FINDING 国広 信哉, 堤 大樹, 䂖井 誠 2021.02.22

「つくる」を通して、私たちの暮らしに絡まっている“奇妙な世界”を探索する
Homemade City メンバー座談会

温室効果ガスによる地球温暖化、海洋プラスチックごみや森林破壊による野生動物への影響など。今、都市で暮らす私たちは、地球規模で破壊されていく自然に、どんな方法で向き合えばよいのでしょう? 今回立ち上がるプロジェクトHomemade Cityは、「つくる」ことを、都市と自然の関係を見つめ直すきっかけにしたいと考えています。

プロジェクトの立ち上げにあたってメンバーによる座談会を開催。それぞれの「つくる」体験を共有しながら、Homemade Cityに込める思いを語り合いました。

「この世界の中心は人間でいいのか?」と問うてみる

ーーまずはじめに、Homemade Cityを立ち上げた背景について教えてください。

国広:近年、「SDGs」「サステナビリティ」「脱炭素化」などのキーワードで、「環境や社会のことを考えよう」という動きが加速していると思います。個人レベルで「どんな行動を起こせばいいのか?」を模索している人も多いと思います。政治運動のように声をあげる方法もありますが、僕はやっぱり「つくる」ことを通してやってみたいんです。

本を読むだけでは腑に落ちないことも、自分の手を動かしてつくってみると、この世界のしくみの一端に触れながら理解できます。なので、Homemade Cityの「つくる」は、自己表現というよりは、子どものような好奇心を下敷きににして「これってどうなっているんだろう?」と確かめていくアプローチです。

自然と都市の共生は、僕自身のライフテーマでもあります。自然との関係性を捉えなおすのであれば、「都市か自然か」を分けて神格化した自然環境を保護しようとするディープエコロジーのような視点ではなく、「都市と自然と」という人類以外の生物種といかに混在しながら暮らすかを問う「多種共生(マルチスピーシーズ)」の視点が重要ではないかと思いました。

ーー森田さんはまさに「多種共生」をテーマに研究をされています。この概念はいつ、どのようにして生まれてきたのでしょうか。

森田:今、人間の生活は人間だけで完結できていません。たとえば、オンライン会議をするには、パソコン、ケーブル、インターネットプロトコル、サーバーなどの機器や電力が必要ですよね。その電力を発電すると、CO2や廃棄物、有害物質を排出するので周辺の環境を悪化させているんですね。あるいは、道路建設によって生息域を奪われる生物もいます。

無数のテクノロジーと、いろんな生物の関係の中に埋め込まれた私たちの暮らしが、生物の大量絶滅に結びついているーーそういう視点から人間や社会を見ていこうとする流れが出てきたのは2000年代前半です。ちょうど、気候変動が悪化してきた時期とも一致していたこともあり、多種共生への関心も同時に起きたのだと思います。

国広:人間と他の生物、自然環境だけでなく、機械やテクノロジーともつながりながら生きている、そういう世界になっているという見方がすごく面白いです。 

森田:「都市やテクノロジーと切り離された自然がある」というのは西洋的な考え方。日本では明治時代に「nature」の訳語として「自然」があてられましたが、それ以前は中国古典思想に由来する言葉として、「自ずからある(然らしむ)」という意味で使われていました。もともと日本では、西洋のように自然と人間の世界をはっきり分けて考えていなかったという見方もあります。

国広:総務省のデータ(*1)を見ると、日本では人口の91.5%が市区に住んでいます。つまり、まちなかに住むことがベーシックな分布なんだということに衝撃を受けました。

森田:世界人口でも約55%が都市に住んでいるんですよね。1990年以降、グローバリズムが台頭するなかで、都市に依存せずに自給自足で暮らしているような地域が、世界中から急激に減少したことは大きな問題だと思います。現代は、通信や交通でどんどんこうした地域と都市の相互依存が広まっています。今は、アマゾンの先住民は自分たちの土地を守るために、SNSで発信する時代。我々と切り離された社会はほとんどないと言えます。

そうなったときに、人類学者の目は我々の世界の外側ではなく、内側にある我々が理解していない側面に向くようになったのだと思います。人間以外の生き物やテクノロジーが、我々の生活と複雑に絡まっている、かなり奇妙な世界を知ることが、現代を生きる上でも重要なことだし研究としても面白い。そういう経緯から、多種共生やテクノロジーの人類学が出てきたという流れになると思います。

*1)総務省 :住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和2年1月1日現在) P28より

大事にしたい視点を「一冊の本」で紹介する

ーーここで、みなさんがHomemade Cityで大事にしたい視点を、一冊の本でご紹介いただきます。まずは国広さんからお願いします。

国広:僕はティモシー・モートンという環境哲学者が書いた『自然なきエコロジー 来たるべき環境哲学に向けて』(以文社、2018年)にしました。この本では、美しい自然だけではなくて、腐ったり枯れたりもする自然と共存していこうという考え方が示されています。今の社会はとても清潔で、より快適で効率的になることを求めています。でも、生きていくって一見すると汚く見えるものとも共存していくことなのではないか?ということを、この企画を通して考えたいと思っています。

石井:僕は中谷宇吉郎さんの『雪』(岩波文庫、1994年)を選びました。北海道出身で、小さい頃から雪を見て「どうなっているのだろう」と見ていたのですが、中谷さんは研究者として雪の結晶を分析していくことを「自然からの暗号を読み解く」と書いていて、素敵だなと思いました。また、その暗号を解いた答えは、次の世代や他の場所に受け継がれて発展させられたり、新たな視点で見直されるという可能性も大事だなと思います。

