中央復建コンサルタンツ株式会社 PROJECT

オフィスは誰のもの?
若手もミドルも巻き込んだ、経営ビジョンが息づく空間づくり

パーパスや経営ビジョンを組織の力へと変えるには?

多くの企業が、未来への羅針盤として「パーパス」や「経営ビジョン」を策定しています。しかし、その理念が社員一人ひとりの心に響き、日々の行動に結びつくことは、たやすく実現できることではありません。パーパスや経営ビジョンを策定して終わりにするのではなく、パーパスや経営ビジョンを起点に、社員の自律的な行動を促し、組織の力へと変えるにはどうするのが良いのでしょうか。その問いを、ロフトワークが伴走した総合建設コンサルタントの中央復建コンサルタンツ株式会社(以下、CFK)の4年間にわたるオフィスリニューアルプロジェクトからヒントを得ます。

「20年後、30年後の会社のありたい姿をイメージできる空間を作りたい」──そんな想いから始まったCFKのオフィスリニューアルプロジェクトは、単なる空間の刷新ではなく、経営ビジョンを社員の意識や働き方に浸透させる息の長い試みとなりました。2025年4月にリニューアルして誕生したCFKのグランドフロア「1TTAN(いったん)」には、明確な目的や動機がなくても「一旦」1階に行ってみれば、面白いことや新しいことに出会える・相手の意外な考えの「一端」を知ることができる・誰かとつながり何らかのチームの「一端」になれるという想いを込めています。

CFKの代表取締役社長の白水靖郎さん、オフィスリニューアルプロジェクトを担当した入社7年目の菊地 佑さんとともに、プロジェクトを振り返ります。

プロジェクト事例:経営ビジョンを実現するオフィスリニューアル

中央復建コンサルタンツのオフィスリニューアルプロジェクトでは、「プロジェクト志向」を核とした働き方の進化を目指し、若手社員を巻き込んだ共創型のプロセスを展開。ロフトワークと建築パートナーが連携し、空間の刷新だけでなく、社員のマインドや行動変容を促すワークショップや発信活動を通じて、次世代のオフィス環境を実現しました。
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※本記事は、2025年10月2日に実施したイベント「パーパスを“策定して終わり”にしない 社員の自律的な行動を促した浸透プロセスとは」でのトークセッションでの内容を編集したものです。

未来を担う若手を信じ、いいものは素直に採用する

──2021年、ウィズコロナによって働き方が大きく変化する中、CFKはオフィスリニューアル計画をスタートさせました。まずは何から着手されたのでしょうか。

中央復建コンサルタンツ白水 靖郎さん(以下、白水) 

CFKには「プロジェクト志向」と「本質を極める」という経営方針がありますが、これを実現するための空間が本当にあるのかという問いからオフィスリニューアルの構想が始まりました。20年後や30年後の会社のありたい姿を考えるため、今の経営陣だけで考えるのではなく、ミドルの層と若手のメンバーでタスクフォースを結成しました。

写真:マイクを手に、話す男性
中央復建コンサルタンツ株式会社 代表取締役社長 白水 靖郎さん

中央復建コンサルタンツ 菊地 佑さん(以下、菊地)若手社員に「興味ある人どうですか」と呼びかけがありました。私は当時入社2、3年目くらいだったのですが、「自分で働くところは自分でつくった方が絶対楽しいな」という思いがあって手を挙げました。また、このプロジェクトに関わってから、普段の業務以外に新入社員の育成代表幹事やSNSを中心とした会社の広報責任者もやるようになりました。

──菊地さん、この数年でキャリアの幅が大幅に広がっていますね。

菊地 本当にそうですね。現職の肩書きだけだと伝わらなくなってきました。社長になんか任命していただけると名乗りやすいですね。(笑)

白水 いいですね。是非考えましょう。

写真:ステージで登壇する若者
中央復建コンサルタンツ株式会社 道路系部門道路グループ 主任 菊地 佑さん

──リニューアルにあたり、社内を巻き込んでいくのに、何がポイントになったのでしょうか?

白水 「好奇心」というキーワードですね。この言葉は、リニューアル後のオフィスを紹介するパンフレットや動画にも採用しています。

実はある時、タスクフォースメンバーのある若手の社員から、経営方針で掲げている言葉が 「わかりにくい、何より、ワクワクしない」と言われたんです。「ワクワクしない」というの は、結構我慢ができなくて(笑)、じゃあちょっとみんなで考えてよって言うと、その社員から「そりゃ知的好奇心でしょ」って言われて、なるほどなと。「誰よりも、好奇心」という言葉が生まれ、今ではWebサイトのトップページにも明記しています。

菊地 僕は好奇心という言葉が、僕たちの会社にとても合ってるなと思っています。新入社員からベテランまで、好きなもの、好奇心を持ったものに対して夢中になる人たちが集まってる会社だと思うんです。

──現場の声を信じ、経営ビジョンを伝わる言葉に言い換えて伝えていったのですね。

動画:オフィスと働き方のアップデートプロジェクト『誰よりも、好奇心』

撮影・編集:廣川文花 BUNCA.

