デジタルハリウッド大学 PROJECT

未来のクリエイターとの出会いを導くブランド体験
デジタルハリウッド大学 Webサイトリニューアル

Outline

時代の移り変わりのなかで、まさに変化の局面を迎えつつある「大学教育」。文部科学省の「高大接続改革(=大学入試改革)」では、生徒・学生の主体性、時代適応能力、国際的な社会貢献力の育成や探求型学習が重視され、大学入試や教育カリキュラムについて、新たな方針へのシフトが始まっています。

さらに、2040年には大学入学者が現在(2022年)の約8割まで減少し、入試競争がさらに激化することも予測されています。大学がこうした時代や環境の変化に対応しながら、持続可能な経営を行い、これからの時代に求められる人材を輩出し続けるためにも、戦略的なブランディングがますます重要になっています。

2005年に開学したデジタルハリウッド大学(以下、DHU)は、「Entertainment. It’s Everything!(すべてをエンタテインメントにせよ!)」というバリューを掲げ、デジタルクリエイティブの分野において第一線で活躍する講師陣や最新の制作環境を備えた、先進的な教育を推進。デジタル表現やエンタメ領域を中心に、これからの時代に求められる、創造的で国際感覚を備えた人材を輩出してきました。しかし、日本の偏差値に偏った教育・受験環境の影響もあり、受験検討者にとって「第一志望」として選ばれにくい状況がありました。

DHUは、大学選択を取り巻く旧来の価値観を打破し、自学が提供する教育の価値を発信するために、ロフトワークの支援のもと、コンセプトブック(大学案内)とWebサイトをリニューアル。自学の強みや独自性を強調し、受験検討者の「迷い」をきっかけにした体験シナリオを実装することで、大学としてのリブランディングを図りました。

この記事では、プロジェクトの中でも、Webサイトリニューアルの概要とポイントについてご紹介します。

執筆:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)
編集:岩崎 諒子(Loftwork.com編集部)

プロジェクト概要

クライアント:デジタルハリウッド株式会社
プロジェクト期間:2022年10月〜2023年8月

<体制>
プロジェクトマネジメント:佐々木 ゆりか 
クリエイティブディレクション:山田 麗音, 飯島 拓郎, 橋本 明音 
テクニカルディレクション:伊藤 友美 
プロデュース:高井 雄基 
プロジェクトサポート:寺井 翔茉、渡邉 多恵子(以上、株式会社ロフトワーク)
アートディレクション・デザイン:菊池 良太(NODACT)
コーディング・開発:坂田 一馬(Good rings)

※肩書きはプロジェクト実施当時

Process

本プロジェクトは、約10ヶ月間にわたって実施。リサーチから見出した共通の方針のもと、コンセプトブックとWebサイトのリニューアルを一気通貫で行いました。

Challenge

3つのタッチポイントを活かし、 「大学選択のシナリオ」をユーザー体験として実装

本リブランディングプロジェクトの特徴は、DHUの強みを発掘し表現することに加え、「受験検討者がDHUを第一志望に決めるまでの体験シナリオ」を設計し、Webサイトとコンセプトブックの誌面に実装したことにあります。

偏差値や周囲の評判に左右されがちな現在の受験環境で、DHUが「第一志望」となることは容易ではありません。今回のリブランディングでは、あえてこの点に注目しました。コンセプトブック、Webサイト、そしてオープンキャンパスという、DHUを認知・理解する3つのタッチポイントを通じて、受験検討者自身が本当に行きたい大学や学びたいことについて「迷い、見つめなおす」きっかけを提供。そのうえで、DHUの学びの特徴や魅力を実直に伝え続けることで、徐々に自分の意思でDHU志望への確信を持たせる、というシナリオを策定しました。

コンセプトブックの導入部やWebサイトのファーストビューには、受験検討者に向けて自分らしく学び、挑戦することを後押しする印象的なメッセージを配置。また、等身大の学生の様子をビジュアルで訴求。これにより、「大学選択の迷いや内省」のきっかけを与えています。そのうえで、DHUの特徴的な教育プログラムや、学生生活に直結する情報を伝える内容も充実させています。

また、誌面やサイト上で、各タッチポイント間の導線も強調。コンセプトブックからWebサイト、そしてオープンキャンパスへと、連続したコミュニケーションを繰り返すなかで、DHU受験への確信を深めることを目指しています。

