PROJECT

下水道からインクルーシブな社会システムをデザインする
―Deasyプロジェクトレポート #5(最終回)

社会インフラから創造できる、新しい価値とは

排泄の未来をデザインする産学官民プロジェクト「Deasy(デイジー)」は、これまで4回のレポートを通じて超高齢社会・日本における「排泄と紙おむつの問題」を起点に、排泄にまつわる社会システムの姿をたどってきました。その中で、「ユーザー視点からみた排泄ケア」と「排泄物の資源循環」に関する課題、さらに、「排泄におけるイノベーション」による機会領域の可能性について紹介しました。

これらを踏まえ、Deasyプロジェクトのメンバーは排泄を支える社会インフラ「下水道」を活用して、どんな新しい価値を生み出せるのかをアイディエーションしました。参加したのは、おむつメーカー、トイレメーカー、住宅・建築メーカー、医療福祉従事者、研究者など、様々な立場から「排泄のデザイン」に関わるメンバーです。

インフラとビジネスの両面から、人々のよりよい排泄を支えるための社会システムをいかにデザインできるか。プロジェクトレポートの最終回は、Deasyが目指す「排泄のデザイン」とは何かを改めて確認する機会となりました。

執筆:飯澤 絹子・加藤 修平(株式会社ロフトワーク)
編集:loftwork.com編集部

下水道が秘めている可能性

「下水道」と聞いたとき、どんなことを思い浮かべますか? 「臭い・汚い」といったネガティブなイメージを抱いていたり、「あって当たり前」のものとしてあまり関心を抱いていない人も多い*ようです。しかし、「資源循環」そして「超高齢化社会と排泄ケア」といった切り口から下水道をみつめると、そこには多くの可能性や新しい機会領域が見出されます。

Deasyプロジェクト発起人のひとりであり、国土交通省の取り組みである「下水道へのオムツ受入実現けた連絡会議」を推進している、明治大学 理工学部建築学科 園田眞理子教授が、下水道の新たなビジネスモデルとして「下水道 as a Service」という考え方について解説しました。

園田眞理子教授

as a Serviceが意味するのは、従来型のビジネスモデル―製品を「モノ」として捉えそれらを販売し利益を得るビジネス―ではなく、製品の有する機能を連関させ「サービスとして」提供することに価値を置くビジネスモデルです。園田教授は、都市インフラに対してもこのビジネスモデルを適用可能であると考えています。

これほど排泄にこだわるのは、排泄が人間とは何者なのかという実存的な部分にかかわっているからです。

すべての人間は排泄します。そう考えると、下水道 as a Service のお客様は全世界に77億人いると考えてもいいのではないでしょうか。下水道というインフラをサービスとして価値転換することと、その可能性を広げたいです。(園田教授)

たとえば、インターネットは電話回線や光通信回線といったインフラの上に、民間企業がプロバイダーや検索エンジンサービスといったアプリケーションを充実化させました。こうしてインターネットが全国に普及したことにより、コミュニケーションからビジネス、ライフスタイル、人々の思想に至るまで、社会のありようが一変しました。

同じ発想で、下水道にも民間によるアプリケーションを付加することで、「すべてのユーザーにとってより良い排泄デザイン」を実現し、新しい社会システムを構築できるのではないかと考えています。

はたして下水道には、どれほどイノベーションの可能性が秘められているのでしょうか。プロジェクトメンバーは2つのチームA、Bに別れ、それぞれ「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」と「住民コミュニティとの接続基盤」を切り口に、下水道にまつわるサービスをアイディエーションしました。

資源循環の視点で、排泄から医療分野に接続する

サーキュラーエコノミーを題材に下水道にまつわる新しいサービスをアイディエーションした、Aチーム。ここで重要なのは、いわば「静脈」の視点です。既存の経済システムでは、製造と消費の結果として廃棄されるモノのほとんどが資源循環につながっていません。サーキュラーエコノミーにおいては、製造・消費された後のモノが「廃棄物」としてではなく「資源」として循環することで、価値が高まるようなサービスを設計します。

たとえば、生ゴミから堆肥をつくるコンポストを地域で共有するサービスは、そのエリアのごみ収集の頻度が減り、同時に環境負荷をおさえることにつながります。さらに、得られた堆肥を地元の農家に還元することも可能です。

このようなサービスが続いていくためには、企業やユーザーが循環のプロセスに積極的に参加するためのモチベーションをいかに設計できるかが鍵となります。Aチームのメンバーは、紙オムツの資源循環を題材にユーザー、介護従事者、廃棄物回収業者、資材メーカー、紙オムツメーカーといったプレーヤーが、それぞれ利益やメリットを得られる仕組みを検討しました。

