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服部 木綿子(もめ) 2024.12.14

対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡

新大阪に本社を構える総合建設コンサルタントの中央復建コンサルタンツ株式会社(以下CFK)は、2025年4月に第1期のオフィスリニューアルを完成させます。CFKは「建設コンサルタントの創造性を支えるオフィス環境を考えたい」という課題感から、全社的な取り組みとして部署横断型のタスクフォースを結成。外部パートナーとしてオフィスリニューアル伴走実績のあるロフトワークにお声掛けいただき、2024年で4年目のお付き合いとなります。クリエイティブディレクターの服部は、初年度よりプロジェクトを担当させていただいています。

建築デザインユニットのetoa studioを空間設計のパートナーに迎え、オフィスリニューアルのコンセプト策定、基本設計、実施設計、施工と歩んできています。ロフトワークは、プロジェクトマネジメントの他、働き方の進化を促すワークショップやフィールドワークの実施、ブランディングや広報の観点からWeb記事の企画・制作、サイン計画などを行っています。

完成を目前に、これまで歩んできた空間に魂を吹き込む、リニューアルプロセスの一部をご紹介します。

服部 木綿子(もめ)

Author服部 木綿子(もめ)(クリエイティブディレクター)

神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(岡山県西粟倉村/香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売するショップで、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。プロジェクトを通じて出会ったクライアントやクリエイター、ロフトワークのメンバーが、一個人として楽しく、持っている能力をシェアし合える「ええ空気」なプロジェクト設計が得意。社会が面白くなるのは、専門分野やバックグラウンドの異なる個人が肩書きを忘れてつながる瞬間だと信じていて、公私の境界線を往来しながら、さまざまな場づくりを行っている。

Profile

空間づくりと並行して「社員のマインドを変えるムード」をつくる

今回のリニューアルプロジェクトで大事にし続けていることは、オフィスを変えることと同時に、この場所で働く社員のマインドや働き方を進化させていくことです。経営計画を元に会社が打ち出す大方針に加え、社員、時には外部パートナーとの対話の中で得た知見やアイデアをオフィスリニューアルのコンセプトや設計に取り入れていきました。

1年目はコンセプト策定、2年目が基本設計、3年目が実施設計、そして施工…と時間を掛けて取り組んでいる分、社内を巻き込む時間として有効に使わない手はありません。これから先のオフィスを考えるにあたって、今後を担う若手社員を巻き込むワークショップを企画・実施してきました。

写真:屋外の木製階段で、カジュアルな服装の男女3人とスーツ姿の男性1人が和やかに談笑している様子

大阪中津・西田ビルから自社オフィス1階の在り方を学んだ。左から順に久米 昌彦さん(東邦レオ株式会社)服部(ロフトワーク)宇田川 鎮生さん(西田工業株式会社 取締役/企画部部長)末 祐介さん(CFK)(写真:山元裕人)

写真:オフィス内で、4人のビジネスパーソンが議論を交わしている様子。棚には書類や本が並び、落ち着いた雰囲気の職場環境が広がっている。

外部パートナーと共にオフィスのあり方を考えた。左から順に松原 加奈子さん(CFK)
河合 晃さん(etoa studio)加藤 慎吾さん(CFK)宮武 慎一さん(安井建築設計事務所 大阪事務所設計部 設計主事)(写真:山元裕人)

写真:屋外で、スーツ姿やカジュアルな服装の5人が集まり、書類を見ながら話し合っている様子。背景には青空と緑が広がり、明るい雰囲気が感じられる。

地域の生態系ネットワークと共存するオフィスについて議論。左から順に上段左から⼭本 琢⼈さん(CFK)増⽥ 昇さん(⼤阪府⽴⼤学名誉教授、LAまちづくり研究所所長)住友 恵理さん(etoa studio )塩⾕ 歩未さん・谷浦 拓馬さん(CFK)(写真:山元裕人)

