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中堅・中小企業がデザイン経営に取り組む意義は?
—スギノマシン、福永紙工の経営者に聞く、デザイン経営の実践

ロフトワークは「デザイン経営2020 —Withコロナ/Afterコロナを創造的に生き抜くには」と題し、5月19日、26日と2回にわたるオンラインイベントを開催。「今なぜデザイン経営が必要か」について語り合ったDay1の内容を受け、Day2では「社内にデザインの理解をどう促進するか?」「新しいデザイン人材像とは?」といったデザイン経営を実践するにあたってのヒントについて、議論しました。

Day2のゲストは、特許庁が取りまとめた報告書『「デザイン経営」宣言』で先行事例として取り上げた一社である、株式会社 スギノマシン 副社長執行役員 経営企画本部長/新規開発部長 杉野岳さん。そして、『中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜』でデザイン経営実践企業として調査対象に選定された福永紙工株式会社 代表取締役 山田明良さんの2名。

本レポートの前半では、スギノマシンと福永紙工がそれぞれどのようにデザイン経営に取り組んでいるのかを紹介したのち、後半では、ロフトワークイノベーションメーカー/執行役員 棚橋弘季も加わり、同社 マーケティング 岩沢エリがモデレーターを務めた、クロストーク「中堅、中小企業の経営者に聞く、デザイン経営の実践」の内容をお届けします。

執筆:野本纏花、編集:岩沢エリ(loftwork.coom編集部)

時代の変化をデザインで伝える — 株式会社スギノマシン

株式会社 スギノマシン 副社長執行役員 経営企画本部長/新規開発部長 杉野岳

企業プロフィール

1936年創業。富山県魚津市に本社を構える。社員数は1,040名(グループ連結1,590名)。事業領域は、自動車業界、航空機業界、医薬品・化粧品業界と幅広く、BtoB企業でありながら常時5,000社以上(都度取引は数万社)と取引しているのが特徴。生産額の90%は日本国内だが、売上の半分は海外が占める。海外グループ会社は10カ国、代理店ネットワークは40カ国以上に広がっている。

組織形態

精密機器事業本部とプラント機器事業本部の2事業本部制を採用。デザイン経営を推し進めるために、これら2つの事業部を横断する経営企画本部を設立した。経営企画本部には、戦略企画部・新規開発部・生産革新部・営業企画部がある。

6つの「超」技術

「切る・洗う・砕く・削る・磨く・解す」の6つをコアコンピタンス(=「超」技術)と位置付け、これらを武器に日本の地方(富山)発で世界のニッチ市場においてトップを走る“グローカル ニッチ リーダー”戦略をとっている。

スギノマシンのデザイン経営

創業80周年を機に、社内で有志を募り、CI刷新プロジェクトを立ち上げた杉野さん。プロジェクトリーダーとして、同社の経営にデザインを活用していくことを打ち出し、今後50年、100年生き残れる企業になるための「あるべき姿」「ありたい姿」の模索と、ビジョンの策定、ロゴや社服、機械デザインの刷新、組織改編、人事評価制度の見直しなど、さまざまな改革を行った。

SUGINOのIを「!」に

グローカルニッチリーダーとして、常にお客様の期待を超え、驚きと感動を提供し続けようとしています。しかし、当社のステークホルダーには外国籍の方も多く、言葉も違えば文化も違うため、このメッセージを伝えるのは非常に難しい。そこで、視覚的・感覚的に分かるよう、「!」をアイコンとしました(杉野さん)

主力のBtoB製品も、CI・ユーザー視点でデザイン刷新

まず製品のデザインを整えることで、お客様が使いやすくする、そして一目見て『これはスギノマシンの商品だ』とわかるようにしたくて、製品のデザインを統一しました。例えば、色で示すことで、安全域やメンテナンス域の場所もわかりやすくなり、BtoBの機材であっても、ユーザーフレンドリーな製品であることを示せるようになりました(杉野さん)

