価値創造の歴史と未来を紡ぎ、新たな経営へ
事業継承に向けたコーポレートブランディング
Outline
事業継承に向け、ブランド方針と価値創造メカニズムを再定義する
企業にとって大きな節目である、事業継承。それは、組織が「何を受け継ぎ、何を変えるか」を選択する変革のタイミングです。先代から後継者へ、単に経営のバトンを渡すだけでなく、組織の未来像・社会との関係・価値創造のあり方を再設計すること。そして、過去から未来へとつながる組織の物語を紡ぎ直す機会だといえます。
分譲マンションの販売を起点に、収益不動産ビジネスへと進化を遂げた株式会社トラスト・ファイブも、2025年10月の代表交代と2027年の創業30周年という「第2期創業期」を目前に、大きな転換点に立たされていました。
プロジェクト実施当時、二代目後継者である南薗龍司さん(現代表取締役社長)は、長年培ってきた独自の価値が言語化・共有されておらず、事業継承者としての行動基準や経営の軸が曖昧になっているという課題を抱えていました。また、長期視点での経営戦略・事業戦略の再構築も必要としていました。
そこで、ロフトワークの伴走のもと、組織の経営資産を最大限に活かしながらも、未来への方向性を指し示し、「これまでから、これからへ移行する」ためのブランディング戦略の再構築を実施。
プロジェクトでは、内閣府が提供する「経営デザインシート」や「パーパス経営」の手法を統合したロフトワーク独自の共創プロセスを通じて、多様なステークホルダーへの広範なインタビューと対話型ワークショップを実施。最終的に、ブランドコンセプト設計や今後のビジネスストラテジー、経営戦略方針をまとめた「ブランディング戦略基本設計書 」を策定しました。
トラスト・ファイブが、街の新たな価値をつくるパートナーとしての姿を明確にし、その実現に向けた方策としての事業戦略・広報戦略を定めることで、これからの経営において、地域や投資家、テナントに向けたブランドエクイティを高めることを目指しました。
Challenge
企業理念と事業戦略をシームレスにつなぐ、コーポーレートブランディングのフレームワーク
企業が事業承継期において直面する大きな課題のひとつは、先代経営者が実現してきた価値提供を維持しながら、さらに発展させた価値や新たな価値を創出していけるか、という点にあります。後継者は、先代の想いとその想いに基づくビジネスモデルを深く理解し、自らの経営のあり方をビジョンとともに可視化していく必要がある。こうした価値向上のための戦略的な活動こそが、承継期に求められるコーポレートブランディングです。
こうした目的の達成に向け、本プロジェクトでは、内閣府が提供する「経営デザインシート」と「パーパス経営」の考え方を融合させ、コーポレートブランディングの戦略策定に向けた独自のフレームワークを構築しました。
「経営デザインシート」は、企業の価値創造メカニズムを過去・現在・未来を跨いで客観的に可視化するツール。一方、「パーパス経営」は企業の存在意義を起点に未来の戦略を描く思考法です。この2つを組み合わせることで、組織が提供してきた価値を再解釈しながら、未来志向の戦略を導き出すフレームワークを設計しました。
具体的には、これまでの提供価値やパーパスの背景を紐解いたうえで、これからの組織に求められるブランディング方針を策定。それらを組み合わせることで、未来のビジョンやビジネスモデル構想につながる、新たな価値創造メカニズムを明らかにしていきました。
Process
本プロジェクトは、自社のこれまでの提供価値を再定義しながら、未来のあるべき姿を構想し、最終的に具体的なブランディング方針や事業・広報戦略へと落とし込むという段階的なプロセスで進行していきました。
| 5月 |
プロジェクトの計画・設計
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| 6月 |
これまでの価値創造メカニズムの分析
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| 7月 |
これまでとこれからの価値創造のインサイト分析
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| 8月 |
ブランディングウィークと統合
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社内外へとひらき、「共通の価値観」を導くワークショップの実施
全体のプロセスのなかでも鍵となったのは、経営デザインシートの作成・分析を通じて、組織に眠る「共通の価値観」を導くための2日間の言語化ワークショップを実施したことでした。
本ワークの計画・実施にあたっては、経営デザインシートの策定にも携わった、奥田武夫さんをパートナーとしてアサイン。経営デザインシートの分析を起点に、参加者それぞれの視点から「トラスト・ファイブがこれまでどのような課題を解決し、価値を提供してきたのか」を徹底的に協議していきました。
外部パートナー
奥田研究室 主宰/デザイン経営推進機構 理事/オムロン株式会社 技術・知財本部 Principal Intangible Asset Strategist 技術経営修士
奥田 武夫
オムロン株式会社に入社後、商品開発エンジニアの経験を経て、2001年より知的財産に関する業務に従事。各事業部門における知財戦略策定、推進を担当した後、全社の知財戦略を担う知的財産センタ長に就任。2017年には内閣府主宰「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」に参画し、経営デザインシートの策定に携わる。その後、新規事業をスコープとするイノベーションセンタ企画室長を経て、2021年4月より、内閣府知的財産戦略推進事務局にて、「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」の策定等の知的財産戦略推進を担当。現在、奥田研究室Lab.を主宰。Labとは新しい技術やアイデアを試す場所を示す言葉であり、ビジネスという人間の創造力の価値を紐解き、開発、実装することを目的とした機関である。
ワークショップには、当時社長(現取締役会長)を務めていた南薗浩一さんを含む経営層に加え、営業、設計施工、総務、情報発信などの担当社員や新入社員など、社内のさまざまなメンバーが参加。役職や世代の垣根を越えた対話を通じて、組織が長い時間をかけて培ってきた価値観の可視化を試みました。

