EVENT Report

「会えない」時代に魅力を引き出すには?
オンライン体験中心の大学広報戦略の始め方

2020年から始まる教育改革。キャリア教育が本格化し、大学は知名度や偏差値だけでなく「何が学べるのか」「卒業後にどのようなキャリアを描けるか」という観点で注目されることになります。昨今のコロナ禍も相まって、大学広報のデジタル化がオプション(付加価値)ではなくデフォルト(基本条件)として求められる風潮は、この数か月で一気に加速しました。

「Withコロナ」「Afterコロナ」と呼ばれる時代に、私たちはオンラインでの大学広報戦略をどのように設計すればよいのでしょうか。大学広報におけるウェブサイトの活用やオンラインキャンパスツアーの実例を紐解きながら、自学らしい広報戦略とその実践について考えてみましょう。

本記事は2020年5月27日に開催されたオンラインイベント「オンライン体験中心の大学広報戦略、どう始める?」を振り返るレポート記事です。ご参加いただいた方も、ご参加いただけなかった方もぜひご覧ください。

執筆:吉澤瑠美、編集:loftwork.com編集部

CASE1:「「生涯を貫く学び」が伝わるウェブサイトへ」ー津田塾大学本体サイトリニューアル

津田塾大学 公式サイト: https://www.tsuda.ac.jp/
津田塾大学 公式サイト: https://www.tsuda.ac.jp/

「何を伝えたいか?」を明確にすることから始めたリニューアルプロジェクト

津田塾大学のウェブサイトは、前回のリニューアルから6年が経過。2017年に策定された中長期ビジョン「Tsuda Vision 2030」との乖離も徐々に生じ始めていました。また、同大学は2017年に「総合政策学部」、2019年に「多文化・国際協力学科」を新設。新しい学部・学科の魅力を発信することが急務となっていました。

加えて、2020年から始まる教育改革により、キャリア教育が推進されます。高校生の段階から大学卒業後のキャリアイメージを描き、留学や起業も含めた主体的な進路選択が今後のスタンダードになるでしょう。大学には、これまで以上に「ビジョンの明確化と発信」が求められます。

そこで、津田塾大学のビジョンがより伝わるサイトを目指し、始動したリニューアルプロジェクト。要件定義フェーズでは、初めに5つの作業を行いました。

要件定義フェーズ 5つのアクション

  • リファラーサイト調査
    競合となる大学や企業サイトのトレンドを調査
  • プロジェクトメンバーへのインタビュー
    津田塾大学の魅力、ウェブサイトの課題、求めるべき姿をヒアリング
  • キャンパスツアー現地調査
    キャンパスを訪問し校風、学生生活を体験
  • 簡易アクセス解析
    解析ツール「Google Analytics」のデータを参照
    どういうサイトであるべきか定量的に定義
  • 要件定義ワークショップ
    データをもとにディスカッションし、要件をまとめる

これらの作業を経て、プロジェクトチームは「ウェブサイトに反映すべき25のポイント」を抽出。「生涯を貫く学び」がイメージできるウェブサイト、というサイトコンセプトを策定しました。

大学のビジョンから校内の空気感までを感じ取れるWebサイトの設計。

しかし、コンセプトはただ胸に秘めていてもユーザーには伝わりません。ユーザーでも認識できる表層のデザインや編集に落とし込むことが重要です。たとえば、ステートメントのページには芯の強い言葉を選んだり、特別な思いのある言葉はあえて漢字をひらいたり、表現を意識するだけで印象が大きく変わります。また、横書きの学部学科一覧にあえて縦書きのコピーを入れることで、閲覧者の視点をずらし、印象づける工夫等も行っています。(詳しくは、[PROJECT] 津田塾大学をご覧ください)

