第6回:プレゼンテーション ~アイデアの魅力を効果的に伝える~ [振り返り編]
第6回:プレゼンテーション ~アイデアの魅力を効果的に伝える~ [振り返り編]
2012年8月1日、「Tokyo Art Research Lab 実践!プロジェクトデザイン」第6回講座が開催されました。(レポート:第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第5回)今回のテーマは、「プレゼンテーション~アイデアの魅力を効果的に伝える〜」。今まで組み立てたアイデアをいかに効果的に伝えることができるか、集大成の発表に挑戦しました。
改めて。何がプロジェクトデザインに大切なのか。
時代の先を読むパイオニアから「本質」を学ぶ
「プロジェクトデザイン」において、何が重要なのか。最終回ということで、改めて講座冒頭でトップランナーの実践的なメソッドを学び、全体振り返りのヒントとしました。
ゲスト講師として参加いただいたのは、株式会社インフォバーンと株式会社メディアジーンの代表取締役・今田素子さん。「ワイアード」、「サイゾー」、「ギズモード」、「ライフハッカー」「マイロハス」など次々と新しいメディアを立ち上げ、成功させている今田さんは、どのようにプロジェクトをデザインしてきたのでしょうか?
今田さんは、海外の出版事業に関わった後、アメリカの月刊誌「ワイアード」の版権交渉を成功し、日本版をローンチさせました。その後「これからの時代は紙ではなくデジタルに変わっていく!」と思い立ち、企業のメディア立ち上げ支援を行う株式会社インフォバーンを設立。 さらに「ギズモード」や「ライフハッカー」など現在7つの媒体を運営する株式会社メディアジーンを設立し、インターネット・メディア事業を展開しています。
プロジェクトを立ち上げるときに必ず考える5つのこと
人気メディアを次々と立ち上げる現場では、どのような”MVP”が意識されているのでしょうか? 今田さんからはいままでの経験を元に、「5つの軸」をご紹介いただきました。
1、何をやるのか?
- コンセプト・ 誰のためにやるのか
- 他とは違うのか
- 収益の源泉は?
根幹の部分を共有できていないと、同じことを話しているつもりでも、メンバーそれぞれが違うことを考えていた…なんてことも。
例えば、メディアを立ち上げる時は、メディアビジネスの原則から共有しなくてはいけません。メディアはコアなユーザーを抱え、企業とマーケティングプランで繋ぐことによって収益化しています。やりたいことが明確に決まっていて、想定ユーザーが多かったとしても、繋げられるクライアントがいないとビジネスは成り立たないのです。「やりたい」だけではだめ。ビジネスモデルの像を最初にしっかり描くことが重要です。
2、誰とやるのか、誰とならやれるのか
- 一番やりたいのは誰か
- どんなチームなのか
- 足りないのはどのスキルか
チームのうち、プロジェクトを「一番やりたい人」は誰でしょうか? その人がリーダーとなってみんなを引っ張って、ビジョンをしっかりと伝えていけないと、方向性はどんどんブレていきます。
プロジェクトは面白ければ面白いほどいろんな人が集まってきますが、どんなスキルのある人が集まっても上手くいかない時があります。余計なスキルを増やすのではなく、「足りないスキル」を明確に把握しておくことが大切です。メンバーがなかなか決まらないとスタートが遅れる原因になります。
重要なのは、メンバー同士が心から共感できてコンセプトを共有できる最小限のチームです。
3、コストは? そしていつ?
