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2018.04.03

7日間で500以上のプログラムが開催!
アーバニストの祭典「世界都市会議」で見た都市づくりの未来

2月7日〜13日の1週間、マレーシアの首都クアラルンプールで、第9回目の開催となる世界都市フォーラム(以下WUF9)が開催されました。世界中から都市に関わる様々なステークホルダーや活動家が集まる中、日本からも負けじと好奇心半分で参加をしてきたロフトワークの杉田が、まだまだその全貌が認知されていないWUFの様子をレポートします。

はじめに:世界都市フォーラムWUFとは

世界都市フォーラム(WUF)は、急速に進む都市開発と、その地域コミュニティや経済、気候変動、国家への影響について検証するために、2002年から隔年開催されている国際会議です。

主催する「UN Habitat(国連ハビタット、国際連合人間居住計画)」は、「UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)」や「UNICEF(国際連合児童基金)」と同じく、国連機関の一つ。「社会面でも環境面でも持続可能なまちづくりを推進し、すべての人々が適切な住まいを得ることができる世界の実現」を目指して国際的な活動をしている組織です。

1週間の開催期間中は、各国のまちづくりに携わる団体代表が集まったトークセッションやツアーが行われ、夜には映画上映会や音楽イベントも。都市環境に関心を持つ人なら誰でも無料で参加ができる、2年に一度のお祭りなのです。

マレーシアのクアラルンプールが開催地となって開催された今回のWUF9のテーマは、「都市2030 – 皆のための都市:ニューアーバンアジェンダの実行」。2月7〜13日の1週間で、165カ国から2万2,000人が参加しました。

なぜいま、クアラルンプールなのか

WUFの主な目的は、持続可能な都市開発についての認識を高めることと、国境を超えたオープンな議論や事例の紹介を通して、グローバルレベルで知識を集積すること。そしてもちろん、それらを実施していくための協力関係を築くことです。

2020年のオリンピックを前に東京で大規模な再開発が行われているのを日々目にしながら、環境への配慮だけでなく、コミュニティのあり方や文化/伝統の継承など、「持続可能な都市開発」といったキーワードを考える機会が増えていました。また、去年の9月に行われた国連開発計画 (UNDP:United Nations Development Program)とロフトワーク共催のワークショップも一つの機会となり、今回初めてのWUF9への参加を決心したのでした。

オリンピックのように、世界各都市で開催されるWUF。実はアジア圏での開催は2回目で、2008年には中国の南京で開催がされています。

マレーシア全体3119万人のうち、クアラルンプールの都市部の人口は約750万人。実に全人口の4分の1が集中する大都市です。東京以外は衰退の危機にあると言われている日本の都市とは裏腹に、東南アジアの各都市は現在まさに発展と拡大の只中。今後益々経済成長と人口流入の進むクアラルンプールは、都市開発のショーケースとも言えるのではないでしょうか。

トークセッション、展示会、ディスカッションにミートアップ。トレーニングイベントやツアーも含めた、アーバニストにはたまらないコンテンツの宝庫。

1週間のあいだに、143のネットワーキングイベント、60の研修プログラム、93の展示発表、17の記者発表など、計500以上の催しが行われたWUF9。話し合われたトピックも、都市データの活用から地域活性化のためのアートプログラム、環境に優しいエコな建築技術から都市デザインの教育に至るまで様々。世界中から出展者が集まっているので、ケーススタディの場所も多岐に渡ります。

もちろんすべてに足を運ぶのは不可能なのですが、興味に合わせて様々なセッションに参加したなかで、特に気になったものをいくつかご紹介します。

1. デザイン・スプリントで都市にイノベーションを起こす:Design Sprint for urban innovation

 

都市のイノベーションをデザインするためのナレッジを学ぶワークショップとして開催された、デザイン・スプリントに関するセッション。都市課題の解決際を議論する際に、人間に主眼を置いたサービスデザイン(Human Centred Design)着目し、実際の事例をもとに、その手法やツールが紹介されました。

主催したPUSHは、デザインやIT、メディア、経営などさまざまな分野の専門家が集まったイタリアの団体。例えば、ストリートアートの位置情報や作家に関する情報が得られ、作品の購入もできるプラットフォームを開発したり、オンラインで”理想のローマ教皇”に投票できるゲームを生み出すなど、市民のニーズに応えるだけでなく、アクションを引き起こし、都市に新しい価値を生み出すアイデアの設計・推進を行っています。

