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渡部 晋也 2015.12.02

UXデザインってなにをデザインすればいいの?を聞いてみた

こんにちは。久しぶりにコラムを書く渡部です。

最近渡部は超生意気に、回らないお寿司を食べる悦びを覚えてしまいました。しかも、開店当時から通っていてちゃっかり常連のお店があるんです。本当に、すみません。そのお店、初めて行って以来電話で予約をするときに「渡部です」と名前を伝えると、声を覚えてくれているのか「ああ、○○(住んでいる街の名前)の渡部さん!毎度どうも!」と応えてくれるんです。

これって凄いことじゃないですか?もう、生意気にスーパー背伸びをしてお寿司屋さんに通う渡部には、強烈すぎる体験でした。一瞬で大好きなお店になってしまったんです。

ロフトワークでも最近増えています、UXデザイン

さて、チームの先輩たちの「渡部のくせに生意気だぞ!」という反感を買いそうな、このくだりは一体なんなのか。実は「UXデザイン」というテーマでコラムを書くにあたって、自分の身の回りであった素敵な体験って何かあるかな?と考えて、思い浮かんだエピソードをご紹介しました。

ロフトワークでは近年、「体験のデザイン」「ユーザーストーリー」をクライアントと一緒に描くプロジェクトが増えてきました。その業界も幅広く、家電メーカー・教育・百貨店・化粧品・素材メーカーなど、いずれも各業界の先端をいくような企業からご相談いただくことが多くなってきました。

そこで今回のコラムでは、さまざまな業界の研究開発、商品開発、経営企画、新規事業開発部門などと一緒に、国内外でデザインリサーチ・サービスデザインプロジェクトを担当しているプロデューサーのアキに、UXデザインについて聞いてみました。

このコラムはこんな方を対象にイメージしています。

  • UXデザインの概念や考え方について書籍やWebで学んだことがあるが、いざ他人に説明できるかというと、ちょっと不安な人(まさに、渡部です)
  • UXデザインって実際に何に役立つのか疑問に思っている人
  • UXデザインに挑戦したいけれどなにから手をつければよいか、ちょっと二の足を踏んでいる人

なぜ、今「体験のデザイン」が求められるようになったのか?

渡部:UXデザインに関する相談が多く来るようになったり、そもそも世間的に「UX」とか「体験のデザイン」が注目をあびているのってなぜだと思いますか?

アキ:時代的な背景としては、プレイヤーも少なくモノを市場に出せばすぐに売れていくという時代が終わったことが関係あると思うよ。

これからは作ったものをユーザに選んでもらう(買ってもらう)ために、中身のOSを変えてみたり、アプリケーションを変えてみたり、触り心地や操作感を追求したりして、そのプロダクトやサービスを使うと「どんな体験が生まれるのか」で差別化しようとしている。それの最たるものがAppleのプロダクトとサービスじゃないかな。

滑らかに動くタッチスクリーンとか、筐体を持ったときの手触りとか、アプリケーションを使った時の感動と嬉しさが他と抜きん出て強いから、みんなMacやiPhoneを選ぶようになる。そして、それぞれのデバイスがエコシステムの中でシームレスに動くから、それぞれで得た体験(と感動)が一層強くブランドに紐付いて印象付けられる。

あらゆるモノとコトが繋がりを持つようになって、モノを買うことからコトを体験する方向にユーザのニーズがだんだんシフトしてきて、期待値も上がっているんだと思う。例えば、同じ体験ができるなら”モノ”が必ずしもiPhoneである必要はなくて、その向こう側にあるコトへの期待値へと移行しているという意味で、デバイスって限りなく透明になってきているんじゃないかな

だから、日本の企業もコトのデザインとしての体験構築が必要じゃないかと思ってる。でも一方で、ユーザのモノ・コトへの期待って、時代背景や環境によって変化するものだから、ユーザーのメンタルモデルがどう変化しているかと合わせて、きちんと理解しておくことが何より大切だと思うよ。

ロフトワークが主催するカンファレンス XPD(Experience Design) テーマはまさに”体験のデザイン”

渡部:なるほど、体験(コト)のデザインが求められる背景には、時代や環境が大きく関わっているんですね。そしてこれからは特に、ユーザの期待を超えるコトのデザインをしないと選んでもらえなくなってしまうのか……。

アキ:そうだね、期待通りではもう通用しなくなってくると思う。同じようなサービスやプロダクトは世にたくさんあって、嫌だったら別のものを選べばいいだけだよね。スイッチングコストがとても低くなっているから我慢をする必要がなくなってしまったんだ。だから、使い続けてもらうためには理由や文脈が必要で、それを考えることがユーザエクスペリエンスを考えることに繋がると思う。

たとえば、新しい車を作りました!こんなに速く走れてめちゃくちゃかっこいいです!だと、やっぱり人を魅了することはできない。スペックや価格での打ち出しではなくて、その車があることによってどんなライフスタイルがあるのか?ということをはじめ、車内外での体験がどうやって繋がっていくかのイメージを共感を持ってもらえるようにわかりやすく伝えなければいけない。体験っていうのは連続的なものだから、ストーリーのない打ち上げ花火的なプロモーションじゃだめだと思うんだ。

そしてユーザ側もその「体験」でモノを選ぶようになってきて、選ばれるための条件が徐々に変わってきていると感じるよ。スペックや価格じゃ必ずしもなくって、共感されてユーザに求められるような「体験」で勝負しないといけなくなってきたというニーズの変化も、UXデザインが注目される一つの理由だと思う。

2つの軸で体験をデザインする

渡部:背景は理解できました!じゃあ、体験をデザインするって具体的に何をデザインしているんですか?

