ライオン・メ〜テレ・大阪ガスの実践者に聞いた
新事業を推進する人の“ハードル”の飛びこえ方
こんにちは、マーケティングDivの横山です。私はプロジェクトに並走しながら、記事コンテンツやビジネスイベントを企画・発信する、顧客リレーションの役割を担っています。
その中でも近年、数多く手がけているのが新規事業にまつわるコンテンツです。私がこの分野に興味を持ったのは、プロジェクトに関わる中で、現場担当者の生の課題感に触れたことがきっかけ。担当者の方々とお話すると、全く未知の新しい挑戦をしているにも関わらず、実は、周囲、特に社内からの理解を得ることが難しく孤独な立場ということがヒシヒシと伝わってきました。新規事業の経験はない私ではありますが、私の立場だからこそできることがあるはず!とスタートしたのが、イベントを起点とした情報発信です。新規事業は正解のない領域。だからこそ、実践者の生の声を届けることに価値があると感じ続けています。
これまで、このようなイベントを企画してきました。一例をご紹介。
登壇者:株式会社LIXIL「SATO」事業部 Head of Market Expansion 坂田 優さん、株式会社ASNOVA 代表取締役社長 上田 桂司さん
大阪ガスに学ぶ、事業化への道のり 新規事業を生み出す”人材と風土”を育てる社内の仕組み
登壇者:大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 富田 翔さん
新事業を“創る人”をつくる、増やすには?人材が育つ「学び」と「組織」
登壇者:立教大学 助教 田中聡さん、メ~テレ(名古屋テレビ放送), 成長投資戦略室 成長投資戦略部長 安藤 全史さん
そして、イベントにご参加の方々からもたくさんの課題感をお寄せいただきました。回答いただいたアンケート集計結果がこちらです。
Q:事業開発において課題だと感じているこことをお選びください(複数回答可)
本記事では、新規事業を推進する上で多くの方が直面しているハードルについて、実践者たちはどのように飛びこえているのか、私たちがお話を伺ってきた3名の新規事業担当者の実践をご紹介します。
お話を伺ったのは、
- ライオン株式会社ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 廣岡 茜さん
- メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社) 成長投資戦略室 成長投資戦略部長 安藤 全史さん
- 大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 富田 翔さん
ぜひ、ご参考にしてみてください。
ハードル1)会社・上司の承認、予算が取れない
アイデアはあるけれども、なかなか会社の承認が取れずに前に進めないと、お悩みの方も多いのではないでしょうか?この課題についてお話いただいたのは、ライオン株式会社ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 廣岡 茜さんです。
一児の母であり子育てをしながら働く 廣岡さん。ライオンの社内公募制度「NOIL」にエントリーし、発案したアイデアが採択され、約1年の実証実験を経て2020年2月に、ご近所の飲食店に夕飯作りをお任せできるテイクアウトサービス「ご近所シェフトモ」をローンチしています。
とにかく行動的で、即実行のスタンスで常に事業拡大に向けて邁進中の廣岡さん。「料理が嫌い」という日頃から抱いていた自身の課題を起点にサービスを展開しています。そんな廣岡さんが、会社や上司を説得する際に実践した具体例をご紹介します。
まずは現場へ出る!最強のエビデンスはたった一人のお客さま
夕飯を買いたいお客さまと、飲食店さんをつなぐマッチングサービス、「ご近所シェフトモ」。廣岡さんがまず行ったのは、「計画」よりも「実践」。保育園にポスターを貼りLINEで注文を受け、飲食店とつなぐという最低限の仕組みで実際のサービスをプロトタイプしたのです。なんと、上司に相談する前にはじめてしまったとか!
