コモネの魅力をまるごと体験。「コモの市 #00」開催レポート
「新しいプロジェクトに挑戦してみたい」「まだ知らない世界をのぞいてみたい」「誰かと一緒に何かをつくってみたい」。そんな思いを持つすべての人にひらかれた場所が、名古屋市に誕生しました。それが、名古屋大学構内にある共創拠点「Common Nexus(コモンネクサス:愛称『ComoNe・コモネ』)」。その名のとおり、「Common(共有知)」と「Nexus(つながり)」を組み合わせ、大学、地域、企業、市民など、多様な人々の関心や問いが交差し、新しい芽が育っていく土壌のような場所です。この新しい施設であるコモネを、ロフトワークがプロデュースしました。
今回は、コモネの開館を祝うお祭り「コモの市」が2025年7月5日(土)に開催されると聞き、実際に足を運んでみた当日の様子をレポートします。
実は3層構造のコモネ、芝生をめくったような地形
今回の訪問で楽しみにしていたのは、コモネの外観をじっくり観察すること。コモネの建築コンセプトは、芝生をめくったような地形に表れています。「表層を少しだけめくることで、その下にある多様な活動や探究をのぞくことができる」という説明を聞き、実際に足を運んでみると、なるほど! 正面から建物を見ると左右がせり上がり、まさに芝生がめくれているように見えました。

コモネの中に入って驚いたのは、とにかく居場所がたくさんあること。座席や階段に腰を下ろす人、真剣に勉強する人、寝転がって休む人など、過ごし方はさまざま。まるで1年前からずっとあったかのように、場を使いこなしている利用者がアチコチ見られました。
大階段は、ヨーロッパの公共スペースを思わせる造り。日本の都市空間にありがちな「座る場所の少なさ」を補い、大学という安心感のある敷地内で、外部からの来訪者も含め、誰もが気軽に腰を下ろせます。開放感があるにもかかわらず、人の目を気にせず過ごせるのも魅力の一つかもしれません。

この日開かれた「コモの市」は、コモネの会員によるプロジェクト活動を地域にお披露目する、3ヶ月に一度の見本市。この日、コモネのオープニングを記念したオープニングイベントとして、「コモの市 #00 」が開催されました。当日は、延べ約1万人が足を運び、トークセッションやワークショップ、地域の飲食出店、アート展示など、20以上のコンテンツが繰り広げられました。

探究と対話を促す「ひらかれた実験場」
コモネには、訪れるたびに新しい視点や問いに出会えるよう、3つの展示スタイルがあります。
そのひとつが、アーティストと研究者がタッグを組み、共創から生まれた作品を長期展示する「STEAM GALLERY」。ふたつめは、半年ごとに変わるテーマに沿って、地域の人や研究者、アーティストが探究した成果を企画展として公開する「ComoNe Program」。そして、会員による活動やプロトタイプを気軽に紹介する屋台型展示「Project Material」です。なかでも「STEAM GALLERY」は、アートと研究の境界を軽やかに越える展示が魅力。東海エリアゆかりのアーティストと、東海国立大学機構の研究領域・技術をかけ合わせた3つのSTEAM作品が、長期にわたって展示されています。
この日は、その「STEAM GALLERY」で作品を出展しているアーティストや研究者が案内役を務める特別ツアーも行われ、参加者は作品の背景や制作秘話に耳を傾けながら館内を巡りました。
*STEAM:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念
ギャラリーの入り口付近で、一際目を引くのが「ミテルス と トキアカス」という作品。手触りの良さそうな謎めいた生命体「ミテルス」がお出迎えしてくれました。NHK Eテレ「デザインあ」の映像コンテンツや展覧会の構成を手がけるアーティストの「パーフェクトロン」と、名古屋大学 宇宙地球環境研究所の早川尚志助教がタッグを組んだ作品です。
作品の着想源は、早川さんの専門分野である太陽地球物理学の中でも「太陽嵐」の長期周期を明らかにする研究。太陽と地球の間で起こる現象を、長い時間軸でどう読み解くか? そのアプローチをヒントに、アートと研究が交差する表現が生まれたそうです。

ツアーで作品を解説したパーフェクトロンのクワクボリョウタさんは、「過去の観測データだけでは捉えきれない天文現象を探るために、バラバラな情報から意味を読み解いたり、探究の痕跡を可視化することを体験できるような、ゲーム的な展示作品として設計した」と説明くださいました。

