すべての人が気持ちよく排泄できる社会をつくるためには、排泄ケアの知識が広く知られることが必要ですと語ります。

しかしながら、現状では、排泄ケアに関する正しい知識をもった専門人材が圧倒的に足りていないそうです。

西洋化によって日本人の食生活が肉類中心になったことで、50年前と比べて大腸がんなど腸に重大な疾患を抱える人や、寝たきりによる便秘傾向をもつ利用者が増えています。その結果、ひとりで排便できない利用者が多い介護施設では、不必要なまでに下剤を多用することで排便のタイミングをコントロールするケースがあると言われています。

自分が排泄ケアを受ける立場だったらどう思うでしょうか。介護される側からは、「寝たきりであること以上に、排泄の問題がつらい」という声も上がっているそうです。

榊原さんは「排便の問題を改善できない人はいない。必要なプロセスを踏めていないから問題であり続けているだけで、正しい知識を持ってケアをすれば、かならずよくなる」といいます。

榊原さんは金沢大学で研究を重ね、排便ケアのプロフェッショナル「POO(プー)マスター」を養成する研修プログラムをつくりました。病気や障がいがあっても、誰もが気持ちよく排泄できるように、食事・移動・薬剤・精神的ケアなどの排便ケアの共通言語を持ったチームアプローチができる人材として適切なアセスメント、排便ケア方法の選択、ケアを継続的に組み立てられる人を育成しています。

2014年、第27回日本老年泌尿器科学会で、この研修プログラムの成果は学会賞を受賞。現在、日本全国に研修会が広がっています。あるPOOマスターの方は「将来介護施設に入るとしたら、POOマスターのいない施設には入りたくない」と話されていました。それほどまでに、正しい排泄ケアがあるかどうかが介護施設利用者の日々の生活に及ぼす影響は大きいのでしょう。

予防・改善の視点から

榊原さんによれば、排泄の問題の予防や改善もまた、大切な排泄ケアのひとつ。長く健康な排泄を保つには、正しい知識のもとで適切な食事やトレーニングをすることが必要です。

わたしたちも今すぐできることとして、近年注目されている“腸活”や運動、排泄時の体勢があるといいます。たとえば、

  • 発酵食品を摂ることで腸内細菌を育てる。
  • おくらや納豆などのねばねばした食べ物を食べることで便のすべりをよくし、腸の状態を良好に保つ。
  • 他にも朝日を浴びて毎日30分以上運動することで副交感神経を優位にする。
  • 排泄するときは便座に座って、上半身を前屈みにすることでいきまず排泄しやすくする。

こうしたことを意識するだけで、気持ちよく排泄できるようになるといいます*。

また、うんちの状態を目視でチェックすることを「観便」といいますが、うんちの状態を日々記録することは排泄ケアの基本だといいます。最近では『ウンログ』という、手軽に排泄記録を録れるアプリが登場、60万人(2019年6月時点、Apple App Store プレビューサイトより)が利用しているそうです。

適切な排泄ケアの必要性と、人材育成という課題

「木を見て森を見ず」。それまで、「紙オムツ」というひとつの点での解決策を中心に排泄のことをとらえていたプロジェクトメンバーでしたが、点でなく「自分が気持ちいいと思える排泄」という一連の体験とその体験を支える適切な排泄ケアとして面で捉える必要があると感じました。

また、適切な排泄ケアをすることで、

  1. 紙オムツ利用者が健康的かつ気持ちよく排泄を行える。
  2. 紙オムツの使用量が減ることで、コストを抑えられる。
  3. 紙オムツから排泄物を取り除いてトイレに流すことで、使用済み紙オムツの保管と処理が楽になる。
  4. おむつ交換の頻度が減ることで、ケアする人の作業負担が減る。

まさに、一石二鳥を超えて一石四鳥にもなる道が見えました。

一方で、紙オムツ利用者が適切なケアを受けるためには、排泄ケアの専門知識をもつ人材をより多く育成していくための仕組みが必要であること、また、現状そういった専門人材が不足していることもわかりました。

オムツ利用者とケアする人への負担について理解が深まったところで、次回は紙オムツの環境への影響について考えます。原材料の調達や製造の過程、廃棄物の処理が自然環境に与えるインパクトや、持続可能の観点から紙オムツを利用するための社会システムについて、現状の課題と未来に向けたアプローチをご紹介します。

*:榊原千秋「排泄ケアのプロフェッショナルを目ざす人のためのおまかせうんチッチ MY own UNKO BOOK」木星舎を参照

坂町ミモザの家

四谷にある看護小規模多機能型居宅介護サービス。看護師が中心となって家での暮らしのサポートを中心に行っています。介護保険内で利用ができます。
http://www.cares-hakujuji.com/services/mimoza

コミュニティスペースややのいえ

石川県小松市にある「子どもも若者も大人もお年寄りも、病いや障がいを抱えている方も、 ひとりの人として出会い、過ごせる居場所」をモットーに運営されているコミュニティスペース。日によってヨガ教室、セルフケア教室、カフェ、排泄相談を行なっているほか、排泄ケアの専門家であるPOOマスター養成講座を日本各地で開催しています。
http://sorabuta.com/

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