まだこの世に存在しない空間の創造
"本気" でアジャイル開発に取り組む「COMWARE TO SPACE」
Outline
他社に追いつくだけでいいのか、それとも追い越すチャレンジをするのか
NTTコムウェアさん(以下敬称略、NTTコムウェア)から新しい空間の相談をいただいた時、いくつか他社が提出した3Dパースや平面図の入った資料を見比べながらどうもしっくりきていない様子で、築きたい「場」の方向性に悩んでいた。
ロフトワークが共創パートナーになるまでのエピソードは割愛するが、なんといっても、本プロジェクトを通じて胸を張ってご紹介したいのは、NTTコムウェアは、「他社がすでに作っている出来上がりの画が想像でき安心感のある “よくある” 場」ではなく「まだこの世に存在しないオリジナルの場」の創造を選択し、チャレンジしたということだ。そしてそれは、ボトムアップの場づくり、Participatory Urbanism(参加型アーバニズム)を重んじる、ロフトワークが得意とするプロジェクトデザインと非常にマッチした。
本記事では、NTTコムウェアが本気でアジャイル開発に取り組む場を目指したプロジェクトの具体的なプロセスとアウトプットを、プロジェクトマネージャーを担当した松本が紹介する。
NTTコムウェアはNTTグループの会社の一つで、情報通信システムの構築、それに関わるソフトウェア、各種装置の開発、製作、運用、保守、を得意としている。
「組織が違っても、拠点が離れていようとも、思いは一つ。先人の志を受け継ぎ、力をあわせて輝く未来を実現する。」という社内向け広報誌に書かれたメッセージが、社員数6000人を超えてもなお、拠点を一つに集約しないNTTコムウェアのアイデンティティを物語っていた。
今回はそんなNTTコムウェアの中でも最も先進的な取り組みに挑戦している、テレコムビジネス事業本部SOソリューション部の皆さんと「場づくり」に挑戦した。
プロジェクト概要
- 背景
・アジャイル開発の需要増で、開発手法の利点を享受できる本格的な「空間」が必要に。新たな空間を構築しアジャイル型開発の受託に向けての準備を整え、新しいビジネススタイルへの取組みを内外にアピールする。
・これまでにアジャイル開発を中心とした技法の実施と習得をProcess、 推進する人材の育成・強化をPeople、と定めて進めて最後のP(Place)を最適化するフェーズに至った。 - 課題
・打合せスペース等を暫定の開発場所として利用しているが、アジャイル開発の必須条件を備えるには至っておらず、真にアジャイル開発の利点を享受するためには、効率性を妨げない開発スペースが必要。
・開発スペースの不足が社内で予見されており、アジャイル開発のための、場所の常設が急務。 - 支援内容
・要件定義 / 空間コンセプト策定
・空間設計 / インテリアデザイン
・ロゴグラフィック制作
・プロモーションツール制作 - プロジェクト期間
・2018年8月~2019年3月 - 体制
・クライアント:NTTコムウェア株式会社
・プロデュース:松本 亮平、高橋 卓
・プロジェクトマネジメント:松本 亮平
・クリエイティブディレクション:松本 亮平、古市 淑乃
・空間設計・インテリアデザインディレクション:田中 裕之、花塚 紘紀 (田中裕之建築設計事務所)
・インテリア制作・内装施工:株式会社TANK
・ロゴグラフィックデザイン:飯田 将平 (ido)
・スチール写真撮影:長谷川 健太 (株式会社OFP)
アーキテクトには田中裕之建築設計事務所の田中さんと花塚さん、グラフィックデザイナーには飯田さん、そして古市さんには今回設計者としてではなく僕と同じ、ディレクターという役割で参画していただいた。
多角的で、創造的な面々とのプロジェクト進行はとても刺激的なものだった。
Process
そこで過ごす人たちがアジャイル開発に取り組むのであれば、場づくりもアジャイルで進めてみる
ロフトワークのプロジェクトデザインは実に自由だ。
いきなり「自由」という言葉を使うと少し誤解を生んでしまう恐れもあるのでもう少し具体的に言うならば、そのクライアントに合わせて一番最適であろう進め方を柔軟に設計でき、かつ自分たちが取り入れてみたいと思う新しい手法やプロセスを実験的に試すことができる。