既存の価値観から「DHUの受験への決意する」までの変化を導くための体験シナリオ

「既存の受験観を揺さぶる」ことをテーマに制作された、
コンセプトブックの制作を振り返る記事はこちら

デジタルクリエイティブを志す受験生の“第一志望”になる 大学選びの常識に一石を投じた、DHUコンセプトブック制作

Output

洗練されたブランドイメージを伝えつつ、大学サイトの常識を塗り替えるTOPページ

はじめにメッセージありき。テキストを中心としたファーストビュー

Webサイトにおいて自学の第一印象を決定づけるTOPページのファーストビューは、キャッチコピーを大きく見せるレイアウト。季節ごとに入れ替わるコピーは、大学の魅力や特色を語る以上に、受験検討者や在学生に「こうあってほしい」という大学の想いを直接訴えかけています。

ねらいとして、あえてテキストメッセージを大きく打ち出すことで、Webサイトを訪れる受験検討者の気持ちを揺さぶることを企図。また、従来よりDHUが醸成してきた「オルタナティブな大学」として学生たちによる創造的な挑戦を後押しする姿勢を表現しています。

シンプルさや本質性の中に、「遊び」の仕掛けを取り入れる

Webサイトのカラースキームは、白と黒、及びそのグラデーションを基調としています。これは、シンプルでありながら、成熟さ・静謐さとを備えた水墨画の色づかいから着想を得ており、DHUが自学の教育において大切にしている「本質性=(Authentique)」が体現されています。

さらに、インタラクションによってユーザーを惹きつける工夫も施されています。例えば、ファーストビューのキーワードにマウスオーバーすると、そのキーワードに関連するページのビジュアル(OGP)が浮かび上がり、そのページにアクセスすることができます。また、ページをスクロールすると背景と文字の配色が反転する、記事のサムネイル画像にカーソルを合わせると画像が震えるなど、随所にインタラクティブな工夫が組み込まれています。

学生が横断的に学びをデザインできる「1学部1学科」の特色を伝える学部紹介ページ

DHUの教育プログラムの最大の特徴は、8つの領域の「専門科目」から、学生が自由に科目を選択し、横断的に学べる「1学部1学科」であること。この制度の魅力を明確に伝えることは、入試広報において重要な課題です。

今回のWebリニューアルでは、コンセプトブックと内容を合わせて学部紹介ページの情報を整理。また、それぞれの「専門科目」について伝える各詳細ページでは、DHUならではの学びの特長や、実際の授業内容、将来的なキャリアまでを、在学生の体験談や授業風景の写真を交えて紹介。受験検討者に、具体的な学びのイメージを伝えています。

さらに、各科目の詳細ページがSNSや外部リンク等のランディングページとしても機能するよう、担当教員紹介ページや学生作品ページ、その他の専門科目といった関連ページへの導線を配置。受験検討者の興味に応じて、サイト内を自然に回遊できるように設計しています。

入学後の姿を想起させ、「受験への確信」を後押しするコンテンツ

受験検討者の「迷い」から、受験へと気持ちを後押しするためには、「DHUだからやりたいことができる」「学びたいことを学べる」と強く実感できるようなコンテンツの存在も重要です。今回のリニューアルでは、充実した学生生活や卒業時の目標を印象づけるコンテンツとして、キュレーションメディア「NOW」と卒業制作紹介ページを制作しました。

DHUの多様な「今」を伝える、受験検討者向けのキュレーションメディア「NOW」

DHUは、大学サイトでの情報発信だけでなく、noteをはじめとするさまざまなメディアでコンテンツを制作しています。それらのコンテンツを集約し、キュレーションすることで、最新情報や実際の学生生活を伝えるゲートウェイとしての機能を持つ、サイト内メディア「NOW」を制作しました。

「NOW」には、オープンキャンパスやイベントのレポート、特別講義の紹介、在学生や卒業生へのインタビューなど、多種多様なコンテンツを、カラフルかつポップな体裁で掲載しています。本体サイトとはトーン&マナーを変えることで、学生たちのアクティブな様子や学生生活の温度感、活動の多様さが表された、DHUの「B面的な魅力」を発信するのが狙いです。

まるでポートフォリオのような、卒業制作紹介ページ

卒業制作の作品は、エンタメ・クリエイティブ業界を目指すDHUの学生にとって、これまでの学びを生かし、新しい可能性に挑戦する最大の場。また、DHUとしても、教育成果や大学としてのアイデンティティを示すものです。

その作品群を紹介するページでは、大きなビジュアルイメージを活用し、作品一つひとつが際立つようなデザインになっています。学生たちのポートフォリオサイトに近い構成のもと、関連する専門科目をタグで提示することで、教育内容とのつながりも示しています。

