名古屋芸術大学 PROJECT

コンセプトを検証し、戦略を導くための指針構築
現場リサーチからはじめる、短期集中プロジェクト

Outline

打つべき施策を明確にするために、まずはリサーチから始める。

名古屋芸術大学は、芸術大学には珍しくリベラルアーツや幼児教育の学びも教授する芸術系総合大学です。若年層の人口が減っていく中で、認知を拡大していくためにどうしたらいいのか。
2020年にスタートする大学パンフレット刷新やWebリニューアルを前に、芸術系総合大学としてのあり方を再定義し、課題や魅力を洗い出すためのリサーチプロジェクトが発足しました。

ロフトワークはリサーチチームを結成し、短期集中でインタビュー調査を実施。学内の活動状況や課題を洗い出し、魅力を言語化することで今後の戦略の指針を導きだしました。リサーチ結果を踏まえ行われたディスカッションでは、広報施策についてはもちろん、リアルイベントの実施、カリキュラムの構想など30を超える具体施策に繋がるアイデアが生まれています。現在、大学パンフレット刷新を皮切りに、Webサイトのリニューアルや各種広報施策に落とし込むフェーズへと進んでいます。

  • プロジェクト期間:2019年9月〜11月
  • 体制
    クライアント:名古屋芸術大学
     濱田 誠:広報企画部長 兼 企画室長
     加藤 進太郎:広報誌・HP記事編集担当
     松井 健:Webマスター・内部パートナー
    リサーチメンバー
     岡村 詩野:音楽ライター
     木薮 愛:ライター
     杉田 真理子:ライター・リサーチャー
     土門 蘭:小説家
    ロフトワーク
     堤 大樹:クリエイティブディレクター
     飯田 隼矢:クリエイティブディレクター
     篠田 栞:プロデューサー

Background

どんな芸術大学でありたいか?どんな学びを提供したいのか?改めて考える。

近年、海外ではビジネスと芸術が接続され、社会の中での芸術が活用される土壌が育っています。一方、日本では芸術を生業にしていくことはまだ狭き門であり、芸術と職業が結びつきにくい現状があります。このような社会背景の中、名古屋芸術大学は「芸術を愛する学生たちが、芸術を軸にしながら社会で活躍するためには?」という問いを掲げ、アートティストとして活躍する人材を育てること、またアートの軸を持ちながら他分野をかけ合わせた仕事をつくる人材を育成することに重きを置いています。

名古屋芸術大学はこれまで「ボーダレス」というコンセプトを掲げ、音楽・美術・デザインの各学部を統合し、芸術分野の融合を推進することで、異なる技術や知識を持った学生・教員が混ざり合い、複合的な学びを提供する仕組みをつくってきました。
このようなボーダレスを体現する取り組みを始め、名古屋芸術大学としての魅力はどこにあるのか?ブランド力を高めていくために何を打ち出していくべきか?2020年に大学パンフレット刷新、サイトリニューアルを前に、どのような広報施策を打つべきか方向性に迷いがありました。

そこで、ロフトワークは施策先行でアウトプットを出すのではなく、現状のリサーチから始めることを提案しました。具体的には、短期集中でインタビュー調査を実施し、掴みきれていない現場での活動を洗い出すこと、そして現場での活動の共通点やコンセプトとの共通点を見出し、言語化することで今後の指針を導くことです。
「芸術系総合大学である意義とは?」「自分たちにとってのボーダレスとは何か?」「どんな学びを提供していきたいか?」といった根本にある考えを言語化し、芸術系総合大学としてのあり方を再定義した上で戦略をたてることで、一貫した施策が打てると考えリサーチプロジェクトが発足しました。

Process

大学の強みと課題を27名のインタビューから導く

産学官連携など、外部組織との取り組みを積極的に行っている先生が多い名古屋芸術大学。しかし、そこで生まれるプロジェクトは先生それぞれのコネクションで集まっているものも多く、広報企画部では情報が掴めない状況でした。そこで、学内での共有が不十分な各領域の取り組みや課題を洗い出しすために、27人の先生へインタビューを実施しその情報を統合。最終的には名古屋芸術大学としての特徴として言語化しました。