社服のデザインを統一する

外から見たときに、グループ会社の社服がバラバラでは、同じ目的に向かって仕事をしている仲間であることが伝わりません。そこで同じデザインで統一し、会社ごとにラインの色を変えました。カタログや名刺のデザインを変えることは、デザイン経営の表層的な部分でしかないと思っていますが、社服のデザインを揃えたことは、社員の皆さんのマインドに関わる部分ですので、単なる「見てくれ」以上の重要な意味を持っていました(杉野さん)

経営企画本部の設立

プロジェクトの過程において、新しいCIの元、会社を運営するには、事業本部を横串でつなぐ4つの部門が必要であることが見えてきたため、私のところでそれらを設置させてもらいました。デザイン経営を実践するためには運用組織が必要であり、運用組織があるからデザイン経営をやっていけるということです。美しい理念や想いだけでは実現は出来ません(杉野さん)

デザインの力による町工場からの進化 — 福永紙工株式会社

福永紙工 株式会社 代表取締役 山田明良

企業プロフィール

1963年創業。東京都立川市に本社を構える。印刷から加工まで一貫して製造できる、社員数42名の工場。2006年より、紙の可能性を追求する取り組みとして、多くのクリエイターと協働するプロジェクト「かみの工作所」をスタートさせる。現在は、受託業務だけでなく、オリジナル製品の企画・開発・製造・販売も手がけている。2020年春、立川市にオープンした「GREEN SPRINGS」内に同社が企画・運営するショップ「TAKEOFF-SITE」がスタートした。

福永紙工のデザイン経営

当初は、アパレル出身でデザインに造詣が深い山田さんが、デザインディレクターの萩原修さんとともに、クラブ活動のようなノリで「かみの工作所」をスタート。工場の空いている時間にデザイナーを招き、工場を紙の実験室として開放するところから始まった。次第にプロジェクトも増えていき、「空気の器」「テラダモケイ」など、数々の受賞作も生まれている。

町工場が自社のオリジナル製品を販売するようになったことで、福永紙工のプロモーションにつながった。オリジナル製品を通じて、デザイン感度の高いコアなファンが増え、従来の下請け中心の事業構造から、企画設計、開発、製造、販売へと上流からパートナーとして入るビジネスへと広がっている。

紙の印刷や加工は斜陽産業。完全受注型の従来の印刷会社の仕事だけで生き残っていくのは、非常に厳しい。しかし、デザイナーと一緒に作ったオリジナル製品を販売することで、商圏が地元の多摩地域だけでなく、日本全国から世界へと広がってきています。また最近では、紙の印刷・加工のようなスポットの仕事だけでなく、いろいろな企業から声をかけてもらい、企画から入る仕事も増えてきました(山田さん)

ミュージアムグッズの製作

NHK『デザインあ展』の展覧会グッズとして、「しめじの解散!ペーパーモデルキット」(構造設計:和田 泰侑/デザイン:岡崎 智弘)の製造を担当。

POP UP SHOP:208 HANDS

渋谷スクランブルスクエア10Fで東急ハンズが運営する「208 HANDS」において、福永紙工がクリエイターとともに作り上げた全ラインアップの紙製品を販売。

オリジナル製品:立川市プレミアム婚姻届

立川市の職員の中に福永紙工のファンがいたことから、グラフィックデザイナーの三星安澄さんとともに、立川市オリジナルの婚姻届を製作。福永紙工は企画・デザイン・製造・WEBプロモーションと立川市役所内撮影コーナーのデザイン・製作を担当した。2019年度グッドデザイン賞受賞。

中小企業が自治体の仕事を請けるのは難しいが、僕らがつくってきたオリジナル製品のファンが役所の中にいたことで、プレミアム婚姻届のプロジェクトにつながりました。デザイナーと関わるようになったことで、僕らの発想も広がったし、新しいことにチャレンジする勇気をもらえたりもして、すごくいい影響があったと思っています(山田さん)

