経済産業省・中小企業庁 PROJECT

三代目社長の“思い”を原動力に
町工場と世界を目指すデザインチームの挑戦

日本では、全企業のうち99.7%を中小企業が占めると言われています。

経済の成熟化や少子高齢化、労働人口の減少など、日本の各地域が多様な課題を抱える今、地域の経済や社会を支える存在である多くの中小企業・小規模事業者もまた、人材不足や製造原価の高騰など各々の課題に直面しています。

そんな中、経済産業省・中小企業庁は、地域の抱える課題にデザインと経営の両面からアプローチし、ビジネスとして成功に導く「デザインプロデュースができる人材」を育成するため「令和元年度ローカルデザイナー育成支援に関する委託事業」を実施。全国の中小企業・小規模事業者に向けてデザイン経営導入を支援することを目的に、半年間のプログラムを行いました。

「ふるさとデザインアカデミー ichi」(以下、ichi)と命名された本事業は、座学とワークショップの場である「短期集中プログラム」と、実践の場(OJT)である「デザインプロデュースプログラム」を通して、半年間で61組のデザインプロデュース・プロジェクトに伴走。ロフトワークは本事業において、プログラム設計と運営に参画しました。

今回は、本プログラムを通じて足立区発のオリジナルブランド「KEDOL」を生み出した、足立区のアクリルパーツ加工工場 有限会社三幸とデザインチームが集合し、ブランド立ち上げに挑んだ6ヶ月間を振り返る座談会を行いました。メンバーそれぞれの話からは、経営にデザイン視点を取り入れるため、そしてデザインプロデューサーが経営に寄り添うために大切なことが見えてきました。

執筆:中嶋希実
企画・編集:loftwork.com編集部
メインイメージ写真:keta tamamura

プロジェクトについて

ふるさとデザインアカデミー ichi

登場する人

David Wang / プロデューサー:

デザインプロデューサー候補生としてichiのプログラムに参加。三幸とチームを組み、OJTを通じてデザインプロデュースプロジェクトを実践した。

小沢頼寿 / 有限会社三幸 代表取締役社長:

プロジェクトオーナー。足立区でアクリル製品の加工・製造を行う有限会社三幸の三代目社長。ichiのプログラムで、Davidとともにオリジナルブランド「KEDOL」の立ち上げに挑戦した。

尾形達 / B6 Studio プロダクトデザイナー :

「KEDOL」のプロダクトデザインとアートディレクション、展示構成を担当し、プロジェクトの終盤を牽引した。

川原綾子 / 株式会社日本デザインセンター コピーライター:

「KEDOL」のブランドネーム、コンセプト立案を担当。

飯沢未央 / ロフトワーク クリエイティブディレクター :

当事業の足立区担当として、OJT参加者のDavidのメンタリングや、プロジェクトの進行管理のサポートやファシリテーションを行った。

宮本明里 / ロフトワーク クリエイティブディレクター :

飯沢とともに、メンターを担当した。

フィールドワークで「ありたい姿」を言語化する

やむを得ずオンラインでの開催となった座談会。画面越しでもチームワークの良さとお互いへの信頼が伝わる時間となりました。

―まずはプロデューサーとして関わったDavidさんから、「ふるさとデザインアカデミー ichi」に参加してみようと思ったきっかけを教えてください。

David Wang さん(以下、David)もともと私は、日本の家具メーカーで販売やマーケティングに関わっていました。日本のものづくりと海外をもっとつないでいきたいと思っていたときに、JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOLというプログラムに参加したんです。そこでメーカーと海外マーケットの間に立ってプロデュースをする職種があるんだと知りました。

今回のプロジェクトではさらに実践しながら深く勉強できること、メーカーさんと一緒にリアルなプロジェクトに取り組めることが魅力的でしたね。

― 前半の「短期集中プログラム」では合計4日間、座学やワークショップを通してぎゅっと詰まった内容に触れていただいたと思います。いかがでしたか。

David:デザインプロデュースの全体的なフローをイメージできました。なかでも知的財産や契約に関する部分はとても勉強になりましたね。自分たちのブランドを守るために知らなければならないことを改めて学びました。

ふるさとデザインアカデミーichi 基礎講習の様子

― 「短期集中プログラム」のなかで、三幸さんにはモデル事業者としてものづくりの現場を見せていただいたり、プロデューサーの受け入れをしてくださったと伺っています。

有限会社三幸 小沢さん(以下、小沢)参加した当初は、「デザイン経営」という言葉を知らなかったんです。プロジェクトが進むにつれ、Davidたちの役割を理解していったような気がします。

ロフトワーク 飯沢(以下、飯沢)「短期集中プログラム」の後にOJTとして行った「デザインプロデュースプログラム」が始まるタイミングで、小沢さんとDavidがチームを組み、ロフトワークから私と宮本がメンターというかたちで入ってお話をしました。

小沢さんは以前から、受注してつくる仕事だけでなく、自社でブランドを作りたいという構想を持っていらしたんです。ichiの取り組みを通じて何を目指すか、考えるのに時間がかかったチームも多かった中で、ここは「ブランドを作る」というゴールがスパッと決まりました。