廣岡さんは、当時のことをこのように振り返ります。
クイックにサービスを提供した結果、実際にお金を支払って利用してくれるお客さまができて「やめないで欲しい」と言ってくれました。さらには飲食店の方々も「やってよかった」と言ってくれて。確実に需要があることを証明できました。会社を説得する際に、「実際に求めているお客さんがいるという事実をどうとらえますか」と胸を張って言えたことは強かったですね。
驚くような行動力と信念によって、新しいサービスをスピーディに形にした廣岡さん。新事業を仕掛けるときに大切にしていることは何かを伺いました。
私は会議室で考える前に、まず現場でやってみることを大事にしています。計画をしっかりたてて、システムつくってという順序で進めたらあっという間に一ヶ月が終わってしまいます。まずは現場に出て、一人でもいいからサービスや自分の思いに共感してくれる人を見つける。そして、このサービスはチャンスがあることを証明するエビデンスとして、その人を上司とか決裁をする人の前に連れていくんです。そのために上司に「まずは1ヶ月だけでいいから、経費もたった10万円でいいから自由に動かせてくれ」と提案し現場で活動してみるのもオススメです。
(ライオン株式会社 廣岡 茜さん)
廣岡さんいわく、行動で示したことでよかったことが2つあったそう。ひとつはサービスを使いたいという人が実際にいることを証明できたこと。もうひとつは、廣岡さんご自身が動ける人だということを周りに示すことができたこと。結果、周囲の人がすすんで助けてくれるようになったと言います。廣岡さんにとって、現場に行くことは基本のき。「現場に行くと、調査だけではなかなか出てこない新しいアイデアに出会えることも多い」と教えてくれました。
新しい事業を検討する際には、計画重視でしっかり企画書を作り込み、会社を説得するという考えになりがちです。廣岡さんのように、実際にその事業を求める顧客はいるのか、現場に出て事実を掴む行動は、不確実と言われる今だからこそ取るべきファーストステップではないでしょうか。
ライオン 廣岡さんのストーリー、詳しくはこちら!
ハードル2)本業とのバランスが取れない
アンケート結果で最も回答数が多かった課題が「本業とのバランスが取れない」という回答でした。この課題についてお話を伺ったのは、メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)成長投資戦略室 成長投資戦略部長 安藤 全史さんです。
かつて、ご自身も社内起業家制度に応募していたなど新規事業に積極的に関わり続けている安藤さん。部長として率いる成長投資戦略室では、新たな収益の確保と新規事業の創出という2つをミッションに掲げ活動しています。
新規事業創出を支える立場として、現在推進しているのが、事業創出と人材育成を目的とした事業創出プログラムです。
社内での理解を得るために、どのような活動を行っているのかお話を伺いました。
地道な草の根活動が、全社の理解を促進する
メ~テレでは2018年から社内企業家制度を行っており、2021年には新会社「ドリームチームズ」を立ち上げ、10月にサービスをローンチしています。成果が出ている一方で、課題として既存の制度で提案される事業アイデアの精度や確度のレベルをもっと高めていく必要を感じていました。そこで、新たにスタートしたのが公募制の事業創出プログラム。プロジェクトの社内理解を促すため、安藤さんはこまめな社内調整や社内講演会の定期開催などを行っています。
新規事業は既存事業から見ると「勝手に楽しそうなことをやっている」になりがちです。その中で、プロジェクトの社内理解を深めるために、参加希望者それぞれの上司に対して、私からプロジェクトの内容やこれくらいの時間を使いたいということを説明して回っています。基本的に、参加する社員たちは本業優先になりますが、空いているところでやらせてくださいというかたちで説得していきました。
また、新規事業をやりやすい雰囲気を醸成するため、社内講演会も定期的に行っています。社内の多くの人に我々の取り組みについてまずメッセージとして伝え、知ってもらうことで協力者も増えると思います。
(メ~テレ 名古屋テレビ放送 安藤 全史さん)
実は私も一度、同社の事業創出プログラムの社内講演会に参加させてもらいました。そこにはプロジェクトメンバーも含め50名近くの参加者が! 社員数は255名(2021年4月1日時点)ですから、多くの社員を巻き込んでいるのがわかります。共有会では、参加者からのプレゼンテーションに加え、プロジェクトの進捗共有や、パートナー企業の紹介などが盛り込まれており、プロジェクトの全体像が伝わってきます。
新規事業開発は組織的なプロセス。事業をつくる人だけでは前に進めません。しかし「新規事業の大敵は社内にあり」と言われるほど反対勢力は社内に多いもの。まずは社内で味方を増やすためにも、安藤さんのような地道な草の根運動は欠かせません。
多くの人は未知のものに対して拒否反応を示しがちです。ブラックボックスになりやすい新規事業開発こそ、まずは社内に積極的に情報を開示することで、多くの人から共感や協力を得られ、事業化に向けた追い風が生まれるのではないでしょうか。
メ〜テレ 安藤さんのストーリー、詳しくはこちら!