デザイン経営の4象限で振り返る各社の取り組み

後半のトークセッションは、ロフトワークの棚橋がこれまの実践知を図式化した「デザイン経営を実行するための4象限」についての解説から始まりました。

棚橋弘季(以下、棚橋):この図は、僕らが「どうすればデザイン経営を実行できる組織に変えられるか?」という観点で企業を支援する際に、日頃から活用しているものです。

右側には「ビジョン」と「戦略〜戦術」と書いてある通り、「何を実現するか?どうやって実現するか?」について整理していきます。

一方、左側には「コントロール」と「リソース」と書いてある通り、「どんな資源を使うのか?どう制御するのか?」について整理していきます。

それぞれの企業が、この中のどこに課題を抱えているかを明らかにした上で、そこに当てはまる支援をしていくという流れになります。

よくあるのが、右側ばかりに注力してしまい、左側の具体的な実行につなげられないというケースです。そこで僕らが入り、多くのステークホルダーの声を集めて整理することで、企業にデザイン経営をインストールしていくのです。

岩沢:このデザイン経営の4象限に当てはめてみると、お二人はどんな順番で進めてきたと思いますか?

杉野 岳さん(以下、杉野):正直、4つとも同時に動いていた印象ですね。元々やりたいことが明確だったので、「ビジョン」がある状態でスタートしているし、それをどう浸透させていくかという「戦略・戦術」についても組織変革のプランがあったし。まさにこの4象限をぐるぐる回しながら進めていったので、どれが先という話ではなかった気がします。自分がこれまでやってきたことを図に整理したことがなかったので、この4象限を見て「こういうことだったのか!」と腹落ちしました。

岩沢:山田さんは、いかがでしょう?

山田明良さん(以下、山田):杉野さんのところは大所帯なので、みなさんの意識を統一するためには、内側からきちっと固めてやっていくことが大切なんでしょうね。一方、僕らは40人ほどの小さな組織で、僕がやりたいことに振り回されている感じ。戦略的というよりも場当たり的だし、ちゃんとビジョンを示さないといけないなと思っているところです。…なかなか難しいんですけど。

棚橋:一見、お二方は全然違うことをしているように見えるのですが、実は杉野さんもプロジェクトリーダーとして有志メンバーとともに始められたそうですし、山田さんも自分が直感的に面白そうと思うことをやってみたということで、スモールスタートされた点において、実は似ているんですよね。

杉野:そうですね。元はと言えば、ある意味私ひとりがやりたくて勝手に始めたことですから。会社がこの先、50年、100年と生き残るためには、あるべき姿・ありたい姿の設定とビジョンの再定義が必要だという想いがあり、それにデザインを活用することが有効であると確信していました。

デザイン経営がもたらす変化とは

岩沢:では、参加者から投票していただいた中で、多かった質問をしていきたいと思います。ずばり、デザイン経営を実践して、一番変化したことは何ですか?

山田:13年くらいかけて取り組んできた中で、会社の雰囲気とか、人材は変わってきたように思います。かつては典型的な町工場だったところから、デザイナーの柔軟な思考を受け入れるための土壌は整ってきたかなと。

杉野:もともと私がデザイン経営を始めたのは、「カリスマ的な創業社長の牽引から、一人ひとりが自律的に行動することでつくりあげていく会社」にかわるためでした。実際に、今では社員が「自分の意見を言っていいんだ」という空気感も生まれてきていますし、自らの意思や考えを持って動けるようにもなってきたと思います。もちろん、そのために組織や人事制度など仕組みもどんどん打ち出してはいるのですが、根底にある「会社が変わるぞ」というメッセージは、デザインを通じて発信できたと思っています。

岩沢:デザイン経営を事業継承の手法として取り入れられたのですね。

杉野:私はそう位置付けています。

デザイン経営で最もお金がかかるのは?

岩沢:参加者のみなさんは、お金の話も気になるようです。デザイン経営を実践するに当たって、一番投資されたところはどこですか?