通常の天文学は観測データで未来を予測するけれど、もっと長いスパンで考えるには、それだけじゃ足りない。だから、過去の文献を世界中から探してくるんです。文献の出所は場所も時代もバラバラ。それを一つひとつ突き合わせていくと、例えば“太陽嵐の周期”が見えてくる。これ、めちゃくちゃ面白いけど、すごく難しいんです。バラバラなものをバラバラなまま、“方法をデザインする”ように組み立てていく。そんな体験ができる展示をつくりました。(クワクボリョウタさん)
次に体験したのは、「Fragmentations of Unity」と名付けられたインタラクティブなロボット作品。手がけたのは、メディアアーティストの菅野創さんと、名古屋大学大学院工学研究科で情報・通信工学を専門とする⽶澤拓郎准教授です。
天井から吊り下げられた光る筒は、一見すると照明器具のよう。しかし近づいてみると、それぞれが独立してクルクルと回転したり、隣の筒の動きに呼応したりして、まるで群れで動く生物のように見えてきます。人の動きにも反応し、そのやり取りを楽しめるのも魅力です。
教育の世界では、しばしば文系と理系といった枠で分野が区切られますが、この作品はまさにその境界を軽やかに越える存在。暗闇の中で生命を宿したかのように蠢く(うごめく)ロボットは、アートと研究の間に広がる豊かな領域を体感させてくれます。
ギャラリーの奥から、「ズーン…ズーン」という低い地鳴りのような音が響いてきます。音の正体は…と気になって足を進めると、そこには真っ暗な空間と、水槽が置かれた光景が。このインスタレーションは、人間には聞こえづらい40ヘルツ以下の音にフォーカスし、耳ではとらえきれない振動や共鳴を、身体と空間を通じて感じ取る体験ができるようデザインされています。
じわじわと身体の奥まで響く振動に包まれると、まるで土の中に潜り込んだような感覚に。普段は意識することのない足元の大地、その地下深くに広がる目にも耳にも届かない世界。ここでは、音と振動を通して、大地の奥にひっそりと息づく生きものたちと共鳴するひとときを味わうことができます。「聴く」と「触れる」のあいだにある、まだ知らない感覚の扉が、そっと開くかもしれません。


私たちはどちらも「感覚の再構築」や、「テクノロジーを通して生命に触れる」ことを大切にしているんじゃないかと思います。先生は医療や福祉の分野で「触れること」を拡張しようとしていて、私は植物に人工筋肉をつけて、自分とは異なる“他者”と接続しようとしています。その点でもすごく近しい感覚がありました。
私はこれまで、作品のテーマとして「私と植物」「人と植物」「人と鰻」みたいに、1対1の関係性を扱うことが多かったんです。でも今回は、「40Hz以下の音」というテーマを扱ったことで、空間全体に広がっていくような、もっと多層的で、あらゆる生き物や環境との関係性を考えられる作品になりました。(滝戸ドリタさん)
ComoNeと来場者の「あいだ」をつなぐKIOSK
コモネのKIOSKでは、軽食や名古屋大学の記念グッズなどを購入できます。「ドリンクやサンドイッチが買えるよ」と聞いていたのですが、実際に訪れてみると、3回も前を通り過ぎてようやく気づきました。場所がわかりにくいのではなく、あまりに空間と自然に馴染んでいたからです。
通常、施設内の物販スペースは画一的で、数十メートル先からでもひと目でわかるものが多く、時には空間の雰囲気を壊してしまうこともあります。けれどコモネのKIOSKは、建築の一部として違和感なく溶け込み、近づいたときにはじめて「ここにあった」と気づくような佇まいをしています。



このKIOSKは、デザインをambientdesignsさんが手がけ、施工は飛騨の森でクマは踊る(通称「ヒダクマ」)、そしてディレクションをロフトワークが担当しました。建築家・小堀哲夫さんの空間づくりの考え方と、実際に運営するための使いやすさ、その両方をちゃんと形にしたもの。コモネが大事にしている「ひらかれた場所」という魅力を、そっと日常の中で支えてくれています。
空間の一部として日々変化する「ランドマーク」
「PASSAGE(パサージュ)」と名付けられた、コモネのメインストリート空間。その中央に配置された黒い什器が、訪れた人の視線を自然と引き寄せていました。デザインを手がけたのは、空間やプロダクトの設計を行うambientdesignsさん。
建築家・小堀哲夫さんがコモネの設計でヒントにした「谷戸(やと)」という地形に着想を得て、ambientdesignsさんは、谷底にそっと佇む岩のような存在をイメージしながら、この什器のかたちを導き出したそうです。ランダムに配置された柱や、人の動きが流れるパサージュの空間に呼応するように、多方向に面を持つ多面体で構成されたデザインが特徴です。