各フロアの取扱説明書「ここらで いったんHAND BOOK」

写真:オフィスのイラストが掲載されているパンフレット
パンフレットにも「好奇心」という言葉で、メッセージを伝えている

菊地 オフィスリニューアルのプロジェクトを通じて日常の業務の中では見られない、仲間の好奇心に触れる機会がありました。U35(35歳未満)の若手社員を集めて横のつながりをつくる「喫茶シランケド」という企画では、私たち若手から見た好奇心って何だろうっていうところを部署が異なって普段は話をする機会が少ない者同士が、コーヒー飲みながら気軽に話すことができました。かなり多くの若手社員が参加しましたね。

白水 この時パネルに挟まれて「サンドイッチマン」のようになっているのは、実はCFKでかなり優秀で名の知れたプランナーなんです(笑)。あえて、この役回りをやってもらっています。

菊地 この時ミドル~ベテランの社員は議論には参加せず、お菓子を配ったりする役回りでしたね。若手同士が、先輩社員に対して遠慮しないでいいような場をつくる目的でしたが、場が和んで話しやすかったですね。

写真:ディスカッションする様子

U35ワークショップの様子(撮影:小椋雄太)

写真:ポップコーンをつくる様子

U35ワークショップの様子(撮影:小椋雄太)

考え方やパーソナリティを見せ合い、共創を促す

── 4年間に渡る長期間、さらには現在も5年目として続いているプロジェクトですが、どんなことが印象に残っていますか。

菊地 うちの会社は技術者集団なので、考え方が独特なところがあります。毎週ロフトワークさんと1時間半みっちりと行う定例ミーティングの中で、我々の考え方を理解してもらい、我々に合ったオフィス空間ってどういうのだろうと、一緒に考えてもらったことが印象に残っています。

写真:ワークショップでミドルから若手が混ざって議論する様子
リニューアル後、1TTANでは、CFKの多世代・多部門、ロフトワークや外部講師などを交えたディスカッションの場が重ねられている

菊地 またプロジェクトが開始して3年目の時、CFK、ロフトワークさん、設計を担当したetoa studioさんの三者で鳥取県の智頭町にフィールドワークに行ったのは、プロジェクトにとってブレイクスルーとなりました。ちょうどその頃、社内に対して当時のリニューアルプランを発表したら結構な反対意見があって。暗雲立ち込め「どうする?」と悩んでいるタイミングだったんです。フィールドワークでは、山に入って木を伐るなどをしたのですが、それ以上に夜、一緒に食卓を囲んだことが大きかったなと。腹の内を見せ合ったことで、チームの絆が深まったような気がしています。お互いのパーソナリティを知ることでより遠慮なく言えるようになりますよね。そこから物事が一気に進んだ気がしますね。

──長期間のプロジェクトで、毎週の定例で空気が固定化されたところを、外に出ることで崩すことができたのも良かったのかもしれませんね。

智頭町でのフィールドワークの様子(映像制作:ロフトワーク クリエイティブディレクター太田佳孝)

──リニューアルしておよそ半年が経ちますが、オフィスの活用度合いはいかがでしょうか。

菊地 執務フロアは、既にかなりうまく活用していると思います。図面を広げやすいように大きい机をつくるとか、打ち合わせスペースをたくさんつくるとかこだわりを持って設計していただきました。我々のものになっているという感触でいます。

白水 私がこだわっているのは1階なんですよね。1階、めちゃくちゃいい空間ができましたが、まだ思ってるようには使いこなせてないと感じています。 まだまだこれから。例えば、本棚は奥の方には社員のことを意識し、手前は外から入ってきた方の目に入ることを想定している。一番手前には絵本が並んでるんですね。それはオフィスに保育園が隣接しているからだと。 いつかは自然とここに保育園児が遊びにきている風景ができることを考えているわけです。それはこれからどう関係をつくっていくか。そういう意味で、まだまだ1階はこれからです。

写真:大勢のイベント参加者が話に聞き入っている
新しくなったオフィスの案内をする菊地さん。本棚のコンセプトを決める際、書評家の三宅香帆さんとワークショップを行ったことなどを紹介

菊地 1階は「1TTAN(いったん)」と名付けていて、「一旦、⚪︎⚪︎しようか」という関西弁の「いったん」からきているんですけど、チャレンジ精神の表れでもあります。若手中堅ベテラン関わらず、ここを使って気軽にチャレンジできるような会社にどんどんしていきたいなと思います。

白水 オフィスのある街をもっと面白くしていきたい。人が気軽に入ることができるように、セキュリティゲートを1階の奥まったところに設置しています。この場所に少し新しい流れができ始めて、面白い人たちが来るようになれば、ひょっとするとオフィス周辺にカフェができるかも知れないし、美味しいビストロができたら最高だし。まずは、1TTANの中のバーカウンターのようなテーブルにお酒を置くところからですね。

──オフィスの1階が外部に開かれることで、そこを起点にエリアが変わっていく。素敵な構想ですね。社内外を巻き込みながらの、今後の展開も楽しみにしています。

写真:登壇する2名の男性
このトークセッションを経て、菊地さんの新たな肩書きが、C1O(Chief 1TTAN Officer/チーフ イッタン オフィサー)に決定。現在、自己紹介の際に活用いただいているとのこと

執筆:服部 木綿子(ロフトワーク)

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