株式会社JAFメディアワークス PROJECT

約2,000万人が愛読する会員誌「JAF Mate」のデジタルシフト
成功へ導いたプロジェクトマネジメント舞台裏

社内で前例がないデジタルシフト、そのPMのポイントを紹介

50年以上もの間、JAF会員とのコミュニケーション媒体として親しまれてきた会報誌『JAF Mate』。2022年からはサービス内容を大きく刷新し、Webメディア「JAF Mate Online」を新たにスタート。年10回発行されていた冊子を年4回(春号4月・夏号7月・秋号10月・冬号1月)の発行へと変更しました。

約2,000万人のJAF会員に影響を与えるメディアのデジタルシフトは、運営会社である株式会社JAFメディアワークスにとってかつてない大事業。社内外のステークホルダーを束ね、会員の期待に応えるメディアをローンチさせるには、どのような工夫があったのでしょうか。

プロジェクトメンバーが再び集い、プロジェクト始動からローンチ直後までの裏側と、プロジェクトを成功に導いたプロジェクトマネジメントの実践ポイントを振り返りました。

企画:横山 暁子(株式会社ロフトワーク)
執筆:吉澤 瑠美
写真:村上 大輔
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)

プロジェクトについて

一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)が提供する会員向けの月刊誌「JAF Mate」を発行する、株式会社JAFメディアワークス。約2,000万人のJAF会員に発行している会員誌を、「環境負荷の低減」と「デジタル社会における新しいライフスタイルの創出」を目的として、Webメディア「JAF Mate Online」をローンチしました。

ロフトワークは、本プロジェクトのプロジェクトマネジメントとクリエイティブディレクションを支援しました。

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話した人

左から(敬称略)
市倉 央公/株式会社JAFメディアワークス メディアグループ 技術・分析チーム チーフ
北島 識子/株式会社ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター
重松 佑/株式会社Shhh 代表取締役 ディレクター
柏木 鉄也/株式会社ロフトワーク チーフプロデューサー

50人規模の会議体を解体、関係各所と連携して意思決定をスムーズに

市倉 JAFの会報誌『JAF Mate』は、昨年度まで紙の雑誌を年10回発行していたのですが、今年度より地球環境に配慮しながら、冊子とウェブサイト、それぞれの良さを活かした新しい体験を皆さまにお届けするために、2020年の秋頃にプロジェクトが発足しました。JAFは昨年度で会員数が2000万人を突破した組織で、この会報誌も、データによれば『週刊少年ジャンプ』よりも読まれていると言われています。これまでなんとなく家で見ていたものを、媒体が変わっても見てもらうにはどうすればいいか、ずっと検討していました。

紙媒体の「JAF Mate」(右奥)と、新たにデジタル版としてオープンした「JAF Mate Online」(左手前)

—— 会報誌はJAFメディアワークスの中核を担う事業であり、社内で関わっていない人はいないというほどの大規模プロジェクトだったと思います。社内外のステークホルダーをどうまとめていったのでしょうか。

市倉 今回は弊社だけでなく、JAF本体からも相当な人数が参加していました。担当領域によって会議体を分けていましたが、それでも最大で50人近く参加していた時期があったと思います。この人数でやっていては話が進まないと考え、会議の参加人数をグッと絞り、それ以外の関係者には資料や会議のアーカイブを共有する形でプロジェクトを進行することにしました。

また、私のミッションはプロジェクトマネージャー(PM)なので、上司や役員にも事前に話をして、最終的なジャッジや制作パートナーへの発注は私が判断できる状況を作りました。

柏木 意思決定の場面にもいくつか種類がありますよね。例えば、今回のプロジェクトでは「とがったデザイン」に決定しましたが、社内でもデザインについて決定力のある方に仲間になってもらってそのデザインを一緒に通したり、CMSの選定でも、情報システム部門の方と「これが一番適しているんじゃないか」と根回しをしたりされていました。意思決定しなければいけない場に応じて、それぞれで結束を固めていくという点を、市倉さんは特に工夫されていたと思います。