- どの資金でやるのか
- いつがベストなタイミングか
小さなプロジェクトで自分のお金を出すことは簡単ですが、大きなプロジェクトを立ち上げる時は、外部からの資金調達が必須です。必要な金額、投資メリット、そしてどんな価値を生み出すのかを正確に伝える準備がなければ、資金調達は始められません。また、タイミングも重要です。プロジェクトのスタートは早ければ早い方が良いですが、季節や時流に合わせることでプロモーションコストが下がる場合もあるからです。
アライアンスを組んで資金を出し合う場合は、誰が主体なのかわかりづらく、相手に対して気を使ったり、妥協が生まれたりするので失敗しやすいもの。誰がどんなバランスでコミットするのかが、大きなポイントです
4、ビジネスとして成り立つのか
- どんなリスクがあるのか
- マーケットはどんな状況なのか
- 類似サービスは
「やりたい」想いだけでプロジェクトを立ち上げると、そもそも市場がなかった…ということも。一方で、画期的なプロジェクトを立ち上げたとしても、類似サービスがある場合、その価値はなかなか伝わりません。ただし、たとえ似通ったサービスがあったとしても、自分がプロジェクトの根幹を信じていれば、差別化を計ることも可能です。そのためには、他のプロジェクトを越えるための“何か”をしっかり認識しておきましょう。
5、何のためにやるのか
- 社会的意義はなにか
- 誰が喜ぶのか
「儲かるからやる」「楽しいからやる」など自分の欲だけでスタートしたプロジェクトや、「他で流行しているから」とまねしたサービスは続かないもの。社会的意義や、誰かが喜んでくれたりすることが、どんなに苦しくても続けていけるポイントです。「ワクワクするような目的」を設定しましょう。
メディアジーンでは「他とは違う」+「刺激的で」+「情報に富んだ」メディア以外は立ち上げないというミッションを掲げています。
*プロジェクトに重要なMVP
- とにかくプロトタイプを立ち上げる(考えているうちに誰かが先に始めるかもしれない)
- ユーザーの声を聞いて、みんなに育ててもらう
- 改善して成長させる(軸がブレなければ、やり方は変えてもOK)
- 振り返ったり、周りを見回したりしながら、立ち止まらずにひたすら育てる (立ち上げるよりも育てることが重要。そしてずっと大変。)
第6回:プレゼンテーション ~アイデアの魅力を効果的に伝える~ [プレゼン編]
プロジェクトデザイン講座 最終回となる第6回は、プレゼンテーションに挑戦しました! チ ームビルディングから始まり、ブレインストーミング、プロトタイプテストを経て、各チーム様々な表現方法を準備しプレゼンに挑みます。
プレゼンテーション: アイデアをどれだけ効果的に伝えられるか
◎お題:
10分以内でプロジェクトの価値を伝える
◎ プレゼンの方法
- 表現方法は自由
- 1チーム持ち時間10分以内
◎審査のポイント
- 心が動かされたか
- プロジェクトの価値が伝わったか
◎審査方法
- 講師は5ポイント、受講生は1ポイントのシールを投票
プレゼンテーション:各チームが6週間で作り上げた「プロジェクト」をご紹介します
6回の講座の中で、どのチームも着実に完成度が高くなっていきました。チームごとにチームビルディングの進み方や作ったプロトタイプは、もちろんプレゼンテーションの表現方法も様々。チームごとの特色が色濃く出ていました。6チームのプレゼンテーションをご紹介します。
● チームMixed Candy 「ジブンでジブンの社長になろう」
Mixed Candyではフリーランスの独立支援として、フリーランスの生活状況をわかりやすくするための「フリーランスエコノミー」を提案しました。終身雇用が崩れた世の中で、今の仕事は楽しくても続けていくことに不安を感じる人。フリーランスになりたいけれど、実際やっていけるかわからないという不安を持つ人。そんな人たちにフリーランスを体験できるようなサービスやイベントを作りたいというメッセージを伝えました。
プレゼンテーションの前半は、これまでのチームでの苦悩の様子を紹介しました。プロトタイプの進行具合はとても早かったものの、土台がしっかりしていないままどんどん進んでしまったことに疑問を感じぶつかり合ったこと。講座以外の日に集合して何度も打ち合わせを行ったこと。「これがプレゼン?」と思った人もいたかもしれませんが、Mixed Candyはこのチームビルディングの過程こそが本当のMVPとなっていました。
●チームSHINEZ 「ご近所大学」
SHINEZはご近所付き合いの新しい交流のきっかけとして「ご近所大学」というマッチングサービスを提案しました。マンションの隣にどんな人が住んでいるかわからないという時代。地域のコミュニティに入る際「何から始めたらいいのかわからない」という人が増えています。「ご近所大学」のサービスを使うことによって、趣味や遊びなどハードルの低いきっかけを「先生」「生徒」という形で繋ぎ、子供からおじいちゃん・おばあちゃんまで参加できるようにしたいと語りました。将来的には地域交流のレポートを公開し全国のコミュニティに広げていきたいと夢が詰まっていました。
質疑応答で、金銭のやり取りはせずにボランティアだけで賄っていく点に「マネタイズが弱い」という講師からの指摘がありましたが、会場からは「地域密着型のケーブルテレビなら協賛してくれそう」「政治家だって地域活性化に興味があるはず」と意見が飛び交い、コンセプトに共感を持つオーディエンスがとても多い印象でした。
● チーム熱帯低気圧 「Non-Sol(ノンソル)」
