0→1をデザインするために大切な4つのステップ
こんにちは、クリエイティブディレクターの高井です。私たちが進めるプロジェクトには、要件や作るものが明確でクライアントの要望通りアウトプットするだけという場合が極めて少ないです。何も分からない状態から、プロジェクトメンバー全員で手探りで徐々にコンセプトを言葉にしていき、Webなどのクリエイティブに落とし込むことの方が多いように思います。
私たちプロダクション側が「何をつくればいいのか見えない・分からない」ゼロの状態からスタートする「0→1(ゼロイチ)」のプロジェクトを進めていくにあたって、大切にしたいポイントをAOI-Projectで学んだことを元にまとめてみました。
ステップ1:情報の整理と深い理解
「何をつくればいいのか見えない・分からない」ゼロの状態からスタートするのは誰だって不安です。早く目に見える確かなものを作って安心したいと気持ちがはやるところですが、その前にまずは情報の整理と深い理解がとても重要です。「ゼロイチ」とは言え、プロジェクトが立ち上がった経緯やそこにある思いなど、何かしら足がかりになる情報はあるはず。
例えば、大元の企画書やデスクトップリサーチで集めた関連記事、ステークホルダーへのインタビューや現場の視察など、散在していたり隠れていたりする情報をかき集めて足がかりのインプットにします。
情報を食べ尽くして「腹で考える」
まだ世の中にない新しいものを作り出すときに、探して見つかる既存の「正解」はありません。自分で正解をつくるくらいの気概を持ちましょう。そのためには「誰よりも考え抜いた」と自分が思えるところまで考えることが不可欠です。
ここで言う「考える」というのは、「頭に入れる」というより「腹に落とす」というイメージ。
頭の中で安易な「それっぽい」ロジックを組み立てていくのではなく、情報を全部食べ尽くして腹に収め、身体の中で、より「確からしい」方向や感覚、「こうなったらいいな」と感じるイメージやシーンを醸成していくような感覚を想像してください。
全体を俯瞰しながら、インプットと咀嚼を繰り返していくと、段々と情報が足りないところや、大事そうなポイントがおぼろげに見えてくるはず。まずはいきなり地図を描こうとするのではなく、コンパスをつくる。存在しない「正解」を探すより、言い切れる「好き」を信じる。考え抜いた先の直感は、思っている以上に正しいです。
ステップ2:フレームワークに落とし込む
より確からしい方向を指す「コンパス」を自分の中に作れたら、これまでに集めた情報をマッピングしながら「地図」を作っていきます。今回、その地図作り=情報整理に使ったのが「ビジネスモデルキャンバス」。
ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを9つの要素に分類し、各要素間の相互関係を1枚のキャンバスに示したもので、新しいビジネスの枠組みを考えるために用いられるフレームワークですが、ビジネスに必要な要素とそれらの関係性を網羅的に把握できるため、情報整理のツールとしても非常に有用です。
フレームワークを用いて情報同士の関係性を紡ぐ
フレームワークに落とし込むと情報間の関係性が見えてきます。関係性が見えてくると、足りないもの・新たに考えなければならないもの優先度が見えてきます。
AOIフォーラムの場合、当初の顧客像は、新規就農者から製造業や外食産業などの関連産業まで、あらゆる人たちをターゲットとしていました。ビジネスモデルキャンバスで情報を整理する過程で、最初にアプローチすべきなのは、「企業的経営を行う大規模農家」「先進的取り組みに興味のある農家」「新しいビジネスチャンスを探している地元企業」であると優先度を整理できました。
そして、彼らに対して提供すべき価値も、「先端技術による農業のイノベーションの実現」という抽象的なものから、「トレンド情報の提供」「ビジネスマッチング」「コラボプロジェクト立ち上げフェーズの支援」とより具体性を持った内容にブレイクダウン。AOIフォーラムは彼らにとって「共創プロジェクトの仲人であり助産師のような存在であるべき」だという共通認識になる在り方を描くことができました。ここで整理したビジネスモデルキャンバス=地図から、Webサイトにあるべきコンテンツや、プログラムとして提供すべき活動が導き出されていきます。
ステップ3:カタチにしてみる
「未来を予言するように」プロトタイピングする
「ゼロイチ」のプロジェクトにおいてプロトタイピングは必須のステップです。正解がまだ存在しない新しいものをつくる際は、コンパスと地図を手に、先の見えない洞窟を一歩ずつ歩きながら道を確かめていくように、実際にプロトタイプを作って検証しながら、より「確からしい」方向へと近づけていくしかありません。