この什器、ただの展示台ではありません。すべてのパーツが分解可能なモジュール構造になっていて、展示のテーマや作品に合わせてレイアウトを自由に変えることができるのです。イベントや展示が変わるたびに、空間の見え方や過ごし方も変化する!? そんな動きのある風景をつくり出しているのも、この什器の大きな魅力のひとつです。
訪れるたびに少しずつ表情を変えるコモネ。その舞台装置のひとつとして、空間の中でさりげなく、けれど力強く、場の個性をかたちづくっていました。
見て、触れて、話して! 探究の芽が広がる多彩なプログラム
もちろん、コモネの魅力は、ギャラリーやKIOSK、什器といった空間デザインだけではありません。この日は、館内のあちこちで楽しめる多彩なプログラムが繰り広げられていました。ワークショップやパフォーマンス、トークイベント、子ども向けの体験型企画まで、訪れた人が思い思いに参加できるコンテンツが盛りだくさん。館内を歩けば、次々と新しい発見や出会いが待っている!そんな一日でした。
コモの市では、館内各所でねのねプログラム第1期採択プロジェクトによる展示やパフォーマンスが行われました。ねのねプログラムは、ComoNeが2025年1〜2月に第1期の参加者を公募した、好奇心を出発点とする探究活動を支援するアクティブなプログラムです。
今回集まったのは、アート、工芸、サイエンス、地域や食、コミュニティづくりなど、多彩な領域を横断する「探究の芽」となる20のプロジェクトが集まりました。布型ロボット、伝統工芸と3Dプリントの融合、感情を食で表す試み、塩の自給率向上プロジェクトなど、分野もアプローチも異なる活動です。
展示やワークショップ、パフォーマンスは、来場者がその場で触れたり体験したりできる参加型のスタイル。初対面の人同士がアイデアを交わす場面や、プロジェクトメンバーと来場者の間に生まれる対話があちこちで見られ、ComoNeが目指す「領域を越えてつながり、共に探究する場」が形になっていました。
「コモの市」開催中も、1階の階段上スペースでは、学生が勉強に励む姿がありました。文系・理系を問わず誰もが集まり、学び、くつろげるこの開放的な空間は、普段から学生たちにとって欠かせない場所です。
特に平日は、図書館の席が取れないときの頼れる“第二の自習スペース”として機能し、テスト期間には朝8時半のシャッターオープンと同時に席を確保する学生の姿も見られます。学生からは「こういう使い方はできますか?」といった具体的な利用相談が寄せられ、サークル活動や研究など、思い思いの使い倒し方を模索する声もすでに届いています。
本を通して人と人がつながる参加型本棚
コモネの一角にある「ROOTS BOOKS」は、有料の棚主制度を設けた参加型の本棚です。まちに開かれた読書スペースとして開館時間中は誰でも自由に閲覧でき、利用登録をすれば貸出も可能。棚主には、1人(または1団体)につき1つの棚が割り当てられ、自身のルーツとなる本を自由に並べることができます。本のセレクトを通して、その人や団体の価値観や背景が垣間見えるのが魅力です。


この本棚から派生したイベントが「ひととなりブックス」。棚主をゲストに迎え、本との関わりやセレクトの背景を語ってもらうことで、地域にその人柄を伝え、人と人がつながる機会を生み出します。月1回の開催を予定し、ゲストは次回のモデレーターを推薦するリレー形式も特徴です。
子どもも主役になれる、コモネの学びと遊び
大学の敷地内にありながら、地域の住民、企業で働く人、研究者、そして子どもまで、誰でも利用できるのがコモネの魅力です。この日開催されていたのは、子ども向けプログラム「こども あそび Art musée」。会場では、子どもたちが自由で創造的につくった作品を鑑賞できるほか、自分の手を動かしてつくり、遊び、持ち帰ることのできるワークショップが行われました。
「アナログトイ」では、小さなオリジナルの船を制作し、海に見立てたスペースで対戦型の遊びに挑戦。「グリーンウッド」では、斧や鉈、ノコギリを使って木を加工し、森のかけらをお土産として持ち帰ります。会場には、制作に没頭する姿や、できあがった作品を誇らしげに見せ合う子どもたちで賑わっていました。
コモネでは今後も、子ども向けのワークショップやレクチャーを継続的に実施予定です。その一環として「コモネアカデミア」では、小学生から高校生を対象に、月ごとに異なる研究者を招いた連続プログラムを展開しています。
歩くたびに景色が変わる、コモネの回遊体験
館内をぐるっと回っていると、あっという間に1時間が経っていてびっくり。広いからというだけじゃなく、柱がランダムに並んでいるから、歩くたびに視界が切り替わって、新しい発見が次々と現れるんです。
メインストリート「PASSAGE」には、つい足を止めたくなる仕掛けがあちこちに。作品が並ぶブースや、体験型のギャラリーが点在していて、ついつい寄り道してしまいます。目的地にまっすぐ行けないのも、ここではむしろ楽しいポイント。ふとした場所に小さな部屋を見つけたり、座り心地のよさそうなソファを発見したり、そんな出会いの楽しみが、館内のあちこちに散りばめられていました。