本プロジェクトでもまた、プロジェクトメンバー皆がユーザー中心の視点であり続けられるよう、自由にプロジェクトを設計させてもらった。NTTコムウェアとのオリジナルのプロセスだ。
場のコンセプト策定から空間・家具設計までの流れの中で、プロトタイピング>実験>検証のサイクルを回す機会を出来るだけ多く組み込んだ。それは、アジャイル開発の場の行動要件と、そのために求められる機能要件を徹底的に議論し、場のUX(ユーザーエクスペリエンス)を追及するためだ。
プロトタイピングの種類は様々で、アーキテクトが制作する空間模型を使ったデスクトップウォークスルーはもちろんのこと、気軽にオリジナル家具のイメージを議論できるアイデアスケッチ、ダンボールを組み立てて家具や什器のサイズ感を検証するペーパープロトタイプ、既存の家具や什器の高さや配置を調整しレイアウトを組んでみて場の雰囲気を見たてて利用シーンを演じてみるロールプレイング、などなど。
下の写真は、多目的エリアのベンチをプロトタイピング>実験>検証している様子だ。
プロジェクト初期に「まだこの世に存在しないオリジナルの場づくり」に挑戦しようと決意したNTTコムウェアであっても、想像がしづらいものに対する不安はとても大きい。なぜならこれまでの経験・体験として利用したこともなければ触れたことすらないからだ。
上記のベンチの造形一つをとっても、「エリアのシンボルにすべく、オフィスではあまり用いられていない曲線形状に挑む」と頭では理解できていても、「他社のように、講義形式にまっすぐなベンチでいいのではないか」「隙間がデッドスペースになって非効率ではないか」と活用イメージが想像できないため思考が守りに入ってしまう。
スクラップ&ビルドを重ねて自分ごと化を推進
そこで効果的だったのがプロトタイピングだ。
ただし、単にプロジェクトの中に組み込んでおけばいいというわけではない。ポイントは、その場を利用するユーザーを必ず、プロトタイピング>実験>検証のスプリントに巻き込み「自分ごと化」を推進する点にある。
プロトタイピングを実施し、活用イメージを鮮明にできたことで、場のレイアウトやオリジナル家具の造形に対するユーザーの満足度は、まだ制作・工事前にも関わらず非常に高まるのを感じた。これは空間に限ったことではなく、制作したロゴグラフィックも同様だった。スプリントを繰り返しロゴの活用場所や利用シーンをNTTコムウェア自身が想像できたことで、納得感と満足感を高めることができた。
プロトタイピング>実験>検証のサイクルは、スクラップ&ビルドの繰り返しであり、プロジェクトメンバーの高い共創姿勢が求められることを補足しておきたい。田中さん、花塚さん、飯田さん、古市さんには、プロジェクト開始時からこれまで、本当に粘り強く、柔軟に、そしてクリエイティブに並走いただいたことを心より感謝したい。
アジャイル型でのプロジェクト進行にはさらに、副産物があった。
一つ目は、場を自分ごと化する機会を多くもてた事で、プロジェクト初期よりも場の機能と役割がどうあるべきかブラッシュアップできたことだ。下の図はNTTコムウェアの社内で決済を得るために作成した資料から図を抜き出したものだ。自分たちの業務プロセスをまとめたうえで他社の空間との差別化を明確にされていることがわかる。
もう一つは、制作支援したロゴグラフィックがより機能的になったことだ。
「COMWARE TO SPACE」のロゴは、空間を紹介するための機能に加え、事業内容も合わせて紹介することができるグラフィックへと昇華した。
Output
制約条件と限られた資源を逆手にとり、オフィステナントとして空間をハック
「COMWARE TO SPACE」があるのは品川シーサイドサウスタワーという、他の企業も同居しているオフィスビル。フロアのいち区画が対象エリア。自社ビルや新築に比べるとチャレンジできることは限られる。
NTTコムウェア目線で、本プロジェクトのハード面での狙いを言うとするならば「いかにオフィステナントとして空間をハックし、自分たちの世界観が作りあげられるか」だ。