市倉 要所要所で役員に報告する必要があったわけですが、報告する前に資料を先に展開し、軽く読んでもらうようにしていました。ちょっとしたことですが、当日いきなり初見で資料を展開するよりも会議の場での理解が早いですし、フィードバックをその時点でもらえるというのも助かります。ほぼ全ての部署と関わる事業だったので、そういう工夫はかなりしていましたね。

プロジェクトマネージャーを務めた、株式会社JAFメディアワークス 市倉さん

—— 今回のデジタルシフトは、社内でもかつてない大改革になりました。市倉さんは外部パートナーをどのように見つけ、選定されたのでしょうか。

市倉 我々が提示した外部パートナーの条件は、メディアサイトを作った経験のある会社であること、そしてその実績があるディレクターを必ずアサインすること、この2点です。それで、縁あってロフトワークに依頼しました。

デザインや編集に関しては、会報誌を作ってきた技術やノウハウから社内で作ることもできたと思いますが、Webに落とし込むのは初めてだったので、そこはロフトワークに紹介していただいた企業と一緒にやったり、またこれまで紙の方で取り引きしてきた企業にも協力いただいたりしながら、1社だけでなく複数社に依頼しています。

柏木 フレームワークなどを活用してムラのないサービスを提供するということはもちろん大前提ですが、クリエイティブワークというものは、どうしても品質が属人的なノウハウに依存してしまう部分があります。ちゃんと実績がある当事者をアサインしてください、という市倉さんのコラボレーションに対する考え方は正しいと思います。

市倉 私に知見が不足している部分は外部に頼らざるを得なかった、という感じです。今回導入したNORENというCMSも初めて触るツールだったので、知見のある代理店を調べ、さらにそのCMSでメディアサイトを作った事例として紹介されていたのがロフトワークでした。

柏木 これは今回のプロジェクトに限った話ではないと思います。何が一番プロジェクトのコアになりそうかを社内でディスカッションしていただき、そのコアを主軸にパートナーを探してみるというのは、間違いが少ないパートナー選定のポイントではないでしょうか。

大規模デジタルシフトのプロマネ 実践のポイント -社内調整-

  • 会議の参加者を必要最小人数に抑え、それ以外の関係者には資料や会議のアーカイブによって情報を公開・共有する
  • プロマネが制作に関する最終的なジャッジや制作パートナーへの発注について判断できる状況を作るために、事前に上司や役員に話を通す
  • 役員への報告は、事前に資料を展開し軽く目を通してもらえるよう段取る
  • 初めにプロジェクトのコアとなる課題を社内でディスカッションのうえ定義しておき、コアの課題解決に最も適している制作パートナーを選定する

デザインする上で必須だった、「JAF Mateらしさ」を言語化すること

北島 JAF Mate Onlineのコンセプトは本誌と同じ、「安心のクルマ生活と心豊かな人生」です。これまで紙面で読まれていた方々を主なターゲットとしており、Webリテラシーの高い方、高くない方、どちらに対しても同じように楽しんでいただける媒体にするということは、私たちがプロジェクトに入る前から決定していました。

ただ、これまで紙面を通じて提供してきた体験や価値を、どうすればWebで再現できるのか。また、これまでは直接手元に届けるという形でしたが、Webサイトは特徴や目的が伝わらないと埋もれてしまいます。それらを明らかにするために、「JAF Mateらしさ」を具体化するという作業から着手しました。

重松 JAF Mateの編集部のみなさんと一緒に、このメディアが訪問者にどんな感情を抱かせるのか、どういう印象を与えるのか、つまり「JAF Mateらしさ」とは何かを言語化するワークショップを実施しました。アウトプットされた言葉を俯瞰してみると、デザインにあたって一番大切なのは「JAF Mateは、実は面白い」というところだと思いました。

僕はこれまで『JAF Mate』を全く読んだことがなかったので、まずは市倉さんに数年分のバックナンバーを送っていただきました。今ここで、正直に言うと……読む前はあまり期待していなかったんです。でも、読んでみるとこれが意外に、というと大変失礼ですが、本当に面白いんです。