館内を歩いていて感じるのは、空間そのものが来場者の動きや滞在の仕方を引き出しているということ。この日、その空間づくりについて話を聞いたのが、設計を手がけた建築家・小堀哲夫さんです。来場者向けに館内をガイドツアーしたばかりの小堀さんに、お話しを聞きました。
コモネの中で過ごす人々を目の当たりにして、ある意味、この場所そのものがプラットフォームとしての知見を体現していると感じました。地形や建築の特性をきちんと理解しながら使われている様子が、本当にうれしかったですね。
中央の通り「PASSAGE」は、通り抜けるだけでなく、歩く人の視界に自然といろんな活動が入ってくるように設計しています。奥の静かなスペースは篭れる場所になっていて、「KOAGARI」で靴を脱いでくつろげる。あのゆったりした雰囲気も素晴らしかったです。
今日は子どもたちもたくさん来ていて、空間に敏感に反応していました。登れるところには迷わず登っていくし、走り回れる場所では自由に駆け回る。大階段の下にある小さな“秘密の部屋”にも、子どもたちは自然に入り込んで、自分の居場所にしていたのが印象的でした。大人もきっと同じで、それぞれが自分の好きな場所を見つけています。例えば天井が低い1階の空間は、最初は「本当に人が居られるのかな」と思っていたんですが、実際にはその低さが落ち着きを生んでいて、自習スペースはほぼ満席でした。
この場所全体はワンルームのような構成ですが、天井の高さや空間の微妙な変化を感じ取りながら、「今日はここがいいな」と自分で選べる。利用者が主体的に居場所を嗅ぎ取って使っているのは、本当に素晴らしいです。大階段も印象的で、階段の途中に座る人、上の段で足を伸ばしてくつろぐ人など、まるでリビングのような自由さでした。椅子ではなく「地形」として設計されているからこそできる使い方だと思います。
国立大学のような場で、こうした自由な使い方が自然に受け入れられている。そのことが、この場所の魅力や人の魅力を引き出していると感じます。上から見ても人の流れが生き生きとしていて、ちゃんと機能しているなと思いました。いくつもの動線を設けた成果が、人の動きに表れているのがいいですね。
コモネでは、毎日、施設のクルーによる見学ツアーを実施しています。館内を案内してもらいながら、空間の工夫やここで育まれるプロジェクトの背景を知ることができます。
展示やイベントの内容は季節や時期によって変わるので、訪れるたびに新しい発見があるはず。ふらっと立ち寄るのもよし、気になるプログラムに合わせて来るのもよし。ぜひ一度、この「ひらかれた土壌」に足を踏み入れて、自分だけの居場所や問いを見つけてみてください。
ComoNe見学ツアーは、申込ページで受け付けています。
※事前予約制ですが、予約状況が空いていれば飛び入り参加も可能です。
この場所の随所に宿る「らしさ」は、ひとつの空間としての完成だけでなく、これから何が生まれていくのかという、未来の余白までをもデザインしているように感じられました。
ロフトワークは、本プロジェクトの立ち上げにおいて、コンセプトづくりから空間やプログラムの設計、運営体制、広報に至るまで、多面的に伴走しています。けれど、訪れた人が誰かと何かを始めたくなる場として育っていくことこそが、何より、この場所が育っていく秘訣です。
「ここが未来かもね」。
そんな気配に触れに、ぜひコモネに遊びにきてください。
撮影・取材協力:Common Nexus
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