アキ:2つの軸があると思っているよ。

時間軸とタッチポイント

ひとつはCustomer Journey Mapのように時間軸に沿って、ユーザとのタッチポイントの変遷を辿ることと、その中でどんな行動や感情が生まれているのかを可視化して、プロダクトやサービスの現状や課題を明確にする。そして、ユーザの行動全体を見渡しながら、課題を改善するための具体的な戦略や施策を考えていくことだね。某百貨店の新しい顧客体験を創り出すというプロジェクトや、教育、化粧品、ロボットなどのプロジェクトでも、デザインリサーチという手法をつかってこれを実践したよ。

エコシステムのデザイン

もうひとつは「エコシステム」という考え方だね。エコシステムのデザインとは、サービスやプロダクト単体だけを考えるんじゃなくて、それを取り巻く環境・ステークホルダー・関連したモノコト全体を横断的に繋げてあげること。たとえば、Walt Disney World Resortが導入しているMagicBandってウェアラブルデバイスは、ペイメント機能もある、ホテルの鍵としても使えるし、ファストパスも取れるんだ!自分のモバイルと繋げて、レストランやショーの予約もスムースに出来る。Disney World内はどこでも同じIDのWiFiが完備されていて、ストレスフリーなんだ。MagicBand自体は小さなデバイスに過ぎないけれど、それを取り巻く複雑なエコシステムを想定して、色々な”体験”の有機的な繋がりがデザインされているよね。

このMagic Bandのプロジェクトは前職のfrogが足掛け5年の歳月をかけてデザインしたエコシステムで、顧客接点としては一つのデバイスだけど、それらの情報がCRMデータとして解析されて、様々なマーケティングに応用されているんだ。エコシステムは顧客の接点の後ろ側にある経営判断にも寄与するものなんだよ。ちなみにこのプロジェクトも最初はデザインリサーチのフェーズからスタートしているよ。

渡部:時間軸とエコシステム、このふたつをデザインすることがすなわち体験のデザインの第一歩になるのか〜。UXデザインの意義はだいぶ分かってきましたが、企業がUXデザインに取り組む意味と、価値ってなんですか?

アキ:2つの軸でUXをデザインできたら、ブランド全体に一貫性が生まれて、ブランドの強さとか訴求力がとても出てくると思う。今日は深掘りしないけれど、このことをデザイン言語と呼んだりする。デジタルだけでなく、プロダクトにもデザイン言語を規定することで、拡張性があって浸透力の強いブランドをデザインできるんだ。

メーカーだと特に、事業部によっていろいろなプロダクトを作っているけれど、例えば同じ会社が出しているプロダクトの間でインターフェースが一貫してないと、ブランドのメッセージが一貫していない、作り出したい体験が一貫していないということになるよね。そうすると、企業全体としてのブランドメッセージの浸透力は弱くなってしまう。

企業全体として一貫した体験を創り出すためには、事業部内に閉じて、ひとつのプロダクトだけを作っていればいいということはなくなって、いろいろな事業部を横断的に巻き込んで新しい価値を作っていくことになる。それがひいては、働き方だったり組織のリデザインにも繋がってくる。

米国企業ではUXドリブンな組織に変えていく中で、人事制度や業務フローにまで手を入れているような場合もあって、こうした大きな組織変革をチェンジ・マネジメントと呼んだりもするけれど、UXデザインに取り組むポテンシャルはそうした事業者側のマインドセットの変化ということも含めてすごく大きいと思うよ。

渡部:実際にロフトワークはUXデザインの分野でどんなことができるんでしょうか?

アキ:まずは「何かを変えたい」とか「インパクトを出したい」というクライアントのニーズに対して、一般論としては最初のフェーズでデザインリサーチを通じたCustomer Journeyとエコシステムをデザインして、そこで定義されたものをどうやってビジネスとしてインパクトを持たせて軌道に乗せるかっていうプロジェクトデザインができるね。

でもあくまで手段の話だから、問題定義をどこに置くかで当然プロジェクトのデザインは大きく変わるんだよね。だから、一概には言えなくて、手段と目的が入れ違っちゃうことには気をつけないといけないね。

それから、企業全体として一貫したUXをデザインするためには、必然的に組織横断のプロジェクトになると思うんだよね。そのときにロフトワークはリーダーシップをとって、自由にパフォーマンスを発揮できるチーム作りをサポートしたり、プロジェクトを一緒に設計していくことが出来るよ。

渡部:まだ事例としては出せないけれど、まさにその挑戦をしているところですね!

ロフトワークと一緒にUX向上に取り組んでみませんか?

ロフトワークでは、今回紹介した事例以外にも数多くの業態、業種のUX戦略策定や新サービスデザイン、プロダクトデザインなどのご支援をしています。

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渡部 晋也

Author渡部 晋也(マーケティング)

代表 林千晶も審査員をつとめた映像のコンペティション「my Japan」にコアメンバーとして携わる。2012年にロフトワークへ参加。マーケティングチームに所属しながら、コーポレートブランディング、メディアプランニング、イベントデザインなどロフトワークのマーケティング活動を横断的に担当。チームで企業コミュニケーションの新しい形を模索している。2018年2月にリニューアルした「loftwork.com」ではコンテンツディレクションを担当。

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