熱帯低気圧はコラボレーションの支援ツールとして、「Non-Sol(ノンソル)」というパズルを提案しました。企業のM&Aやコラボレーションによって新しい価値が生まれている現代で、自発的にコラボレーションできている人たちは意外と少数派。自分に足りない部分と、誰かのために活かせる部分をマッチングすることで、コラボレーションしやすくすることを目指しています。自己分析や自己紹介、ワークショップのアイスブレーク、教育現場のチーム作りなど、話すことのきっかけづくりとして汎用性の高さを語りました。
ブレインストーミングでは“デコボコ”という抽象的なキーワードで、なかなか方向性が決まりませんでしたが、それを具体化ではなく抽象的なままプロトタイプに落とし込んだところが、説得力のあるMVPとなりました。
● チームハプン 「縁側のような空き地」
「空き地のような縁側に皆様をご招待します。バッグに知恵や経験を詰め込んでピクニックに行きましょう!」軽快な音楽とともにアトラクションに参加したかのようなナレーション。画面に吹き出しが映されると、メンバーがその前に移動しマジックで直接コメントを書き込み発表。エンターテイメント性の高さがオーディエンスを惹き付けました。
自分の“好き”や“得意”を共有することで新しいコミュニケーションのあり方を提案。縁側のような空き地という“場”をインビテーションの形でMVPに落とし込むことで、プロトタイプのバッグとうまくつながっていました。プライスレスな心のやり取りを流通させたいという想いがメンバー間で共有され、それがオーディエンスにも伝わり共感を呼んでいました。
●チームReal 「きまるがかわる」
「2分で全てを伝えます!」と言い放ったRealは、プロトタイプをストーリーボード形式でビデオにまとめました。「しぼる」「ひろげる」「きめる」の3つをテーマに意思決定の支援を行い、企画の差し戻しにかかる膨大な時間を削減し、大切なことに集中できる時間をつくることを提案しました。サービスを通じて「次の一歩へ踏み出す勇気」がみんなに伝わったら、プロジェクトは解散するという最終目標まで掲げました。
プレゼン時間が短かったため、細かいターゲット設定や、他のサービスとの差別化が説明不足で質問されることもありました。しかしプロトタイプテストでストーリーボードのビデオを街頭で見せて回った際に、ユーザーの声を録音してビデオに組み込んだことで、リアリティが大幅に増しユーザーの需要が伝わるプレゼンテーションとなりました。
●チーム白船 「アーティストと企業のコラボを支援するプロデューサー集団」
白船は日本の素晴らしいアーティストや、技術文化をプロデュースすることで、海外に向けて発信する提案をしました。
技術提供やプロモーションに困っているアーティストと、自社技術のプロモーションや斬新な発想に困っている企業をマッチングさせ、クラウドファウンディングで資金調達を行っていきます。ピクト図を使ったビジネスフロー図など、投資家にも説得力のある内容を盛り込むことで、堅実にスタートできそうな感じが伝わってきました。始めからコンセプトが強く、具体的アクションも設定されていましたが、まだまだ広げる余裕がありそうでした。
まとめ:「○○をする」と決めてしまったらできなかったこと
本講座では、プロジェクトを「デザイン」するという視点で、重要な要素を6つのステップに分解し、連続ワークショップ形式で実践的に学んできました。毎週2時間×6回、この1ヶ月半の中でメンバーそれぞれのアイデアがものすごい早さでチームのプロジェクトに変化していきました。チームによって進み具合は様々だったものの、最後のプレゼンテーションではどのチームのプロジェクトも本当に実現してほしいと思うくらい完成度の高いものとなりました。
「たった6週間でここまで具体化できたのはすごい!各チームとも個性的でしたが、共感できるかどうかが点差につながりましたね。」(ゲスト講師:今田素子さん)
「今日は教える立場ではなく、教わりに来ました。なぜなら、飛躍があるのはだいたい締め切り前だから。でも一週間にこんなに変わるとは思わなかったです。すごい」(ゲスト講師:渡部ゆうかさん)
「私は今回、講座コーディネーターをつとめましたが、各チームに対して何も具体的な方向付けをしませんでした。 “○○する!”と決めていたらここまでできなかったと思います。本当に、何もしなくて良かったですね!(笑)」(講座コーディネーター:林千晶)
最後に、林の挨拶で講座を締めくくりました。
「仕事でもプライベートでも、”何を、何のために、誰とやりたいのか?”というコンパスを常に持ってほしいです。それは心の原石です。課題にぶつかるたびに何度もコンパスと向き合って”MVP”を作り続ければ、人を巻き込む力が強くなります。私が大好きな言葉は”セレンディピティ(幸運を引き寄せる力)”なのですが、日本語で言うと”ご縁”ですね。プロジェクトデザインは、プロジェクトを楽しく、柔軟に進める考え方ですが、それは同時に人を巻き込む手段でもあります」
プロジェクトを成功に導くには、アイデアのブレインストーミングから企画立案、作っては改善を繰り返すプロトタイプテストまで、一連の業務の全体を把握しながら、そのひとつひとつを確実に実行していくことが大切です。このプロジェクトデザイン講座を通して得た一番大切なものは、スキルや考え方だけでなく、チームビルディングからなる出会いだったのかもしれません。
講座が終わってもイベント開催するチームもあるようなので、引き続き各チームの動きをお楽しみに!
(全6回レポート執筆:越本 春香)