杉野:有志を募って行ったCI刷新プロジェクトは業務時間内に行っていたので、その人件費はバカになりません。経営に携わる誰かが「腹をくくってやるぞ」と言わなければ、とてもじゃないけどできないことです。特に当社のようなBtoBメーカーで、「経営にデザインを取り入れよう」と言っても、「そんな遊びみたいなことが何になるんだ」と言われるわけですよ。そこを力技ではなくロジカルに、他の経営陣を説得するだけの覚悟と準備は必要ですよね。

山田:デザイン経営はすぐに儲からないですからね。「儲かる/儲からない」の話はちょっと横に置いて考えないと。費用対効果では語れないと僕は思っています。当然デザイナーに払うフィーは発生しますし、それ以外にも社内のスタッフを動かすための費用はかかってきますから。杉野さんのおっしゃるように、腹をくくるしかないのでは?実際、僕も腹をくくってやっていますし、経営的なバランスを取るのは難しいですよ。

岩沢:目先の利益ではなく、「将来的にこういう会社にしていきたい」というビジョンに対する投資の意識が大切なのかもしれませんね。

杉野:費用対効果の話を始めると進まない、というのが私の答えです。だからと言って、無尽蔵にお金を使っていいわけではありませんが、「デザイン経営の価値をお金で示せ」と言われても「それはできません」と答えていました。ただ、世代が変わる、時代が変わる、ということはみんな理解していたし、「スギノマシンがこれまで求められてきたものをどうやって継承していくのか」という問いに対する解を誰も持っていなかったので、私がビジョンを語ることで理解していただけたのではないかと思います。企業というものが存在し続けられるのは、利益を出しているからであり、利益を出せるのは、世の中に必要とされているからです。短期的かつ明確に紐づけての費用対効果は出しづらいですが、我々が「生き残っている」ということは、イコール利益を出しているということなので、それが費用対効果だと言えると考えています。

棚橋:そこがまさに科学経営からデザイン経営への転換だったのかもしれませんね。

デザイン経営の第一歩は、自分の思いを確かめるところから

岩沢:では最後に、これからデザイン経営に取り組まれるみなさんに一言ずつメッセージをお願いできますか。

山田:これから経営にデザインを取り込もうとされている経営者のみなさんは、僕もそうですが、デザインやアートに関する専門的な教育は受けていない方が多いと思うんですね。だからこそ、中小企業では経営者が感性を磨くことが大切なのではないでしょうか。これから求められるのは、とにかく儲かればいいという利己的な会社ではなく、“会社の佇まいが美しい”会社。他社と差別化して、新しいポジションをとるためには、美しい会社を追求する感性が必要だと思っているので、僕自身これからもっと勉強していきたいです。

杉野:私のやってきた「デザイン経営」は、おそらく一般的なそれとは若干異なると思いますし、まだまだ道半ばですので偉そうに言えることはないのですが、自分がやってきたことを振り返って意識していたのは、「本当にやりたいこと・やらなければいけないことを明確にする」のと「少なくとも自分自身は完全に信じきれるだけのロジカルな根拠を持つこと」の2つです。私は2016年にプロジェクトを立ち上げるまで、BtoBメーカーにおけるデザインの意味を10年間、自問自答し続けてきました。本当に自分で腹落ちしない限り、無責任に経営にデザインは入れられないと思っていたからです。逆に、そこまで突き詰めていたからこそ、どんな反対があっても自信をもって説得することができた。デザインはあくまでもツールなので、まずはやりたいことを明確にするところから始めることを強くオススメします。

棚橋:参加者のみなさんから「どうやって経営陣を説得すればいいか」という質問が多く上がっていましたが、やはりその答えも「自分がやりたいことを明確にすること」です。自分がデザインで何をやりたいかを明確にできていなければ、他の人に対して説明しようがないですよね。自分の確固たる思いがあれば、説明の仕方は自ずと考えられるはずです。山田さんと杉野さんのお話を聞いて、さらに強くそう思いました。

岩沢:今日はみなさんありがとうございました。

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