写真:室内でバリスタ2名とスーツ姿の男性が談笑する様子

シンプルな会議室に特設コーヒースタンドを出現させ、業務で関わることの少ない他部署間の若手社員同士の繋がりを作るワークショップを実施。(写真:小椋雄太)

写真:割烹着を着た女性の司会者が、ワークショップを進行する様子

割烹着を着て司会をするクリエイティブディレクターの大石。(写真:小椋雄太)

写真:和やかにワークショップが進行されている

若手社員が緊張しないようにベテラン社員は”サンドウィッチマン”スタイルで会場を歩く。(写真:小椋雄太)

写真:会議室に置かれたポップコーンマシンを囲む男性と女性2人

約40名のU35社員と共に実施した自社のロジックモデルをつくってみるワークショップ。真面目に取り組みつつも、先輩社員がポップコーンをつくって振る舞うなど、楽しい場づくりの演出も。(写真:小椋雄太)

また、実施したプロセスを記録し、CFKのコーポレートサイト上で「オフィス環境づくりシリーズ」として継続的に発信をし続けています。採用サイトからもアクセスしやすくなっており、入社前からどんな意思を持った会社であるかを知っていただく機会創出に繋げています。

いつもと異なる地へ。現場で身体と手を動かし、心を動かす

CFKが大事にされている価値観の中に「プロジェクト志向」というものがあります。“真の顧客は市民・自然・未来の子どもたちであること”を意識し、自ら問題を設定し能動的に動いていくスタンスのことを意味しています。「プロジェクト志向」を推し進める、つまり現状の業務に留まらず未来のCFKを見据えて探索・探究をすべく、ロフトワークからいくつかのフィールドワークを提案、実施しました。

フィールドワーク先の一つとして、鳥取県智頭(ちず)町へ。大阪からスーパーはくとで約2時間。鳥取県の南東部に位置し、面積の90%以上が森で囲まれた町。智頭町で活動しているVUILD株式会社ちょうどいい材木ラジオの井上達哉さんと、自伐型林業家の大谷訓大さんは、林業とデジタルテクノロジーを掛け合わせ「林業のマイクロ6次産業化」に取り組んでいます。CFKタスクフォースメンバー、etoa studio、ロフトワークの面々で訪れました。

大谷さんが所有する敷地内では、徒歩で移動できるエリア内で、選木、伐倒、搬出、製材、ShopBot(※木材を3次元に加工し切り出すことのできるCNCルーター)でプロダクトづくりまでが可能です。日本の中山間地域の森林の課題に向き合い続けてきた井上さんは、林業従事者の所得増へのアプローチの一つとして、同世代の仲間である大谷さんと共に「楽しみながらまずやってみる」というスタンスでプロジェクトを実験的にスタートさせたそうです。実際に山に入り、木を伐り、モノづくりを行う経験をしたことで、仲間と共に楽しみながら自ら能動的に動く…というスタンスが、タスクフォースのメンバーの意識や行動にこれまで以上に色濃く現れ始めたような気がしました。

智頭町でのフィールドワークの様子(映像制作:クリエイティブディレクター太田佳孝)

フィールドワーク帰りの特急列車の中で、CFKの末祐介さん(未来社会創造センター 公民連携まちづくり室 室長 兼 計画系部門 技師長)から、「CFKがエリアマネジメントに関わる京都市の宝が池公園で、智頭町で体験したことをヒントに、選木からモノづくりまで行う施業者やクリエイターのコミュニティを生み出せないか考えを巡らせ始めた」…と構想を聞かせてもらいました。

それからおよそ一年経ち、オフィス一部で施工が進んでいる頃、「使い道がなかった木を活用してオフィス1階のカウンターテーブルを製作するための協力体制をつくることができた」と末さんから連絡を受けました。家具製作はロフトワークがプロジェクトマネジメントを担当している範疇ではなかったこともあり、意外な展開を知りワクワクしました。末さんは、まさに「プロジェクト志向」を体現していらっしゃいます。

写真:山の中でヘルメットを被り作業をする男性
鳥取県智頭町で大谷さん(左・後)が所有する山で施業を体験するCFKの末さん(写真:クリエイティブディレクター太田佳孝)

