
ディレクターが語る。
プロジェクトデザインの本質と自立的な実践
どんな人が、ディレクターに向いているのか?
応募検討中の方からよく聞かれる質問です。そこに明確な正解はないものの、ディレクターに共通する素養や、求められる素質はあります。
本記事では、2025年3月18日、ロフトワーク京都オフィスにて開催した採用イベント『ロフトワークの働き方大解剖』を通じて、プロジェクトデザインの最前線で活躍するディレクターたちの思考プロセスと実践をお伝えします。
ディレクターに求められる核心的素養
"視点"を持ち、ものごとを解釈・再構築する力
イベントでは、ロフトワークで活躍する3名のディレクターが登壇。各々の経験を語る「ソロトーク」を行いました。ソロトークの最初は北海道生まれのクリエイティブディレクター、䂖井誠が登壇しました。䂖井は作家、美大教員という多様な経験を持ち、大規模Webサイト制作や組織の育成プログラム開発、アート領域のプロジェクトマネジメントなどを得意とするディレクターです。
䂖井 今回の採用説明会のテーマにもなっている『解剖』。この言葉を僕なりに解釈すると、分析して明確にすることだと思います。今日お話したいのは、何かを分析するために必要になる『視点』についてです。クライアントからは『誰も答えを持っていないようなことを一緒に考えてほしい』といった相談をよく受けることがあります。このとき重要なのは、正解を提示することではなく、課題の本質を問い直し、新たな方向性を共に探索することです。自分が好きなことや持っている強みなど、これらはひとつの”視点”です。プロジェクトにおいて、『ここがおもしろい』『ここに意図がある』と自分の視点で分析できるようになると、仕事の質が高まります。

䂖井が強調していたのは、何かを分析・解釈し、自分なりの言葉で人に伝える力の大切さ。これは、ロフトワークでクライアントの本質的な課題に迫るうえで非常に重要な視点です。前提をそのまま受け取らず「なぜ?」と立ち止まる柔軟な思考と問いの力によって、課題の根本にある構造を見抜き、それを言語化して共有することができる。その能力はディレクションの基盤となる能力であり、ディレクターとしての思考の質を決定づける要素といえるかもしれません。
関心や問いを、仕事に持ち込む姿勢
ユニバーサルデザインの会社でのデザイナー経験をもち、現在はクリエイティブディレクターとして活躍する村田は、自身の知的好奇心をプロジェクトへと昇華させる実践例を示しました。
村田 私はデザイナー時代、障害のある方と一緒にデザインを検討したり企画を考えたりしていたこともあって、いまも福祉の領域にとても興味を持っています。『私が関心のあることに、いい意味で会社を使ってやるぞ!』という気持ちで、イベントなども企画しています。例えば最近実施した『ポートレートスタンド』では、第一言語が手話の方との出会いに刺激を受けて、人と人とのコミュニケーションエラーに着目し、似顔絵をつくるイベントを開催したりしました。


村田の実践は、個人の関心をプロジェクトへと転換する能動性と自律性、そして入社がゴールではなく、働くことを通じて成し遂げたい目標を持つ姿勢を体現しています。
こうした姿勢の根底には、クリエイティブな手法で社会課題に挑戦する確かな意志があります。村田は「デザイナー時代は比較的ルーティンワークをしていました。一方、ロフトワークのディレクターの仕事は多岐にわたります」と語り、日々異なる課題に向き合う多様性に魅力を感じています。彼女のアプローチは、単に与えられた課題をこなすのではなく、自身の問題意識から出発し、それをクリエイティブな形で社会に還元しようとする能動的な姿勢を象徴しています。これこそが、京都ブランチが求める「プロジェクト志向」と「知的好奇心」が交差する地点なのです。
定義を超えて考える、変化への耐性
グラフィックデザイナーからディレクターへとキャリアを展開した村上は、構造的思考と視座の高さという素養を示しました。
村上 入社して携わったプロジェクトを通して、すでにある定義を更新したり、定義を生み出したりしていくことがロフトワークには求められるのだと学びました。東海サーキュラーエコノミーのプロジェクトでは、企業の知的財産活用と社会課題解決の両輪を実現するために、既存ツールの運用にとどまらず、新たなプログラム開発へと発展させました。リーダーから『村上くんはこれどう思う?』と聞かれても、僕には感想しか出てこないことが多かったんです。自分の考えやアイデアを出すことができず、入社したころは苦しい思いをしながら過ごしたのを覚えています。しかし、構造的に課題を捉える思考をすることで、既存の定義を更新していけるようになりました。このように視座を高く、自身の意見を構築していくためには、苦しい期間も必要だったんだと、今振り返ると感じていますね。
村上の経験は、既存の枠組みや思考パターンを超えて新たな価値を創造するディレクターの本質を映し出しています。彼が経験した「構造的思考」への成長過程は、ロフトワークが求める「柔軟な思考と問いの力」そのものであり、それを獲得するために必要な変化への姿勢を示しています。
プロジェクトの現場から見えてきた思考と実践
説明会の後半では、参加者から募集した質問への回答をきっかけに、クロストークを展開していきました。
未知の領域から学ぶ力
──ロフトワークにはさまざまな業界のクライアントがいて、プロジェクトも、それに対するアウトプットもいろいろなものがあります。3人はどうやってプロジェクトをデザインしていますか?
村上 ディレクター業務のインプット量は膨大です。窒素問題のプロジェクトでは、窒素のことを何も知らない状態だったので、キックオフまでに大量の情報をインプットしました。知らない領域だからこそ、新たな知識や視点を獲得できる面白さがありますね。
䂖井 入社時はアシスタント的に動いて仕事を覚え、社内のいろいろな人が多種多様なことに取り組んでいるのを見て吸収していってましたね。
ディレクターには未知の領域への挑戦と主体的な学習姿勢が求められます。知らない分野でも積極的に情報を収集し、周囲から学び取る力が不可欠なのです。

プロジェクトから生まれる価値と知的成長
──ソロトークで村田さんが「仕事は難しい」と言っていたのが印象的でした。それでも仕事を続けられる理由は?
村田 私はつくるのが楽しいからです。いろいろなクリエイターやクライアントなどの人との出会い、作品との出会い。それがとにかく楽しいんです。アウトプットに込められた感性や技術を知れるのは私の成長にもつながります。
村上 僕の場合、グラフィックデザイナーからロフトワークのディレクターになったので、仕事の上流から関われる面白さを感じています。デザインの仕事で上流から関わることができるのも、ロフトワークのディレクターの面白さだと思います。
創造的な仕事の面白さと知的成長が一体となった経験が語られています。出会いや発見を通じて自分自身も成長していく喜びが、仕事の原動力となっているようです。
まとめ:求めるのは「プロジェクト」への情熱
今回の対談からは、ディレクションという仕事の複雑さと奥深さが浮かび上がってきました。䂖井、村田、村上の経験からは、単なるスキルセットを超えた要素—独自の視点を持ち、未知の領域に挑み、自律的に動く力—が重要だということが伝わってきます。
私たちが一緒に働きたいと考えるのは、入社後も学び続け、成長し続ける意欲を持ち、複雑な課題に対して新たな視点を提供できる人。そんな仲間を待っています。
執筆:野村 英之
編集:基 真理子(loftwork.com編集部)
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