周年事業・事業承継の好機に。
“次世代”へ届ける、BtoB企業のブランディング事例
これからの10年、20年先を見据えたとき、顧客や働き手から選ばれ続ける企業とはどんな存在でしょうか?
中小企業庁による2025年度版『中小企業白書』によれば、円安・物価高、金利上昇など厳しい経営環境のなか、今やコスト削減や価格競争だけでは成長を維持できず、付加価値や労働生産性を高める「攻めの経営」への転換への必要性が指摘されています。そのためには、単に製品やサービスを改善するだけでなく、企業としての存在意義や姿勢を市場や人材に伝え、共感を得ることが不可欠です。
実際に多くの中堅・中小のBtoB企業は、次のような課題に直面しています。
- 売上は安定しているが、新規顧客開拓が停滞している
- 高い技術力を持ちながら競合との差別化が曖昧で、価格競争に巻き込まれがち
- 若手人材の採用が難しく、組織の高齢化が進んでいる
- 経営層の理念が浸透せず、組織文化が根付かない
これらの課題を根本的に解決し、持続可能な組織づくりへの第一歩を踏み出す鍵が、戦略的なBtoBブランディングです。
中長期的な組織力を高める、BtoBブランディングのアプローチ
ブランディングとは単なる「イメージアップ」ではありません。自社の独自価値を明確にし、顧客・パートナー・働き手・次世代から選ばれ続けるための“仕組みづくり”です。そのためには、業界や社会における自社の提供価値を捉え直し、外部への発信と内部文化の醸成を同時に進める必要があります。
周年事業や事業承継といった節目は、こうした変革を加速させる絶好の機会です。しかし、多くのブランディング支援は「CI刷新」や「Webリニューアル」といった手段先行で始まりがちです。真に効果的なBtoBブランディングは、経営目線で自社の真の課題を深掘りし、その上で最適な手法を選定することから始まります。
本記事では、課題発掘から外部接点の創出、次世代人材との関係構築、そして社内文化の醸成までを実現した5つの企業事例を通じて、持続的な成長を支えるBtoBブランディングのアプローチを紐解きます。
事例1:足場業界の常識を覆すコミュニケーション施策で人材不足解消へ(株式会社ASNOVA)
背景と課題
株式会社ASNOVAは、仮設足場のレンタルを柱に事業を展開する企業です。同社は2018年に“事業の多角化”を目指しロフトワークをパートナーに迎え、建築業界が抱える人材不足の課題の解消や、より柔軟な事業創出に向けた組織変革を目指し、インナー/アウターのブランディングに関わる多様なプロジェクトに取り組んできました。
実施内容(一部)
メディアサイト「POP UP SOCIETY」の立ち上げ
リサーチの結果、人材不足の原因は従来言われていた「3K(きつい、汚い、危険)」以前に、足場業界への「無関心の壁」が大きいことが判明しました。そこで2020年にWebマガジン「POP UP SOCIETY」をローンチ。足場という硬いイメージから脱却し、「仮設(カセツ)性で社会を軽くする」というテーマで、国内外のユニークで実験的な取り組みを発信し、若年層との接点を創出しました。
パルクールチームと共創するイベントの開催
2021年には「POPUP ATHLETIC Ver.parkour」を実施。建設足場を使った巨大アスレチックを建設し、世界で活躍するパルクールチーム「SPEMON」によるパフォーマンスと体験会を開催。10代〜20代の若者層やファミリー層を中心に約350名が来場し、これまでリーチできなかった層に向けて、足場の魅力を伝えました。
プロジェクトが生み出した変化
「POP UP SOCIETY」のテーマである「カセツ」は、その後、同社の組織文化の軸となり、現在ではパーパス(企業の存在意義)にまで発展しました。ロフトワークが伴走パートナーとなり、6年間・15プロジェクトの継続的な取り組みを経て、採用エントリー数は10倍以上に拡大。さらに2022年に名証ネクスト市場、2023年には東証グロース市場に上場を果たすなど、事業成長に伴うブランド価値向上にも寄与しました。
事例2:アート×テクノロジーが集う新拠点で、次世代との接点を創出(マクセル株式会社)
背景と課題
マクセル株式会社は、電池や磁気メディアの製造で培ったアナログコア技術を持つ老舗電機メーカーです。BtoB事業中心であるため、特に若年層への認知向上やブランディングに課題を抱えていました。
実施内容
創造拠点「クセがあるスタジオ」の新設とアワードの開催
2024年4月に約100平米の拠点「クセがあるスタジオ」をオープン。クリエイター・アーティストによる展示や技術体験プログラムを実施し、マクセルとしての未来の存在意義を探索する拠点としました。
場の認知と価値を高め、次世代との直接的な接点をつくるために、アート&テクノロジーをテーマとしたアワードを企画・開催。2024年の第1回では154点の応募作品が集まり、ファイナリスト8作品の展示を行いました。展示は無料で一般公開され、多くの来場者を迎えたと同時に、社内にアートの文脈と視点を取り入れるきっかけとなりました。
プロジェクトが生み出した変化
「クセがあるスタジオ」は、単なる展示空間にとどまらず、マクセルの技術や価値観を新しい角度で探索できる拠点として、アワードを通じて関係人口を拡大。また、社内に異業種交流の機会を設け、将来的に社内メンバーが主体となってマクセルのテクノロジーを体現していくことを目指しています。
事例3:プロセスを重視したオフィス刷新で、社員の行動変容を促す(中央復建コンサルタンツ株式会社)
背景と課題
