第5回:プロトタイプテスト~ユーザーの体験からリーンに学習する~ [考え方編]
第5回:プロトタイプテスト~ユーザーの体験からリーンに学習する~ [考え方編]
2012年7月25日、「Tokyo Art Research Lab 実践!プロジェクトデザイン」第5回講座が開催されました。(レポート:第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回)今回のテーマは、「プロトタイプテスト」です。
アイデアをブラッシュアップし、製品やサービスの精度を高めるためには、ユーザーを巻き込みながら改善していく必要があります。企画者の頭の中で「本質的な価値は何だろう」とひたすら考えるより、他者に企画を説明し、テストすることで思わぬ解決の糸口がみつかるもの。今回のテーマは、ユーザーテスト。講座で作成したプロトタイプをもとに、「課題発見」に挑戦しました。
どうしてプロトタイプが必要なのか。プロジェクトデザインの視点で考える。
今までの「ユーザーテスト」はもう通用しない!?
時代の変化に伴い、人々の価値観やビジネスのルール、スピード、成功の仕組みも変わってきました。ユーザーテストにおいても、今までの手法とは違ったアプローチが求められています。
*今までのユーザーテスト
- 完璧なプロダクトを作ってから行う
- 外部の調査会社に依頼し、時間と費用をかける
- 失敗した場合は、すべてやり直しになってしまう
*これからのユーザーテスト
- まずは”プロトタイプ”を作ってみる
- 自分たちで調査し、課題をみつける
- 分析をもとにプロトタイプを修正する
- 「作る→テスト→改善」の小さなループで、常に軌道修正していく
どんな才能豊かな人でも、一発で成功することはない
画期的なプロジェクトであっても、価格以上の体験がなければ、ユーザーはその「価値」を体感できません。MVP(Minimum Viable Product)の考え方を元にしたプロトタイプは、ミニマムな単位で課題を設定することにより、早い段階で軌道修正が可能です。細かい単位や序盤で仮説を検証できれば、本質を見失わないというメリットもあります。
どんな才能豊かな人でも、一発で成功することはありません。評価と改善を繰り返すことで、プロジェクトの品質は大きく向上します。フィードバックループの回転数を上げて、数をこなしていくためには、自分たちで行うDo-It-Yourself(DIY)方式の簡単なテストを使用します。その「DIYテスティング」の軸として次の3つを提示しました。
「DIYテスティング」の3つの軸
1、ライトなリクルーティング
- ソーシャルメディアや知人
- 友人・家族・同僚に協力してもらう
- ユーザービリティレベルの穴は、完全にターゲットに合わなくても確認できるもの
2、インタビューの内容を設計
- テスト内容を絞り込んで、コアになるタスクを決める
- ボリュームを把握するために、スタートとゴールを定義
- 周辺情報を想像してもらうために、シナリオを用意
- インタビューガイドラインの作成
3、インタビューのガイドライン
- イントロ(挨拶、撮影の許可)
- 事前インタビュー(個人属性とタスクの関連性を確認)
- 事前説明(テスト内容の説明)
- 実行観察(MVP・タスク・スタートとゴール・シナリオの提示)
- 事後インタビュー(感想、評価を聞く)
- エンディング(挨拶) *参考:樽本徹也『アジャイル・ユーザビリティ ―ユーザエクスペリエンスのためのDIYテスティング―』
テストする際はポイントをおさえてインタビューすることにより、ユーザーの認知プロセスが明らかになり、操作の失敗や不満の原因を論理的に分析できます。
* インタビューのポイント
- 効果(ゴールまで達成できるか)/効率(使いやすいかどうか)/満足度 を観察の軸にする
- 思考発話法(ユーザーに思ったことを口に出しながらテストを実行してもらう)
- 5人以上にテストする(約85%以上の不具合は発見される)
- ユーザーの声をそのまま聞かない(課題と根本の原因を発見するのが目的)
第5回:プロトタイプテスト~ユーザーの体験からリーンに学習する~ [ワークショップ編]
プロジェクトデザイン講座 第5回の後半では、チームごとにユーザーテストを実践しました。
ワークショップ:ユーザーテストで街へ出よ!