その中で生まれたアイデアが、「ふいに漏れてしまった尿」を医療機関や製薬会社に提供し、健康状態の分析・改善提案をする健康管理サービスです。

このサービスは、ユーザーが尿漏れをきっかけに自身の健康についてのデータを得られるだけでなく、関係する企業それぞれの事業領域においてイノベーションが生まれることが期待されます

製薬会社は検査結果をもとに、紙オムツ利用者層のニーズに合った新薬を開発することができます。紙オムツメーカーは、従来にない「健康管理サービス」という付加価値が創出されることで価格にコストを上乗せできます。また、紙オムツの資材を提供するメーカーは、「尿の成分を分離しやすい」という観点からの新素材開発が可能となります。結果として、ユーザーやごみ処理業者にとって紙オムツごみが扱いやすくなり、さらに処分する際の環境負荷を減らすことにもつながります。

アイディエーションに参加したメンバーの間では、以下のようなコメントも出ました。

最近は尿を使ったがん検査も開発されており、サービスの需要は高そう。

紙オムツを積極的に売らなくても、好循環が成り立つようなビジネスモデルもあるといい。

排泄や下水道と医療を接続するアイデアに関して、実際にアメリカやフランスといった国々では、下水のモニタリングによって新型コロナウィルスの感染流行を事前に予測する取り組みが始まっています。

公衆衛生と人々の健康、医療は切っても切れない関係。同じ領域で、他にもさまざまなサービスが生まれる可能性がありそうです。

地域コミュニティにおける排泄の課題にアプローチする

「住民コミュニティとの接続基盤」をテーマにアイディエーションを行ったBチームは、地域の人々に向けて排泄に関する情報やソリューションを提供する新しい場所「Deasy Room(デイジー・ルーム)」のアイデアを提案しました。

Deasy Roomは、少子高齢化や過疎化が進む地域に開設することを想定。地域コミュニティの活性化に寄与する「公民館」としての役割や、人々が健康上の問題について気軽に話し合える「まちの保健室」のような場所を通じて排泄に関する正しい知識を伝えることをイメージしています。

Deasy Roomは、オムツごみを扱う人々が利用したくなるような機能をいくつか備えています。一つは、オムツごみの集積所の機能。ここでは、ごみを出した人が何らかのインセンティブを受けることができる仕組みを用意することで、加齢や病気などにより日々のごみ出しが大変になってしまった人の課題解決を図ります。さらに、使用済み紙オムツの分離装置を常設し、資源循環につなげるというアイデアも出ました。住民に便利さや手軽さを実感してもらうことで、装置の普及促進を図ります。

排泄にまつわる正しい知識と情報を市民に提供することも、Deasy Roomの大切な役割のひとつです。たとえば、排泄ケアに関する正しい知識を伝えることで、排泄機能に障害を持つ人々と彼らをケアする人の作業負荷やストレスの軽減を目指します。

現状、食品のトレーサビリティや廃棄問題などの「食べる責任」への意識が高まりつつある一方で、「出す(排泄する)責任」や出したものを「処理する責任」については、ほとんど注目されていません。より良い社会システムの実現に向け、Deasy Roomには人々の排泄に対する理解と関心そのものを高めていく役割を担います

排泄を起点に、連帯しながら「ありたい未来」を実現する

下水道からサービスを発想するためには、エリア単位やコミュニティ単位で課題を定義し、官公庁と複数の企業、地方自治体といったプレーヤーが連帯しながらアプローチを設計する必要があります。そうすることで、資源循環のような、一個人・一企業では対応が困難な大きな課題にも新しい活路が見えてきます。

排泄のデザインを考えることは、個人の生き方から地域コミュニティ、社会インフラまで、それぞれのスケールを行き来しながら「ありたい未来の姿」を描くことに通じています。Deasyプロジェクトが目指すのは、多様なプレーヤーを巻き込みながら、私たちにとって「よりよい排泄」ひいては「よりよい社会」を実現するためのソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を形成するきっかけをつくることだとも言えるでしょう。

Deasyプロジェクトでは、産学官民の垣根を超えたメンバーと共に、排泄のデザインに関するリサーチと実践に取り組む仲間を求めています。2020年度の活動は、9月から再始動する予定です。関心のある方は、ぜひお気軽にお声がけください。

* 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部「下水道に関する意識調査」(平性29年度実施)

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