中央復建コンサルタンツ株式会社(CFK)は、社会インフラを手がける建設コンサルタント企業です。経営ビジョンとして「プロジェクト志向(=自ら課題を設定し能動的に動く姿勢)」を掲げていましたが、ウィズコロナの働き方変化のなかで、その実現を支えるオフィス環境の刷新が求められていました。
実施内容
創造的な活動を促す、オフィスリニューアルプロジェクト
2021年からスタートしたオフィスリニューアルのプロジェクトは、単なる空間の刷新ではなく、「価値創造へとつながる新しい働き方への進化」を目的としました。新オフィスの中でも「1TTAN(いったん)」と名付けられた1Fフロアは、トークイベントや展示に使えるエリアや、壁面やテーブルに映像投影し動的な情報共有が可能なスタジオなど、様々な活動に対応できる機能を有しています。
またリニューアルのプロセス自体に、社員の意識や行動変容を促す仕掛けが施されています。空間設計時には庭園や林業の現場へのリサーチを行ったほか、若手社員を対象とした多数のワークショップやイベントも開催。オフィス空間の刷新に合わせて社員一人ひとりの内面にアプローチし、その意志を創発することを目指しました。
プロジェクトが生み出した変化
新しいオフィスは、経営ビジョンを具現化する場として機能し、社員の主体性を引き出す契機となりました。また、ワークショップの積み重ねによって「プロジェクト志向」の理解と浸透が進み、組織文化の醸成を後押ししています。
事例4:代理店流通を補完し、潜在顧客とのダイレクトな接点を生む(クラシエプロフェッショナル)
背景と課題
クラシエホームプロダクツ販売株式会社プロフェッショナル事業本部は、理美容サロンや宿泊・温浴施設向けに商品を展開するBtoBメーカーです。販売の多くを代理店経由に依存していたため、顧客であるサロンや施設に自社の想いや価値を直接届けられないという課題を抱えていました。
実施内容
コミュニケーション方針の策定とWebサイトリニューアル
グループの新方針に合わせて事業部としてのコミュニケーション戦略立案に着手。「手の届く範囲にいて、ふと頼りたくなる存在」という方針を策定し、顧客との直接的な関係構築を目指してWebサイトをリニューアルしました。
直接想いを届けるための情報誌創刊
さらに、コミュニケーション方針を体現し、新たな顧客層との出会いを生むために、情報誌『にぎわい探究マガジン「アルケバボウ」』を創刊。製品の魅力ではなくブランドとしての価値観を伝えることで、共感を軸とした接点を生み出しました。
プロジェクトが生み出した変化
情報誌を通じた取り組みは、代理店だけではない顧客へ直接メッセージを届ける手段となり、潜在顧客層への認知拡大に寄与しました。さらに、制作プロセス自体が貴重なリサーチ活動として機能し、より能動的な強みの発信に向けた契機となっています。
事例の詳細を読む
成功事例から学ぶ戦略的ブランディングの3つの特徴
これらの事例を分析すると、効果的なBtoBブランディングには以下の共通の特徴があることが分かります。
1. 課題発掘から始める設計力
すべての事例に共通していたのは、最初からアウトプットを決め打ちせず、まず「本当の課題は何か」を探る姿勢です。ASNOVAでは「3K問題」ではなく「無関心の壁」を発見し、クラシエでは顧客の声を丁寧に拾い上げて方針を策定しました。まず、課題の解像度を高めること。それが空間・イベント・Webサイト・冊子などの多様なアウトプットの中から、真に効果的な手段を選択し実装していく手がかりとなるのです。
2. 外部との共創による新しい接点づくり
ASNOVAのパルクール体験会、マクセルによる作品公募プログラムなど、外部の人々を巻き込んだ仕掛けがブランドを刷新するきっかけになっています。また、三井化学のような共創施設は、外部連携を推進し続ける強力なエンジンとなります。自社内だけで完結させず、異業種や生活者との共創を通じてブランド価値を再解釈し、体験へと落とし込む。こうした取り組みが、単なる認知を超えた、組織内外の共感を生みました。
3. 一過性で終わらせない仕組み化
ブランディングは一過性のキャンペーンだけでは実現できません。ASNOVAの6年間にわたる活動や、マクセルや三井化学のハード(空間)とソフト(プログラム/システム)の連動など、時間をかけて積み上げる仕組みを設計することが重要です。Webサイトや空間など多様なチャネルを駆使し、ブランド価値が積み上がるよう、運営やコンテンツ制作を継続的に行うことで、中長期の価値へと繋がります。
認知向上のその先へ。持続的な成長のためのブランディング
BtoBブランディングは、単なるイメージアップや売上拡大を目的とするものではなく、企業の存在意義を明確にし、ステークホルダーとの長期的な関係を築くための戦略的な取り組みです。その推進には、経営層自身が牽引力を持って取り組むことも重要になってきます。
今回紹介した事例のように、変化の激しい現代において、中堅BtoB企業が長く愛され続けるためには、従来の延長線上ではない戦略的なブランディングアプローチが必要です。周年事業や事業承継などの節目を活用し、外向きと内向きを同時に動かす統合的な取り組みを通じて、次の成長ステージへと進むことができるでしょう。
重要なのは、アウトプットを決めて動くのではなく、自社の真の課題に立ち返り、持続的にブランドを育てていく姿勢です。
貴社のブランディング戦略について課題を感じていませんか?
ロフトワークは、課題の深掘りから実装まで一貫して伴走します。今回ご紹介した事例以外にも、共創のアプローチから企業のブランディングや組織づくりに寄与するプロジェクトを支援してきました。
新規顧客開拓や次世代採用、インナーブランディングなど、外向きと内向きをつなげる最適なアプローチをご提案可能です。まずは一度ご相談ください。
Next Contents