短期間でのリサーチを可能にする!同時多発で進行する5つのリサーチチーム

短期間でのリサーチを可能にするため、4領域1学科のインタビューを5チームで同時平行で実施するチーム体制をロフトワークから提案。チームはライター、広報・助手、LWで編成され総勢13名で編成しています。チームでリサーチをする最大のメリットは、異なるバックグラウンドを持つメンバーの視点から、多様な主張を導き出すことにあります。また、5チーム同時進行でのインタビューを可能にするために、事前インタビューを実施し、リサーチガイドを作成。リサーチ参加者が同じレベルで名古屋芸大学を理解し、全員の視座を合わせた上でリサーチに臨みました。
事前準備やプロセスでの工夫、チーム編成により、通常なら1ヶ月以上を要するリサーチを半分の2週間で実施可能としました

チーム編成

芸術家集団の声を引き出す、専門性の高いライターと言葉を紡ぐ

芸術大学の先生方は、画家、デザイナー、音楽家など、専門性が高い芸術家集団です。インタビューを行う際に、相手から深い情報を引き出せるかは、インタビュアーの持つ専門分野への知識量量に左右されるため、各先生の専門領域に合わせて、各分野を専門とするライターをアサインする体制を組みました。ライターの存在により専門的な言葉を用いたインタビューが可能となります。

今回、名芸の先生方、スタッフの方々と話をしてみて感動したのは、学生の希望をかなえるためにとても熱心にカリキュラムやコースを調整していることでした。特に驚いたのは、希望者が決して多いわけではないある楽器を学びたいという高校生のために音楽領域の中に新しいコースを創設するよう尽力したというエピソード。少数派を大切にした細やかな指導は、長い目で見た時に大きな成果を生むだろうことが手応えとして伝わってきました。私は現在、京都のあるアート系大学で非常勤講師をやっているのですが、今回のリサーチをやらせていただいてから、微力ながらも、さて自分は学生に対して何ができるだろうか?を改めて考えてみるようになっています。

音楽ライター 岡村 詩野

デザイン領域で今回インタビューさせて頂いた先生方は、それぞれ第一線で活躍されているクリエイターやアーティストの方ばかり。仕事とは関係なくともお話させて頂きたいような方々ばかりで、個人的にも非常にインスピレーションを得られたインタビューとなりました。デザインという専門領域のなかで、通常のインタビューではあまり聞けないような一歩踏み入った内容で、先生方個々人の専門領域に対する情熱やこだわりが聞けたのが、今回の収穫でした。

リサーチャー 杉田 真理子

自分にとって今回のインタビューの核となっていたのは「幼児教育を芸大で学ぶ意味とは?」ということでした。それが他校とは異なるユニークさであり強みであると考えていたからです。その問いに対しある先生から「子供の気持ちを感じる“感性“を培う」という言葉をいただいたとき、「感性」とは芸術表現をするためだけにあるのではないのだとハッとしました。言葉にできない子供の気持ちを感じ取り、寄り添えること。芸術は、教育者に必要な資質であるその「感性」をも伸ばしていけるのだという、新たな視点をいただいた機会でした。

小説家 土門 蘭

チーム全員が同じ方向を向くために

リサーチで集めた情報の統合プロセスはメンバー全員で行いました。このプロセスを通じて、先生方や担当者などプロジェクトメンバーからは「全員で同じ方向を向けて集中できた」「各領域について、校内のメンバーとここまで深くディスカッションできたのは初めてだった」などの声があがっています。プロセスを共有し、大学としての方向性を改めて全員で議論することで、課題や魅力を再発見する機会となりました。

Outputs

リサーチから紡いだ学内向けの言葉

伝え方のトーン&マナーを定め、ポリシーとなるインナー(学内)での合言葉。一般的にコア・コミュニケーションア・アイデンティティ「CCI(Core Communication Identity)」とも呼ばれます。一見シンプルなことばですが、この背景にはリサーチの過程で紡いだ様々な言葉やストリーが込められています。外部に向けてのメッセージではなく、広報施策を打つ際、判断に迷った時に学内のメンバーが立ち返るための旗印のような存在です。