当日はオンライン開催。全国の大学関係者の方々にご参加いただきました。

約6か月のプロジェクトを経て、サイトリニューアルが完了。サイトへの流入数が増加し、大学の認知拡大が早くも数値に表れ始めています。また、大学ブランドランキングでの順位も上昇し、津田塾大学のオンライン広報戦略は順調な滑り出しを見せていると言えるでしょう。

重要なのは、そのウェブサイトではどのようなコミュニケーションが取れるか、コンセプトを定義することです。大学が伝えたいことと受験生が知りたいことをバランスよく汲み取り、構造設計、情報設計、デザイン、コーディング、コンテンツといったウェブサイトの表層部分に反映させることができれば、自然とメッセージがWebサイト上ににじみ出てくるようになるはずです。
これからウェブ上でのコミュニケーション戦略を検討される方は、この部分を念頭に置いてスタートを切ってみてはいかがでしょうか。

CASE2:「なぜ、オンラインなのに「リアル」?」ー 慶應義塾大学 理工学部 オンラインキャンパスツアー

受験生の移動の制限をなくし、職員の負荷も減らすため、オンラインへ移行する。

受験生向けに作られた慶應義塾大学 理工学部の特設サイトは「リアルキャンパスツアー」と名付けられています。オンラインなのに「リアル」。このサイトはどのようにして生まれたのでしょうか。

キャンパスツアーのオンライン企画が立ち上がったのは「オープンキャンパスをなくしたい」という思いから。オープンキャンパスは大学と受験生とをつなぐ窓口として多くの学校で開催されてきました。一方、距離や人数の都合から参加できる受験生に制限が生じたり、対応する職員の負荷が高かったりと課題があるのも事実でした。

オンライン化するにあたり、チャットボットやストリートビュー、360度動画などさまざまな手法が検討されましたが、彼らが選択したのはウェブサイトでした。「教育の質の高さ」という確固たる強みを持ち、伝えたいことが明確化している同学部にとって、順路や見どころを来訪者に委ねることはかえって遠回りになります。シンプルにストーリーを伝えるためには、情報設計の行き届いたウェブサイトが最適解と判断したのです。

従来のオープンキャンパスで案内できない場所も、オンラインならみせられる。

サイトはメインストーリーを主軸に据え、興味の引くトピックがあったときには詳細を深堀りできる「幹と枝」のような構成に。「枝」となるコンテンツに関しては、これまでの運用で制作してきた潤沢なインタビュー記事が活用されました。

加えて、今回の特設サイトのために新しいコンテンツも制作。オープンキャンパスでは立ち入れない研究施設や実際の授業風景を垣間見ることもできます。もはやオープンキャンパスの代替品ではない、従来のキャンパスツアーよりもリアルに研究施設や学生生活を見られるということから「リアル」キャンパスツアーと名付けてローンチすることになりました。(くわしくは、[PROJECT] オープンキャンパスの新しい体験を届ける、リアルキャンパスツアーをご覧ください)

とはいえ、魅力や伝えたいことがこれほどまでに明確化している事例はそう多くないでしょう。個々の事情や目指す姿によって、表現方法やコンテンツはそれぞれ変わるということも念頭に置く必要がありそうです。

オープンキャンパスが開けない!代わりにオンラインで何をする?

「オンライン広報戦略」と一口に言っても、抱えている課題は組織によってさまざま。今回のイベントでは後半パートを分科会とし、参加者は3つのルームから関心のあるものに参加してディスカッションを行いました。

この未曾有の状況下で、多くの担当者が頭を抱えているのは「オンラインの使い方」ではないでしょうか。慶應義塾大学のプロジェクトを担当したクリエイティブディレクター 松本遼、関西エリアの大学案件を多く手掛けるプロデューサー 藤原里美、映像や通信に知見の深いマーケティング 松永 篤のルームでは、オープンキャンパスを中心としたオンラインコミュニケーションについて語りました。

「オフライン」と「オンライン」の違いとは?