森田:テンダーさんという環境運動家の方が、太陽光発電のやり方について書いた『わがや電力 12歳からとりかかる太陽光発電の入門書』(ヨホホ研究所、2015年)。僕もこの本を見ながら太陽光パネルを組み立てて発電したのですが、つくることを通してプラグの向こう側を想像し、環境や社会を考えようというメッセージになっているところもすごく好きです。今の僕のイチオシですね。

堤:哲学者の宮野真生子さんと人類学者の磯野真穂による往復書簡集『急に具合が悪くなる』(晶文社、2019年)です。ふたりのやりとりは、宮野さんがガンで亡くなられる直前まで続くのですが、終盤で磯野さんはティム・インゴルドの言葉を引用しながらこんな風に書いています。「関係性をつくりあげる」ことを「運動の中でラインを描き続けながら、共に世界を通り抜け、その動きの中で、互いにとって心地よい言葉や身振りを見つけ出し、それを踏み跡として、次の一歩を踏み出してゆく」。このプロジェクトでも、自然というものとどういう関係性をつくり、次の一歩を踏み出す「踏み跡」として残せるのかを考えてみたいと思っています。

「つくる」プロセスのなかで探索することに意味がある

ーーこれからはじまるHomemade Cityには、どんな人に参加して欲しいですか?

国広:何かつくりたいなと思っているけどきっかけがない人。また、サステナビリティにまつわる経営企画、総務人事、新規事業開発などをされつつも、自分の暮らしに置き換えるといまいち腹落ち感がない方などにも見てもらえると嬉しいです。

森田:僕自身が、このプロジェクトに参加していろいろつくってみることにすごく興味を持っています。僕もそうなのですが、何かをつくろうとするとハードルが高くなる人がいっぱいいると思うんですね。でも、「つくる」プロセスでいろいろ学ぶこと自体が探索として重要です。そういうふうに、「つくる」を捉え直してもらいたいなと思います。

石井:僕はどちらかというと「つくる」側でワークショップなどをよく開くのですが、参加する人たちから今まで考えたこともなかったような視点をいただいている実感があります。今回も、参加者のみなさんからいろんな視点をいただくのが楽しみです。

堤:僕自身は、絵を描いたり工作をするわけでもなく、DIYに興味はあるけど億劫だなと思ったりするタイプ。でも、手を動かすと楽しいこと、やってみるとものごとの解像度が上がることは知っているんですよね。なので、僕みたいなタイプの人にとっていい機会になればうれしいです。

国広:今回のプロジェクトでは、自然と都市の間で生きるクリエイターさんたちに公開インタビューを行い、インスピレーションを広げる機会もつくります。みんなで一緒に「都市と自然と」ともに生きる暮らし方の選択肢が広がっていくきっかけになればと思います。

ビジネスから入ると、最初からスケーラビリティを考慮しつつ完成品をつくらなければと考えますが、「Homemade」には小さくてもいいからやってみるなかで得られるものが大事ではないかというメッセージも込めています。サイズ感は小さく、視野は広く。そんな体験をみなさんとご一緒したいと思います。

関連イベント

2月19日〜3月27日にかけて、都市と自然の間でつくる人たちへの公開インタビューと、自然のマテリアルを題材にしたワークショップを実施します。大阪大学 Ethnography Labを率いる人類学者・森田敦郎さんと学生さんたちと共に、建築家、山小屋経営者、デザイナーなど、様々なクリエイターの言葉から、これからの暮らしを模索します。

詳細・お申込みはこちら>>

Member

国広 信哉 ロフトワーク シニアディレクター

自然豊かな環境で幼少期を過ごし、「予期できない出会いのある自然」に面白さを感じてきた。デザイナーとしてものをつくることを通して、それを使う人の暮らしや環境に興味が広がったことから、ふたたび「自然」に接近。「自然とデザイン」をテーマにいろんな活動に取り組む。

現在のホームは「家」。最近つくったのは「ウスターソース」で「日本のものだと思っていたら、イギリス発祥の調味料だということに気がついた」。

堤 大樹 ロフトワーク クリエイティブディレクター

森や川で遊ぶと同時に、ゲームも好きだった少年時代から「知らない世界に飛び込むのが好き」。今は「旅」をキーワードに「新しい視点を得る」ことを追いかけている。昨夏、国広と登山した体験から、都市のインディペンデントなカルチャーへの興味が自然へと広がっている。

「ホームタウンに自分のほしいものをつくろう」と、リトルプレスのブックストアを立ち上げ、その棚をDIY。つくる過程で木材の重みや手触り、扱い方などを知り「解像度が上がる」のを体感した。

䂖井 誠 ロフトワーク クリエイティブディレクター

子どもの頃に山のあるまちから郊外の都市に引っ越した経験から、それぞれの場所での価値観の違いを感じ、「自然と都市」をテーマに考えてきた。今回のプロジェクトを通して、自分のなかにある「自然と都市の違い」を言語化してみたいと思っている。

今のホームは「自転車で行けるエリア」。最近つくったのは「仏師の技とファブツールを組み合わせて作った雲模様のアイテム」。

森田敦郎 教授(大阪大学 人間科学研究科教授/Ethnography Lab主宰/人類学研究室教員)

東京の小さな工場が密集する地域に生まれ、ものづくりをする人と現場を身近に感じて育つ。学生時代はタイの農村地帯にある小さな工場を調査・研究。「つくることの周辺にいる」という立ち位置だったが、近ごろは自宅屋上でDIYの太陽光発電や畑づくりなどをはじめた。

今のホームは「自宅のあるビルの屋上」。最近つくったのは「太陽光発電機」と「野菜」。「つくることを通して環境を知るのは、体で感じるという生々しさがあった」。

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