5人以上にプロジェクトの価値を説明する
◎お題:
作成したプロトタイプを元に、外部の人にインタビューをする
- なるべくターゲットイメージに近いユーザー候補を5人以上探す
- 同じビルで出会う人、街で出会う人など、積極的に「外で」聞く ・ユーザーの「意見を聞く」のではなく、「反応を観察」する
- インタビュー担当、記録担当、観察担当を明確にする
◎ポイント:
- メンバーのズレを確認する(メンバー間でもそれぞれ説明の仕方が違う)
- 何を伝えないと理解されないのかを確認する(自分たちはわかりすぎてわからないこともある)
- 自分たちが聞きたいことを聞くだけではダメ(ユーザーにつらつらと語ってもらう)
- ユーザー自身が価値を再現できるかチェック(どうしたらワクワク・満足するか、考えてもらう)
アウトプット:各チームのプロトタイプとテスト方法
決められた時間内でできるだけ多くのユーザーテストをしようと、各チーム必死で駆け回りました。外国人に英語でインタビューするチーム、講座参加者に事前にアンケートを配布したチーム、街頭で30人以上に声をかけてインタビューしたチームも。簡単にそれぞれのチームのアウトプットをご紹介します。
● チームMixed Candy
*コンセプト:フリーランスの独立支援メディア
*テスト:アンケートを講座参加者に配布、ヒアリング
* 質問内容:働き方に関する項目約15問
→ 結果:想定していた以上に、回答から「フリーランス」の本質が見えてきた。 データ集計からどうやってサービスに活かしていくかが課題。
●チームReal
*コンセプト:経営判断をシステム化するサービス
*テスト:ストーリーボードのビデオを街頭で見せて回る
*質問内容:ビデオだけでプロジェクトが伝わるか
→結果:コンセプトは伝わったがその先「何をするか」の説明が不足していた。 簡易なサービスと思われない金額設定が課題。
● チーム熱帯低気圧
*コンセプト:人と人のマッチングツールを作る
*テスト:試作したパズル型ツールを触ってもらう
*質問内容:素材を見て何をするためのものか考えてもらう
→観察結果: ビジネスよりも合コンに使えそうという意見も。 単純な要素だけでなく、フレキシブルなピースの使い方が課題。
● チーム白船
*コンセプト:アーティストの海外進出支援
*テスト:iPhone型カードを使って説明
*質問内容:アーティストとして利用したいか、投資家として出資したいか
→結果: アプローチが逆方向だったことに気づく。 お金ではなく提供できる技術や道具から攻めることが課題。
●チームSHINEZ
*コンセプト:コミュニティ型学びの場「ご近所大学」をつくる
*テスト:企画のコンセプトポスター
*質問内容:ポスターを見せ、コンセプトとイベント内容を説明
→結果:ポスターのビジュアルが良くコンセプトは伝わった。 いかにイベントに誘導していくかが課題。
● チームハプン
*コンセプト:「縁側のような空き地」の場をつくる
*テスト:デジタルソーイングマシーンでコンセプトを体現したトートバッグを制作
→結果:プロトタイプ作りまででテスト実施に至らず。 「空き地」のロケーションをセッティングして、想定してみることが課題。
まとめ:メンバーそれぞれ違う中で、共通のコンパスを持てるか
講座も終盤を迎えましたが、ここでもチームビルディングが重要なキーとなりました。
作ろうとしているものの価値や表現方法に、引っかかる点があるならば、何度もチームで話し合う必要があります。このサイクルがチームでどれだけ回せるようになっているか。ここからのブラッシュアップで、次回のプレゼンテーションの精度も決まります。
泣いても笑っても、いよいよ次回は6回講座の最終回!今まで組み立てたアイデアをいかに効果的に伝えることができるか、集大成の「プレゼンテーション」を実践します。