重松 そこで再度市倉さんにお願いして、さらに古い、昭和50年代からの『JAF Mate』のバックナンバーと、その前身の『JAFニュース』のアーカイブを見せていただきました。昭和の頃の『JAF Mate』を見ると、中には「F1ドライバーのジェームス・ハントの安全運転」とか、かなり攻めた記事があって。『JAF Mate』のユニークさ、ポテンシャルの広さを感じました。これをデザインに反映させるワードにまとめていくと、「信頼感がある」「身近な、安全な」というものだけでなく、「多彩な」という新たな要素が見えてきました。

昭和50年代に発行されていた「JAF Mate」と、その前身の「JAFニュース」(写真撮影:株式会社Shhh)

JAF Mateが持つ、公共性・正確性と、多彩さ・楽しさという対照的な要素を僕らは「NHK的、Eテレ的」と呼びました。JAFとしての公共性や、安心・安全、交通に関する車の情報というものは、例えるならば「NHK的」。ここが根幹になるのは間違いないのですが、それを親しみやすく発信している、実は面白い部分もJAFにはある。これが「Eテレ的」で、今回はこの2つのバランスがデザインのポイントになったと思います。

Webサイトは冊子と違い、JAF会員ではない方も読めるので、これから初めて『JAF Mate』を知るという方に「実はかなり面白いぞ」ということをたっぷり伝えたかった。少なくとも、今の冊子より「Eテレ的」な要素を前面に出そうと、デザインには細かくこだわりました。

例えば、トップページはスクロールすると背景色が変わっていくのですが、セクションごとに色を変えてグラデーションでつなぐことで、多彩さ、ユニークさを表現しています。また、サムネイルの形を四角ではなく楕円や半円状にしているのは、様々な車窓の形を少し意識したものです。

JAF Mate Online トップページ
資料提供:株式会社Shhh

北島 こうして話していると、デザインフェーズのことをいろいろ思い出しますね。デザインとしてすごく良い表現だなと思う反面、王道ではないので、OKが出るかなという不安もありました。でも、これを快く受け入れていただいたのは、社内で議論や調整があったからでしょうか?

市倉 いえ、私自身は提案していただいたデザインをスッと受け入れられました。せっかく作るのだから、普段よく見るメディアサイトと同じでは面白くないよねと思っていたところで、全く予想外のデザインを提案していただけたので、それはすごく嬉しかったですね。

社内でもかなり好印象でしたよ。というのも、デザイン案に添えられていた解説資料がすごく腹落ちする内容だったんです。デザインを提案してもらうとき、誰に頼んでもデザイン案自体は複数来ると思うのですが、「なぜこのようなデザインになったか」という資料はなかなかもらえないので。

窓の形のサムネイル画像に関しては、少しだけ心配がありました。写真の構図によっては画像がトリミングされてしまう可能性があるので、編集部のメンバーがNGを出すかもしれないと思ったんです。でも、聞いてみたら前向きに受け止めてくれて、「なんとかしますよ」と言ってくれました。

大規模デジタルシフトのプロマネ 実践のポイント -デザイン制作・承認-

  • 「コンセプトとターゲットを紙の会員誌とそろえる」「Webリテラシーの高いユーザーと高くないユーザー、どちらも同じように楽しめる媒体にする」など、プロジェクトのゴールを明確に設定し、制作パートナーと共有する
  • 制作を始める前に、制作パートナーとプロジェクトチーム、編集部が参加するワークショップを実施し、「JAF Mateらしさ」とは何かを言語化し、共通認識を形成する
  • デザイン提案時に役員や編集部などのステークホルダーから納得感を得られるよう、制作パートナーに「なぜこのようなデザインになったのか」をロジカルに解説する資料を準備してもらう

