国立成功大学 PROJECT

Future Dynamic Program
多拠点連携でテクノロジーと社会課題を同時探究する教育プログラム

Outline

多拠点連携で創造的思考を育むプログラムを企画・実施

Future Dynamic Program(以下、FDP)は、2022年に台湾の国立成功大学で実施された授業プログラムです。外部リソースと産業を繋ぐことで、持続可能な開発と問題解決に取り組む人材を育てるためのプロジェクトとして、FabCafeのグローバルコミュニティを多拠点連携して実施されました。

「大学に入学したとき、どんな人間になりたいと思いましたか?」
これは、FDPへの参加申し込みの際に、参加した学生たちに投げかけられた質問の一つです。中には「大学はとても自由で可能性に満ちた時間であったはずなのに...」というコメントも。しかし、実際のところ、多くの学生は大学生活をどのように過ごしているのでしょうか。テクノロジーが急速に変化する現代において、人間が持つ最もかけがえのない力は、自分で考えることでしょう。しかし、台湾の伝統的な教育ではゼロから100まで「教える」ことが多く、学生が能動的に考えるよう促すことがほとんどない、というのが課題でした。このようなアプローチでは、学生は自分の周りの世界に対して積極的に好奇心を持つようになるのではなく、受動的な学習態度を取るようになってしまうためです。

この課題に取り組むため、FDPでは、学生が自主的に考え、経験や実践を志向するように仕向けることに焦点を当てました。創造的思考を活用することで、既定の答えがないような複雑な問題を発見するよう生徒を導くとともに、オンラインツールやソフトウェアを用いて、日本と台湾のパートナーを結び、多拠点連携で実施しました。このようなハイブリッドな体験を促進するために活用した、Asana、Slack、Discord、GDなどのプロジェクトツールは、学生が今後も多方面にコラボレーションを実践していくための道筋となりました。

Process

イノベーションとテクノロジーを実践し、新しいアイデアを実現する

プロジェクトの議論フェーズでは、SDGsへの投資と、NCKUの現在のアトリエフューチャーのビジョンについて。また、台湾の教育制度が抱える苦境について取り上げました。日常生活や学内には、改善すべき問題がたくさんあるのに、何年も無視されたり、棚上げにされていることがわかりました。議論を通して、台湾の学生は学習態度が消極的なだけでなく、自分には問題解決能力がないと思っているということが見えてきました。

そこでロフトワークは、「未来の問題解決」に焦点を当て、FDPを2段階に分けました。第1段階は「クリエイティブ・リーダーシップ開発プログラム」とし、コミュニケーションスキルやデザイン思考を学ぶことに重点を置きました。第2段階では、学生が専門性を活かして3つのワークグループのいずれかに参加し、多国籍の講師陣を招き、学生自身の視点で台南やNCKUのキャンパスを再解釈することを促しました。

クリエイティブ・リーダーシップ開発

デジタル時代において、面と向かって会話する機会が激減し、コミュニケーションの練習不足に直面する現代の学生たち。そこで、会話力の向上とリーダーシップスタイルの模索を目的に、メンターのKelsie Stewart(FabCafe CCO)とTim Wong(Loftwork Taiwan Co-Founder)を招き、まずは自己分析と1対1の面接で学生のゴールを把握。学生たちは、知覚能力を強化し、ピアツーピアのコミュニケーションを向上させるために、クリエイティブなツールセットと基本的なビジネスモデルについて学びました。このプログラムにより、学生たちは達成感を得るとともに、互いに支え合い、良好なチームワークを育むことができました。

ワーキンググループの参加実績

創造的リーダーシップ育成プログラムと並行して行われた第2ステージでは、学生は3つのワーキンググループに分かれ、異なる分野の研究に取り組み、実社会の社会課題に解決にチャレンジしました。それぞれのワークグループから、学生は拡張現実、フィジカルコンピューティング、パラメトリックデザイン、バイオマテリアル培養などの新しい技術を学びました。また、学際的な環境でアイデアを磨き、異なる国籍の専門家と会話やコラボレーションを行う方法を経験しました。

それぞれのワーキンググループは以下の通りです。

セーフキャスト・ワーキンググループ

ロフトワークとSafecastが共同主宰し、Safecastの共同創設者であるPieter Frankenと主任研究員のAzby Brownが指導にあたりました。 市民科学のアプローチを用いて台南市の大気質と放射線のデータベースを作成。地域の環境モニタリングコミュニティを拡大し、地球環境モニタリングの取り組みに貢献するために、地域のステークホルダーとつながる方法を学びました。