3つのポイントでプロトタイピングしていきましょう。
「テキスト」と「ビジュアル」両方の要素が必要
テキストとビジュアル両方の要素があることによって、「ブランドの人格」の根幹となる言葉のトンマナだけでなく、それらを表現するVIやカラースキームとセットでどう機能するかを検証することができます。そのセットで機能する形が検証できたら、それをベースにしながら他のクリエイティブに横展開していくことで、体系的で統一感のあるデザインガイドラインを作っていくことができます。
アウトプットは一覧できるくらいの「定形」であること
ページをいくらでも増やせるWebサイトや冊子ではいくらでも言いたいことを詰め込むことができます。これでは「結局本当に伝えるべきことは何なのか」を検証することができません。Webサイトであれば1ページ程度、紙であれば1枚程度など、一覧できるくらいに限定された定形のフォーマットを選ぶことが大切です。「どんな要素をどういう順番・面積で配置するのか」「伝える上で大事なこと・優先度の高いことは何か」を精査することができます。
最小限のものであること
そして1と2の大前提となるポイントが、「最小限のものであること」です。プロトタイプを作るのに時間をかけすぎてはいつまでも先に進めなくなってしまいます。なるべく少ない労力で、仮説検証ができる最小限のものを作ることが重要です。そして、検証とブラッシュアップのサイクルをなるべく早くたくさん回すことで、アウトプットの精度を高めていきます。
以上のポイントから、プロトタイプはフライヤー・ポスター・リーフレット・ティザーサイトなどが適していると思います。ただ、わざわざ「プロトタイプのためのプロトタイプ」を作るのではなく、それらの中で最初に世に出す予定の制作物をプロトタイプするのが無駄がなくおすすめです。
プロトタイプの形を決めたら、実際にその中身を制作していきます。上述の通り、言葉は「ブランドの人格」の根幹となるものなので、意味のない文字列やダミーテキストを配置してもプロトタイプとして機能しません。逆説的ですが、「単語の選び方はどちらがより適しているか」「一人称や文末の言い回しはどうあるべきか」など、精度に直結する建設的な議論と検証をするためのプロトタイプだからこそ、その中身には高い精度が求められます。
そのためには、イタコのように、時にクライアントやユーザーになりきって、集めた資料や情報の中にある使えそうな言葉もどんどん取り入れながら、まるで「未来を予言するように」書いていくことがポイントです。
もちろん、いきなりクライアントやユーザーになりきって想像することはできません。ここで精度の高いプロトタイピングをするために「誰よりも考え抜いた」と思えるくらい自分ごと化する【ステップ1】の作業が必要なのです。
あとはとことん書くだけ。どんな形であれ、まず目に見える形でアウトプットすることで初めて、どこがどれくらい合っていて、どれくらいずれているのかを議論できるのです。「ここまで考え抜いた自分が書いているんだから正しいはずだ」という自信と、「誰も正解は知らないし唯一の正解なんてない、これはあくまでプロトタイプだ」というしなやかさを持って、間違いを恐れずにとにかく言葉や形にしていくことが大切です。
ステップ4:バッチサイズを上げながら展開する
そうして最小限のプロトタイプでフィードバックサイクルを回しながら、デザインとテキストの精度を高めていきます。しっくりくる言葉やビジュアルの検証ができたら、本番のWebサイトや冊子、空間やイベントなど、よりバッチサイズの大きなクリエイティブに展開・実装していきます。
「ゼロイチ」のフェーズにプロトタイプと完成の境界はありません。どのアウトプットもプロトタイプの延長線上に展開しながら、そしてフィードバックを得てアップデートを繰り返しながら、ブランドとUXを強くしていきます。
まとめ
イノベーションとは「未来にある“当たり前”をつくること」だとよく言われますが、イノベーションを起こすためのプロセスも同じだと感じます。漠然としたイメージが明文化されたとき、形になって目の前に現れたとき、「なんでこんな当たり前の言葉が出てこなかったんだろう」「そうそう、こういうことだよな」と、すとんと腹落ちするコンセプトやアウトプットがつくれたなら、それがきっと「正解」なんだと思います。
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