オンライン化が改めて可視化した、会員からの期待とメディアの価値

—— サイトをローンチして以降、編集部内や会員の方々からの反応に何か変化はありましたか。

市倉 これまでと明らかに違うのは、Google Analyticsによって読者の反応が定量的に見えるようになったということです。今までは、会報誌を開封したかどうか、あるいはどこを読んでくれたのか、なかなか把握できませんでした。ページビュー数だけで直ちに「本当に人気があるコンテンツなのか」を判断をするのは難しいですが、事実としてどれくらい見られているかを数字ですぐに見れるのは良いと思います。JAFの総会員数に比べるとまだまだ流入数は少ないですが、我々が当初予想していた数字よりも、非常に良い推移が表れているというのが現状ですね。

北島 この間、編集長の方に伺ったお話では、これまで紙面の読者層は50〜60代が中心だったのに対し、Webサイトに移行したら30〜40代がボリュームゾーンになってきたということでした。

Webサイト制作のプロジェクトマネジメントとクリエイティブディレクションを支援した、ロフトワーク クリエイティブDiv シニアディレクター 北島

市倉 変わりましたね。紙媒体のみの時は70〜80代の方から感想のはがきを頂くことが多かったんですが、Webにしたことで、フィードバックをくださる方々が全体的に10〜20歳ぐらい若返っています。

北島 それは媒体が変わったこともありますが、「実はコンテンツが面白い」というところが若い層の会員の皆さんにもしっかり伝わり始めているのではないでしょうか。オープンして4か月で月間100万PVというのは、会員数の多さもさることながら、一つひとつのコンテンツが面白いからだと思います。

市倉 まだ3か月なので正しく分析ができる状況にはありませんが、今後ある程度まとまった数字が見えてくると、分析が必要になってくると思います。サイトの見やすさを改善すべきなのか、記事の内容を工夫すべきなのか、そういった「もっと読んでもらうためにできること」も考えていきたいですね。

—— 振り返ってみて、このような大きなプロジェクトを推進していく際の、成功の秘訣はどこにあったと思われますか。

柏木 例えば、コーポレートサイトのリニューアルであっても、広報部の中だけで進めることは難しいですよね。他の部署の方たちのご協力が当然必要ですし、一人やいち部署ではできないケースがほとんどだと思います。なので、ご自身がプロジェクトマネージャーとしてご担当になった際には、初めに「いかに周囲と協力関係を作れるか」「何かを決める時に、誰を巻き込んでいくべきか」ということを考えておいたほうが、失敗しにくいのではないかと思いました。

市倉 『JAF Mate』のオンライン化というのは、弊社にとってビジネスモデルが変わったと言っても過言ではない大きな事業転換でした。私は自ら、プロジェクトマネージャーをやりたい、と立候補したんですが、そのときものすごくワクワクしたんです。おそらく自分がこの会社にいる限り、この功績はずっと残る大仕事なので。

今回のプロジェクトでは、そのワクワク感を自分の中で非常に大事にしていました。いろいろな提案をもらった際に、それがワクワクするかどうか、自分がそこに想いを込められるかどうかで判断していた部分があります。提案していただいたデザインがスッと入ったのも、それが理由です。

もちろん私だけでなく、最終的には弊社の社員が誇れるようなものを作りたいという思いは大きかったですが、少なからず私の中では誇れるものが作れたと思っています。ありがとうございました。

—— 貴重なお話、ありがとうございました!

大規模デジタルシフトのプロマネ 実践のポイント -マインドセット-

  • 上司や他部署のリーダーなどとの協力関係を作れるか、何かを決める時に誰を巻き込んでいくべきかということを、初めから考えておく
  • さまざまな判断をする上で、自分がワクワクできるか、想いを込められるかどうかという感覚を大切にする
  • 最終的なアウトプットは、自社の社員にとって誇れるものを目指す

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今回の座談会を、動画で視聴できます。プロジェクトメンバーの話をもっと詳しく聞きたい方、記事ではご紹介しきれなかったプロジェクトの舞台裏が気になる方は、ぜひ動画をご覧ください。(視聴無料)

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