照明は意図的にそれぞれの家具ごとに設置しており、統一された電球色が他の隣り合ったオフィス空間の白色系の照明と対比し、秘密基地のような独自の世界観を演出している。
百聞は一見にしかず。まずはご覧いただきたい。(そしてできることならば実際の空間へ足を運んでいただければ幸いだ)
チームのディベロッパーが開発に取り組むエリア
テーブルをチームで囲むことでグルーブ感を生む。開発におけるコミュニケーションやアイデア出しを促進・効率化するだけでなく、規模や状況に合わせてチームの過ごす環境を自由にカスタマイズできるのが特徴。元からあった壁のスチールパーティションをハックしているのもまたポイント。
入り口のシルバーの什器は、「いい塩梅のセミクローズド」を作り出す間仕切りであり、出入りの扉でもあり、チーム名とメンバーの名前のプレートが貼られる看板でもある。
プロダクトオーナーが集う、空間の象徴的なエリア
プロダクトオーナーはチームのエンジニアに集中して開発作業を進めてもらうために少し離れた場所で過ごす。適度な距離からチームの雰囲気や温度感を感じながら自分たちの仕事に集中する。
チームを超えた繋がりを持つエリア
ひとりでも、チームでも、この場にいるみんなでも。必要とするシーンに合わせてエリアの使い方をカスタマイズできる。チームだけのコミュニケーションにとどまらない自由な過ごし方を実践するエリア。
協創ワーク、集中ミーティングを実施するエリア
頭をフラットにした状態で部屋に入ってもらうために、普段過ごすエリアとは空間のしつらえを切り離す。ここにいる時間だけは入ってくる情報を遮断し、取り組みたい作業にのみ集中する。四方がホワイトボード仕様の壁に囲まれており、発散と収束を繰り返す作業にうってつけの環境。
ひとりで集中して作業がしたいときのエリア
開発に関する作業以外のこともできるエリアを設けた。気分転換に少し窓からの景色を楽しみ、ここでふっと一息ついてみる。頭が少し整理されたり、心が落ち着くかもしれない。
Member
クリエイティビティを持つのは、アーキテクト、グラフィックデザイナー、ディレクターだけではない。NTTコムウェアのプロジェクトメンバー皆も我々と同じくらいクリエイティビティを発揮してきたと胸を張って言える。
プロジェクト初期に比べると、今では「もっとこういった可能性は考えられないか?」「社内のメンバーも集めて実験してみたい」「他の部署にも我々の働き方をこれからのNTTコムウェアの取り組みとして広めたい」など、能動的な変化を実感する。今回のチャレンジの結果、プロジェクトメンバーのマインドセットが更新され、新たな自信となっているならプロジェクトマネージャー冥利に尽きる。
COMWARE TO SPACE、ここはNTTコムウェアが本気で “アジャイル開発” に取り組む拠点。多様な仲間と共に、スクラムチームを有機的に機能させることで、より良いプロダクトを創造する。新しい手法を積極的に試し、時代の変化に柔軟に対応する。この場所での活動、働き方がこれからのNTTコムウェアの姿だ。
まだこの場はスタート地点にたったばかり、ここのコミュニティが成長していくことを見守っていきたい。
松本 亮平
株式会社ロフトワーク
Layout Unit シニアディレクター
高橋 卓
株式会社ロフトワーク
Layout Unit ディレクター
古市 淑乃
古市淑乃建築設計事務所
アーキテクト / Layout Unit ディレクター
田中 裕之
田中裕之建築設計事務所
アーキテクト
花塚 紘紀
田中裕之建築設計事務所
アーキテクト
飯田 将平
ido
グラフィックデザイナー
メンバーズボイス
“世の中のいくつかの事例を見学してきた中で、気になった空間の監修がロフトワークでした。今回の場づくりにあたり、我々と同じ目線に立って、最後まで諦めずに熱意を込めて一緒に取り組むことができたのもロフトワークをはじめ皆さまのおかげだと思っています。
これまでの場づくりといえば、オフィスの什器メーカーから提案を頂くのが通例だったところ、今回は、この場をどういう風にしたいかといったコンセプト作りから一緒に検討できる企業選定にチャレンジしました。(取引実績が無い企業と契約を結ぶことからチャレンジでしたが・・・ 笑)