授業で実際に「kGeigie」を作る生徒たち

サーキュラー&ジェネレーティブデザイン・ワーキンググループ

京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labの水野大二郎教授、津田和俊さん、建築系プログラマー/デザイナーの堀川淳一郎さんを講師に迎え「Circular & Generative design Workgroup」が開催されました。このワーキンググループは、サーキュラー(循環型)デザインを実践的に学ぶ機会として、バイオマテリアルのプロトタイプ作成や、アルゴリズミック・デザインの手法について学びました。

エクステンデッド・リアリティ・キャンパス(XRキャンパス)ワーキンググループ

小林茂教授(IAMAS)、Kyle Li教授(Parsons Design School)、Loftworkが主導し、XRプラットフォーム「STYLY」を開発したPsychic VR Labが技術サポートしました。このワーキンググループは、拡張現実テクノロジーとフィジカル・コンピューティングを利用して、キャンパスでの体験を変える方法を探りました。これにより、学生は独自の地形空間を作成し、都市スケールのキャンパスに重ねられるさまざまなデータレイヤーを作成することができるようになりました。

Outputs

知識やスキルよりも、やる気と粘り強さが大事

Future Dynamic Projectの期間は、9週間という野心的かつコンパクトなものでした。プロジェクトの意図に立ち返ると、最も重要なアウトプットは、完璧な結果を出すことではなく、学生たちが勇気と自信を持って自分自身に挑戦し、独自のアイデアを生み出すことを奨励することでした。プログラムを通して、学生たちは、常に周囲を探索し、新しい技術的知識とソフトスキルに支えられながら、解決策を提案するようになっていきました。

現地での実践におけるセーフキャストの可能性

セーフキャストは「データは未来社会の燃料である」をモットーに、生活の質を向上させるための環境データモニタリングのオープンな市民科学に取り組む国際ボランティア中心のNPOです。セーフキャスト・ワーキンググループでは、学生がNCKUの既存リソースを積極的に活用するとともに、放射線計測器「b-Giegie」や大気質モニタリング装置「Airnote」などのセーフキャストのデバイスを活用したプロジェクトを展開しました。たとえば、キャンパス内で自転車の利用率が高いことに気付いたあるチームは、自転車とb-Geigieを組み合わせて放射線データを収集し、セーフキャストのオープンな放射線データマップにアップロードするプロジェクトを開発しました。このようなコラボレーションによって、セーフキャストが地域における課題にインパクトを与える可能性を示しました。

ある学生チームの最終発表資料。bGeigieと自転車を組み合わせてデータ構築した。

サーキュラーデザインとジェネレーティブデザインを想像する

サーキュラーグループでは、「バイオマテリアルデザイン」というテーマに焦点を当てました。自然食品でおなじみのコンブチャスコビーを素材に、バイオレザーを培養することを指導しました。この素材の可能性を見て、楽器の製作や新しい衣服の開発など、多くの学生が型にはまらない提案をしました。

学生たちの最終プロジェクトのひとつ「Folded Vest」は、どんな体型の人でも着ることができるドレスとしてデザインされた。

XRをキャンパスライフに応用

新しい技術を学ぶと同時に、生徒たちは思いがけない発見もありました。たとえば、多くの学生がメンタルヘルスの話題に強い関心を寄せていました。何人かの学生は、この問題を多様な視点から提示し、デジタル技術でキャンパスに新しいタイプの交流を生み出そうとしました。また「ローカリティの探求」をテーマに、キャンパスや台南市の新しいエンターテインメントを開発したメンバーもいました。

Member

Project Members

レスリー・ツァイ (アトリエ・フューチャー CEO)
チェン・ニーチェン(アトリエフューチャー プログラムマネージャー)
ポーラ・リン (アトリエ・フューチャー プログラムコミュニティマネージャー)
アリス・ウェイ (アトリエ・フューチャー プロモーション担当) 
ティム・ウォン(ロフトワーク台湾 共同創業者)
木下 浩佑(FabCafe 京都 マーケティング&プロデューサー)
ウー・ミンチー(FabCafe Tokyo クリエイティブ・ディレクター)
奥田 蓉子(ロフトワーク東京)
Kelsie Stewart(ロフトワーク東京 /FabCafe Global CCO)

Keywords

Next Contents

社会課題解決に向け、地域に「共助」の仕組みをつくる
NECが挑む、新たな事業領域の探索