今回のWUF9のセッションでは、そんな彼らが短期集中的にアイデアを生み出すためのデザイン・スプリントを参加者で実際にやってみました。バックグラウンドやスキルセット、言語や宗教が異なる参加者同士がチームを組むことで、予想外の視点や発想が得られました。

2. 都市データを市民の手に:Citizen-Sourced Data: Participatory Technologies for Redeveloping Informal Settlements

このセッションの主催はテキサス・テック大学。提携する2つの組織、テキサス大学オースティン校のラテン・アメリカン・ハウジング・ネットワーク(LAHN)と、ブラジル・サンパウロのデータ収集や分析に特化した都市研究所「CHAPA(=ポルトガル語でローカルガイドの意)」がどのように、公共政策や都市計画、建築の分野で都市データによる住宅供給の改善に貢献してきたかを紹介していました。また、一つの尺度の下に2つのデータをレイヤーとしてビジュアライズした地図を表示することで、誰もがデータを地図上で比較できるツール「ComuniDADOS」の使い方についても議論がなされました。

都市データというと、無味乾燥で数学的なイメージがありますが、このチームはフィールドワークを通してそのエリアの住民と共にデータを収集することに注力しています。データを自分たちで集め、自分たちで使いこなすという意味で、「都市データを市民の手に」というタイトルは的を射ていると感じました。

3. 都市の地下空間を活用する:Urban Underground Spaces for the Cities of the Future

都市計画の中でも見落とされがちな、地下空間の可能性を説いたこのセッション。ナイジェリア、ブータン、ミャンマー、ネパールの事例をもとに、地下空間の活用を計画し、法を整備するためのプロセスを学びました。

ITA-AITES(International Tunnelling and Underground Space Association)」は、74の国のトンネル技術に関わる公的組織と、300の民間企業または個人会員からなる国際組織。日本からも、一般社団法人日本トンネル技術協会と、大手建設会社などが参加しています。

都市空間というと未だに地上の世界を中心に考えられがちですが、トンネルや地下のスペースの利用まで含めて考える、というのは画期的な視点だと思いましました。

4. 「ゲーム」を使って参加型の都市作りを実現する:The Use of Minecraft for Community Participation in Design of Public Space

Block by Block - UN-Habitat using Minecraft to engage citizens in public space design

こちらのセッションでは、ビデオゲーム「マインクラフト」を、都市デザイン分野における市民参加を促すツールとして使う「Block by Block」を紹介。マインクラフトの開発会社であるスウェーデンのMojangとUN Habitatが共同で行うこのプロジェクトでは、発展途上国の貧しいコミュニティを中心に、世界中の公共スペース作りのための資金を生み出しています。

このセッションでは、マインクラフトのインストールの仕方からランドスケープデザインのヒントまで、技術的なサポートのほか、「Block by Block」のワークショップを企画・運営するためのノウハウが提供されました。

5. クアラルンプールの街から学ぶ:Technical Visit - Urban Solution and Innovation

ツアーバスに乗って、実際にクアラルンプールの各所を訪ねていくプログラム「Technical Visit」。なかでも、「都市のソリューションとイノベーション」をテーマにしたツアーに参加し、嫌気-無酸素-好気法(A2O法)と呼ばれる高度処理法を導入した汚水処理施設「Pantai 2 STP」の他、長らく放置されていた320万平米以上の採掘地を巨大ショッピングモールやホテル、オフィスビル、分譲マンション、教育・医療施設のある一つの「街」に生まれ変わらせた「Sunway City」、クラン川とゴンパック川をウォーターフロントとして活性化する「River of Life(RoL)」プロジェクトの3つを視察し、現地の担当者たちとディスカッションを交わしました。

まとめ:次回のWUFに向けて

「Cities for All」というテーマが表すように、ステークホルダーの参加と同時に、誰にでも開かれた場であることを重視するWUF。例えばスラム街の住民代表が、政府の高官や学術関係者たちと、立場に邪魔されることなく自由に会話していたことは、こうして国際的に都市のことを話し合う場を持つ成果の一つかもしれません。

今回の参加を通して、都市という定義そのものにも国それぞれで違いがあり、バックグランドが多様すぎて比較は非常に困難だと感じる一方、SDGsのような共通の目標があることの重要性を改めて感じました。比較ができない=対話ができない、ということではなく、さまざまな実践のなかから、意見の相違も含めて、人間としての知識をためていくことで、住みやすい都市が増えていけばいいなと思います。

次回、10回目となる世界都市フォーラムは、2020年にアラブ首長国連邦のアブダビで開催。近年急速に発展し、現在持続可能な都市開発に注力している地域でもあり、次回のWUF10にも注目です。

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す