現在、社内の幹部や協力パートナーにも見て頂き、みんな第一声は「おっ!コムウェアらしくないね!」と言ってくれます。これは良くも悪くも自分たちの殻を破れたなと実感が持てました。また、各チーム使い方に個性が出始めており、この場を利用しているチーム間のオープンなコミュニティ活動も始まってきています。みんなの欲求がそこにはあり、その欲求を吐き出せる場を今回作れたことを大変嬉しく思います。
引き続き、この場を利用する方々と一緒に改善を重ねながら、皆さまの想像を超えるような場に成長させていきたいと思います。”
NTTコムウェア 福岳 潤
“ロフトワークとのプロジェクトは、大きなビジョンの設定の仕方、そしてポジティブに物事を捉えて、進めていくところがとても新鮮でした。(普段はネガティブチェックの連続なので 笑)
そして、とてもスムーズにプロジェクトが進むように配慮いただき、おかげで設計に集中できました!また前提として個々人へのリスペクトがある、やりやすいチームを作っていただけてとても楽しくお仕事できました。
我々のチャレンジポイントは、これまでにない新しい空間に対応するにあたり、作れるものは、とにかく出来るだけ一から設計して、世の中のどこにもない、唯一の空間を作るように心がけました。ダンパー屋さんに、こんな使い方は初めてというお話を聞けた時は嬉しかったですね。説明はしていませんが、工業製品としての精度を求めた什器と、手作りの精度を求めたものの2つが混在しています。(さて、どこでしょうか?)
これからNTTコムウェアでどのように設計者の想像を超えて使われるのか、とても興味があります。こんな使い方も発見しましたよ、というお話を伺えるのを楽しみにしています。”
田中裕之建築設計事務所 田中 裕之
“ロフトワークはタスク管理のマネジメントがしっかりとしているのでその分設計のための時間がより多く取れ、おかげでクオリティーの高いものをつくることが出来ました。また普段ワークショップをする事が無いので多くの人の意見を集めながら1つのものに収束して行く方法が試せた事は非常に良い経験でした。
チャレンジポイントは、使い勝手は守りながら普段のオフィスっぽさから脱却すること。普段見た事が無い物や見たことがあるけど通常しないような使い方や方法で作る事など “誰の目にも新しいこと” 。(具体的にはパネルのダンパーや照明の使用方法など)
そして、物と使う人との近さに応じた精度のコントロールや色味・素材の使い方の吟味など “使っていくうちに良さが分かること” を目指しました。
常にNTTコムウェアの皆さんがもっと良くするためにはどうするのかを能動的に考えることを工事中も含め間近で見ていたので、これから実際使うにあたり設計者が考えてもいなかった新しい使い方が発見される事を期待しています!”
田中裕之建築設計事務所 花塚 紘紀
“普段は既存の建物に向けたグラフィックを設計する機会が多く、これから立ち上がる建物を想定しながらロゴからサインまでを検討する難しさに向き合いながらの仕事でしたが、ロフトワークの方々に要所で向かうべき方向やそれに向けた手段を整理いただけたのでとてもスムーズに進行できました。”
ido 飯田 将平
“アジャイル開発に特化した空間ではありますが、そこに求められる機能は多様で、それらをいかに一つの空間に融合的に落とし込めるかという点が重要であったと思います。完成した空間には、アジャイル開発の要素が分解され散りばめられています。きっとこの場所を体験するだけで、アジャイル開発とはどのようなものなのかを、肌で感じていただくことができるのではないでしょうか。 また、機能に限らず、家具の形状や素材感などもいわゆるオフィスとは異なる空間になっています。NTTコムウェアともこの空間を実現するためにワークショップを始め、かなり多くの議論を重ねて具体的なイメージを共有してきました。彼らの中では既にこの新しい空間を使うことに何の躊躇もないでしょうし、きっと想像を超えた使い方をしていってくださるのではないかとわくわくしています。”
Layout unit / 古市淑乃建築設計事務所 古市 淑乃
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