新規事業はすべて学習の機会 メ〜テレ事業創出プロジェクトから考える「組織の学び」
新規事業の創出を目指すプロジェクト「メ~テレ センス・オブ・ワンダー」Webサイトを公開!
プロジェクトを通じて生まれた4つの新規事業アイデアを発表しました。
URL:https://www.nagoyatv-sow.com
ハードル3)人材育成ができない
事業創出プログラムは実施してみたものの、継続していくことの難しさを感じている運営者の方も多いようです。社内公募という仕組みを活用し、着実に事業をつくりながら人材育成をしているのが、大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 富田 翔さんです。
2017年からスタートした社内公募プログラム「TORCH(トーチ)」に参加し、グランプリを受賞。その後イノベーション推進部に異動し、TORCHの運営を率いながら、自らの発案事業も含めてTORCHから生まれた事業の開発業務にも従事、みんなのゆるネタ集合アプリ「ラムネ」と“人とのすれ違い”を “本との出会い”に変えるアプリ「taknal(タクナル)」の2つの新事業をリリースしています。
TORCHには2017年から4年間で96名が参加し、単なる事業開発の手段としてだけではなく、若手の人材育成や、誰もが挑戦できる風土の醸成にも寄与するプログラムとして成長しています。活動の裏側で、どのように若手人材を巻き込んでいるのか富田さんに伺いました。
事務局の「寄り添う姿勢」が新たな仲間をうむ
「社員の巻き込みはマーケティングと一緒だ」と語る富田さん。「TORCHという商品を社員のみなさんに気に入っていただくにはどうすればいいか」という視点で施策を実行しているそうです。
社員は部署も年代も多様なので、全員に同じメッセージでTORCHを売り込んだとしても反応する人としない人に分かれます。なので、例えば女性、関係会社のメンバーなど、社員の方々をセグメントに分け、その中で参加していただきたいという優先順位を立てています。Daigasグループの関係会社からの参加者を増やしたい時には、そのメンバーにヒアリングを行い、その結果をもとに個別説明などを行っています。
また、事務局側が背中を押してあげることで様々な方を拾い上げていけると考えています。アイデアはあるけれど1人でエントリーすることには抵抗があるという方もいれば、自分でアイデアを出せるわけではないけれど他の人のアイデアを一緒に考えていくことが好きだし得意だという方もいます。そういう方々同士でチームを組んでエントリーすることを勧めるのも、一つの手です。応募を迷っている方から問い合わせを頂くことも多いんですが、私は問い合わせをくださった方とは必ず一対一で話すようにしています。盛り立てていく事務局側も思いを持って伴走してこそ結果に繋がります。
(大阪ガス株式会社 富田 翔さん)
加えて富田さんは、TORCHが参加ルールをアップデートしながら5年間継続して実施される背景として、「コンテストを通過したものは事業化を目指す」というこの一点について最初から一貫してコミットしてきた点が肝だと教えてくださいました。TORCHを起点とし発案されたサービスを着実にローンチし実績を出す。これが結果として社内からの理解に繋がり、次なる参加メンバーを巻き込むことに繋がるといいます。
社内公募プログラムを継続し成果を出すためには、プログラム実施後に会社としてどのように意思決定を行うのかを、事前に意思決定するマネジメント層と合意形成しておくことも重要なポイントと言えます。
大阪ガス、富田さんのストーリー、詳しくはこちら!
お話を伺った3名のみなさんはそれぞれ新規事業への関わり方が違いますが、全員に共通するのは、関わる人たちに対して常に実直であること。そして、ステークホルダーに対し、常に自らが主体的にコミュニケーションしていることでした。その実直さと主体性が、人の心を動かし周囲を巻き込んでいるのだと感じました。
また、今後も定期的にイベントや記事を通じて、新事業推進に取り組むみなさんへのヒントとなるような情報発信を行なっていきます。ぜひ、新規事業にまつわる課題を抱いている方はぜひご参加ください。ロフトワークのメールマガジン(無料)からも、イベントの最新情報をお届けしています。ぜひ登録してみてください。
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