Approach

ターゲットを設定し「より良い出会い」を目指すためのリサーチ

リニューアルにおけるシナリオ策定の背景には、事前の入念なリサーチがあります。まず、DHU広報チームとの議論を通じて、ターゲットを「DHUは、自分と関係ない大学だと思っている受験検討者」に設定。彼らに対するアクションのヒントを得るために、DHUの学部1〜2年生へのインタビューを実施しました。

結果として、「偏差値上位校を目指す、世間のレールにモヤモヤを抱えていたこと」「入学前には、DHUの特徴を理解しにくいこと」「明確な意思をもって入学すると、大学生活の満足度も高いこと」などが明らかになりました。これらを踏まえて、受験の常識を疑うことからアプローチしつつ、明確な意思を持ってDHUに入学できる受験検討者を増やすというコミュニケーションの方針を見出しました。

大学の独自性とUXシナリオを、サイトに実装するための“2つのコンパス”

リブランディングという大きな目的を達成するうえで、「コミュニケーション方針策定書」と「クリエイティブコンパス」という2つのドキュメントがプロジェクトの指針として機能しました。

これらは、ビジョンや方針を明確化し、ステークホルダー間での意思決定の判断基準をつくり、デザインなどに一貫性を持たせるために使用されます。今回は、DHUの独自性やユーザー体験のシナリオをデザインに落とし込むための重要なツールとなりました。

コミュニケーション方針策定書

リサーチ結果をもとに、プロジェクトが目指すブランドコミュニケーションの方針を定めたドキュメント。コンセプトブックとWebサイトで一貫するコンセプトを定め、長期プロジェクトを進行する拠り所として機能しました。

「コミュニケーション方針策定書」では、リサーチ結果や全体を一貫するコンセプト、サイトの構成案などをまとめている。(画像は、ドキュメントから一部抜粋したもの)

クリエイティブコンパス

デザイナー・エンジニアをはじめとするステークホルダーに対して、クリエイティブ制作の方針を共有するためのドキュメント。リサーチで見出した「DHUらしさ」やコミュニケーション方針を軸に、「Entertainment」「Authentique」「Inclusive」という3つのコンセプトキーワードを抽出。デザインの基盤として機能しました。

「クリエイティブコンパス」では、事前リサーチからデザインコンセプトや軸となるキーワードを策定。また、デザインに反映する際のトーンやテイストのイメージをまとめている。(画像は、ドキュメントから一部抜粋したもの)

安定性と更新性を兼ね備えたCMSを実装

システム面では、高頻度でのコンテンツ更新や幅広いページ設計に対応できるよう、プラグインを通じた自由度の高い設計が可能なCMSツールであるWordPressを採用。ブロックエディタにより、コーディングの知識がなくても直観的な操作が可能となり、更新作業の効率化につながりました。

また、多彩なインタラクションを取り入れながらも安定した挙動を実現するために、テクニカルディレクター、デザイナー、フロントエンジニアが最後まで調整を重ねることで、安定性の高いWebサイトを実装しました。

Member

佐々木 ゆりか

佐々木 ゆりか

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

飯島 拓郎

飯島 拓郎

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

山田 麗音

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

伊藤 友美

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

Profile

橋本 明音

橋本 明音

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

高井 雄基

高井 雄基

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

寺井 翔茉

株式会社ロフトワーク
取締役 COO

Profile

渡邉 多恵子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター/PMO

Profile

メンバーズボイス

“DHUの公式Webサイトとしては、約6年ぶりのフルリニューアルとなりました。DHUの「今」と「これから」を感じてもらえるよう、デザインやUI/UXのブラッシュアップはもちろん、CMSの全面導入やバージョンアップなどを通じて、使い勝手のよいサイトにしたいという希望を叶えることができました。サイト閲覧者のみなさんにはぜひ、冒頭のメッセージから始まる世界観を何度も味わってもらえれば幸いです。

コンセプトブックと並行してのプロジェクト進行は私たちにとってもなかなか骨の折れる作業でしたが、ロフトワークのみなさんの献身的かつ手厚いサポートのおかげで遅滞なく公開できました。DHUでは今後も、受験生はもちろん在学生・卒業生・教職員のみなさんがワクワクするような情報発信に努めてまいります。”

デジタルハリウッド大学 入試広報グループマネージャー 小勝健一

Keywords

Next Contents

“うめきた再開発”の一手。グラングリーン大阪「JAM BASE」
地域と共に歩むためのブランド策定・コミュニティ醸成