David:みんなで渋谷に行って、フィールドワークをしましたよね。

飯沢:渋谷パルコや表参道にあるセレクトリサイクルショップPASS THE BATONに行ったり、小沢さんおすすめのスカジャン屋さんに立ち寄ったり。その後、みんなで付箋を使ったカードソーティングをしながら気づきを言葉に落とし込んでいくことで、小沢さんがイケてると感じるプロダクトやその考え方、雰囲気を私たちが理解していく時間をつくりました。こうしてやりたいことを言語化することで、そのイメージをくっきりとさせたかったんです。

ロフトワーク 宮本(以下、宮本):事業者さんの考え方や「ありたい姿」を明らかにした上で、現状とのギャップを埋めるために活動するのが、デザインプロデュースを実践する上で大切なことだと考えています。改めて考え直したときに「なにがやりたいんだっけ?」と立ち戻ってしまう事業者さんも多くいらっしゃるなかで、小沢さんは「ありたい姿」が明確でした。

役割を限定しすぎない、横並びで進んでいくチーム

「KEDOL」の製品イメージ(プロトタイプ)―アクリル製のApple Watch用バングルは、ユーザーの好みに合わせてアクリルのデザインを組み換え可能なつくりとなっている(Photo: Keta Tamamura)

小沢:うちの会社にはいろんなことを試してみる企業文化があって、これまでも何度かブランドを作ろうとしたことがあったんです。ただ、始めたはいいものの、ブランドと言えるまでに至らず宙ぶらりんで終わってしまうことが多くて。ichiに参加しながら、こうして外部の人の力を借りられるんだったら、今度こそできるんじゃないかと思いました。

―ブランドのプロトタイプを作るにあたり、心がけていたことなどはありますか。

小沢:僕のなかで決めていたのは、出てきたアイディアは全部かたちにしてみようということです。プロダクトデザイナーとしてお声掛けさせていただいた尾形さんとは前からお付き合いがあって、僕らの技術を理解してくれています。そこまでわかっている人が出してくれるものには、言い訳はしちゃいけないと。社内で新しいものを作ろうとすると、どうしても作りやすいものを考えがちです。そうではない考え方ができるのが、外部の人とやるときのメリットだと思います。

有限会社三幸(miyuki akryl)の工場の様子―ここで、アクリル素材の加工や製品づくりを行っている。

B6 Studio 尾形さん(以下、尾形)お声掛けいただいた時点で、目標とする展示会まであと1.5ヶ月というタイミングだったんです。時間はありませんでしたが、工場の規模や仕組みをある程度知っていたので挑戦できました。

途中から参加したので、チームのなかでの役割は少し悩んだところがあります。あくまでもプロダクトデザイナーとして参画するのがいいのか、プロジェクトのデザインマネジメント的なことをやるといいのか。デザイナーとしてクライアントと向き合うのか、少し引いた立場で決断を促すようなスタンスがいいのか。

David:役割分担については、最初からもうちょっと明確に決めておけばよかったと反省しています…。

尾形:でも今にして思えば、あまり役割分担を限定しすぎず、みんながフラットに意見を言いながらプロジェクトを進めたことが、スムーズにいったポイントだったようにも思います。メンバーが横並びでプロジェクトを進めていく機会は、これからも増えていくような気がしています。

小沢:尾形さんはプロダクトのデザインにとどまらず、グラフィックデザインや展示会での見せ方など、デザインプロデューサー的な動きをしてくれました。僕も参考になったし、Davidにとっても勉強になったと思いますよ。

David:はい。神様みたいな人です。

プロジェクトの集大成として、 ブランドのプロトタイプを展示会(rooms)に出展

プロの仕事がチームのモチベーションを高める

コピーライターの川原さんは、どうしてこのプロジェクトに関わってみようと思われたんですか。

日本デザインセンター 川原さん(以下、川原)普段は規模の大きな企業とのおつきあいが多いのですが、経営者さんと直接顔をつきあわせてお話をし、クリエイターも企業様も柔軟に行動するような、良い関係で仕事ができそうだったこと。また、そうした手法が自分の学びになると思い参加させていただきました。

―今回は日本デザインセンターの仕事として受けてくださったんですね。

川原:はじめに飯沢さんから声をかけてもらったときに、「予算が限られているので、副業としてご協力可能ですか?」と相談がありました。今副業を推奨する会社も多いのですが、私の会社はまだOKではないということ。そして実際に正式にお引き受けした方が、私の職場の仲間へこの体験を正式にシェアできると考えました。

―そうだったんですね。実際に参加してみて、いかがでしたか。

川原:まずはチームのメンバーが良かったですね。いろんな人が集まって、それぞれの技術を持ち寄ってかたちにしていくのが新鮮でした。

あとは小沢さんが、自分のやりたいことがはっきり決まっているのだけれど、決して上からガンガン言ってくる感じではなくて。一人ひとりを尊重して話を聞いてくれるから、私も意見を出しやすかったんです。尾形さんも快く聞いてくれる方だった。いつでも自由に発言できる空気がメンバーのあいだにあったのは、いいものを作る上で大切なポイントだったのではないでしょうか。