公共空間の樹木が、オフィス家具に生まれ変わる

写真:山の中に切り倒された大きな木
宝が池(京都市)で伐採されたカツラ(以下写真:奥祐斉)

家具の材を確保する現場は、宝が池のストックヤードと呼ばれている場所。今までは災害ゴミなど廃棄物を一時的に置く、関係者しか立ち入りできないようなところです。宝が池公園周辺は、鹿の食害などによる土壌流出で、元々湿地帯であった場所も埋まっていき、豊かだった生物多様性が損なわれてしまっている側面があるそうです。

京都市役所の葉山さんは「ここは『公園』ではないため、管理が行き届かず大径木化した木が大雨などでバタバタと倒れることがあります。これまではそういった木を廃棄するか、活用できたとしてもチップにするくらいしか方法がなかったのですが、様々なマテリアルとして地域で循環できないか実験的に取り組んでいます。公園の管理上支障がある樹木から価値が生まれれば、 手入れに参加する人が増え、その結果、生物の多様性の回復につながるのではないかと考えています」と説明。

写真:山の中でカジュアルな服装で話をする男性
京都市の葉山さん

宝が池公園を拠点としたエリアマネジメントにコンサルタントとして関わっている末さんは、宝が池の森の管理のために伐採する必要がある樹木を廃棄物として処分するのではなく、お金を出して自社オフィスの家具の材として引き取ることで、廃棄物になるはずだった樹木を資源として有効活用することができないか模索していたのです。

使用するのは、カツラ、ヤマザクラ、スギなど樹種も大きさもバラバラな材。etoa studioが得意とする設計×デジタル技術(3Dスキャンやパラメトリックモデリング)を用いることで、樹木の個性的な形状を活かしたままデザインに取り入れることが可能になり、意匠としてもかっこいい家具として生まれ変わります。

「自社のためにというより企業の活動が資源循環、里山荒廃の解決の手段に繋がることにチャレンジし、同じお金を使うのであれば社会を良くしていく方向に使うことを選択していきたいです」と末さんは語ります。

写真:切り倒された丸太を計測する3名の大人
伐り倒した樹木の中から、家具に必要なものを選定するetoa studioの住友さん(左)と河合さん(右)。
CG:木材を用いた家具の完成イメージ図
カウンターの完成イメージ。製作はロフトワーク関連会社であるヒダクマが担う。(提供:etoa studio)
CG:カウンターの席に座る人や、その前のカフェテーブルで談笑する人たち
宝が池樹木のカウンターは飲食を伴う交流の場として活用したり、カフェのように気分転換しながら仕事ができる場に。(提供:etoa studio)

いよいよリニューアル

完成した宝が池の樹木製のカウンターは、2025年4月にCFKのオフィスで使われ始める予定です。他にも、雨庭(雨水を下水道に直接放流するのではなく、一時的に貯留しゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間)を実装し地域に貢献することを目指すなど、CFKの企業姿勢を体現した取り組みに触れることができます。

他にもロフトワークが伴走させていただいていた「働き方の進化」を後押しする仕掛けがたくさん。「Xスタ(クロスタ)」(壁面2面とテーブルに映像を投影することで動的に情報共有ができ、新たなアイデアやコミュニケーションを誘発するスタジオ)や、展示やトークイベントなどアイデア次第で自由に使える公園のようなエリア「パーク」など…。

この4年間は、一歩ずつ空間と人を育てる、ある種泥臭いプロセスだったかもしれません。だからこそ、つくり手の中心メンバーの魂が注入されている手応えを感じます。彼らの想いは他の社員に伝播していくことと思います。ここから、どんな景色が生まれていくのか楽しみです。

働く人、利用する人を巻き込みながら空間づくりを検討している企業・団体の方は、ぜひお気軽にロフトワークにご相談くださいね。

CG:完成したオフィス1Fのイメージ
CFKオフィス1階の完成イメージ(提供:etoa studio)

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