藤原里美(以下、藤原):「オンラインで新しいことを」から入るのではなく、大切なのは「自学の強みや意義は何か」。そのうえで「オンラインでどう再現するのか」ということですよね。

松本 遼(以下、松本):そうですね。イベントの目的や価値を整理する作業は、オンラインに限らずこれまでもやっていたはずですし。

藤原:私がプロジェクトをご一緒したある大学も、コロナの影響でオープンキャンパスができなくなってしまったんです。もともと「対話」をオンライン広報戦略の主軸に据えていたので、「やらないわけにはいかない」ということで(笑)、Zoomで双方向のコミュニケーションをとる形のオープンキャンパスに切り替えました。

動画中継をしながらオフィシャルとして即時対応していくのは勇気の要ることでしたが、実際にやってみたところ、おおむね高評価を得ているようです。冷静に考えると、従来のオフラインでのオープンキャンパスでもその場で回答していますよね。基本的には同じことなんじゃないかと思います。

松本:誰が見ているか分からないと思うと少なからず不安はあると思いますが、一つのアドバイスを多人数で共有できる、というのはオンラインならではの利点ですね。

藤原:特に彼らの場合は入試広報と大学広報が組織内で統合されていたので、意志疎通や判断スピードが速くなりましたし、方針もブレなかったので新しい動きにも対応しやすかったんだと思います。

継続的に追いかけたい「学生のトレンド」と「効果測定」

松永 篤(以下、松永):ZoomやLINE、YouTubeなどいろいろなツールがありますが、「オンラインコミュニケーションにはどれが良いでしょうか」という質問を頂いています。使い分けと効果測定からPDCAを回していくことが重要じゃないかと思いますね。YouTubeなら視聴者の属性や再生時間も確認できますし、Zoomも管理者側で参加者情報を集めることができる。個別に相談ができるのはLINEの特長ですよね。

松本:SNSの傾向も毎年変わっています。トレンドについては情報を常に仕入れていくしかないですね。スマートフォンが生活の一部になっている受験生とコミュニケーションを取るには、Zoomは結構ハードルが高いのではないでしょうか。最近の高校生はPCを操作できない人も多いと聞きます。PCベースの考えに偏らないほうが良いかもしれません。

藤原:サイトリニューアルにも同じことが言えますね。学内基準で先生方のPCからの見え方を気にされる方が多いですが、実際学生はPCでは見ていないということがよくあります。

大学の難しいところは、顧客となる学生が毎年入れ替わるところ。一般企業のやっているようなCRMが考えにくいし、顧客の動向を長期的に追うという考え方が存在しないですよね。ただ、有効なタッチポイントがどこなのか。何を経由すると確度が上がるのか、というデータは採る必要があると最近特に思います。データがあれば学内承認も取りやすくなるし、次の決め手が打ちやすいですよね。

松永:そうですね。マーケティング視点のリスト獲得も、オンラインを活用すればより効率的にできますよね。

このルームだけでなく、大学ブランディングやサイトリニューアルをテーマにしたルームでも分科会は大盛況。参加者からもチャットを介して質問や感想が飛び交いました。この場で聞けなかった質問や個別のご相談は随時受付中。Eightで名刺交換をしたメンバーに直接ご連絡いただくか、お問い合わせフォームやチャットボットからもお気軽にご連絡ください。

Infomation

【オンライン相談会】ロフトワークとのプロジェクトについての気軽な相談会のご案内

ロフトワークでは、オフィスにお越しいただいて/訪問してお打ち合わせすることが難しい現状におきまして、オンラインミーティングサービスを利用しての個別ご相談の場を設けています。

  • 50周年記念を機になにかしたいが、やることがきまっていない
  • サイトをリニューアルするにあたり、何から考えるべきか整理したい
  • オンライン施策を本格化するため、広報戦略を一から見直したい

など、プロジェクト事例をまじえながら、ざっくばらんに意見交換ができる場です。
複数名での参加も歓迎です。お気軽にお申し込みください。

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