リサーチ結果をもとに実装へ。プロジェクトのこれから

当初、広報企画部ではコンセプトの意義が現場の先生方に伝わっていないために、組織の垣根を超えたプロジェクトがあまり実施されていないのではないか、と考えていました。しかし実際に蓋を開けてみると、広報企画部が想定していたよりも多くの「ボーダレス」なプロジェクトが行われていました。同時に、垣根を超えたプロジェクトを増やしていくには、現場での仕組みづくりだけでなく、例えばカリキュラムの変更など大学として制度の見直しが必要であることなど、具体的な課題が明らかになりました。

リサーチの大きな成果のひとつは、これまで広報企画部内で想像の域を出ていなかった事実が掘り起こされ共有できたこと。どこが課題でその原因が何か、各領域の魅力的は何か?なぜ魅力と言えるのか、根拠を持って説明できるようになりました。そして、リサーチ結果を広報企画部の統一見解として共有できたことで、次のステップも見えてきました。

プロジェクトのまとめとして、振り返りとともに行われたディスカッションでは、30を越える具体施策に繋がるアイデアが生まれています。パンフレットなどの広報ツールへのWebサイトや汎用や広報施策についてはもちろん、リアルイベントの実施やカリキュラムの構想に至るまで幅広く挙げられました。さらには部署内連携や人員配置についての検討や、広報に限らず大学全体の戦略を考えていくためのベースとして、リサーチ結果を転用できるといった議論にまで発展しています。

あくまでもリサーチはアウトプットに繋げるための事前準備です。現在、大学パンフレット刷新を皮切りに、優先順位や実装方法を検討し各種施策に落とし込むフェーズへと進んでいます。

ディスカッションから生まれたアイデア

  • 広報施策|業務内容と成果を広報全体で共有する仕組みづくり
  • 大学全体プロジェクトマネジメント|プロジェクトマネジメントオフィスを立ち上げる
  • カリキュラム|キャンパス外で学べる仕組みづくり
  • Webサイト|プロジェクトのアーカイブ機能
  • SNS|学生作品のエキシビションとしてInstagramを活用
  • リアルイベント|他美大と合同で「これからの美大どうする会議」を実施
  • メディア|学生作品を販売するWebサイト

※一部抜粋

Member

堤 大樹

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

飯田 隼矢

ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

メンバーズボイス

“名古屋芸術大学では、学生募集において志願者数を拡大することを最優先すべき課題とし、ブランド力の強化が必要だと考えていました。これまでは、新学部設置などキャンペーン広告は実施してきましたが、それではブランドを作るという力までは及びません。ブランドを作る、それを実現するため様々な検討をした中で、ロフトワークと出会いました。
我々からの依頼に対して、まずは自身の価値を言語化することから始め、それを大学内で共有する必要があると提案があり、今回のリサーチプロジェクトが完成しました。リサーチにあたり、芸術分野に関する専門的ライターを配置する、短期間で全学部を同時リサーチするなど、これまでの経験ではないプロジェクト進行に驚きと感動もありました。
今後、リサーチから得られた価値の共有と、それに基づいた広報を展開していきたいと考えています。”

名古屋芸術大学 広報企画部長 濱田 誠

“リサーチのプロジェクトに限らず、仕事の中で多くのヒアリングや情報の統合を行っていきます。その中でいつも苦労するのが情報の取捨選択です。特に大学さんのような大きなクライアントになると、情報の量が多く、言葉に落とし込んだ時にどうしても尖った部分が見えにくくなってしまうからです。
名古屋芸術大学さんの場合は、リサーチのあとに「その他の制作」の話も見えていたため、「一言で言い切る」以上にニュアンスの抜け漏れがないことを意識してレポートとしてまとめました。このリサーチの内容は「2019年の自分たちがどのような大学であったか」という社会におけるポジションを確認する地図としながらも、発展させながら「今後どこへ向かうのか」様々な制作物に生かしていただければ嬉しいです。
最後になりますが、大学の選択という、教育の現場の中でも重要なターニングポインに関わらせていただき非常に光栄でした。名古屋芸術大学のみなさま、参加いただいたライターの岡村さん、木薮さん、杉田さん、土門さん、本当にありがとうございました。”

ロフトワーク ディレクター 堤 大樹

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AR技術で木材製造の遠隔プロトタイピング
バッファロー大学建築学科 × 飛騨の木材加工プログラム