さらに、協業パートナーや建築デザインの専門家など、外部ステークホルダーを招き、外部視点から見える同社の提供価値もヒアリング。このように、社内外の多角的な視点を活かし、トラスト・ファイブの提供価値を立体的に捉えていくことで、これまで/これからの価値創造のメカニズムも明らかにしていきました。
また、策定プロセスとしてのワークショップ自体に社内のメンバーを巻き込んだことで、最終的に定められた共通の価値観やブランディング戦略が「生きた言葉と戦略」となり、今後の新規事業や制度設計に向けて、組織全体でスムーズに動き出せる状態をつくることができました。
未来への戦略を統合し、次の実行計画へと落とし込む
経営デザインシートの分析結果と、リサーチやワークショップから得られたインサイト、そして明らかになった「共通の価値観」。これらをベースに、ブランドコンセプトとビジネスストラテジーを設計。さらには、これからの組織の社会的意義と事業領域を明確にする「ブランディング方針」を策定しています。
最終的に、プロジェクトで得られた戦略、思想、そして未来への意志を一つのドキュメントにまとめ、成果物として『ブランディング戦略基本設計書』を制作しました 。

Output
組織の未来をつくる戦略資産「ブランディング戦略基本設計書」
プロジェクトの最終成果物である「ブランディング戦略基本設計書」は、単なる報告書ではありません。それは、組織が10年後の未来に向けて継続的に参照し、実行し、進化させていくための戦略資産です。本資料のポイントをいくつか抜粋して紹介します。

潜在的な美意識を言語化した「共通の価値観」
組織の行動原理となる「共通の価値観」を言語化。株式会社parks 代表/コピーライターの久岡 崇裕さんとともに、これまで組織として無意識に大切にしてきた信条を、社員全員が共有できる明確な言葉として定義しました。
共通の価値観(組織アイデンティティ)
- 一人を大切にする、一つを大切にする。
- 共に挑む、共に進む。
- 理想の未来をまじめに追い続ける。
これらは、単なるスローガンではなく、採用、評価、意思決定など、あらゆる組織活動の判断基準として機能する「組織の美意識」です。ステークホルダーインタビューやワークショップを通じて多様な視点から抽出されたこの価値観は、経営層だけでなく現場の社員一人ひとりが腹落ちできる言葉として結実しました。
未来の事業領域を示す「ブランディング方針」
未来へ向けて、自社の社会的意義や事業領域をどう進化させていくのか。その指針となるのが「Creating Urban Ecosystems.」という新たなブランディング方針です。
この方針は、これまでの「点」としての狭小地ビル開発の強みを活かしながら、「線」「面」へと広がる都市開発のプラットフォームへ、その提供価値の拡大を宣言するものです。小規模・大規模といった既存の枠組みではなく、その間に隠れていた空白領域へと目を向け、都市開発のあり方そのものを再定義するというビジョンを提示しました。
トラスト・ファイブは不動産開発会社から、多様なプレイヤー(建築家、テナント、地域住民、投資家など)と共に街の資産を創造する存在として、その役割を定義。同社の共存共栄の価値観を「エコシステム共創」に昇華することで、社会的信用と価値の向上を目指しています。

戦略を実行に移すための「3カ年ロードマップ」
ブランディング方針を具体的なアクションに落とし込むため、今後3年間の実行計画を「コーポレートブランディング」と「事業開発」の2つの軸で整理したロードマップが策定されました。
コーポレートアイデンティティの再構築やコーポレートサイトの刷新、新規事業領域への挑戦など、具体的な施策を計画しているほか、新しい戦略に適合した評価制度や意思決定プロセスなど、組織変革に向けた制度設計も盛り込まれています。
このロードマップは、抽象的なビジョンを誰もが理解できる具体的な施策へ落とし込み、組織全体を次のアクションへと動かす推進力となります。

Credit
プロジェクト基本情報
クライアント:株式会社トラスト・ファイブ
プロジェクト期間:2025年5月〜8月
体制
- 株式会社ロフトワーク
- プロジェクトマネジメント:高橋 ナオヤ
- ブランディングデザイン:小川 敦子
- クリエイティブディレクション:小城 真奈
- プロデュース:柏木 鉄也、諏訪 光洋
- 外部パートナー
- ビジネスストラテジスト:奥田 武夫
- ヒアリング・コピーライティング:久岡 崇裕(株式会社parks)
執筆・編集:後閑 裕太朗(株式会社ロフトワーク)
バナーデザイン:鈴木孝尚 (16-design )