川原さんによる「KEDOL」ブランドコンセプト
Photo: Keta Tamamura

David:経験豊富な方々に参加していただきながら、すごく勉強させてもらいました。みなさんのプロフェッショナルな姿を見て、こういうふうに進めるんだとか、こうやってディベロップメント、リサーチをするんだとか。

毎週行っていた打ち合わせで尾形さんがプロトタイプを持ってきてくれたり、小沢さんが実際に制作したものを見せてくれたり。川原さんがブランド名の案をたくさん出してくれてみんなで決めているときに、これがチームの働き方なんだと感じました。

飯沢:形ができあがっていくにつれ、チームのモチベーションが上がっていく現場に立ち会えたのは、私にとっても勉強になりました。

宮本:今回はroomsという展示会を目指す短期間のプロジェクトだったことも、いい雰囲気を作る要因だったと思います。また、チームとして進める上で、お互いの信頼関係が大切なんだということを改めて感じました。

川原:今回のようにいろいろな人が集まってチームを作るときのポイント、相性のいいチームを作るステップみたいなものをメソッド化できるといいですよね。

尾形:きっと「プロの方に任せきり」にならないほうがいいんだと思います。同じ立場で意見を言い合うほうが良いんじゃないでしょうか。プロだってどこかで抜けていることもあるし、逆にぜんぜん違う考え方が入って刺激になることもある。今回はバックグラウンドや経験が異なる同士が、同じ方向を向いて取り組める土壌ができたのが良かったんでしょうね。

David:これをデザイン経営と呼ぶのかわからないけれど、小沢さんがいい場を作ってくれました。みんなをゆるやかに束ねている感じがすごくうまくて。僕にとって憧れの社長です。

時代の変化に合わせて、経営のありかたを変えていく

展示会での反応も良く、SNSでは「発売してほしい」という声もあったと伺いました。このプロジェクトで生まれたブランド「KEDOL」は、今後どうなっていくのでしょうか。

小沢:僕のなかではどんどん進めていきたくて、商品化に向けて調整を進めていました。ただ、新型コロナウィルスの影響で打ち合わせもままならなくて、今はストップさせています。

飯沢:アウトプットを見るとKEDOL=Apple Watchのバングルみたいに見えるかもしれないんですが、これはあくまでもブランドとしての枠組みなので、いかようにも展開できる可能性があります。コンセプトに合わせて、このブランドならではの、今の時代にあったプロダクトを生み出していくことができると思っています。

小沢:今回の新型コロナウィルス感染拡大による社会情勢の変化で、僕自身の考え方も変わりました。これを展示会のプロトタイプのままで進めていくのかと言われると、少し違うのかもしれません。

川原:考え方、どんなふうに変わってきているんですか。

小沢:僕らはアクリルを使って、キーホルダーとかイベントグッズを作ることも多かったんです。しかし、この状況でイベントが中止になり、仕事がなくなるのではという不安を感じました。

今回は早い段階からフェイスシールドなどを作り始めたので、今はやることがあります。だけど、あっという間に安いものがでてくるだろうから、デザイン力で差別化を図るなど手を打たないといけない。実は、フェイスシールドのお店を原宿に出してみようか、みたいなアイデアもあるんです。

三幸が開発した「フェイスシールドV10」は、メガネの着用も可能

飯沢:時代の変化に対していち早く対応策を設計・実行していくのが、デザイン経営のひとつのやりかただと思うんです。小沢さんは、デザイン経営という言葉が生まれる前から自然と実践されている方なんですよ。

小沢:僕のミッションは、まずは会社を潰さないようにすること。まさに今、デザイン経営のようなことをどの会社でもやらないと生き残れないというか。世の中の変化に合わせて、経営のありかたも変わっていかないといけないんです。

今はコロナとの向き合い方が優先ですが、昨年は関東もいろいろな災害がありましたし、いつ大きな震災が起こるかわからない。現状で満足しないというか、同じ状況が常に続くとは思っていません。どういうことがこれから起こり得て、どういう需要ができるのかは常に考えています。

デザインプロデューサーの成長を支える「愛され力」

―Davidさんは今回の経験を踏まえて、これから挑戦してみたいことはありますか。

David:自分のライフワークとしては、日本の地場産業やものづくりをもっと世界につなげる役割を担いたいと思っています。

今回のプロジェクトがそうであるように、いろいろなことがコロナで変化していく。そのなかで、ものに対する付加価値をますます高めていく必要があるんじゃないかと思うんです。日本のものづくりがあと100年続くように、もっとチャレンジしていきたいと思います。

川原:このプロジェクトでは、Davidの素直さもひとつの原動力でしたよね。

小沢:彼は歳も離れているから、弟みたいな存在。僕の経験が参考になればと思って、食事をしながら話をしたこともあります。このプロジェクトで関わったみなさんからいろいろなことを盗んで、頑張ってほしいですね。

愛されキャラのDavidは、これからどんどん仲間を増やしていくんだと思います。困ったことがあったら、いつでも連絡してください。

―とても温かいチームだったことが伝わってきます。今日はありがとうございました。

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